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「新しいアイデアの実現と法務・知財戦略」7回シリーズ(その2)は、『下町ロケット』神谷弁護士のモデル、鮫島正洋弁護士がベンチャー企業が考えるべき特許戦略を解説します。誰もが必ず通る“ヘソ”に対して特許を取るということはどういうことか? ぜひご覧ください!
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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回ICCサミット FUKUOKA 2019は2019年2月18-21日 福岡市での開催を予定しております。
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【登壇者情報】
2017年9月5-7日開催
ICCカンファレンス KYOTO 2017
Session 3D
新しいアイデアの実現と法務・知財戦略
(スピーカー)
鮫島 正洋
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
代表パートナー弁護士・弁理士
田川 欣哉
Takram
代表取締役
丸 幸弘
株式会社 リバネス
代表取締役CEO
水島 淳
西村あさひ法律事務所
パートナー
(モデレーター)
尾原 和啓
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▶「新しいアイデアの実現と法務・知財戦略」の配信済み記事一覧
尾原 知財には、田川さんが先ほど言われた、ネガティブをゼロにする防御のための特許だったり、付加価値を自分だけのものにするプラスの特許というものもあります。
しかし、いやいや特許化すると技術情報が公開されてしまうからブラックボックスにした方がいいよ、という考え方から、ハッタリとして相手を誘導するための特許も必要だなど、非常にバリエーション豊かなことが分かりました。
それでは満を持して、鮫島さんにお伺いしてみます。
鮫島さんが具体的に企業と仕事をする時に、企業側から求められる役割の変化などはありますか?
誰もが必ず通る“ヘソ”に対して特許を取る
鮫島 正洋氏(以下、鮫島) 企業と言っても世の中には2種類あり、大企業とベンチャー企業では全然違うので、まずはベンチャー企業の話をしましょう。
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鮫島 正洋
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
代表パートナー弁護士・弁理士
東京工業大学金属工学科卒業。藤倉電線㈱(現 ㈱フジクラ)にてエンジニア(電線材料の開発)、92年弁理士登録後、日本アイ・ビー・エム㈱にて知的財産業務を経て99年弁護士登録。2004年内田・鮫島法律事務所を設立、現在に至る。弁護士業の傍ら、知財戦略、知財マネジメント、知財政策など多方面に向けた発言を行い、その貢献に対して2012年知財功労賞受賞。著書;「新・特許戦略ハンドブック」(商事法務2006)〔編著〕、「技術法務のススメ」(日本加除出版2014)〔共著〕、「知財戦略のススメ コモディティ化する時代に競争優位を築く」(日経BP2016)〔共著〕など。「下町ロケット」に登場する神谷弁護士のモデル。
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製品投入までの時間が短縮され、世の中の変化が速くなりました。
確かに、時代の変化が速いから普遍的な特許というのは取れないよ、という側面はあり得ます。
しかし、僕たちがやろうとしていることは少し違います。
例えばあるビジネスモデルがあったら、後発者も先発者も必ず通る道というのがあります。
だからそこの道を押さえるということが一番重要で、そうすればその特許は10年、20年もつんですね。
逆に言うと、そこをどれだけビジネス的に見極められるかというのが僕たち特許屋の才能として求められています。
これはもう本当に、純粋に知識ではなくてセンスの問題なんですね。
ですので、今、僕たちがベンチャー企業に対してやっているのは、そのような道を特定することです。
僕たちの業界では発明・発掘と呼ぶようなビジネスモデルやテクノロジー自体は、お客さんご自身がよく分かっていらっしゃいます。
しかし、僕らが「ヘソ」と呼んでいる先ほど申した道のポイントがどこだか分からない。
これを見つけていく仕事、これが僕たちが今やっていることです。
尾原 どうですか、同じ質問を水島さんにお伺いします。
水島 淳氏(以下、水島) そうですね、トピックがたくさんがあり……とても面白いテーマだと思うのですが(笑)。
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水島 淳
西村あさひ法律事務所
パートナー
事業戦略遂行の法律・取引実務を用いたビジネス強化のサポート(M&A、事業提携、国際展開、資金調達、新規ビジネス構築、IP戦略等)。2012年から2014年まで米国シリコンバレーにてハードウェアスタートアップWHILL, Inc.の設立メンバーを務め、事業運営・2ラウンド合計約15億円の資金調達を実行。米国コロラド州のアクセラレーターであるBoomtown Acceleratorメンター。民間宇宙ビジネス促進のための組織である一般社団法人SPACETIDE理事。株式会社マクロミル社外取締役。『FinTechビジネスと法 25講』、『スタンフォードの教え「ビー・ユアセルフ」』、『ビジネスパーソンのための企業法務の教科書』など、新規事業、M&A等に関する執筆多数。2004年東京大学法学部第一類卒業(LL.B.)、2013年スタンフォード大学ビジネススクール卒業(MBA)。
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尾原 どこからいってもいいですよ!
