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靴に装着するIoTデバイス「あしらせ」は、視覚障がい者が安心して歩ける社会を創る(ICC KYOTO 2022)

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ICC KYOTO 2022 ソーシャルグッド・カタパルト – 社会課題の解決への挑戦 -に登壇いただいた、Ashirase 千野 歩さんのプレゼンテーション動画【靴に装着するIoTデバイス「あしらせ」は、視覚障がい者が安心して歩ける社会を創る】の文字起こし版をお届けします。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2023は、2023年2月13日〜2月16日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションのオフィシャルサポーターはICCパートナーズです。

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【登壇者情報】
2022年9月5〜8日開催
ICC KYOTO 2022
Session 11A
ソーシャルグッド・カタパルト – 社会課題の解決への挑戦 –
Sponsored by ICCパートナーズ

千野 歩
株式会社Ashirase
代表取締役CEO

2008年本田技術研究所にて電気自動車や自動運転の研究開発に従事。2018年SensinGood Labという任意団体を設立し、「あしらせ」の開発を開始。2021年4月、Ashiraseを創業、代表取締役に就任。
受賞歴 経産省始動プログラム2018シリコンバレー派遣選抜 / 内閣府S-Booster2019 最優秀賞 受賞
Asics accelerator program 優秀賞 受賞 / リバネス ディープテックグランプリ2021 KOBASHI賞、カワるサキへ賞 受賞 / ひろしまサンドボックスD-EGGS サンドボックス賞 受賞


千野 歩さん 初めまして、株式会社Ashiraseの千野と申します。

よろしくお願いします。

 

視覚障がい者を取り巻く山積みの課題

私たちは、視覚障がい者の方向け歩行ナビゲーションシステム、「あしらせ」を開発しています。

あしらせは靴に取り付けるIoTデバイスで、これを靴の中で振動させて、誘導情報を伝えていくという特徴を持っています。

 

2018年、妻の祖母が川の横を歩いている時、足を滑らせて、川に落ちて亡くなるという事故がありました。

3日間、川の中で見つからないという壮絶な事故でした。

当時私は、ホンダで、自動運転や電気自動車の制御のエンジニアをしていました。

 

その事故を受けて、「歩くことをモビリティと捉え直したら、自分にももっと何かできることがあるのではないか」、そう思って、「歩く」「目が不自由」というキーワードで活動を始めたのです。

それから、たくさんの視覚障がい者の方々に会いに行きました。

 

僕は全く知識がなかったのですが、彼らと話すにつれ、本当にたくさんの課題、細かい課題が山ほどあるのだと改めて実感するようになりました。

そしてこれらの課題の中には、昔からずっと状況が変わっていないものが非常に多かったのです。

 

つまり、それらが解決されないのは、ハード・インフラの限界だからなのではないか。

これからは、個々の特徴に合わせた、テクノロジーが重要なのではないかと実感したのです。

「テクノロジー」と「自立」で福祉の概念を変える

 

一方で、幸運にも私は、たくさんの自立的な視覚障がい者の方々に会うことができました。

彼らはとても楽しく仕事をしたり、恋愛をしたり、障がいを感じさせないようなバイタリティに溢れていて、それを目の当たりにした私はこう感じました。

 

「この人たちが、障がいや福祉の概念や価値観を変えるのではないか」と。

 

ですから私たちの会社は、「テクノロジー」と「自立」、この2つのキーワードで社会課題を解決していくのだ、そう決めたのです。

それを実現する私たちのプロダクトの3つの要素を、ご紹介します。

 

 

スマホと靴に着けたデバイスが連携

まず1つ目は、テクノロジーです。

 

私たちのプロダクト「あしらせ」は、スマートフォンとIoTデバイスが連携して動作するシステムです。

 

視覚障がい者の方が大事にしている聴覚の邪魔をしない、安全で、ゆとりの持てるナビゲーションを提供しています。

 

私たちのプロダクトは靴に取り付けているので、玄関でいつものように靴を履いていただければ、後はスマートフォンに目的地を入力し、振動に沿って歩いていく、これだけで、彼らの生活の行動範囲を広げていくことができます。

これは実際に、ロービジョンの方に履いていただいた時の映像です。

ロービジョンとは(クリックeye)

