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2. 当事者がやるのか、外から進めるのか。現場を持つと、DXの説得力が変わる

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「イノベーターが挑む産業のデジタル・トランスフォーメーションとは?」全5回シリーズ(その2)は、IT企業経営のかたわら、JAの組合員になったという異色の経歴をもつファームノート小林 晋也さんのDXを深堀りします。実際に牧場を持ち、どのようなソフトウェア開発に励んでいるのでしょうか。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2021は、2021年9月6日〜9月9日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。

本セッションは、ICCサミット KYOTO 2020 プレミアム・スポンサーのTokyo Prime にサポート頂きました。


【登壇者情報】
2020年9月1〜3日開催
ICCサミット KYOTO 2020
Session 10C
イノベーターが挑む産業のデジタル・トランスフォーメーションとは?
Supported by Tokyo Prime

(スピーカー)

川鍋 一朗
株式会社Mobility Technologies
代表取締役会長

小林 晋也
株式会社ファームノートホールディングス
代表取締役

土岐 泰之
ユニファ株式会社
代表取締役CEO

松下 健
株式会社オプティマインド
代表取締役社長

(モデレーター)

湯浅 エムレ 秀和
株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ
ディレクター

イノベーターが挑む産業のデジタル・トランスフォーメーションとは?配信済み記事一覧


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1つ前の記事
タクシー、酪農、子育て、ルート最適化…さまざまな業界で進むDXを語る

本編

業務が紙だらけの酪農業界、どこからDXに着手?

湯浅 皆さん数十億、数百億円を既に調達されていると思いますが、どうご自身の業界のDXを切り拓いていったのかについて教えてもらえますか。

現場を満足させられるプロダクトを作るのも、非常に難しかったのではと思います。

ファームノートホールディングス 代表取締役 小林 晋也さん

小林 2013年に酪農家から問い合わせをもらった際、業務が紙だらけでそれを改善したいということでした。

うちはソフトウェアの会社だったので、まずはモックアップを作ってみようかというところから始まりました。

プロトタイプを作って3人のところに持って行ったら、3人ともに「これは素晴らしい」と言われたので、これは当たるなと思ったのです。

もともと、牛や農業には興味はなかったのですが(笑)。

(会場笑)

そこで世界の牛の数を調べると、14億頭と出てきました。

1頭100円ずつもらえたら、ドコモのようにになれると思いました(笑)。

(会場笑)

しかし実際に入ってみたら、深すぎたのです。

湯浅 どんなふうに深いのですか。

小林 当時はスマホが流行っていましたが、ドコモがまだiPhoneを取り扱っていなかったので、地方ではスマホの普及率が低かったのです。

皆さん、手袋をしていて、素手では作業を行いません。

ですので、10人いたら7人には、「手袋を脱がないと使えないアプリは、誰も使わないよ」と言われました。

そこから啓蒙を継続して行いました。

イノベーターなお客様を大切にしていったら、去年からぐっと伸び始めました。

会社を創って7年ですから、5年ほどはずっと地獄でしたね。

湯浅 ずっとプロダクト改善を行っていたのでしょうか?

小林 はい、売上は立たないのに行っていました。

最初はソフトウェアだけで頑張っていたのですが、やはり売上が立たないので、ものを作ろうと思い、牛の健康管理をするセンサーを作り始めました。

しかしこれも地獄で、めちゃくちゃコストがかかったのです。

スタートアップがやるようなものではないのです(笑)。

もう二度とハードウェアは作りたくないと思っていますが、「ここまできたので、えーい、ままよ!」で進めて、それがようやく売上の中心になり始めましたね。

ロボット搾乳DXで取れるデータとは?

小林 このセンサーの開発には3年ほどかかりましたが、その間に売上は立たず、お金が出て行くばかりでした。

しかし売上が立ち始めると今度は在庫を持たないといけないので、そのお金も出て行く状態です。

湯浅 その期間はどうやって耐えたのですか?

小林 エクイティ(株主資本)から調達しました。

売れている実績がないので、お金を借りることはできませんでした。

それからもう1つの会社、スカイアークがあったので、そこの利益を使って何とか凌いだ感じですね。まあ本当に大変でした。

今、日本全国に60,000の農家がありますが、そのうちの4,400がうちのお客様です。

ようやく増えてきたなと思っています。

また、日本にいる牛の数は390万頭ですが、そのうちの41万頭がうちのシステムに登録されています。

ようやくその良いサイクルに入ったところなのですが、導入したお客様の生産性が上がったかというと、劇的に上がったわけではないのです。

良くはなっているけれど、お客様が持っていた大きな期待には応えられている状況ではないです。

これは良くないなと思っていたところ、2年前、お客様から「空いている牛舎がある」と声をかけてもらったので、お金を借りられるか不安でしたが、勢いのまま、去年の8月から僕ら自身も酪農を始めました。

ファームノートHD、酪農生産のDX化を実現した牧場で生産を開始(Farmnote)

僕は実家が農家なこともあり、もともと農家をやりたかったのです。

通常、牧場を作るのは3年ほどかかるのですが、1年で実現しました。

グロービス・キャピタル・パートナーズ ディレクター 湯浅 エムレ 秀和さん

湯浅 それは、それまでに持っていたプロダクトがあったから実現したのでしょうか?

