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「ファン作りとユーザーの資産化」【K16-2A】セッションの書き起し記事をいよいよ公開!9回シリーズ(その7)は、「ファン」が企業の資産となるにはどのようにすれば良いか?等について議論しました。事前人気投票で1位に輝いたセッションです。是非御覧ください。
ICCカンファレンスは新産業のトップリーダー160名以上が登壇する日本最大級のイノベーション・カンファレンスです。次回 ICCカンファレンス KYOTO 2017は2017年9月5〜7日 京都市での開催を予定しております。
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登壇者情報
2016年9月6日・7日開催
ICCカンファレンス KYOTO 2016 「ICC SUMMIT」
Session 2A
「ファン作りとユーザーの資産化」
(スピーカー)
青木 耕平
株式会社クラシコム
代表取締役
佐渡島 庸平
株式会社コルク
代表取締役社長
長見 明
スターバックスコーヒージャパン株式会社
マーケティングコミュニケーション本部 デジタル戦略部 部長
濱野 幸介
株式会社良品計画
Chief Marketing Technologist(当時)
*現在はプリズマティクス株式会社 代表取締役
(モデレーター)
守屋 彰人
株式会社ディー・エヌ・エー EC事業本部長 (当時)
*現在はダイソン株式会社 Head of Direct
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【前の記事】
【本編】
守屋 皆さんは、各社の内容を十分に理解されたと思いますので、少し深堀りしていきたいと思います。
まず最初に、そもそも、このセッションに招待される前から「ファン作りとユーザーの資産化」というテーマについて、意識して取り組んでこられたというご登壇者の方は、挙手をして頂けますでしょうか?
(青木氏、佐渡島氏が挙手)
守屋 なるほど。佐渡島さんと青木さんは取り組んでこられたのですね。
我々が期待以上のサービスを提供した時に、「この会社が好きだな」とか「このサービスがいいな」と思って「ファン」になって下さるというのは、皆さんにもイメージできることかと思いますが、「資産化」とは何かについて、少し掘り下げてみたいと思います。
ちなみに、辞書で「資産」という言葉の意味を調べると、「土地、家屋、金銭などの財産。法律で資本にすることができる財産。」という定義になっています。
「ファン」と「資産化されたファン」との違いは何なのかということについて議論したいと思うのです。
先日、私は2、3人のファイナンシャルプランナーの方にお会いして、最初の2人に満足できなかったので、他の方を紹介して下さるようにお願いしたんですよ。
そうしたら、頭での計算がエクセルよりも早いような人が出てきて、僕はその方のファンになったんです。
その後、ファイナンシャルプランニング関係の悩みがある友人3、4人に紹介して、その友人たちも彼のお客様になりました。
それを思い返して、私が自分の中で「好きだな」と思っているだけでは、まだただのファンでしかないのではと思いました。
でも、私が紹介した友人がお客さんになったら、私はそのファイナンシャルプランナーにとっての資産になったのかなと思ったりもしました。
各社の皆さんにとって、どういう状態になったら「資産」と言えるのかというところをお伺いしてみたいと思います。
例えばクラシコムさんでいうと、従業員の中にファン出身の人が結構おられると聞いたのですが、それを「資産」として捉えておられるのかや、コルクさんの場合は、「宇宙兄弟」がすごく好きで立ち読みしてくれているのだけれど、買ってくれない人は「資産化されたファン」ではないのか等、その辺りのお話を順番に伺いたいと思います。
「ファン」と「資産化されたファン」との違いは何か?
青木 難しいですね。
今、「資産」の定義を仰いましたが、恐らく「利益を生み出す財産」ということだろうと思うんですよね。
ですから、それが何らかの経済的な利益なのかということはまた別にして、その蓄積が効いて、蓄積されたものが、確実に積みあがる利益を生み出していくものになっているかどうかだと思います。
今少しご紹介があったように、我々の会社ですと、9割くらいの社員は元お客さんだというようなこともあって、基本的には僕らが描いている世界観というのは、宝塚歌劇団のようなものですね。
守屋 9割の社員が元お客さんなのですか?
