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2. 石川 善樹さんが紹介する日本の偉人1位「松尾芭蕉」はなぜ偉大なのか

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「新シリーズ 世界の偉人伝 (シーズン1) 」全9回シリーズの(その2)は、石川善樹さんが、世界の偉人1位に続いて、日本の偉人トップ10を世界的な視点から発表します。なぜ「松尾芭蕉」が1位となっているのか? あまりに有名な俳句のどこがすごいのか。世界的に称賛を集める、驚きと新しさと多様性に満ちたその理由を解説します。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2021は、2021年9月6日〜9月9日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションは、ICCサミット FUKUOKA 2021 プレミアム・スポンサーのリブ・コンサルティング様にサポート頂きました。


【登壇者情報】
2021年2月15〜18日開催
ICC FUKUOKA 2021
Session 12E
Nizi Projectから学ぶ採用と人材育成の仕組みとは?
Supported by リブ・コンサルティング

(スピーカー)

石川 善樹
公益財団法人Well-being for Planet Earth
代表理事

小林 正忠
楽天株式会社
Co-Founder and Chief Well-being Officer

深井 龍之介
株式会社COTEN
代表取締役

丸 幸弘
株式会社リバネス
代表取締役 グループCEO

(モデレーター)

井上 真吾
ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン
パートナー

新シリーズ 世界の偉人伝 (シーズン1)


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1つ前の記事
1. 新シリーズ誕生! 登壇者が選んだ「イチオシ偉人」を語る

本編

石川 Wikipediaで最もポピュラーな偉大な人は「万学の祖」と言われた「アリストテレス」です。

これは世界から偉大だと思われている、グローバルのランキングでした。

では日本人はどうでしょうか?

日本の偉人ランキング

石川 一気にいくと、10位「豊臣秀吉」、9位「紫式部」、8位が「宮崎駿」です。

正忠 宮崎駿さんはさすがですね。

深井 すごい。「紫式部」より上なんですね。

石川 存命の方でランキングに入っているのは、宮崎駿さんただ一人です。すごい人です。

「宮崎駿とは何か?」と言われたら、「武蔵」と「式部」の間の人です(笑)。

そして、6位は初代天皇の「神武天皇」、5位「徳川家康」、4位「葛飾北斎」。

3位は「昭和天皇」で、2位「織田信長」です。

世界が認める日本の偉人1位は「松尾芭蕉」

石川 そして1位の人は誰かというと、僕にとってかなり意外でしたが、「松尾芭蕉」だったのです。

我々日本人の意識高い人の目標は、Wikipediaの中で松尾芭蕉を抜くことですよ。

正忠 なるほど。1位に君臨するためには。

 でも科学者がいないですね。

石川 いないですね。日本人はたぶんあまり偉大な科学者を……。

 じゃあ僕の出番だなあ。11位くらいに「丸幸弘」と入っているんだろうな。

(一同笑)

井上 さっき「死ななきゃ偉人ではない」って言ってませんでした?(笑)(Part.1参照)

 そうだった(笑)。

石川 芭蕉は101言語に訳されています。これだけですごくないですか?

正忠 これは日本の中でダントツなんじゃないですか?

石川 ダントツですよ、すごいですよ。

「松尾芭蕉」はなぜすごいのか?

石川 では、松尾芭蕉はなぜすごいのでしょうか?

芭蕉と言えば、この俳句ですよね。

「古池や 蛙飛び込む 水の音」

この句は誰もが知っているのですが、この句がなぜすごいのかはあまり習いません。

数年前にこの句がなぜすごいのかを教えてもらいました。

まず「古池や」で、「わび・さび」でいう、わびている感じを指すそうです。

「古池」が何かというと、古い神社にある池ではありません。

「古池」と言われたら、「土」を思い浮かべるのです。

井上 涸れているということですね。

石川 そうです。古井戸と一緒ですね。

「古池」は「かつて池だったもの」という意味なので、「古池や」と言われたら、脳内では、「土なんだな」と思うのです。

五七五の中のダイバーシティ&ハーモニー

石川 そこに「蛙」という雅なものが出てくるのです。

古今和歌集の時代から、雅なものと言えば、ウグイスと蛙なのです。

理由は、鳴き声が美しいからとされています。

池にいるはずの蛙がなぜか出てくるので、ここで江戸の人は「ん??」と思ったはずなんです。

「なぜ土に蛙がいるの?」と。

そして、蛙が出てきたら、次に詠まれるのは、普通「鳴く」なんです。

古今和歌集の時代からずっと続く伝統で、「蛙」と言えば「鳴く」となるところを、雅な存在である蛙に「飛び込む」という下品なことをさせているのです。

深井 下品なんですね?