水島 とても面白いテーマだと思うのですが、タイムスパンの点はご指摘の通りで、やはりアメリカ、先ほど話に挙がったA社、つまりジェフ・ベソスたちがワンクリックの特許を取った後にですね……。
尾原 社名を隠した意味がないですね(笑)。
水島 いやあの、これはもう別にパブリックな話なので(笑)。
特許の保護期間というのは当時17年、今は20年ですが、ジェフ・ベゾスは特許を取った後に「保護期間は3年とか5年でもいいのではないのかと思っている」というようなコメントをしているんですよね。
同時に、ワンクリックについては特許を維持するとは言っていましたが。
特許の取りやすさは、時代・制度と共に変化する
水島 特許は、時代とともに変わっているんですよね。
ベーシックな概念というのは、「クリエーターの人に報いる」というところです。
その報い方というのは、当然、モノを作ってからお金にするまでのサイクルとか、あるいはそれが違うところに取り替わっていくサイクルなどによって変わってくるはずです。
ですからアメリカなどでは今2つの大きな潮流があります。
1つ目の具体例として、先月(2017年8月)にもJPモルガン・チェース銀行がモバイル端末のアプリ間で通信をする技術に関して特許を取った話があります。
そのような技術はもちろんどんなアプリビルダーからも明らかなありふれた発想で、無茶苦茶な特許なので当然炎上しています。
その一方でもう1つの潮流は、数年前のアメリカの判決をきっかけに制度が変わったこともあり、今スタートアップや中小企業、特にソフトウェア系が、どんどん特許が取りにくくなっているという状況です。
もともとはパテント・トロールを排除する目的で制度が改正されました。
パテント・トロールというのは、自身ではビジネスをしていないけれど特許を買い集めて、それで他社を脅迫するようなプレイヤーです。
当初その撲滅のための制度だったのですが、それがいつの間にか、おおよそソフトウェアの新規性が認められにくいという状況を生み出してしまいました。
このように直近ではJPモルガンのような大きな会社がそのような幅広な特許を取る一方で、小さい会社がなかなか特許を取りづらくなるなど、特許の制度自体は時代の流れとともにダイナミックに動いていますね。
ビジネスの流れ、サイクルがどんどん短くなっていく中で、制度も実はそれに反応して動いているんです。
例えば中国などでは、よりビジネスモデル特許やソフトウェアの特許を取りやすい制度に変わってきています。
知財はもはや、経営戦略のメインストリーム
水島 そのようなタイムスパンで考えると、今はもはや、研究開発部門だけでどのような知財を取るかを判断するのでは不十分で、これは完全にメインストリームの経営戦略なんですよね。
商流をつかむとか、認知度を上げるとか、ネットワークエフェクトを取るとか、そういう戦略と同じ位置づけとすべきものです。
マクロ環境が変わる中で、自分の努力では変えられないマクロ的なものがあるよね、でも自分の努力でできるところがあるよね、ということを上手く切り分けて、経営として見ていくことが重要です。
守りの姿勢で、取りあえず技術ができたので特許を取っていくというスタンスは必ずしも今の時代には即していないかもしれません。
大企業には特許の数だけで人事査定するという企業もあるように伺いますが、これからはそうではなくなりつつあると思うんですよね。
そのように時代が変わっているというところなのではないですかね。
Amazonが取得したワンクリック特許の効果とは?
