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3.「人間の基礎体力を鍛えるためにフィクションを読もう」リブライト蛯原さんの主張

「新・大人の教養シリーズ「読書」〜ビジネスパーソンこそ本を読め!」9回シリーズ(その3)は、リブライトパートナーズ蛯原さんが、普段の読書と、とっておきの1冊について語ります。蛯原さんが学生時代に読破した作家とは? 音声をお聞かせできないのが残念ですが、最後はポエトリー・リーディングまで飛び出します。ぜひご覧ください!

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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢800名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回 ICCサミット KYOTO 2020は2020年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

ICCサミット FUKUOKA 2020のプレミアム・スポンサーとして、Lexus International Co.様に本セッションをサポート頂きました。


【登壇者情報】
2020年2月18〜20日開催
ICCサミット FUKUOKA 2020
Session 11D
新・大人の教養シリーズ「読書」〜ビジネスパーソンこそ本を読め!
Supported by Lexus International Co.

(ホスト)
嶋 浩一郎
株式会社博報堂 執行役員 /
株式会社博報堂ケトル エグゼクティブクリエイティブディレクター

(ゲスト)
天沼 聰
株式会社エアークローゼット
代表取締役社長 兼 CEO

井上 大輔
ヤフー株式会社
マーケティングソリューションズ統括本部 マーケティング本部長(肩書は登壇時当時のものです)

蛯原 健
リブライトパートナーズ 株式会社
代表パートナー

山内 宏隆
株式会社HAiK
代表取締役社長

渡邉 康太郎
Takram コンテクストデザイナー /
慶應義塾大学SFC特別招聘教授


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最初の記事
1. 6人の「本読み」が集結! 自分にとっての1冊&読書遍歴を熱く語る!

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2. 1冊について徹底議論!エアークローゼット天沼さんが実践する読書会とは

本編

 はい、では3人目に行ってみましょう。蛯原さん、よろしくお願いします。

蛯原 健さん(以下、蛯原) はい。私はベンチャーキャピタルをやっていまして、会社も家もシンガポールをベースとしていて、アジア各国のみに投資をし、日本には投資していません。役職員も半分以上外国の人間なので、自ずと接する情報は英語になります。


蛯原 健
リブライトパートナーズ株式会社
代表パートナー

1994年 横浜国立大学 経済卒、同年 ㈱ジャフコに入社。以来20年以上にわたり一貫しITスタートアップの投資及び経営・創業に携わる。2008年 独立系ベンチャーキャピタルファームとして、リブライトパートナーズ㈱を創業。2010年 シンガポールに事業拠点を移し、東南アジア投資を開始。2014年 インド・バンガロールに常設チームを設置し、インド投資を本格開始。現在はシンガポールをベースにアジア各国にてテクノロジー・スタートアップへの投資育成を行うベンチャーキャピタルファンドを運用している。日本証券アナリスト協会検定会員 CMA。

人間の基礎体力をフィクションを読み鍛える

蛯原 普段のコミュニケーションも英語なので、意識的に英語でインプットすることを心がけています。

そうすると本だけ日本語というのも変だろうということで、最近は洋書というか原書を読むように、意識的に心がけています。

スライドには、「ファンダメンタルズを鍛えるフィクション」と「仕事直結型ノンフィクション」と偉そうに書きました。

フィクションはニアリーイコール、リベラルアートであるというようなことで置き換えてもいいかと思いますし、仕事直結型というのは、はっきり言うと洋書で米国で出されたノンフィクションものをなるべく最近は読むようにしています。

なんとなく私の仮説なのですが、若いときほど読書も含めた文化に対する感度、感性が高くて、年を取ると鈍るので、はっきり言うと私くらいの年になると、同じ本を読んでも面白くなくなる、感動も減るということがあるのです。

ということで最近は正直ノンフィクションで、実益のために読むことがほとんどです。そんな悲しい人生になってきています。

そうはいっても、僕はリベラルアーツが一番重要だと思っています。人間の基礎体力というかファンダメンタルズ、当たり前ですが感性や、コンテクストを読み解く力のようなものが鍛えられるのではないかという感じがしています。

それは仕事もそうですし、夫婦関係でも「なぜこの人はこんなことを言っているのだろう」という事象のコンテクストをひもとくと、「ああこういうことか」と分かることがあるのではないかと思います。

 ああ、それはいいですね。ちょっとメモさせていただけますか。

蛯原 良好な夫婦関係もそうすれば出来るんじゃないかな、と思います。

とにかく格好いいアルベール・カミュ

蛯原 そこでこの1冊ですが、僕はとにかくアルベール・カミュが大好きで、学生の頃に全部読みました。

不条理文学としてサルトル(ジャン=ポール・サルトル)と激論を交わしてしまって、結局カミュは50歳くらいに交通事故で亡くなるのですが、その辺をむさぼり読んでいた時期があって非常に好きなのです。