小林 そうですね、それが信用になって、銀行からお金を借りられました。

農業経験や実績がなかったので、もしその信用がなければ融資を受けることができなかったと思います。

当時は顧客もたくさんついていたので、それもプラスに働きました。

農協の組合員にならないとそもそも出荷ができないですし、国の制度である認定農業者の資格を取る際のハードルも高いのです。

この2つをクリアしないと融資を受けられないわけです。

組合員とは(JAグループ)

先ほど申し上げた通り、それらを全て解決して、融資を受けて、8月末に出荷をしました。

そして株主から、「これからはDXだ」と言われたのですが、よく分からなかったのです。

正直、2、3ヵ月前までは本当に、「DXって何?」という感じだったのですよ(笑)。

でもうちの会社がやっていることは、ソフトウェアをベースにしているので、言われてみればDXだなと思います。

通常、搾乳は人間の手で機械をつけて行いますが、うちの牧場では、機械をつける作業も含めて、全てロボットで自動化して行っています。

ロボット搾乳ですね。

それで、何キロの牛乳が搾れたかなどの記録もつけており、それをデータベースにとつなぐと、生産性の高い牛と低い牛が分かるようになっています。

センサーで通知も来ますし、会計や勤怠管理もクラウド化しているので、考えてみれば「全部デジタルで経営している」と思ったのです。

そこで、点と点がつながって「これがDXか」と理解しました。

そして明後日、「DXで酪農生産をやっちゃいました牧場」という発表をする予定です(笑)。

(会場笑)

実際に現場を持つと、リアリティが全く違う

湯浅 最初の5年は1つのプロダクトにフォーカスして、それが現場で使えるようにするまで5年かかったということでした。

しかしその後、そもそも牧場自体をデジタル最適化すべきだというところに行き着いたのですよね。

小林 はい、偶然ではありますが、自分の中ではずっと違和感があったのです。

というのも、1,000、2,000と顧客が増えていっても、お客様の体験が変わりづらい事実に直面していて、それでも代金を頂いていたわけですよね。

牛に関わる産業は1.5兆円規模ですが、提供していたのはそのうちのパーツの一部でしかなかったですし、事業としても伸びていく感覚がなかったのです。

ですから、このままだと続かないと思っていました。

現場を実際に運営してみなければ分からないことがあると思ったので、現場を持ちたかったのです。

それで現場を持ってみて、自分たちの製品を使った時に、「ああ、牛を分かっていない人たちが作った製品だな」と思ったわけです。

(会場笑)

それが分かってしまったのです!

ソフトウェア会社としては、「農業の頭脳を作ろう!」という崇高な目標があるわけですが、現場からすると、「農業の頭脳どころか、まずは牛を知れ!」と見えるわけですね。

(会場笑)

湯浅 そうですよね(笑)。

小林 分からないのに、分かったふりをして空回りしていたということです。

実際に現場を持つと、リアリティが全然違います。

また、農生産額が1.5兆円ということは、1つの牧場で2億円程度の売上が立つ計算になり、生産を始めたことでこの1.5兆円という農生産額が我々が目指す市場規模になるわけです。

湯浅 対象市場が大きくなったということですね。

小林 僕ら自身が牧場を増やしていきたいわけではないですが、顧客に酪農に関わる技術を直接提供できるとなると、話のレベルが全く変わってきます。

湯浅 そこに気づいたので、今後はそちらに振り切っていくということですね。

小林 そうですね。

オプティマインド 代表取締役社長 松下 健さん

松下 その際の、意思決定の判断基準を聞いてみたいです。

スタートアップでも、例えばSmartHRなどのホリゾンタルSaaS(業種に関係なく利用されるSaaS)だと、自分たちでユーザーとして使えます。

ただ、バーティカルSaaS(特定の業界に特化したSaaS)で、農業や物流を自分たちがサービス対象とする機能を持っていない場合、実際にそれを持とうとした時、どうやって判断すればよいのでしょうか?

