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3. 大学発テクノロジーで起業、「CEO」に就任するべきは誰か?

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「テックベンチャーとオープンイノベーションの実際」全7回シリーズの(その3)は、我が国の大学発オープンイノベーションの変遷と課題について。大学発テクノロジーで起業した場合、CEOに就くべきは誰? 研究者が起業すると、研究者としてのキャリアは終わってしまう? 事業シーズをもった大学研究者の皆さん、ぜひご覧ください!

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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2020は、2020年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。

本セッションは、ICCサミット FUKUOKA 2019 プレミアム・スポンサー Honda R&D Innovationsにサポートいただきました。


【登壇者情報】
2019年2月19〜21日開催
ICCサミット FUKUOKA 2019
Session 9D
世界を変えるテクノロジーを生み出そう!テクノロジー大学発テックベンチャーとオープンイノベーションの実際
Supported by Honda R&D Innovations

(スピーカー)

鮫島 正洋
弁護士法人内田・鮫島法律事務所
代表パートナー弁護士・弁理士

松下 健
株式会社オプティマインド
代表取締役社長

丸 幸弘
株式会社リバネス
代表取締役 グループCEO

森本 作也
Honda R&D Innovations, Inc.
Managing Director

(モデレーター)

永田 暁彦
リアルテックファンド 代表 /
株式会社ユーグレナ 取締役副社長

「テックベンチャーとオープンイノベーションの実際」の配信済み記事一覧


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最初の記事
1. Honda×リバネス×AIテック×知財弁護士が徹底議論!オープンイノベーションのリアル

1つ前の記事
2. オープンイノベーションの成否は「大企業側に、絶対的な決定権を持つ人が参画しているか」で決まる?

本編

永田 ここまでの話にあったように、「オープンイノベーション」という言葉の意味や存在意義が、立場によってかなり違うようです。

大企業では今、「自社の風土を変えるために外部を取り込む」という意味合いが非常に強い一方、元々は丸さんがおっしゃるように、「自分たちの技術を外に出す」という意味が非常に大きかったと思います。

一方のベンチャー側では、2005〜2009年ぐらいから大企業を巻き込んでいくのも常套手段の1つになっていると思います。

そのような状況下で、ベンチャー側には大企業はどのように映っていて、自分たちの技術をどのように外に出していきたいと思っているのでしょうか。

松下さんに伺ってみたいと思います。

交わるようで交わらない? ベンチャー企業と大企業の思惑

株式会社オプティマインド 代表取締役社長 松下 健さん

松下 極論として、スタートアップとして非常に助かるのは、まず最初にお金を振り込んでくれる会社かなと思います。

極論ですが「今、いくら欲しいの?」と聞かれて「◯千万円必要です!」と言えばすぐに振り込んでくれるようなパートナーには、「◯千万円分の実績を作らなくては」と思い前向きになりますし、特許面についてオープンなマインドで進めることができます。

逆によく耳にするのは、大企業側から「御社は何ができるのですか」とばかり聞かれて、ベンチャー側が提案書を作って大企業の各部署に提案しに行ったり、提案書も稟議が通るように書き方を工夫したりして、それでも中々話が進まず、ふと「なぜ僕たちがやっているのだろうか……」と気持ちが萎えてしまうということです。

 よくありますね。僕らは「やるやる詐欺」と呼んでいます。

永田 今の話について、森本さんは大企業側から聞いていてどうでしょうか。

森本 僕は、松下さんがおっしゃったようなベンチャーの立場がとてもよく分かります。

永田 元々ベンチャー側にいましたからね。

森本 とてもよく分かりますし、それは確かに大企業の問題でもあって、我々のようなHonda Innovationsという「出島」ができたのはそのためです。

分厚い契約書を大企業本体の法務部で通していたら何カ月かかるか分からないので、とりあえず簡潔に契約を結んで、部長クラスの決裁でプロトタイプ開発くらいまでは実行してしまうのが我々の役目です。