革命か反抗か―カミュ=サルトル論争―(新潮社)

全てが好きなのですが、この時期に『ペスト』をここに出すというのもなかなか勇気が要るな、ということでそれは止めました(笑)。

感染症扱う小説や歴史書に注目 カミュ「ペスト」15万部増刷(好書好日)

異邦人』も同じく大好きで、「きょう、ママンが死んだ。」という一言から始まるのですが、なんじゃこりゃと強烈に頭を殴られたような体験がありました。

「なんであなたは人を殺したんだ」と言ったら、「それは太陽のせいだ」と答えたりとか、なんだかすごくかっこいいじゃないですか。とにかく格好いいのです。

「フレーズがかっこいい」とか、「美しい」とか、そういう読み方は僕は結構好きで、そういった意味でアルベール・カミュは本当に大好きです。

その中でこの『シーシュポスの神話』というのは短編集です。シーシュポスさんという人が神様に「あなたはこの巨大な岩を押しながら山に登りなさい」と言われて押していくのですが、巨大な岩過ぎるので痛くなって手を離してしまうと、またゴロゴロゴロっと斜面を転がり落ちてしまいます。

それを押して登るということを一生続けるという、ただそれを描いています。世の中は不条理であるということを、カミュは説いているということですね。

カミュはノーベル文学賞を受賞した文学者です。一方でサルトルは哲学者だと言われていて、僕の感覚でいうとサルトルは本当につまらなくて読むのが苦行ではありますが、読みます。

カミュは似たようなことを言っているのですが面白い、なぜならば文学だから、ということで、文学的な物言いというか、そういったものも大事なんだなということを学んだという意味で、この本を選びました。

ICCのセッション史上初、詩の朗読

(左)ヤフー株式会社 マーケティングソリューションズ統括本部 マーケティング本部長 井上 大輔さん

 「一言のフレーズのために本を読む」これは非常に分かりますね。

カミュは色彩感覚の表現が群を抜いて上手で、色が目の前に浮かんでくるような表現をするんですよね。

松本隆さんという作詞家の方いらっしゃいますよね。彼は慶應大学の仏文科でカミュの研究をしていたそうです。

作詞家・松本隆が明かす「あの曲の1行目に、僕が隠した秘密」(現代ビジネス)

だから松本隆の詞は「映画色の街」とか「春色の汽車に乗って」とか、実在しない色の歌詞が松本隆の曲の中には沢山出てきまして、これはカミュの影響を受けているのではないかと思ったりしている今日この頃です。

井上 詞がそれの最たるものですよね。とにかく「格好いい」しか表現できない。

それこそ、2日前に渡邉さんと飲んでいて、そのときに詩の話をしていたのですが、いくつかそのときに出た詩を紹介させていただいてもいいでしょうか。

一同 おおっ!

井上 まさにその「格好いい」以外の何物でもない、というような詩です。

 皆さん要はかっこよくなりたいだけで本を読んでいる、モテたいだけなんじゃないでしょうか(笑)。

渡邉 ICCのセッション史上初、壇上で詩の朗読が!

 ポエトリーリーディングはICC初じゃないですか?

井上 そうかもしれません。

これはガルシア・ロルカというスペインの詩人の詩なのですが、ちょっと一部を朗読させていただきますね。

午後の五時。
午後のきっかり五時だった。
一人の子どもが白いシーツを持ってきた。
午後の五時。
あとは死を 死を待つだけになっていた。
午後の五時。
雄牛がすでに彼の額で鳴いていた。
午後の五時。
すでに遠くに壊疽がやって来ている。
午後の五時。
緑の腿の付け根には百合のラッパが。
午後の五時。
そして 群衆が窓という窓を割っていた。
午後の五時。
午後の五時。
アーイ なんという無惨な午後の五時!
あらゆる時計が五時だった!
午後の影も五時だった!

(「イグナシオ・サンチェス・メヒーアスへの哀悼歌」訳:小海永二『ロルカ詩集 (世界現代詩文庫) 』収録)

これ、格好よくないですか。

蛯原 意外とシーンとなりましたね(笑)。

井上 (笑)この沈黙も初ですよ、おそらくICCでは。

 要は、余白があった方が想像力を羽ばたかせるから、「なんだろう」と考えること自体が大事ですよね。文学は塗り絵の方がいいですもんね、余白がある。

渡邉 「午後の五時」という同じフレーズの間で、いろいろなことが起こる。同じ音が繰り返される静かな世界の裏で、激しいドラマが同時多発的に起こっているという対比が、綺麗ですね。

井上 まさにこういう解釈がいくらでもできるんですよね。

今の渡邉さんのように、皆さん毎に解釈が生まれるということが、それがすごいパワーだと思うんです。

(続)

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続きは 4. ビジネスのための読書にこそ、文学的な読み方を取り入れよう! をご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/フローゼ 祥子/道下 千帆/戸田 秀成

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