まず、曲がり角で、右に行くのか左に行くのか事前にお伝えすることで、準備を促します。

右足か左足を振動させるのですが、その時、テンポの情報を使って、曲がり角までの距離感も伝えています。

こうすることで、まっすぐ歩くことに集中していただけるのです。  

実際に曲がり角に差し掛かると、足全体を激しく振動させ、曲がることを伝え、もし右折であれば、連続的に振動させ続けます。

この時、システムは彼らの動きを的確に捉え、曲がりきったと判断したところで、次の指示に切り替えます。

これを続けて、視覚障がい者を誘導していくというシステムです。

また、「あしらせ」のようなシステムを使っていても不安に思うことがあるので、その時は地面を足でトントンと叩くことで、自分の進行の向きを確認できるような、安心のための機能も実装しています。

視覚障がい者が圧倒的に早く歩行できる仕組み

大きく2つの技術を活用しています。

 

1つは、彼らの動きをしっかり把握するためのセンシング技術で、これを使って誘導情報を作ります。

情報を、彼らに直感的に理解して頂くことが重要だと思っています。

そこで、2つ目の技術として、作った情報を、彼らが直感的に受け取れるインターフェイスを使って渡す。

これら2つの技術の組み合わせによって、視覚障がい者が、ほぼ意識をせずに歩いていくことができる仕組みを作っています。

あしらせを使うことで、彼らは歩いて、目的地まで圧倒的に早く移動するくことができます。

これは、迷わないことにつながっています。

そして、「絶対に迷わないと思える」「下調べがいらなくなる」「耳に邪魔されないので、安全歩行に集中できる」などの声を頂いています。

 つまり、安心感、これにつながっているのです。

この安心感こそが、行動範囲を広げる一歩につながるのではないかと私たちは思っています。

生活に溶け込み、継続して使いやすいデザイン

次に、UXについて説明します。

彼らの従来の歩行は、ナビゲーション、ルートの確認、そして安全の確認など、様々なインターフェイスで様々な情報を同時に処理して歩いていました。

本当に大変なのです。

そこで「あしらせ」は、ルートの情報を請け負うことで、直感的、無意識的に彼らの安全に歩く能力を最大限活かし、彼らが安全に集中できる環境を作るというコンセプトで作っています。

彼ら自身の力で歩くという、達成感を得られる余白につながっていると私たちは考えています。

また、私たちは、彼らに使い続けていただくことが重要だと考えています。

そこで、新しいプロダクトを管理する負担をできるだけ減らしたい。

ですから、玄関で靴を履いたら自動的に電源が入ってペアリングされる、充電も週1回でいい、洗える、そして色々な靴に取り付けられてTPOを選べる、と、彼らの生活にいかに溶け込ませるかという点に注力してデザインしました。

ハードウェアの価格を抑えたSaaSモデル

最後に、ビジネスモデルです。

視覚障がい者用のIT製品などには、非常に高額なものが実は多いのです。 

 

日本では補助金などが一部を負担するモデルが一般的になっているのが、実情です。

一方、アメリカなどでは、どちらかと言えば、自分の力で稼いだお金で行うことに意味があり、それが自立性を醸成させるという考え方があるそうです。 

私たちも、それに近づくべく、ハードウェアのイニシャルコストはできるだけ下げていきたい。

その代わり、彼らの歩行課題は山ほどあるので、それらをアプリケーションとして一つずつ、ナビゲーションの上で解決していきたい。

そうすることで、彼らの課金率を上げていくような新しいSaaSモデルを作っていくというチャレンジをしています。

このように私たちは、自立している人、自立したいけれどなかなか難しい人たちの背中を押していくということを軸にして、全てのものをデザインするということを心がけている企業です。

テクノロジーの力で行動範囲を広げていく

今まで、議論は「行かなくてはいけない場所」についてのみでしたが、私たちは彼らにとっての「行く必要のない場所」をどんどん増やしていきたい。

 

ラーメンを食べに行きたい、イベントに行きたい、趣味の活動をしたいなど、行動範囲を広げていこう、それをテクノロジーの力で解決していこうと考えています。

その一環として今年(2022年)の11月、100kmを26時間で歩ききるという、晴眼者でも過酷なイベントを、「あしらせ」を使って歩ききりたいと言ってくれている方がいるので、私たちにとっても非常に大きなチャレンジですが、取り組もうと思っています。

こういった活動には、今後も積極的に取り組んでいこうと思っています。

100kmウォーク振り返り TeamKDY(note)

仲間を募集していますので、どうぞよろしくお願いいたします。

ありがとうございました。

実際のプレゼンテーション動画もぜひご覧ください。

(終)

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編集チーム:小林 雅/星野 由香里/浅郷 浩子/正能 由佳/戸田 秀成/大塚 幸

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