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クリエイティブファーム「secca」は、技術と文化の再構築で、次世代に求められる伝統工芸のかたちを目指す(ICC FUKUOKA 2024)

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ICC FUKUOKA 2024 ソーシャルグッド・カタパルトに登壇した、secca 上町 達也さんのプレゼンテーション動画【クリエイティブファーム「secca」は、技術と文化の再構築で、次世代に求められる伝統工芸のかたちを目指す(ICC FUKUOKA 2024)】の文字起こし版をお届けします。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2024は、2024年9月2日〜9月5日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションのオフィシャルサポーターはICCパートナーズです。

【速報】元こども兵の社会復帰支援「テラ・ルネッサンス」と、思いやりをつなぐ遺贈寄付「日本承継寄付協会」がソーシャルグッド・カタパルト同率優勝!(ICC FUKUOKA 2024)


【登壇者情報】
2024年2月19〜22日開催
ICC FUKUOKA 2024
Session 11A
ソーシャルグッド・カタパルト – 社会課題の解決への挑戦 –
Sponsored by ICCパートナーズ

上町 達也
secca
代表取締役
HP

1983年岐阜県可児市生まれ。
金沢美術工芸大学卒業後、株式会社ニコンに入社し、主に新企画製品の企画とデザインを担当する。
2013年、資本主義経済によって加速した価値の異常な消費サイクルに疑問を抱き、手にした人の心を動かす持続的な価値を目指したものづくりをカタチにするため、食とものづくりの文化が色濃い金沢にIターンし、secca inc.を設立。secca独自の経営を推進しながら、各作品のコンセプトメイキングを主に担当する。  seccaでは日本固有の伝統工芸において、過去の伝統を敬い学んだ上で、新しい視点と最新の技術を積極的に取り入れながら今求められるカタチへアップデートすることで、現代の工芸の可能性を探究している。こうしたseccaが考える現代の工芸を「巧藝(KOGEI)」と定義し、思想や技能を含めた伝統を磨きながら、未来により良い形で繋げていくことを目指している。  そのためにも、独自の視点でこれからの問いを見定め、それらに対応した新たなモノと体験を生み出すことによって新価値を造形する。


上町 達也さん secca (雪花)の上町です。

よろしくお願いいたします。

「巧藝(KOGEI)」という独自の指針

まず、「secca」についてご紹介させてください。

seccaは、金沢を拠点に、プロダクトデザインを中心とした、デザインの「問いを立てる視点」と、工芸の「カタチにする技能」を掛け合わせ、工芸の漢字を改めた「巧藝」という独自の指針を持って、唯一無二の体験とモノを造形することを目指す、クリエイティブファームであるとお考えください。

アウトプットは、大きく2つあります。

まず、自社のアトリエにおいて、一期一会の出会いの中で、特定の誰か、あるいは特定の場所のために、唯一無二の一点を作るといった事業をイメージしていただけたらと思います。

もう1つは、スライドの右側にあります、デザイン受託事業です。

こちらは、社会課題解決と豊かさの両立を目指す事業主とともに、デザイナーという立場で関わらせていただいている事業です。

アトリエや工芸家とのコラボで生み出す唯一無二のモノ

まずは、自社のアトリエ制作の事例を、簡単にご紹介させてください。

主にホテルやレストランの開業時に、そのコンセプトを受けて、私たちがその空間をより彩るものを作り上げて納めるといった事業を行っています。

白山喜雨(金沢市のホテル「アゴーラ・金沢」のレストラン内オブジェ)

石川県金沢市は、文化政策の名残をとどめており、様々な工芸が集まっている土地です。

A↔︎UN(明治神宮芸術祝祭 彫刻展「気韻生動」出展作品)

そのため、自社のアトリエ制作にとどまらず、様々な工芸家と積極的にコラボレーションして、一点物として作り上げていくことも行っています。

料理の表現がより広がる器を制作

また、料理人のための器も作っています。

料理人は、十人十色の考えと表現をお持ちです。

そして、彼らにとって、器は作品の一部なのです。

左:「及時雨」 “TIMELY” rains 右:「生食の衝撃」 “RAW” Impact
Shadow シリーズ
Shadow シリーズ
格子透箱

私たちは、料理人の方々の気持ちを伺って、それぞれの料理表現がより拡張されるような器を作ってお届けすることで、食体験をともにデザインしています。

サステナブルな器「ARAS」を石川樹脂工業と制作

続いて、デザイン受託事業について、ご紹介させてください。

今回のICC FUKUOKA 2024にも参加されていらっしゃる、石川樹脂工業株式会社と取り組む、「ARAS(エイラス)」が、一番の代表例になっております。

▶︎「石川樹脂工業」は、1,000回落としても割れない食器「ARAS」を通して樹脂の可能性を世の中に拡げていく(ICC FUKUOKA 2024)

石川樹脂工業が取り扱っていらっしゃる「樹脂」は、“環境に良くない”という偏見を持たれた素材であることが、開発の始まりでした。

ARASで、「持続可能なモノづくり」を実現する。石川樹脂工業とseccaが、樹脂で世界を変える(ARAS)

そのため、樹脂の偏見を払拭すること、また、樹脂が持っている可能性と魅力を伝えること、さらには、それを豊かな食体験に変えていくことを目指して制作をしてまいりました。

伝統工芸における深刻な課題、3大“ない”

