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「AIやデータの活用が企業経営のあり方を大きく変える」8回シリーズ(その7)は、ICCサミット超人気セッションの布石となった、慶應大学教授/ヤフーCSOの安宅さんが語る「知性の核心」に関する論考です。現状のAIが決して模倣すことのできない“知性”の正体とは? ぜひご覧ください!
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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回 ICCサミット KYOTO 2019は2019年9月3〜5日 京都開催を予定しております。
本セッションは、ICCサミット KYOTO 2017のプラチナ・スポンサーとして、IBM BlueHub様にサポート頂きました。
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【登壇者情報】
2017年9月5〜7日開催
ICCサミット KYOTO 2017
Session 4B
AIやデータの活用が企業経営のあり方を大きく変える
Supported by IBM BlueHub
(スピーカー)
安宅 和人
慶應義塾大学 環境情報学部 教授
ヤフー株式会社 CSO(チーフストラテジーオフィサー)
森本 典繁
日本アイ・ビー・エム株式会社
執行役員 研究開発担当
矢野 和男
株式会社 日立製作所 フェロー、理事 / 博士(工学)
IEEE Fellow
東京工業大学大学院 情報理工学院 特定教授
(モデレーター)
山内 宏隆
株式会社HAiK
代表取締役社長
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最初の記事
1. “産業のAI化は国策レベルの取り組みであり、その変化は不可逆である”――『AI白書』に見る世界のAI動向
1つ前の記事
6. データ蓄積がもたらす新たなサイエンスは、社会の「暗黙知」を「形式知」に変える
本編
山内 これまでの議論としては「AI時代に経営はこう変わる」というような話ははっきりいって予測不能であると。
ただ、何が起こるか分からないこういう時代だけれど、こういう考え方で乗り切っていったらいいんじゃないか、というところが企業経営に関してはいくつかの論点が出てきました。
皆さんに、冒頭で『AI白書』をご紹介しましたが、もう1つ読んでいただきたいものがあります。
それは『ハーバードビジネスレビュー』です。
ダイヤモンド社から出版されているもので、2017年5月号に安宅さんが論文を出されています。
全体のテーマが『AI時代の「価値」とは何か、知性を問う』というもので、安宅さんが書かれている論文のタイトルが「知性の核心は知覚にある」でした。
▶参照:ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 5 月号(ダイヤモンド社)
何を言っているかなかなか分からないと思うので、ぜひ安宅さんに解説していただけたらなと思います。
個人的にこの論文は非常に素晴らしいと思っています。
こういうのも、通常私はKindleにダウンロードして読むのですが、紙の本も買って何回か読みました。
僕はこれは相当すごいと思っていまして、今回セッションに参加していただいた方には、ぜひ何らかの手段で読んでいただきたいなと思います。
ただ、1回読んだだけでは分からないので、それだけは予め言っておきます。
それでは5分〜10分くらいで手短に、お願いします(笑)。
知性と呼べるものの大部分は「知覚」である
安宅 ありがとうございます。AIが話題になっているということもあり、「知性というのは一体何なのか」ということを振り返って考えるいいタイミングなのでは、ということで書きました。
慶應義塾大学環境情報学部 教授/ヤフー株式会社 CSO 安宅 和人さん
▶編集注:安宅さんには、ICCサミット FUKUOKA 2018の最高評価セッション「知性の核心とは何か?」でも本論考をご紹介いただいています。ぜひあわせてご覧ください。
前ハーバードビジネスレビュー編集長の岩佐文夫さんが退任された時に退任記念号のような号がありまして、その際に出した論稿です。
皆さん、「知性とは一体何か?」を答えられますか?
結構しんどい問題ではないでしょうか。
この混乱が、本気で大事な問題だと思っています。
僕はもともと脳神経科学者で、一方、いわゆるビッグデータはそんな言葉がまったくなかった1995年くらいから触っています。
また、ヤフーではデータやAI系の責任者をやっていたこともあります。当時、研究所長まで兼務でやりました。
この絡みで、データ×AI時代の人材が足りなすぎるという認識でブレインパッドの草野さん、国研である統計数理研究所 所長の樋口先生らとデータサイエンティスト協会を立ち上げ、スキル標準の整理などもやっています。
こういう人間なのですが、この知性について考えるためには、「思考というのは何か?」を考えることが最初のクエスチョンだと思っています。
そもそも、思考を担う神経系というのは、大枠の機能からいうと3つのタイプのニューロン(神経細胞)からできていることが分かっています。
1つ目は、sensory neuron(感覚ニューロン)、あるいはinput fibersという、外からの情報を入れるニューロンです。
2つ目はそれを出力するprincipal neurons、projection neuronsという、アウトプットを出すニューロンです。
3つ目はそれを繋ぐ、interneuronという神経と神経をつなぐニューロンです。
情報処理の大きなタイプ別に言うと、脳のどの領域でも実はこの3つが共通の構成要素なのです。
これは『The Synaptic Organization of the Brain』(Gordon M. Shepherd ; Oxford University Press)というseriousなニューロサイエンティストなら誰でも持っている非常に有名な本に書いてあることですが、これをよく見ると情報処理というのは情報の「収集」「処理」「出力」という3構造からできていることが分かります。
コンピューターも同じですが、ここを俯瞰して分かることは、「思考というのは、インプットをアウトプットに繋げることだ」ということです。
情報処理という視点で「思考」というものを考えたとき、まず脳に情報が入ってきます。
