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サイバーエージェント流「出る杭を発掘する仕組み」とリクルート流「M&Aを成功させるPMIの仕組み」

ICCカンファレンスの特別会場において株式会社サイバーエージェント 執行役員 人事統括本部長 曽山 哲人 氏と株式会社リクルートマーケティングパートナーズ 代表取締役社長 山口 文洋 氏の2名をお迎えし、「新しい事業の柱を創る人材やチーム作り」をテーマに約60分間のインタビューを行いました。3回シリーズ(その2)は、サイバーエージェントが新規事業を社内から生み出し続ける仕組み創りと、リクルートがM&Aという手段を使って、社外から新規事業を獲得する仕組み創りについて議論しました。社内と社外、異なったアプローチでの新規事業の産み出し方について、是非御覧ください。

ICCカンファンレンスは新産業のトップリーダー160名以上が登壇する日本最大級の招待制カンファレンスです。次回ICCカンファレンス FUKUOKA 2017は2017年2月21〜23日 福岡市での開催を予定しております。

登壇者情報
2016年9月6日・7日開催
ICCカンファレンス KYOTO 2016「ICC SUMMIT」
Session 5E 
特別対談「新しい事業の柱を創る人材やチーム作り」
 
(出演者)
曽山 哲人 株式会社サイバーエージェント 執行役員 人事統括本部長
山口 文洋 株式会社リクルートマーケティングパートナーズ 代表取締役社長
 
(聞き手)
井上 真吾  ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン  プリンシパル  
上野 純平
竹内 麻衣

その1はこちらをご覧ください:「R25」「スタディサプリ」を産んだリクルートの新規事業コンテスト「New RING」の秘密


サイバーエージェントの新規事業の取り組み

井上 今、リクルートのお話を聴かれていましたけれども、サイバーエージェントさんは社内イベントで新規事業を作っていくような取り組みはされているのでしょうか?

上野 (新規事業の社内コンテストの)「ジギョつく」は止めてられましたよね?

山口 そうですよね。

【参考資料】
社内事業コンテストは必ず失敗する  (藤田晋氏の経営者ブログ)

曽山 2004年、私が事業本部長になるちょっと前に始まった新規事業プランコンテスト「ジギョつく」を、10年くらい続けていて、多い時には年間1,000件応募が来ました。

弊社の場合はギフトがないんですよ。

応募してもメリットは何もない。

落ちてもフィードバックもそれほどなくて、審査の中で役員が話していた内容を私が一生懸命メモして伝えるくらいですが、それは大事にしていました。

結果的に収益化できる事業が生まれなかったというのが一番大きい反省で、若手メンバーは才能があるんだけれども、経験が浅い若手だけでやると立ち上がらないですよね。

ですから十何回やって、やはり上手くいかないねということで「ジギョつく」は一回やめましょうという提案を私からしたんですけれども、意外にも、今、別の形に変わっています。

大きくは2つあるのですが、一つは「あした会議」という役員の新規事業バトルです。

役員と社員がチームになり、新規事業案を提案するのですが、人事案までセットで提案しないと決議されないので、参加した役員や社員がコミットするという提案が中心になる。皆の前で「私がやります!」と宣言するとすごくプレッシャーがかかるので、それは一つ大きいと思います。

もう一つは、「NABRA(ナブラ)」という新規事業勉強会です。

【参考資料】
ジギョつくに代わる新規事業研究会を始めます。

1人の執行役員がリーダーになり、新規事業立ち上げに携わりたいという社員10人をメンバーに、それぞれのアイディアを提案・ブラッシュアップしています。「NABRA」は作って2~3か月ですが、結果的に10人のうちの3人が「あした会議」に参加して会社を創ることに決まったので、結果的に「ジギョつく」をやめてよかったかなという感じになりつつあります。

井上 トップがしっかりとコミットして事業化を進めることが重要だということですね。

曽山 実は「あした会議」は2006年から始めて、年に1、2回、今までに15回やっていて、ここから累計で20社生まれて、合計で累計700億円の売り上げと100億円の営業利益が出ています。