小林 僕の感性での回答ですが…やりたきゃやれ、でいいのではないでしょうか?

(会場笑)

松下 他のメンバーから、「そっちの方向に行ってしまって、大丈夫ですか?」という意見はなかったのでしょうか?

小林 チームとの信頼関係が作れていたからでしょうか、やると言ったら「あ、そうですか」という感じでした。

彼らからはむしろ逆に「やりましょう」と言われましたし、株主からも、「それは正しい、早くやった方がいい」と言われましたね。

タクシーアプリを始めたのは、自分が使いたいから

Mobility Technologies 代表取締役会長 川鍋 一朗さん

川鍋 うちの場合、小林さんの話で言うと、最初はむしろ牛の農家の立場だったわけです。

そこからプロダクトを作りました。

当時は水平展開しようとは思っておらず、とにかく「自分が使いたいから」というところからスタートしています。

ですから、「タクシー屋が作った、タクシー屋による、タクシー屋のためのアプリです」というのが最初の売りでした。

小林 それはもう、説得力が違いますね。

川鍋 はい、とても信頼されました。

海外アプリがどうこうではなく、「川鍋さんのおじいさんにはお世話になりました」というところから始まって、「よく分からないけどやってみるよ」と言ってもらえました。

うちの場合、それが第一歩でしたね。

また、事故が起きた時に録画をするドライブレコーダーは、タクシー専用のものがなかったのです。

日本交通のタクシーは当時、2、3,000台あって、その台数分買っても、1台あたり50,000円ほどの割引しかありませんでした。

しかし、ICCサミットでハードウェアベンチャーの方と話すと、1台20,000円くらいで作れますよと言われて「えーっ、マジ!?」となったのです。

(会場笑)

ただ、ハードウェア作りは大変でした。

1作目は5,000台作って売ったのですが、電話が鳴って「川鍋さん、映ってないんだけど」と…。

つまり、それはすぐに壊れてしまうものだったのです。

次の2号機は、1年かけて開発したのですが、全台無償交換したので、それだけで3億円が吹っ飛びました。

ハードウェアはお金も時間もかかるし、在庫を持たなければいけないので、すごく大変です。

しかし、ひとたびうまくはまれば真似はされないので、当たるのが確実な製品になります。

どんどん作りやすくなっているのは間違いないですね。

小林 それはありますね。

産業を良くするために、ソフトもハードもやる

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湯浅 現場が満足する機能を搭載し、コスト面もクリアした製品にするまで、どれくらいお金や時間がかかったのでしょうか。

川鍋 必要スペックは、普段から使っているので、すぐに分かるわけです。

あとは、品質管理がきちんとできる点を担保しつつ、深圳や台湾など、どの工場で作ってもらうかですね。

製作能力もポイントです。

ハードウェアの製造を受けてくれる工場は、我々のような小さいクライアントに対しては手を抜くところもあるので、設計を何度もやり直したり、立ち上げ時に見に行ったり、など時間がかかりましたね。

それらを担当できる社員を雇う必要もありました。

小林 それはもう既に、タクシー屋のノウハウじゃないですよね(笑)。

川鍋 違いますね(笑)。

小林 複合して、全部やるということですか?

川鍋 ソフトウェアもハードウェアもやりますが、これはとにかく、タクシー産業を良くするためです。

タクシー産業を良くするには、アプリだけやってもソフトだけやってもだめなのです。

例えば、ドライブレコーダーも欲しいし、タクシーメーターと接続しなければいけない。

海外のアプリだと、タクシーメーターには対応していないです。

産業全体を良くしたいという思いで、できることを全てやったという感じですね。

お金も時間もめちゃくちゃかかりましたが、最終的には良かったです。

うちはもともとベースがあったので良かったですが、これを1からやるとなると、どれからやるかという順番も大事になると思いますね。

松下さんの場合は、とりあえずトラック5台くらいで始めるのも、ありなのではないでしょうか?

松下 ありだと思います!

変換期は難しいですよね。

製品を、既にあるハードウェアに合わせる必要があったと思いますが、メーター自体を変えようとは思わなかったのでしょうか?

川鍋 実はメーターの開発にも取り組んだのですが…かなり狭くて固い領域なので、はじき返されたのです。

メーター業界の敵になってしまったのに、アプリはメーターとの接続が必要なので、その開発をお願いしなければいけないわけです。

相当いじめられたので、ある日「もうメーターの開発はやめます!だからつないでください」と言いました。

湯浅 なるほど。ハードウェアも作られている土岐さん、いかがですか。

(続)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/星野由香里/戸田 秀成/大塚 幸

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