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「教えてほしい!グローバル市場の最新動向(インド/イスラエル/ブラジル)」全9回シリーズの(その4)は、地中海に面した人口約900万人の先進国、イスラエルの産業を支えるスタートアップ・エコシステムの解説です。年間約9,000億円に及ぶベンチャー投資マネーに、軍事国家でもあるイスラエルならではの起業スキームが加わります。AI、フィンテック、サイバー、デジタルヘルスの各分野で特に成長目覚ましい同国のベンチャー動向に、ぜひご注目ください。
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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回250名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2021は、2021年2月15日〜18日 福岡市での開催を予定しております。参加登録などは公式ページをご覧ください。
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【登壇者情報】
2020年2月18~20日開催
ICCサミット FUKUOKA 2020
Session 12E
教えてほしい!グローバル市場の最新動向 (インド/イスラエル/ブラジル)
(ナビゲーター)
三輪 開人
特例認定NPO法人 e-Education
代表
(スピーカー)
蛯原 健
リブライトパートナーズ 株式会社
代表パートナー
竹内 寛
MAGENTA Venture Partners
Managing General Partner
中山 充
株式会社ブラジル・ベンチャー・キャピタル
代表
濱田 安之
株式会社 農業情報設計社
代表取締役 CEO, ファウンダー
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※ 本セッションは2020年2月に開催されました。その後世界的に拡大した新型コロナウイルス感染症の影響により、現在の市場動向は異なる可能性がございます。
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最初の記事
1. シリコンバレーの約2割は“実質インド企業”? インド工科大卒の超秀才たちが創る新たなスタートアップ像
1つ前の記事
3. 地中海に面した技術先進国「イスラエル」へのビジネス渡航は安全か?
本編
竹内 このスライドは、イスラエルのスタートアップ・エコシステムについてまとめたものです。
左上に示した政府のサポートは非常に手厚く、補助金制度等も数多くあります。
それから、右上にある通り、世界各国の有力企業の出先機関がありますので、グローバル展開が大変やりやすい環境です。
左側のミリタリーは先ほど申し上げたようなことですね(Part3参照)。
右側のVCについては、もともと1990年代に国策としてVC産業がつくられました。今はさらに発展してアメリカ中心に海外のVCも多く進出しており、弊社のような日本と関係が深いVCも出て来ています。現在、イスラエル国内に150社ほどの投資会社が存在しています。
左下のカルチャーは、移民国家としての多様性を背景に、リスクテイクを良しとする文化、、そして非常にハングリー精神を持ったアントレプレナーが多いです。
また右下に“Competitive Structure”と書きましたが、その差は縮まりつつあるもののエンジニアの雇用コストはアメリカと比べて数割安く抑えられます。
投資家から見てもアメリカのように過剰評価されたバリュエーションがつきにくいこともあり、シリコンバレーより若干お買い得感があるのが、イスラエルのスタートアップと言えます。
年間約9,000億円の投資マネー、増加するM&Aエグジット案件
MAGENTA Venture Partners Managing General Partner 竹内 寛さん
竹内 あとは実際のお金の流れを少しだけ押さえたいと思います。この表は、イスラエルに流入している資金を表したものです。
2019年のデータがつい最近発表されたのですが、約82億ドル、日本円で約9,000億円とこの1年で一気に増加しました。
投資する身からすると、案件の取り合いを意味するので結構つらいのですが(笑)、このように日本の13分の1の人口で、日本の倍の金額規模でスタートアップ投資が行われています。
中山 充さん(以下、中山) 投資家の比率としては、海外投資家が多いのですか?