その組織を作ったことで、相当加速しているのは確かです。

僕がベンチャーにいた頃は大企業に開発費を値切られたことがありましたが、開発費は人件費ですから、値切るということは人と時間をかけられないということです。

そんな経験があるので、そのようなことは絶対するまいと思ってやっています。

とにかくお互いにメリットがないと動かないので、動けるようにするための組織をわざわざ作ったということが経緯です。

永田 すばらしいですね。多分リアルテック領域全体に言えることだと思いますが、ベンチャー経験のある人が、資金を出す側つまり評価する側にいる意味は非常に大きいと思っています。

その環境が日本の大企業には少ないのが、大きな課題です。

インターネット企業では、ベンチャーのアクハイア(※)が結構やられていますが、テクノロジー領域ではそれがとても少ないなとずっと思っていました。

▶︎編集注:アクハイア(acqhire)とは、人材や技術獲得を目的として実行される企業買収のこと。acquisition(買収)とhiring(雇用)に由来する造語。

逆にアカデミアから見て、大企業との付き合いという点でうまくいく・いかないを分けているものは何なのでしょうか?

大学発オープンイノベーションの変遷と課題

株式会社リバネス 代表取締役 グループCEO 丸 幸弘さん

 アカデミア側では、2002〜2003年ぐらいに始まった「技術移転」や「産学連携」が大学のオープンイノベーションのスタートと言われています。

そのときに「知財戦略」の考えが注目されるようになり、米国のバイ・ドール法などが話題になったりしたわけです。

▶︎日本版バイ・ドール制度(産業技術力強化法第17条)(経済産業省)

でもその時点では、オープンイノベーションの主体はアカデミアの人たちではありませんでした。

最近はベンチャーキャピタルも充実してきて変わってきたと思いますが、当時は関わるスタッフの数も十分ではなく、形だけのオープンイノベーションだったのです。

そして2014〜2015年ぐらいから、若い先生方が「この技術を絶対に社会に出したい」と考えたときに、「えい」と一歩前に踏み出す勢いが加速してきています。

今、アカデミアはすごく良いところに来ているので、大企業の皆さんにはどうか温かくインキュベートしていただきたいと思っています。

そうすれば、大学の先生自らが世の中を変えていくようなオープンイノベーションが、アカデミアから始まっていくのではないかと思っています。

まさに今、先ほども話したメタジェンという会社では、慶應義塾大学と東京工業大学の研究者が会社の作り方も全く分からない中でいろいろな会社のサポートを受けながらオープンイノベーションを始めています。

これがとても良い事例だと思います。

永田 今の話に関連すると、大学のTLO(技術移転機関)にもベンチャーにも大企業にも、一緒にやるときに必要なルールや心構えのようなものが結構不足しているなと思っています。

鮫島 やはり大学側で問題になるのは、「産学連携」などの名称がつくサポート組織に知財や法務の力が不足していてなかなか前に進まないとか、先生方に特許の知識がなくて出願前に論文を出してしまったなどの事例が多いですね。

これらを経済損失に換算をすると、相当な額になっているのではないかなと思います。

まず、会社という「箱」をつくる

 今僕がアカデミアの先生にアドバイスしているのは、産学連携本部などでそのままオープンにするのではなくて、まずは「会社という箱をつくる」ことです。

大企業も、相手がアカデミアの先生であるよりベンチャー企業の形をとっている方が連携しやすいので、まず箱としての会社を作ることが大切です。

僕が産総研(産業技術研究所)発のベンチャーを支援した例では、先生が500万円で会社を作って、3年してすぐに大企業に売却しました。

僕は、この形も1つの成功事例だと思っています。

大学の研究室で生まれた技術がその大学の知財本部にあると、眠ったままになってしまう可能性すらあります。

アカデミアの先生方に言いたいのは、「IPO」や「ユニコーン企業」など、よく分からない言葉に惑わされるのではなくて、「自分たちがやりたいことは何か?」を自問してほしいということです。