そこではまず「感覚」という翻訳が行われています。
感覚というのは、実は皆さんが思われているよりも非常に激しい意味翻訳です。
たとえば、私の後ろにある「INDUSTRY CO-CREATION」と書かれたこのパネルの色。
これは多くの人には紺色に見えるわけですが、「色」というのは物理量ではありません。
たとえば、先天的に目の見えない人に、色という概念を教えることはできません。
言わば、色というのは心の中にだけあるのです。
「肌触り」も同様で、その感覚は非常に激しい翻訳が行われた結果です。
我々はそれらをベースに「見ているものが何か」を理解したり、運転したり、物を書いたりといったアウトプットをするわけですが、その前に、多くの場合、こうした感覚情報の「メタ化」、より高度な情報への変換、が行われます。
アウトプットが入り組んでいるときも、その手前で高度なメタ化が行われます。
我々は、先ほどの図でいうところの計算とかモノを書くというようなアウトプットの辺りを知性だと思いがちなのですが、実際にはこの「インプットとアウトプットを繋ぐ力」がすなわち知性だということが、実際の情報処理の全体感から言えると思います。
そうやって見ると、「知性」と言われているものの大多数というのは、対象を理解すること、あるいはその意味合いを理解すること、言ってみれば「知覚」というものに集中していることが分かります。
感覚を剥ぎ取った意味で認知という言葉を使う人も多いですが、感覚自体が今述べたとおりかなりの翻訳を伴っているので、ここでは分けません。
7割くらいは知覚なんですね。
実際に僕らの脳というのは、自覚こそありませんが目を開けているだけでその6、7割はなんやかんやで視覚に関わって、相当量が視覚に費やされています。
なので疲れていたり、熱が出ている時に目を開けていると脳の負荷が高すぎるので辛いと感じます。
我々の脳というのは、意味を理解してしまうからです。
いわゆる「思考」と呼ばれているものに使っている部分や関与している部分というのはほんの少ししかありません。
「知覚」とは、意味を理解することである
安宅 ここの知性の大多数が知覚だというところが結構問題で、つまり知覚とは、いろいろな情報を統合して「意味を理解する」ということなんです。
これは私が撮った写真ですが、写真を撮ってこうやって見せれば、花だとか、クラゲだとか、皆さん見た瞬間に分かります。
でも、これが「クラゲだ」「花だ」と理解しているのは、皆さんの心です。
カメラは単なる記録装置であり、全く理解していません。
ここにキヤノンの面白い実験があります。6人の写真家を呼んできて、ある同じ人物について違うバックグラウンドを伝えて撮らせます。
1人の写真家にはこの人はミリオネアですと伝え、別の人にはライフセーバーです、この人はこの間まで監獄にいました、この人は漁師です、この人はサイキックで危険な力を持っているんです、この人はアル中でした、とかですね。
このようにして撮らせると、同じ人の同じ写真を同じ部屋で撮っても、こんなふうになってしまうんです。
▶参照:THE LAB: DECOY – A portrait session with a twist
これが「知覚」の力です。
その人が何だと思う、自分がどう思うかというものが写真に表れるということで、この知覚の部分というのが結構本質的でクリティカルだということが分かります。
これはピカソの有名な絵です。
我々はこういう線画を見ても一瞬にして意味が分かります。「お母さんが赤ちゃんを抱いている」と。
でもこれは驚異的なことです。
サイバネティックス(人工頭脳学)の創始者ノーバート・ウィーナーはこのように言っています。
「視覚の最も著しい現象の一つは、輪郭だけの画を確認できる能力である」と。
あるいは、こういう絵があります(注:著作権問題のため掲出不可)。
Bの左列は出っ張っていて、右列が凹んでいるように見えますが、上下逆さまにするだけで、出っ張りと凹みが逆に見えたりします。
これは、単純な情報処理ではありません。
こういう絵を見ても何も思わないけれど、これを見たら気持ち悪いとか(同上)。
我々は瞬間的に分かりますよね。
我々の心の中で起こっていることは驚異的なことであって、感覚も情報処理もすさまじいのです。
対象理解だとか、文字理解・文章理解して、そのうえで更にパターンを見たり、論理理解をしたり、美しい・美しくないと判断したり、総合的な意味合いを理解したりすることはものすごく高度なテクニックであり、複雑で入り組んでいるわけです。
こうした極めて複雑な現象に対して、我々はモデリングなどをやろうとしているわけです。
人間は、価値を理解して初めて「知覚」できる
安宅 このような写真(幾重もの陳列棚が並ぶ店舗風景)を見ても、皆さんはただのスーパーだとしか思わないかもしれませんが、そこから世界を変えるようなことを思いつく人もいるわけです。
同様に、このような数式を見てもただの式にしか見えない人もいれば、物理学者として訓練を受けられた矢野さんのような人であれば、美しいと思う人もいます。
ちなみに左の式はアインシュタイン方程式、真ん中の式はファインマンダイアグラム、右の式はオイラーの等式です。
これらの数式の「美しさ」を感じるためには、極めて高度な訓練が必要であること、それがないと理解できないことは明らかです。
我々は「価値を理解しないと、意味が理解できない」ということがあり、これは結構本質的です。
知覚というのは、単なる入力の問題ではなく、これらの情報の翻訳を支える、知的経験、人的経験、思考体験が必要で、これをベースに情報処理を行うという体系だということです。
あまり話し続けると時間がないので止めますが、大事なことは、「問題解決というのは我々の仕事の大多数を占める一方で、その大多数は残念ながら、自動化される見込みが今のところない」ということです。
これはあまり深く議論されることはないのですが、実はほぼ無理です。
(続)
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続きは 8. 悲報?それとも朗報?「AIによる知的生産の代替」はほとんど実現できないかもしれない【終】 をご覧ください。
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編集チーム:小林 雅/本田 隼輝/尾形 佳靖/戸田 秀成/鈴木ファストアーベント 理恵
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