鮫島 ちょうどワンクリックの話が出たので、追加コメントさせていただきます。
今IoTの時代になったので、我々の事務所にそのような関係の依頼がここ1年で急増しています。
大企業のモノづくりをやってきた人たちから、「今までモノの特許はたくさん取ってきたから俺たちでも分かる」と。
しかし、IoTというのはビジネスモデル特許ですから「よく分からないのでコンサルしてくれ」と言ってくるわけです。
その時に必ず聞かれるのが、「でもビジネスモデル特許を取ってどんな意味があるの?」ということです。
今ワンクリックの話が出ましたが、例えばワンクリックの特許にどのような意味があるか考えてみましょう。
ECというのは、例えばAmazonがあって、楽天があるわけですが、恐らくAmazonユーザーが結構多いと思うんですよね。
すいません、楽天ご出身の方の前で、本当はこういうことを言ってはいけないのですが。
尾原 そう(=楽天出身)なんです、一応。
ヤフー(ショッピング)さんも前にいらっしゃいますが……(※)。
▶編集注:ヤフーCSOの安宅和人さんが本セッションを聞きに来られていました。
鮫島 何で皆Amazonなのかというと、それぞれに好みがあるのでしょうけれど、私なんかはやはりバタバタしているので、早く発注に辿り着けるのがいいよねと感じています。
もしこれが多くのユーザーに訴求する機能だとしたら、なぜ楽天も同じようにしないのだというと、それはやはりワンクリック特許が効いているんですね。
つまり、ビジネスモデル特許を取ったからといって、楽天をEC市場の外に追い出すまでの効果はないけれど、自分たちが考えたユーザーにウケそうな機能の特許を取っておけば、どんどんシェアが上がるというくらいの機能があるわけです。
今の世界はデータを取った人が勝ちます。
データを押さえに行ける機能が何かはおそらく分かるので、後は経営としてそこに投資するのかしないのか、という判断なのだと思いますね。
Androidを苦しめたiPhoneの「スライド機能」特許
尾原 そうですね。
モデレーターのポジションを離れて少しお話しさせていただくと、僕自身もNTTドコモのiモードの立ち上げだったりとか、Googleで新規事業開発の仕事をしていたので、今おっしゃったことはとても身に染みて感じています。
というのも、世に言う、iPhone(Apple)とAndroid(Google)の特許戦争ですが、実は一番ボディブローのように苦しめられた特許はiPhoneのスライド機能なんです。
iPhoneは最初に画面を立ち上げる時に、スライドしてカチッとしてオープンしますね。
あれが特許なんです。
スライドした時に指先の動きに合わせたようにバーが変化して、右までもっていくとアンロックされるという仕組みの特許なのですが、これを取られると、先ほどのワンクリックと一緒で、直感的でなくなるんですよ。
人間というのは、どうしても直感的なサービスの方に愛着が湧いてしまいます。
たった1つの、これだけのことで、どうしてもAndroidって使いにくいよね、やはりiPhoneはデザインがいいよね、と言われるのです。
「いや俺たちだってそんなデザイン分かっているがな!」と(笑)。
しかし、できないものはできない。
先ほど鮫島さんがとても大事なことをおっしゃっていて、これからの時代というのは競争優位性のルールが変化しています。
ユーザーインターフェースと仕組みから、そこから得たデータを使ってパーソナライズしたり、付加価値を上げていったり、自動化していかなければ生き残れません。
ですから、ちょっとしたことで相手を遅らせて、その間にデータを溜めることによって、それが生産性の向上であったり、パーソナライゼーションであったりとか、自動化につながってしまうと、もう追いつけなくなります。
もちろん楽天がAmazonに追いつくのですけれども!(笑)
というように、先ほど鮫島さんがおっしゃられた「ヘソ」ですよね。
ただやはり、今話に出たワンクリックとか、iPhoneのスライドのようなレベルの特許というのはだいぶ取りにくくなったという風に聞いているのですが、どうですか、その辺はまだ変わらないですか?
鮫島 iPhoneの画面操作のようなものは結構厳しいでしょうね。
今ありとあらゆる画面操作が世の中に出てしまっているので。
でも、カタパルト(ICCサミットのピッチコンテスト)のプレゼンテーションを聞いていても、ビジネスモデルって結構たくさんあるじゃないですか。
ですからあのようなビジネスモデルを実現する時に、そのビジネスモデルだけだと特許性は厳しいのだけれど、こういう機能を実装するとより便利だよねとか、あるいはこういう状況になったらエラーが出てしまうから、それを回避するためのエラー処理ルーチンの特許を取るとか、そういうものを取ってしまえばいいのです。
後発も絶対に同じ問題に直面するわけですから、それを特許で押さえられていると後発は使えないですよね。
その結果、特許のおかげで自社が事実上使いやすいサイトになり、便利なサイトになるわけです。
(続)
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続きは 3. ベンチャー必読 知財戦略①「各フェーズで捻出すべき知財費用とは?」をご覧ください。
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編集チーム:小林 雅/横井 一隆/尾形 佳靖/浅郷 浩子/戸田 秀成/鈴木ファストアーベント 理恵
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