青木 元お客さんですね。
守屋 すごいですね。
青木 宝塚歌劇団については、ご存じの方もあまりご存じでない方もいらっしゃるかと思うのですが、一口にファンと言っても、コミットメントの強さにはかなりのグラデーションがあり、例えばスカパー!で観ていますという人から、どこかの劇場で1回見たことがありますという人、本拠地の宝塚にある劇場に行っている人、必ず○組の○○様の公演は観ていますという人がいて、自分ないしは自分の娘を宝塚歌劇団にというのが、恐らく一番コミットメントの深いファンなんだと思うんですね。
グラデーションにそれぞれ合ったコミットメントができる機会みたいなものを段階的に作っていって、どこのグラデーションにいる人もきっと一番中心に行ったら一番ハッピーなのだろうなと思えるという状態を、どういう風に作れるかということだという風に思っています。
そうなると、基本的には段々と段階を上がってきて、その中の一番コミットメントが強い人達で、事情が許す人達が入社することになります。
最近では、元々は会計士として監査法人で働いていた男性が、コーポレート担当として入社してきたのですが、その方の奥さんが我々の数年来のユーザーで、弊社でコーポレート担当の求人が出たよというのですかさず旦那さんに教えたところ、その旦那さんが転職してきたというケースがありました。
守屋 そんなこともあるんですね。
ファンを「分断」しない
青木 それから、「資産化」しているかどうかというのは、一つはこちら側の都合というか、我々の意図を言って反映して、全体として一つの動きができるかどうかということが、非常に重要だと思うんですよね。
守屋 コントローラブルなファンが「資産化されたファン」だということですか?
青木 そうですね。
例えば、見て下さっている方、買って下さっている方がいくら沢山いて下さったとしても、その方達が全くバラバラな動きをしているとか、セグメンテーションがバラバラであるというような状況では、一体的な動きができません。
例えば、政治に強い影響を与える団体、例えば組合とか宗教とか業界団体のようなものがあるとします。実はそれぞれの団体の構成員というのが日本の人口に比べたら本当に微々たるものなのですが、一致して動けるというところに大きな資産価値がある訳ですよね。
ですから、我々の場合、我々のターゲットとしているお客様を分断するようなコンテンツを、絶対にやらないようにしています。
我々のサイトのユーザーは、97パーセントくらいが女性なのですが、例えば教育について、家族につえて、あるいは働き方についてなど、我々がこう考えていますということを絶対に主語で語ることはありません。
こういう人もいるし、こういう人もいますということを取材対象としてご紹介することはありますが、「心地よいライフスタイルをつくりたいよね」っていうところでまとまれてるお客様の間で議論になるような、賛否が分かれるような内容を我々の見解として主張するようなことはしないようにしています。
あくまで、「こういうあり方もあるんですね、こういう方のやり方も参考になりますね」という立場でコンテンツを作るようにしています。
守屋 例えば、ビジネスを非連続的に拡大するために、今ご愛顧頂いているファンの方とは違った層を獲得するために新たな施策が必要だという時でも、統一された世界観の中で施策を打つような感じなのですか?
青木 多分、僕らみたいなビジネスをやっていて、非連続に違う層を取りに行くということは、現実的には不可能だと思うんですよ。
むしろそれは非常に不誠実なことだと思うんですよね。
例えば、ディズニーというものがあって、非連続に違う層を取りにいっているかというと、恐らくディズニーで育ってきた人達が大人になって、大人になってもまだディズニーが好きだという人が残ったことによって、結果的に子供対象のコンテンツを作り続けているのに大人にファンが広がっているということはあると思います。
ですから、僕らは対象顧客を広げようと思ったことは一度もありません。
女性が97パーセントだから男性を増やそうと思ったこともないですし、あるカルチャーに共感する人以外のお客様を対象にしようと思ったこともありません。
どちらかというとあるカルチャー、ある美意識を持った特定の属性のお客様のニーズに、今以上に幅広くお応えしていった結果として可処分所得に占める割合を増やすことで成長できたらハッピーだなと考えています。
守屋 なるほど。
お三方のお話も伺ってみたいと思います。佐渡島さんいかがですか?