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中山 充
株式会社ブラジル・ベンチャー・キャピタル
代表
サンパウロ在住。早稲田大学卒業後、ベイン&カンパニー東京支社勤務後、起業を経てスペインIEビジネススクールMBA取得。2012年よりブラジルに移り、ベイン&カンパニーサンパウロ支社を経て、ブラジル・ベンチャー・キャピタルを創業。ブラジルを中心にラテンアメリカのシードステージのスタートアップへの投資育成、日本のスタートアップ企業のラテンアメリカ進出サポートを行う。JETROグローバルアクセラレーション・ハブ事業をサンパウロで担う。ブラジル唯一の日本の投資家・企業向けのブラジル・ジャパン・スタートアップ・フォーラムや、ブラジル・アグリビジネス・フォーラムの主催など、日本とブラジルのスタートアップを繋ぐ活動多数。著書「中小企業経営者が海外進出を考え始めた時に読む本」「未来をつくる起業家 ブラジル編」「Empreendedor – Criadores do Futuro」。ブラジル日本商工会議所イノベーション研究会幹事。
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竹内 そうですね。8割方がイスラエル外からのお金です。
エグジットは2019年に210億ドル、日本円で約2兆円を超えてきました。
時期のズレはあるものの「9,000億円入って2兆円出ていく」ということを考えると、投資環境としても非常に良好です。
ピンク色で表示しているのが大型買収案件です。2017年に起きたのは先ほどのインテルによるモービルアイの買収で、その買収額は1兆5,000億円に及びました。
2019年の69億ドルというのは、NVIDIA(エヌヴィディア)によるメラノックス・テクノロジーズという半導体ベンチャーの買収です。これが年度の数値を大きく引き上げているのですが、それを省いて青色の表示だけを見ても、堅調に伸びてきていることがお分かりいただけると思います。
では、どういう企業が買収を仕掛けているのでしょうか? ざっと俯瞰すると、アメリカの大手IT企業がイスラエルのスタートアップを積極的に買収している構図が見てとれます。
一方で、IT以外にも買収企業の裾野は広がっていて、ドイツのTier1自動車部品メーカーであるコンチネンタルがアーガス・サイバー・セキュリティというカーセキュリティーのベンチャーを買収したり、日本の田辺三菱製薬が現地の製薬会社を買収したり等、多様化が進み始めています。
AI、フィンテック、サイバー、デジタルヘルスが成長
竹内 次は、2015年から2018年のイスラエルのスタートアップ投資において、どのような分野が伸びてきたかを示すグラフです。
縦軸が4年間での各分野の投資件数の伸び、横軸が投資金額の伸び、円の大きさが絶対件数です。
ご覧頂くと、やはりAI分野が投資件数・金額ともに伸びが大きく、その次に、フィンテック、サイバー、デジタルヘルス、モビリティ、インダストリー4.0があります 。
モビリティはここ数年、欧米の自動車メーカや部品メーカも盛んに自動運転に投資して大変な盛り上がりを見せていたのですが、最近、その実現にはまだ時間がかかりそうだとの認識が出始め、若干落ち着いてきています。
その一方で現在国としても力を入れていて注目されているのが、もともとイスラエルの得意分野であるサイバーセキュリティや、デジタルヘルス、フィンテック分野です。
そして安定的にスタートアップ投資が存在する分野がアグリ、ECであり、このように様々な分野を満遍なくカバーしているのがイスラエルにおけるスタートアップ投資です。
次は、過去1年4ヵ月、弊社が実際に見たスタートアップ投資案件の分類です。
左側は技術軸での分類、右側がアプリケーション軸での分類ですが、ご覧のとおりイスラエルに特有の項目があるというわけではありません。
全体の分布を見ても、広い意味でのITが約7割で、あとはヘルスケア・バイオ・ファーマが2割、残りはその他ということで、分布はアメリカとほぼ似通っています。
このように、イスラエルは歴史的・文化的にも大変興味深く、安全かつ非常に進んだ先進国です。有望なスタートアップも多く、スタートアップへの投資や協業を進めるにあたってのエコシステムも揃っています。
ぜひ一度現地へ足を運んでイスラエルツアーにご参加頂き、事業に役立つスタートアップを探して頂ければと思います。
ありがとうございました。
(会場拍手)
三輪 ありがとうございました。では早速質問を受け付けたいと思います。中山さんいかがでしょうか。
イスラエルの人々にとって「日本人」はどんな存在か?
中山 イスラエルは親日国と聞きますが、実際はどのような感じなのでしょうか?
竹内 はい。大変な親日国で、第二次世界大戦中に欧州で多くのユダヤ人を救った杉原千畝も大きく関係しているかと思います。
▶編集注:杉原千畝氏の功績については、杉浦千畝記念館WEBサイトの「杉原千畝について」を参照のこと。
蛯原 実は明日、たまたまですが杉原千畝記念財団の会長にお会いする予定です。杉原千畝に縁のある飛騨高山には、イスラエル人の旅行者が凄く沢山いますよね。
竹内 イスラエルの有名なブロガーの方が、日本観光地のお勧めとして飛騨高山、高野山を紹介したこともあって、イスラエル人にとって日本観光のゴールデンコースになっています。
日本に行ったことがある、もしくは行きたいというイスラエル人は非常に多いです。
彼らにとっては外見だけで我々アジア人がどこの国籍か区別はつきませんので、こちらが日本人だと言うとホッと安心したような表情を浮かべ、大変親しく接してくれます。
三輪 それは、日本人以外のアジア人に対してはちょっと敬遠するような感覚があるということでしょうか。
竹内 日本の文化や人が好きということで、日本に対する絶対値としてのリスペクトと親近感がまず挙げられます。
あと特異的な話をすれば、一時期中国からイスラエルスタートアップへの投資が加熱しましたが、その後中国側で対外投資規制がかかり、投資が制限されたことがありました。
この影響で、中国企業と投資契約書を締結したのに資金の払い込みが無いとか、LPとしての中国企業がキャピタル・コールに応じられない、といった問題が発生し、契約履行面で少し疑問符がつくような感じとなりました。
あと、やはりIP(知的財産)等の問題が中国側パートナーと発生したスタートアップもあり、中国企業との付き合いは総じて慎重です。一方で、中国企業の投資やビジネスの意思決定は早いので、キャッシュフローが欲しいスタートアップの社長は中国に行こうとする傾向もあります。このような状況下、スタートアップへの投資家であるVCの多くは中国をある意味禁断の果実と捉え、取締役会の席等で慎重な対応を取るようスタートアップ経営陣に指導しているケースも多いです。
マーケティングはリーンに行い、R&Dに資金を投じる
リブライトパートナーズ株式会社 代表パートナー 蛯原 健さん
蛯原 単純な算数として、投資金額に対する人口比率のバランスがあまりにも悪いために、案件が枯渇するということはないのですか。
竹内 統計的に見てもそれはないと思います。毎年900〜1,000社ぐらい安定的に起業案件数が出ており、それをVCが支援する形で安定が保たれています。
蛯原 体感としても、まださらに出て来る状況でしょうか?