このような事業を行っている中で、全国の伝統工芸の担い手の方々から、デザインのご依頼をいただく機会が、続々と増えてきています。

伝統工芸の担い手の方々からヒアリングをする中で、私は、共通する3つの課題を見つけました。

まずは、伝統工芸の需要がない、それゆえに若い担い手が集まらない、そして、それらを打開するアイデアもないということです。

それらが数珠つなぎにつながっているという課題が、どの伝統工芸産地にも共通していることだと思います。

その結果、その伝統工芸を続けたいがためにアルバイトをしながら兼業される方、もしくは、次の世代に継がせないとして廃業を選ばれる方も少なくありません。

文化庁が発表している資料によりますと、ピーク時に比べて、伝統工芸産品の産業市場規模は約6分の1、従業者数は約5分の1のまで縮小しています。

100万円の着物が売れても職人の手残りは約7万円

また、商取引においても、私は課題を感じてきましたので、一部ご紹介させていただきます。

加賀友禅を例にお話ししますと、100万円の着物が売れた場合、京都の呉服屋と京都の問屋で半分(50万円)ずつ分配されます。

さらに、その半分(25万円)が地域問屋に分配され、さらにその半分(12.5万円)が職人に分配されます。

しかしながら、さらに、その中(12.5万円)から、原材料費が差し引かれて、職人の手元に残るのは、7~8万円程度です。

また、制作には2〜3カ月を要し、1カ月に制作できるのは、1〜2枚です。

こういった数字からも、職人が伝統工芸のみで生計を立てることは難しいことが読み取れるかと思います。

そして、この問題は、ほかの伝統工芸産品にも共通しているかと思います。

本質的な復興を支える“新しい問屋業”を開始

そのような状況の中で起きてしまったのが、2024年1月の能登半島地震です。

ご存じのとおり、輪島塗の産地も、壊滅的な被害を受けてしまいました。

輪島塗、再開2年以上か 工房や店の大半被害 2024/01/27(産経ニュース)

復興を急いでいるわけですが、実は私は大きな疑問を持っております。

失礼ながら、輪島市も高齢化が進み、担い手が少なくなっている中、また市場も少なくなっている中で、「元の形に戻すことだけが復興の形なのか」ということが、私からの問題提起です。

本質的な復興のため、私たちなりに何か新しい取り組みが提案できないかと思い、新しい事業を始めることにしました。

それは、あえての、新しい問屋業です。

問屋のあるべき姿として、今求められる商品企画、もしくは、適切な相手に届ける商流の確立、または、持続可能な利益分配の構築などを目指します。

私たちの得意分野である企画・デザインをはじめとして、マーケティング、ファイナンシャル、コミュニケーションの総合的なチームを作り、全国の工芸産地を対象に、アウトプットをともに目指していこうと考えています。

工芸品も時代の変化に合わせてアップデート

このような新規事業を進めていくうえで、ヒントとなったのが、実は、身近にあった「ARAS(エイラス)」なのです。

石川樹脂工業は、樹脂の器を、突然作り始めたわけではありません。

実は、山中漆器(石川県加賀市の山中温泉地域で生産されていた漆器)産地で先々代が始めた、漆器の木地の制作から事業が始まり、大量生産に対応するための樹脂胎漆器の制作、そして、その樹脂の基礎技術があって、ようやく生まれたものだったのです。

要は、その産地にある技術が磨かれ、時代の変化に合わせてアップデートしてきた形なのです。

産地や文化を自分たちの力で守るために

また、私たちとの関係にも、ヒントがあります。

私たちが自社で行っているものは、量を目的とせず、価値の最大化を目指して取り組んでいるため、その分、事業としては非常に非効率です。

ただ、石川樹脂工業にとっては、そのような私たちの取り組みがブランディングにつながり、また、その取り組みを器作りに生かしてほしいということで、私たちを求めてくださっています。

それゆえに、マネタイズとブランディングを両立することができていると思っております。

「こういったことが、ほかの伝統工芸産地にも適用できるのではないか」というのが、私の考えです。

伝統工芸産品は、本当に目を見張るほど、非常に優れた技術と文化が詰まっている結晶なのです。

だからこそ、失礼な言い方で恐縮ですが、生計を立てるためのつまらないお土産を作るよりは、とことんやりきったほうが、日本のためでもあり、文化のためであると、私は思うのです。

そのため、目的をビジネス化・収益化することだけではなく、ブランディングと思想と技能の継承に重きを置いています。

その代わり、石川樹脂工業のような形で、その産地にある技術の延長に新しい事業を確立したうえで、この両輪で、その産地や文化を自分たちの力で守ることができるような体質を作っていくということが、私の目指すところです。

“守られる工芸”から“活きた工芸”へ

そうすることによって、その産地で昔から培われてきた貴重な技術を、新しい視点と技術とアイデアで、もう一度見つめ直し、再構築して、次の時代に求められるアウトプットにつなげていくようなイノベーションを起こしていくことを目指しています。

“守られる工芸”から“活きた工芸”へ――

一緒にこの活動に参加してくださる方、お声がけください。ありがとうございました。

▶実際のプレゼンテーション動画もぜひご覧ください。

(終)

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編集チーム:小林 雅/森田 竜馬/小林 弘美/正能 由佳/中村 瑠李子/戸田 秀成

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