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「リニスタ」は、加工しやすい生地の開発で高級紋織物 西陣織の可能性を拓く(ICC KYOTO 2022)

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ICC KYOTO 2022 CRAFTED CATAPULT 豊かなライフスタイルの実現に向けてに登壇いただいた、西陣織ブランド<リニスタ> サカイタカヒロさんのプレゼンテーション動画【「リニスタ」は、加工しやすい生地の開発で高級紋織物 西陣織の可能性を拓く】の文字起こし版をお届けします。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回300名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2022は、2022年9月5日〜9月8日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションのオフィシャルサポーターはMakuakeです。

【速報】うにの再生養殖で水産資源の未来を創る「北三陸ファクトリー」がクラフテッド・カタパルト優勝!(ICC KYOTO 2022)


【登壇者情報】
2022年9月5〜8日開催
ICC KYOTO 2022
Session 8A
CRAFTED CATAPULT 豊かなライフスタイルの実現に向けて
Supported by Makuake

サカイタカヒロ
西陣織ブランド<リニスタ>
代表

1988年京都市出身。生まれた頃から西陣織の糸と生地に囲まれた幼少期を過ごし、大学卒業後に営業職を6年経験し「この西陣織の技術がなくなるのはもったいない」と家業に戻る。2014年より西陣織ブランドを立ち上げ、数多くの納入やクラウドファンディングを成功させ、光る西陣織の開発や大手ホテルや海外での納入など多岐にわたり活動。現在は職人として父と西陣織元として従事しながらD2Cブランド「k-cs(ケイクス)」の立ち上げを行うなど、「西陣織が彩る日常の創造」をテーマに精力的に活動を続ける。2017年第11回京都文化ベンチャーコンペティション「京都府知事賞最優秀賞・近畿経済産業局長賞」W受賞。2018年アトツギピッチ 京都信用金庫賞。2019年スタアトピッチ・ビジコンOSAKA ファイナリスト。


サカイタカヒロさん こんにちは、京都から西陣織ブランド<リニスタ>を展開するサカイと申します。

よろしくお願いいたします。

西陣織という呼称ができてから、今年(2022年)で555年になります。

▶編集注:応仁の乱(1467年)の「西軍本陣」が呼称の由来とされる(西陣織の歴史参照)。

私は年間1万本の帯を製造する、西陣織の織元の長男として生まれました。

西陣織とは、先染め(布を織る前に糸や繊維を先に染色すること) の糸を使い、西陣織工業組合から認められた組合員が織る、紋織物(※) です。

▶編集注:紋織物とは、平織り、斜文織り、繻子織り、からみ織りなど、各種の組織の変化やその組み合わせによって文様を織り出したもの(きもの用語大全参照)。

5年のうちに大幅な衰退の恐れ

昭和51年(1976年)に国の伝統工芸品に認定された西陣織ですが、昭和50年には2,000億円あった出荷額は、令和2年には約180億円と1/10以下になり、新型コロナウイルスの影響も受け、昨年も3社が廃業しました。

西陣生産概況(西陣織工業組合)

和装は下火となり、帯が売れなくなったしわ寄せが職人の工賃に来て、低賃金と高齢化、後継者不足、素材の原料高騰も重くのしかかり、このままでは5年のうちに産業は大幅に衰退する問題をはらんでいます。

高級品として知られる西陣織の卸値

西陣織の帯は、高級品として知られています。

こちらの写真の帯は、上代30万円の帯です。

その中で、職人の工賃は、どれほどでしょうか。

私たちは帯の直しを頂いた時に、初めて自分たちの帯の値段を知るのです。

帯をどれほど買っていただいても、私たち職人やものづくりに還元されているとは言いがたいのが、現状なのです。

しかしながら、こうした産業構造が悪いという簡単なお話ではないことも、私たちは理解しています。

西陣織がなくなるのはもったいない

織元の後継ぎである私は、元々家業を継ぐつもりもなく、大阪の大学を卒業して、大阪で就職して、白い部屋で一人暮らしをしていた頃、久しく行っていなかった工房を訪れました。

今でも感じる、工房の道で香るシルクの匂い、そして、カラフルな色たちと素晴らしい織りの組織を見た時に、生まれた頃からの感覚が蘇り、やはりこれがなくなるのはもったいないのではないかと感じました。

そう感じた私は、サラリーマンの傍ら、“西陣織が彩る日常の創造”をビジョンに掲げ、西陣織の立ち位置を刷新するという意味で、西陣織ブランド<リニスタ>グループを2014年に立ち上げます。