竹内 そうですね。ピンキリですが、絶対数という意味では「もういいよ」というぐらい出てくると思います。
中山 ところでイスラエルの起業家は、投資を受けたら実際何に使っているのでしょうか?
通常のスタートアップだと多くはマーケティング費用や人材採用費になるかと思いますが、さすがにあの小さな国で国内マーケットを狙っているわけではないと思いますので、先ほどの投資マネーがどこにいくのか、非常に興味があります。
竹内 基本的にはR&D(研究開発)です。マーケティングはなるべくリーンに(=無駄なく)やるというのがイスラエルビジネスのカルチャーであり、例えば少人数でイスラエルでSaaSのスタートアップを立ち上げ、対象市場として米国市場を設定し、数名程度のマーケティングチームをリモート体制でアメリカに置く。この体制で億円単位の売上を立ち上げて行く、という感じです。
マーケティングをなるべくリーンに、かつ上手く外部リソースも使うノウハウを持っている人がかなり多いです。
中山 では、結構サラリーが高いでしょうね。R&Dはほぼ「人」ですから。
竹内 仰る通りです。アメリカほどではないですが、だいぶ高いです。
ただ、最近Amazonなどが開発センターを設立して、現地水準の1.5倍とか2倍の給料でどんどん優秀な人材を引き抜いていく現象が起きており、イスラエルにもそういった世知辛い空気が来てしまったという感は正直あります。
三輪 なるほどですね。ありがとうございます。
会場からもご質問がありましたらどうぞ。ではそちらの方。
外国人就労ビザは「累計5年3ヵ月まで」の制限つき
質問者2 日本人にもぜひイスラエルに来て欲しいとのことでしたが、日本人が現地で企業するケースはどれぐらいあるのでしょうか? また、日本人が現地で起業するメリットがあればぜひお教えいただきたいです。
竹内 日本人がイスラエルで起業するのは、若干ハードルが高いと思っています。
と言いますのは、移民政策上、就労ビザが基本的に5年3ヵ月以上は出ないのです。
外国人は一生の間で累計5年3ヵ月しか現地で就労できませんので、永住できないという大前提があります。
三輪 インベスタービザ等、ビザの種類によっては在住を延長できるような選択肢もあるのでしょうか。
竹内 それもないです。外国人就労ビザは1年ごとの更新で、5年3ヵ月を経過すると基本的には次のビザ申請が通らなくなります。
ただ、現職の閣僚3名の推薦状を取り付けると1年ごとに再審査がなされる特別措置がありますが、それも極めて狭き門です。
イスラエルは基本的にユダヤ人のために設立された国ですので、それを薄めたくないというのが強烈にありますね。
三輪 配偶者ビザ等で長期在住されている方々は、もちろんいらっしゃるわけですよね。
竹内 はい、それはいらっしゃいます。日本人駐在員とその家族の総計が200人ほどで、現地の方と結婚された等の理由で居住している日本人も含めて総邦人数は1,000人足らずですね。
まだまだ少ないですが、それでも今は毎月のように増えていっています。
私の子どもは現地のインターナショナル・スクールへ通っていますが、1ヵ月おきぐらいに日本人の転校生が入ってきており、だいたい駐在員のご家族のお子さん方です。
質問者1 イスラエル現地での日本のVCの数は結構増えているのでしょうか。
竹内 正直、あまりないというのが現状です。一部いらっしゃいますが、少なくとも現地に拠点を持っている日系VCは限定的です。
三輪 サムライインキュベートさんなどはどうなのでしょう。
竹内 シードステージの投資家として、サムライインキュベートさんは1つのケースとしてあります。
三輪 ありがとうございました。
インドは内需が爆発的に増えているので対ローカルマーケットが物凄く伸びている一方、イスラエルは国内需要がないからこそ最初からグローバルマーケットを取りに行かざるを得ないという点で、両国のトレンドがだいぶ違うのかなと思いました。
竹内さんに今一度拍手をお願いします!
(会場拍手)
(続)
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続きは 5.「人生のKPIは、ブラジルに連れてきた日本人の数」ブラジル・ベンチャー・キャピタル代表 中山さん をご覧ください。
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編集チーム:小林 雅/尾形 佳靖/浅郷 浩子/小林 弘美/蒲生 喜子/戸田 秀成
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