多くの場合、その答えは「自分たちの技術が社会に使われること」なはずです。

僕らアカデミアは、「この技術が世界を変える」と信じていて、その社会実装の速度を上げる手段がオープンイノベーションなのです。

永田 よく分かります。

先日参加したあるイベントで、某VCから来たCFOの方が、「成り上がるんだから頑張ろうぜ!」とずっと叫んでいて、そこにいたアカデミア研究チームの99%が、みんなぽかんとしていました(笑)。

「別に、成り上がるとかどうでもいいんですけど」という感じで、この差は何だろうと感じました。

大学発テクノロジーでの起業。経営は誰がするべき?

森本 大学によってだいぶ違うとは思いますが、大学の現役の先生はCEOにはなれず、CTO(最高技術責任者)までにしかなれないという縛りがありますよね。

永田 ありますね。

森本 「本学の教員は経営に携わってはいけないが、CTOにはなっていい」みたいな話を聞いて、「経営に携わらないCTOって…?」とすごく不思議に思ったのですが、大学の先生は技術移転しかできないという縛りがずいぶんあります。

ですから、現役の教授がそのまま残るのであれば「アドバイザー」とか「Founder(創業者)」「チーフ〇〇」のような肩書にしておいて、CTOは別にいたほうが良いと思っています。

 そこは問題があります。ディープテック領域では、その先生にしか分からない高度な知識や技術があります。

外からCTOが来て本当に早く世の中に出せるのかというと、実は違うと思っています。

その研究者自身が主体となって「えいやっ」とやらないと何も進まないということが、アカデミアのディープな研究領域には意外とあります。

例えば、リアルテックファンドの投資先でもあり、今回のカタパルト・グランプリで優勝したライトタッチテクノロジーという会社があります。

ライトタッチテクノロジーは、非侵襲血糖値センサーで「子どもたちが採血で苦しまない世界」を実現する(ICC FUKUOKA 2019)【文字起こし版】

永田 非侵襲の血糖値センサーを開発する会社ですね。

 代表の山川考一さんは、アカデミア内でもヤバイと言われている天才研究者です。

ライトタッチテクノロジーの事業は、文字通り彼しかできません。

ただ難しいのは、彼がアカデミアを離れることは、アカデミアにとっては損失であるということです。

研究者にとって、「起業」はキャリア断絶を意味する?

森本 アカデミアにいなくても、例えば大学なりがその会社の株を持ち、会社が成功したら大学も経済的に潤うというスタンスではだめなのですか?

スタンフォード大学などでは大体そのやり方ですよね。

 そこで考えなければいけないのは「研究者」が「大学人」ではないという点です。

研究者というのはあくまで研究者であって、大学とは切り離されています。

だから研究者はどこの大学に行ってもいいわけです。

永田 やはり日本とアメリカで圧倒的に違うのは、日本では一度大学のポジションを失うと取り戻せないけれども、アメリカでは起業してももう一度取り戻せるという点ですね。

日本ではどうしても、二者択一の議論になってしまいます。

 起業してそっちに行くと、「お前はアカデミアを辞めたんだよな」と。

永田 そうそう、「金儲けに走ったんだな」と言われます。僕らも学会で相当苦しみましたから。

松下 学会で、ビジネス側がアカデミア側から少し煙たがられる傾向はありますよね。

永田 ええ、本当にそうです。そういう意味では、アカデミアにもすごく問題があるということですよね。

 たくさんあります。

永田 アカデミア側から見て大企業が云々という話がありましたが、やはりアカデミア側にある本質的な問題も、同時に解決していく必要があると思います。

 アカデミアにおいて、大学経営と研究者が分離しているところが、すごく大きな課題かもしれないですね。

(続)

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編集チーム:小林 雅/尾形 佳靖/小林 弘美/戸田 秀成

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