【参考資料】
役員の1位から最下位を公表 CA藤田社長が審査する新規事業バトル「あした会議」

これは本当にやっていてよかったです。

この前の週末に行った「あした会議」で、また新たに8社立ち上げることが決まったので、今までの20社に一気に8社が増えることになりました。

山口 リクルートの会議のやり方よりは、もしかしたら「あした会議」の方が落ち着いているかなというのは最近感じています。

サイバーエージェントさんがリクルートの真似をするというよりは、リクルートがサイバーエージェントさんの真似をすることもありだと思っているんです。

なぜかというと、リクルートは「新規事業創出企業」と言われて、毎年何かしらの事業化があるのですが、ブロックバスター(大きな事業)になったような事業というのは、多くが2000年の前にできた事業なんですよね。

【参考資料】
ブロックバスター戦略から見える圧倒的な人材が価値を生む時代への潮流

それらを2000年以降も16年間磨き続けて、高いシェアを取り続けていたり、まだ成長していたりという感じなんです。

リクルートはこの50年以上、自ら機会を作り出して、その機会によって会社を変えようとしてきました。

「カーセンサー」も「ホットペッパー」も「ゼクシィ」も、みんな1970年代から1990年代のその当時の従業員がボトムアップで言いだしっぺになって作ってきた事業なので、それを皆が神話のように持っていて、いまだにリクルートはそういう会社だと思っています。

「スタディサプリ (旧:受験サプリ)」は「高校生向け」が今年黒字化したフェーズですが、何が何でもリクルートの基幹事業の一つにしなければ、この神話がどこかで途切れるというか、どこかで皆が挫けてしまう。

リクルートと言っても、みんな2000年の前に作った会社じゃないかとか、2000年以降はM&Aで大きくなった会社じゃんという風になってしまう。

それを何とか自分がやらないと、社内の皆が信じているリクルートではなくなってしまうので、その使命感を持っています。

この「New RING」では、グランプリを獲ると事業化されるのですが、初年度の投資コストは、比較的小さいんですよね。

まずは小さくやってみようよと。

でも「スタディサプリ (旧:受験サプリ)」の時は、大きな予算(具体的な数字は非公開)が付きました。

曽山 ほう、すごい。

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山口 その後は、4, 5年の間で、M&Aも含めて、さらに大きな投資がされているんですよね。

だからこそこれだけの事業ができたので、結局は「あした会議」と一緒で、社長なのか役員レベルが相当コミットしてそこに集中させないと、今時 新しい事業なんて作れないのかなと思っています。

「New RING」でも何となく、本気でやっているところとそうでないところも出てくるんですよね。

もっともっとトップがコミットした方がいいと、僕はと思います。

もう一つには、若手が参加しやすくなるんですよね。

ミドルマネジメントが忙しくてなかなか参加できないのですが、油がのっているのはそういった社員で、現場感を含めて戦略立案能力を持っています。

そこの層が起案することを、実はとても期待しています。

でも「あした会議」というのはそもそも執行役員が音頭を取って、いい若手などのメンバーを揃えてやるじゃないですか。

本当はその方が、筋の通った、成功確率の高い、そしてコミット力があって投資もある程度の規模でできるものが育つのではないかなと最近思い始めています。

ボトムアップというかミドルアップ、それか「トップ下」アップくらいがいいのではないかなとすごく感じていますね。

曽山 もともとは社員から新規事業を提案する「ジギョつく」をやっていましたけれど、事業を提案しても落とされるじゃないですか。

藤田と飲みに行ったある社員が「役員の方がよっぽどいいアイディアを持っているんですよね」と冗談半分で言った時に、藤田がピンときたみたいです。

「確かにこれって、役員自ら先導をとらないと新規事業も生まれるものも生まれないし、投資も踏めないよね」ということで「あした会議」が生まれたんですよね。

山口 私が今度審査をする立場になったとしても、やはり若手や、自分が能力や仕事ぶりをみたことがない人がたまたまいいアイディアを出した時に、それに対して大きな投資はできないと思うんです。