自分の中では、伝統工芸品に指定されているという事実は、素晴らしいことだけではなく、守らないとなくなる絶滅危惧種だと言われている気がして、とても悔しかったのです。

自分の人生を作ってきたものが、なくなるものだと言われているようで、とても寂しかったです。

帯以外の販路開拓にチャレンジ

生まれた頃から、帯に、色に囲まれている自分にしかできないことがあると確信し、私は帯以外の販路開拓に乗り出します。

しかしながら、西陣織が帯以外に展開しづらい原因は、大きく3つありました。

1つ目は、幅の問題です。

30cm程度の幅では、多くのアイテムに展開するには、限界があります。

2つ目に、組織上の問題です。

裏糸の通っている分厚い生地は、加工しづらいため他市場では相手にされません。

3つ目に、素材の問題です。

帯生地は、縦糸がシルクであり、日焼けをし、水で縮みます。

これらの問題を解決すべく、先代と私は試行錯誤を繰り返しました。

素材として扱いやすい高スペックな西陣織生地を開発

私たちは、こちらの写真の織機のような、最大幅150cmの織りを可能にし、裏糸のない生地を製作し、化学繊維を使用した、耐水性・耐摩耗性・耐候性に優れた生地を織ることに成功しました。

多くの投資が必要である織機を採用し、2015年から広幅生地を採用しています。

この生地のスペックを揃えられるのは、西陣織でも5本の指に入るほど稀なことで、当社は他社よりも10分の3から10分の1という低コストで生産することを可能にしました。

年間1万本以上を織り上げる私たちに、コストメリットがあります。

9万通り以上の可能性の中から生まれる生地

そして、織りの技術は深みを増します。

こちらの動画にあります、白ベースに黄色が入った柄の生地も、実は8層に分かれており、8色で構成されています。

織りの組織を構築する紋図( 「紋意匠図」の略で織物の設計図)作りはもちろんのこと、縦糸は2色、横糸は576色から選びます。

それを8回繰り返し、織りの組織は10種を優に超え、実に9万通り以上の可能性の中から、ベストな色と組織を組み合わせることで、織物でしか出せない風合いと立体感、金銀糸を絡めた光の角度で色が変わる生地を織ることが可能となります。

技術とは、織物の機械や織り方のことだけを指すのではありません。

そこに行き着くまでの経験と、9万通りから決定していく意志の強さ、織らないとわからない、その表情を想起しながら作っていく覚悟と決断力が、私たちの大切にしているクラフテッドです。

さまざまな場で広がるコラボレーション

そして、私たちはパリのデザイナーともコラボレーションして、オリジナルテキスタイルを制作、「Maison & Objet(メゾン・エ・オブジェ) 2018」にも出展し、技術力のある生地は、5つ星ホテルの設計も手がける設計者の目に留まりました(※) 。

▶編集注:Maison & Objet(メゾン・エ・オブジェ)とは、1995年にフランス・パリで生まれた、インテリア業界の「パリコレ」とも呼ばれる、世界最高峰のインテリアとデザインの国際展示会。毎年1月と9月の5日間、パリ ノール・ヴィルパント見本市会場で開催される(AXISより)。

そして、その5つ星ホテルである、こちらのウェスティン都ホテル京都の室内クッション500個やバーテンダーのユニフォームにも採用されました。

私たちは、こちらのクッションのように、生地を販売するだけでなく、生地から製品にまで落とし込み、納品することが可能です。

ザ・リッツ・カールトン京都でのイベントや、各地のホテルや商業施設の店舗内装にも使われるようになりました。

例えば、生地からお皿へ加工するなど、各案件によってオーダーメイドで作ることができる、低コストで高クオリティを実現する生地は、アイテムに使用する素材として問い合わせが多く来ています。

椅子の張地や靴、パッケージ、ウイスキーラベルなど、ありとあらゆるアイテムに使用することが可能となり、様々なコラボレーションを実現させ、可能性を広げて参りました。

このように、帯で培った技術を活用しながら、帯ではないアイテムや生地を販売し、その利益を職人に還元すること、一人前の給料を支給することができる環境を作り、若い職人を育てることが、問題解決につながると考えています。

もちろん、ほかにも様々な問題はありますが、まずは西陣織に関わる人を増やすことが大切だと考えています。

伝統の美を今に馴染む日常使いのアイテムに

2020年からは、B2Bだけでなく、B2C向けにもブランドを展開し、和柄を今に馴染むカラーデザインにアップデートさせ、日常使いできるアイテムを提案しています。

k-cs(ケイクス)

そして、その購入金額の最大10%を職人や西陣織組合、関係者に還元するプロジェクトをすでに立ち上げて動いております。

自分たちだけがよければよいのではない、関わるすべての人の問題に向き合う事業なのです。

私たちは日々、後ろ向きな業界の中にいながら、負けず腐らず戦っています。

「2,909,000m」

これは、私が2020年から2年間で、1人で販売した、糸の長さです。

購入された方は、延べ2,000人を超えます。

多くのご縁がくれた結果です。

お客様と直接つながることで、様々なところで喜ばれていると実感することができました。

西陣織の生地や技術力の可能性を未来へ

私たちには、生地や技術力の可能性が、まだあるのです。

可能性があって、小さな頃から自分を知ってくれている職人や仕入先の顔が、この脳裏に焼き付いている以上、私たちは負けるわけにはいかないのです。

どのような形でも結構です。

この技術や伝統に触れて、一緒に考えたり使ってもらったり、参加してもらえたりしたら嬉しく思います。

ご清聴ありがとうございました。

実際のプレゼンテーション動画もぜひご覧ください。

(終)

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編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/正能 由佳/戸田 秀成/中村 瑠李子

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