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「民間発の月面探査チーム「HAKUTO」の挑戦」【F17-6D】セッションの書き起し記事をいよいよ公開!12回シリーズ(その7)は、西村あさひ法律事務所水島さんに、宇宙資源開発ビジネスにおける法制度の不在について、その見解とジレンマをお話いただきました。「立法事実」という重要な概念が登場します。是非御覧ください。
ICCカンファレンスは新産業のトップリーダー160名以上が登壇する日本最大級のイノベーション・カンファレンスです。次回 ICCカンファレンス KYOTO 2017は2017年9月5〜7日 京都市での開催を予定しております。
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【登壇者情報】
ICCカンファレンス FUKUOKA 2017
2017年2月21日〜23日開催
Session 6D
宇宙資源開発ビジネスは宝の山! – 民間発の月面探査チーム「HAKUTO」の挑戦
(スピーカー)
石田 真康
A.T. カーニー株式会社 プリンシパル / 一般社団法人SPACETIDE代表理事
袴田 武史
株式会社ispace
代表取締役
水島 淳
西村あさひ法律事務所
パートナー
(モデレーター)
千葉 功太郎
慶應義塾大学
SFC研究所 上席所員
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【前の記事】
【本編】
千葉 日本は今現在、資源開発を行うことができるのでしょうか?できないのでしょうか?
水島 ご質問ありがとうございます、まさにその点が問われるところです。
法律がないんですよね。
千葉 ないですよね!?
水島 私は弁護士なので、法律がないという意味、あるいは新しい制度に関する法制度を持つ意味合いを考えたいと思うのです。
法律がない=Go or No Go?
水島 あえて弁護士だから申し上げますが、法律がない、ということは、言ってみれば「だからどうしたの?(So what?)」なんですよね。
法律が存在しないから何なのですか?という話で、法律がないから禁止という普遍的なルールはなく、むしろ、基本的には「Go」なんですよね。
もちろん、宇宙の場合は民間の活動に対する国家の責任を規定する宇宙条約がありますし、分野ごとに補正はかかるのですが、法律がないからやってはいけないということは全くありませんので、開発を進めても全く構わないわけです。
千葉 月から水を取ってしまっていいのですか?
水島 全く問題ありません。
千葉 斬新ですね。
水島 「ただし」と話が続き、ここがミソで、小さい会社で小さいプロジェクトでやる分には進めていった方がいいのですが、ではプロトタイプを作って、リリースモデルを作って、お客さんを獲得して、マネタイズして、スケールしていきますというように、本格的にビジネスにしていこうとすると、それは難しいですよね。
なぜなら、その会社を取り巻く投資家、顧客、サプライチェーンのパートナーになる企業などからの視点で見ると、いつまでも「このビジネスの法的有効性は疑問です」ということでは、投資や取引、提携、共同事業を行うのにリスクが大きすぎます。
規模の大きい取引や長期的な取引を行なうことが事実上とても難しくなってしまい、結局ビジネスをスケールさせることができなくなってしまうからです。
千葉 ispaceはそれに該当するのでしょうか。
水島 ispaceもメガベンチャーを目指す会社になるので、法制度が不可欠です。
千葉 そうですよね。
ビジネスの拡大には法制度が不可欠
水島 しかしこれは当たり前の話で、例えば売買のケースを考えれば、買った人がお金を払わずに逃げると困りますよね。
その場合には、債務不履行で損害賠償というのが民法に規定されていて、そのおかげで人々が安全に取引できます。
これをベンチャー企業の場合で考えると、まず法律制度がない分野というのは、実際に大企業と組もうという時に、大企業がしり込みします。
上場会社としてどう株主に説明するんだ、という話が出てきますし、法制度が安定しないとなかなか投資家が付き難いという側面もあります。
法制度がないと、この会社に入って大丈夫なのかという不安もつきまといますので、人材を雇うのも困難です。
こういう観点から、リアルなビジネスをやろうと思うと、法制度は不可欠です。
ですので、走り出しの段階では、法律がないことは全く気にする必要はありません。
もちろん気にする必要はあるのですが、ストップする必要はないと。
しかし真剣にメガベンチャーにしていこうとするならば、法制度というのは不可欠なのです。
ただ、法律にはジレンマがあり、法律の制定には立法事実が必要です。
「立法事実」のジレンマ
水島 法律用語で変な言葉なのですが、要するに実際に社会に起こっていることではないと、法律を作ってはならない、というのが「立法事実」です。
例えば、今、「タイムマシン法」というのはありませんよね。
なぜかというと、今、タイムマシンを作ろうという人はどこにもいないからなんです。
千葉 ドラえもんが作っていますよね。
水島 ドラえもんは作っていますね、確かに。
でもそれは、立法事実としては足りないんですよね。
(会場笑)
千葉 なるほど……!