曽山 そうですよね。

知らないんだもん、ということですよね。

「出る杭」を発掘する仕組み

山口 「受験サプリ」の時は、私がたまたまミドルマネジメントになって、「出る杭」としてこいつは面白いなと思われたと思うんですけれども、そういうタグも立っていない人がチームから出てきても、いいアイディアなんだけれども本当にこの人たちに託していいんだろうかという不安は正直あります。

その時に、自分が経営者として信頼できる役員や、部長課長クラスが「俺がやりたいんだ!」と先頭に立って言ってくれれば、お前の下はよく分からないけれども、お前は確かに実績も残してきたし、お前がそこまで言うんだったら託してみたいと思えます。

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そういう意味で、「あした会議」の仕組みはすごくいいなと思います。

私も、今の部長、役員クラスに、毎年1個でいいからメンバーと一緒にこの会社を成長させるとか、社会を変える何かを出すチャレンジをしなさい、そのくらいないと役員にも社長にもなれないよというのも含めて、勝ちたいなというのを思いましたね。

曽山 部長なんかが絡んで新規事業を提案したら確かにいいですもんね。

山口 メンバーもそう思っているのではないでしょうか。

今の部長課長クラスでも、やはりマネジメントに長けた人はいるけれども、本当にイノベーターというか、未来をクリエイトできる人というのは2:8の法則でなかなかいません。

メンバーはメンバーで、課長も部長も言われたことは執行しているけれども、本当は会社をどうしたいのかということは聞けていないじゃないですか。

そういう時に「あした会議」みたいな機関があると、その機関を通して議論しますからね。

議論した中で、部長課長もそう思っているんだ、役員はこう思っているんだというのが聞ける意味でも、話せば話すほど、来年からパクリたくなると思ってしまうくらいです。

サイバーエージェントさんはある意味いろいろなトライ・アンド・エラーをされて、仕組みが進化していってるのだろうなと思っています。

リクルート流 M&Aの仕組み

曽山 私はM&Aにすごく興味があるんですが、リクルートさんでいろいろなM&Aをされますよね。

ああいう仕組みというのは、例えばグループの各会社の社長が提案することもあるし、ホールディングで買うこともあったりと色々なパターンがあるのですか?

山口 リクルートグループ全体のM&A方針については語る立場にないんですけれども、自分の実体験と、そこで聞く話からは、リクルートホールディングスCEOとか取締役という人たちが、買えばと指示するのではなく、その下で実際に事業を担当している執行役自身が、自らある会社を見つけてきて、自分のコミットメントで、この会社を買ったら自分の事業がグローバルになれて、かつ買収後もPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)で成長させることができるというその意志とコミットメントとリアリティがあるM&Aしかしていないですね。

曽山 そこはむしろすごいなと思っています。

それをやってしまおうと思われるということは、「M&Aしようよ文化」がおありなんですね?

新規事業を作るだけだったら、ある程度一貫性を持ってやろうやろうと言えるんですが、M&Aというのは全然別のものですよね。

私たちはまだそんなにやれていないんですけれども。

社長としては、自分の事業を伸ばすために何があるのか、色々な選択肢を考えますよね。

Quipperとかも、その選択肢の1つだったんでしょうか?