石川 そう、「蛙 飛び込む」と言われたら、イメージがあまりにも合わないので、江戸の人は「はあー??」となって、「まあ、下品。芭蕉さん」となったはずなんです。

「そもそも土に蛙が現れて、飛び込んで、どこに行くの?」と。

そして、「水の音」は「さび」を表しているそうです。

「さび」は物事の本質が表れるという意味合いです。

「石」の本質が「苔」となって表れたのを「さび」といいます。

そしてここで初めて、「あっ、水があったんだ」と、「古池は土ではなくて、人間が忘れてしまった、どこかにある池なんだな」ということに合点がいくらしいのです。

「古池=死の世界」だと思っていたのが、最後の「水の音」で、蛙もいるし、ミジンコもいるだろうし、魚もいるだろうしと、死のイメージから突然フルカラーのみずみずしい生命あふれるイメージにドカンと広がるのです。

この五七五の中にわび・さび、雅・下品、ダイバーシティ&ハーモニーが入っているのです。

ダイバーシティ&ハーモニーは、今のオリンピックのテーマとまさに重なります。

正忠 たった17文字の中に。

石川 そう。だからこの句は賞賛されたのです。

「アップデート」と「アップグレード」はトレードオフ

石川 これをもう少し構造として理解すると、こうなります。

よく、「アップデート(新しくすること)」「アップグレード(質を高める)」の話があります。

この「新しさ」と「質の高さ」は、やはりトレードオフ構造になりがちです。

新しいものは質を感じにくく、逆に質を感じるものはなじみ深いものが多いので、例えば高級な和食の店は質が高いけれども、新しくはないはずなんです。

でも例えばジンバブエ料理は、日本人にとって新しさは感じるけれども、質は感じにくいと思います。

というふうに、「アップデート」と「アップグレード」はトレードオフ構造になっているので、このトレードオフ構造を破ることができるとすごいわけです。

俳諧を「アップグレード」した芭蕉のすごさ

石川 芭蕉がやったことを今の枠組みで整理すると、「アップデート」という観点では、もともと貴族が和歌で聖なるもの、雅なるものを詠んでいました。

江戸時代の頃になると、庶民が「俳諧」という、ふざけたものをテーマに歌を詠み始めました。

貴族は平安の昔から、ずっと和歌の質を高めてきました。

技巧をこらして質がずっと高くなってきたのですが、江戸時代に入ってから和歌を「新しく」する人たちが出始めて、俳諧が生まれました。

ふざけているから、当然和歌を詠む人たちからすると、くだらなくて質が低いわけです。

これに対して芭蕉は「わび・さび」を入れることによって、俳諧をアップグレードしました。

「アップデート」した後に「アップグレード」したのが、芭蕉のすごさです。

これは順番がすごく大事で、最初に質を高めてしまうと、その後に新しくすることがすごく難しいのです。

これがよく「イノベーションのジレンマ」と言われることであったり、日本では「ガラパゴス化」と言われるようなことです。

既存顧客に過剰適応してしまうというか、楽天市場のごちゃごちゃしたウェブサイトも、ある意味、既存顧客には非常に使いやすい、質の高いものになっていますね。

正忠 そうそう、あれを洗練させてしまうと、分からなくなる人が出てしまいます。

石川 「アップデート」して「アップグレード」することを、和歌という分野でやったことによって、芭蕉は歴史に名を残したのです。

ただ改めて考えてみると、今あるものを新しくして質を高めると、その時はいいのですが、またそれがだんだん普通になってきます。

(続)

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続きは 3. 世界が注目する「松尾芭蕉」に学ぶ、イノベーション・サイクル をご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/尾形 佳靖/戸田 秀成/小林弘美

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