日常的な人間関係がどれくらいできているかが重要
佐渡島 今の青木さんのお話は、かなり本質を掴んでいるのではないかなと思います。
そういう風にファンコミュニティを作っていくことが僕のやるべきことだと思った3年くらい前に、それをされているのが「北欧、暮らしの道具店」だな、ここは伸びていくのではないかなと思い、弊社の社員が伝手を頼って青木さんにお会いしたことがあるんです。
それで青木さんに弊社で勉強会をやって頂いて、今度は僕も青木さんのところへ行ってまた弊社の社員でお話を聴いてという風にやっていって、今青木さんが仰ったようなことをどんどん、弊社の作家のサイトでも実現していっているのです。
例えば、Facebookでは、皆繋がっていて知り合いなのですが、何か頼んだ時にアクションしてくれる人がどれくらいいるかというと、殆どいないと思うんですよね。
やはり、日常的な人間関係がどれくらいできているかということが重要なんですよね。
Facebookではメッセージをポーンと伝えるだけで、そこでコミュニケーションを取るという考え方はない訳ですよね。
インタラクティブ(双方向)という点では、Facebookの場合は「いいね!」というだけでも十分インタラクディブなわけで、例えば実際にここで会話をしている時の、頷くとか、視線を合わせるという行為というのもある種インタラクティブな訳です。
インターネット上でも、そういう風にすごくインタラクティブなことをしているという意識はなくともインタラクティブで、関係性の度合いが深くなっていくということはあるのです。
そして、こういうものを出しますよ、作りますよというと、バーッと反応してくれるような関係にある人達がどれほど増やせるかを考えながらしっかりやっていくということが、「資産化」に繋がるのだと思っています。
守屋 少し冒頭にご紹介させて頂いたのですが、例えばDeNAトラベルでは、リアルイベントでファンの方と接したり、直筆のメッセージを添えたりすることで、無機質なインターネットからインタラクティブな関係性を構築しようとしています。
スターバックスさんも、メッセージなど、それに近いことに取り組まれているのかなと思いますが、事前の打ち合わせで青木さんが面白いことを仰っていましたよね。
確か、クラシコムさんは基本的にインタラクションをされないと仰っていたように思いますが、その割には「資産化されたファン」の数が非常に多い気がしています。どのように取り組まれているのか教えて頂けますか?
どこでファンとコミュニケーションを取るかの選択
青木 インタラクションしないというのは、インタラクションを否定している訳ではなくて、冒頭に申し上げたように、非常に小さな会社でリソースが限られている時に、どこに集中するべきかという判断だと思うんですね。
もちろん、所謂お客様からの「お問い合わせ」に対するお答えは、積極的に迅速にしていますけれども、例えばソーシャルメディア等において頂く色々なコメントに対して返信するようなコミュニケーションは、一切しないという方針でやっています。
恐らくそういった内容のことを取り上げて頂いたのだと思うのですが、僕の実感値でも、或いは計測しても、実際に我々との直接のコミュニケーションを求めているお客さんの数というのは少ない訳です。
ところがインタラクションをやり始めると、非常に大きな工数がかかります。我々が一番大事にしたいお客さんというのはどういう方達なのかと考えた時に、やはり我々のコンテンツを楽しんで頂いて、お買い物を楽しんで頂いて、もしかしたら特にコメントをしたりということをしない大多数のお客さんなのではないかと思うのです。
とにかく、我々が一番大事にするべき大多数のお客さんに対して全てのリソースを集中させるために、インタラクションをしないという選択肢はまず一つあります。
もう一つは、例えば「ファン」ということを考えた時に、ブランドに対するファンということだと、極端な例では「ハイブランド」というものがあります。
Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)さんやCHANEL(シャネル)さんがソーシャルメディアを運用するとして、そういったブランドが果たしてネット上のコメントに対して一個一個返信していくような形でのコミュニケーションを取るでしょうか。
そう考えると、やはりブランドがどういう世界観を提示して、どういう機能を果たすかということによって、今インタラクションをするべきなのか、或いは一定の距離を取るべきなのかということが変わってきます。
例えば同じ芸能人でも、アイドルと女優ではファンとのコミュニケーションの仕方が変わってくるでしょう。我々が作りたい世界観からすると、所謂雑談のようなコミュニケーションをネットで行うという必要性は、今のところないという判断です。
守屋 なるほど。面白いですね。
(続)
編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/Froese 祥子
続きは 無印良品はまるで「密教」- ファン作りの神槌とは何か? をご覧ください。
【編集部コメント】
続編(その8)では、各登壇者が考えるファンを創る仕組みについて議論しました。是非ご期待ください。
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