山口 自分も含めたリクルートホールディングス執行役員の面々は、新規事業を育てると同時に、M&Aの目利きを自分でして、買ってみて、グローバル事業を自分でマネジメントする経験を積むことも求められているのではないかと思います。

その中でも、例えば出木場は、2012年(米国の)「indeed(インディード)」という会社を見つけてきて口説いて買収し今では世界で月間2億人が使って、売上高800億円規模の会社にまで成長しています。それも買収後3、4年でなっています。

【参考資料】
リクルートの最年少役員が語る、求人サイト「indeed」買収の舞台裏

他には、人材派遣事業で、本原という事業トップが自ら世界中を回って買収する会社を見つけているんです。買収後も、上手くPMI( 買収後のマネジメント)をして、営業利益率を高めています。

買収後の企業文化の統合はしていない

曽山 そういう意味では、M&Aで所謂 企業文化の統合なんかもどんどんやられているということですよね。

その点で、リクルートさんはすごいなと思っています。

山口 企業文化の統合という観点で言うと、むしろしていないですね。

していない理由は、一つ単純で、まず私たちは買った後にはあまり入り込まないからです。

日本から現地に出向する人も、CEOと監査役を含めた、本当に2、3名です。

Quipperは、たまたま、私の会社から十数人出していたりするんですけれども、普通は数名です。

そして、企業文化を合わせに行くかというと、合わせていないんです。

もう一つ、海外に出て初めて思ったのですが、リクルートはむしろ、非常に欧米気質の会社だなということなんです。

例えば、リクルートって職務ディスクリプションがしっかりしていて、年齢や入社年次に関わらず、任されるミッションのレベルとそのアウトプットによって報酬(給与・賞与)を決定する人事制度です。

PDS(Plan Do Seeのマネジメントサイクル)を回している会社で、こういった点は、非常に欧米の管理の仕方と似ています。

海外に行ったら日本的にしなさいとか私たちが合わせなさいではなくて、私たちがやっていることと買った会社が似ていて、でもリクルートの方が結構真面目にやっているねと言ったらリクルート流に変える提案をするかもしれないんですけれども。

曽山 「あうん」ではないんですよね。

ちゃんとした仕組みが回っているというところが、より合理性が高いんですね。

山口 かもしれないですね。

曽山 確かに。

井上 M&AをやるとPMI(ポストマージャーインテグレーション)、つまり買収先の会社をどう管理しますかという議論が出てきてます。

実は、自分たちの企業が抱えている既存事業を管理する方法と、基本的には同じでなくてはおかしいはずです。

他の日本の企業の中には、既存事業の管理の仕組みが明確にないから、M&Aした企業をどう管理してよいかわからないという課題に直面するケースを目の当たりにします。

リクルートさんは、元々欧米的にPDSを回されているので、それを持っていくということで、別に買収先を無理にリクルート化しなくても、しっかり経営をやっていけるということですね。

上野 それとも(買収する企業が)海外企業だからということだからでしょうか?

日本企業を買収するとまたPMIの方法論が変わってしまうのでしょうか?

山口 リクルートというちょっと欧米ライクなカルチャーというか仕組みを持った会社は、元々欧米的な合理性の下にある企業と非常に親和性が高いと言えるかもしれません。

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曽山 そういう意味ではM&Aの打率が上がっているのかもしれないですよね。

すごいですね。

私たちは「実力主義型終身雇用」というのを作っているので、評価に関しては、活躍する人はいくらでも厚遇するよというシステムです。

年齢も関係ないです。

むしろ欧米企業よりも抜擢が強いという風に、コロンビア大学の教授も仰るくらいなので、そういう強さはあるけれども、ロングタームで一緒にチームでやった方がいいでしょうというのは、日本式なんですよね。

そこは、外国人の社員でもすごく評価してくれているところはあるので、どちらかというと、私たちもその部分の合理性のところをどれだけ生かせるかというのはあるなと思います。

リクルートさんのようにプロセスは綺麗ではないので、やっていかなければならないなと思っていますが、一つヒントを頂きましたね。

会社同士のモラルは確かにお互いに擦り合わせるけれども、企業文化を変に溶け込ませるのではないんですね。

(続)

編集チーム:小林 雅/石川 翔太/榎戸 貴史/戸田 秀成

続きはこちら:「シビアな決断経験を、いかに早くやらせるか」リクルートとサイバーエージェントに共通する新規事業立ち上げ人材の育成戦略

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