水島 これがいわゆる「鶏と卵」の問題を引き起こすのですが、資源開発に限らず、新規産業においては常に起こります。
つまり、法律がないので、ビジネスができないではないという人がいる。
それに対し、ビジネスが存在しないので法律は不要、先ほどの例でいうと実際タイムマシンを作っている人がいないので法律は不要ではないかとなっていしまい、法律が先かビジネスが先かでぐるぐる回ってしまうわけです。
ジレンマを脱却する働きかけは経営者の使命
水島 そうなると、いつまでたってもビジネスが出てこない、法律ができないという堂々巡りに陥ることになります。
しかし、これを逆巻きにするというのが、新たなビジネスを作る人、経営者の使命なんですよね。
我々もアメリカの政府にヒアリングを行うことがあるのですが、米国政府は規制緩和に積極的というイメージがあるかと思いますが、必ずしも全ての分野、全てのケースでそうということはなく、どちらかというと非常にパッシブ(受動的)な印象を受けます。
では何がアメリカの積極的な法制度や規制緩和につながっているかというと、実際に民間企業が様々なことを政府に対して積極的に提言しているんです。
日本ですと、どうしても日本政府は腰が重いよねと居酒屋談義で終わりがちなのですが、アメリカの経営者はそれを超えて、翌日に政府に出向いて、「これがビジネスになるんだ、税収に寄与するんだ、雇用を生むのだ」という話を積極的に政府に伝えていきます。
千葉 いわゆるロビー活動ということでしょうか。
水島 おっしゃる通りです。
ロビーイングというのは何も陳情ではなくて、単純に進捗報告をするだけでもいいんです。
子育て支援から産業政策から何からと、政府にはたくさん対応しなければならない重要な事項がある中で、そのビジネスが解決を目指す課題につき少しでも政府が目を向けてくれるよう、政府と対話し続けることが大切です。
経営者として、その事業に社会的意義があるのだと考えるのであれば、そのような活動をきちんとしていくべきだと思います。
千葉 なるほど。
私も現在、ドローンに積極的に取り組んでいるので分かります。
ドローンの分野にも法制度が全く足りていなくて、そのことを言い続けています。
水島 そうですよね。
それは、そもそも政府として優先しなくてはならない政策があります。
かつ、千葉さんのように、実際にドローンを深掘りしている人だからこそ、こういうルールを作った方がいいのではないですか、こういうアプローチの仕方があるのではないですかと提起できるわけです。
全ての分野に関してそのようなアイデアを政府に自ら考えろというのは無責任な話で、やはり千葉さんや袴田さんのような方が、今こういうことをしています、こういうアプローチが大事ですよね、ということを発信し続けることが重要です。
千葉 真摯に聞いてくれますね。
水島 そう思います。
単に発信していないだけで、発信すれば道は拓けるということはたくさんあります。
冒頭でアメリカでの宇宙資源開発を認める世界初の法律ができたという話をしましたが、決して容易に法制化が進んだわけではなく、2014年に一度同じような法案がアステロイド法案(American Space Technology for Exploring Resource Opportunities in Deep Space(ASTEROIDS)Act of 2014)として議会に提出されたものの、廃案になっています。
ようやく2015年に法制化にこぎつけたのですが、これもアメリカのベンチャー企業2社が積極的にロビー活動をした結果だと言われています。
このような形で、アメリカではベンチャー企業もロビーイングをします。
伝統的なイメージの「陳情」とは、全く違った話をしていくという感じです。
次にまさに千葉さんが懸念されている、ispaceはどうなるんだ、日本はどうなるのだ、という話に移ります。
千葉 お願いですから日本に残ってもらいたいです。
日本での宇宙資源開発をめぐる法整備の現状
水島 ポジティブなサインで今日は終わろうと思っていたのですが、その萌芽が生まれてきています。
2016年に宇宙2法が成立しましたという話をしましたが、それ自体は資源開発の法律ではないのですが、採決に際して国会で附帯決議というものが付けられました。
附帯決議とは、「これも重要だから併せて言っておく」というような位置付けの決議なのですが、6つのポイントがあるうち、4つ目に「政府 は、宇宙資源開発をめぐる国際的な動向の把握に努めるとともに、関連産業の振興に向けた必要な措置について検討すること」という決議がなされました。
千葉 いいじゃないですか、これ!
これはispaceを応援するぞということですね。
水島 個社というより産業全体という意味でおっしゃる通りです。
ispace社が、先ほどのようなわくわくするような未来の絵姿や実際の事業活動について、政府とのインタラクションを通じて発信し続ける、といったような民間の様々な活動があったからこそ、このような決議が行われたわけです。
この時に、宇宙政策担当の大臣からも資源開発にきちんとコミットしていきますという話がありました。
日本の宇宙政策のTo Do Listである、宇宙基本計画工程表にも資源開発のリファレンスが出ています。
千葉 この分野は何省の管轄になるのですか?
水島 宇宙二法は内閣府の所管です。
千葉 そうですよね。
でも個別省庁に落とした時には、どこが担当するのですか?
水島 個別省庁ベースでも内閣府なのですが、将来的には、経産省であったり、文科省であったりです。また、長期的には国交省も関係してくる可能性もあるのではないかと思います。
千葉 国交省……宇宙に道路を作れと。
水島 はい。
アメリカではFAA(連邦航空局)が絡んでいます。
千葉 ドローンのど真ん中ですね。
水島 そうですね。
今、国交省はドローンに非常に注力していますし、宇宙はどうなるかわかりませんが、将来的には省庁横断的にいろいろなところが絡んでいくことになるはずです。
やはりこういった民間のプレイヤーの、座して法制度ができるのを待つのではなく、発信し続けるパワーが非常に効いてくると思います。
新しいビジネスを考えていらっしゃる方は、こういう側面も視野に入れて進めていくと面白いのではないかと思います。
千葉 宇宙に限らずということですよね。
水島 おっしゃる通りです。
千葉 ありがとうございます。
あまりにも楽しくて時間をずいぶん費やしていますが、まだ自己紹介&プレゼンが続いています。
石田さん、現在宇宙ビジネス全般でどのような動きがあるのか、また水島さんとお二人で取り組んでいらっしゃる、SPACETIDEの草の根の活動について、お話をお願いできますか?
石田 草の根ですね。
千葉 どのような活動なのか、非常に興味を持っています。
お願い致します。
(続)
編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/横井 一隆/鈴木ファストアーベント 理恵
続きは 民間発の宇宙ビジネス・ビッグバンがいま起きている! をご覧ください。
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【編集部コメント】
「立法事実のジレンマ」という概念は、宇宙産業に限らず、新たな事業に取り組む人たちみなが持っていたい概念ですね!(榎戸)
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