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ICC FUKUOKA 2022のセッション「伝統や産業をアップデートするクリエイティビティとは?(90分拡大版)」その③は、まさにそれに取り組む当事者たちが集結!このパートでは、あの「新政」の新政酒造 佐藤 祐輔さんが登場。東京の生活から170年続く家業に戻り、「絶対に変わらないDNAと移ろいやすいもの」のバランスをとる酒造りをする佐藤さん。都市と地方の興味深い考察も必読です。ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2023は、2023年2月13日〜2月16日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。
本セッションは、ICCサミット FUKUOKA 2022 プレミアム・スポンサーのNOT A HOTELにサポート頂きました。
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【登壇者情報】
2022年2月14〜17日開催
ICCサミット FUKUOKA 2022
Session 5C
伝統や産業をアップデートするクリエイティビティとは?(90分拡大版)
Sponsored by NOT A HOTEL
(スピーカー)
国見 昭仁
株式会社2100
CEO
佐々木 紀彦
PIVOT株式会社
代表取締役社長/CEO
佐藤 祐輔
新政酒造株式会社
代表取締役社長 CEO
中川 政七
株式会社 中川政七商店
代表取締役会長
濵渦 伸次
NOT A HOTEL 株式会社
代表取締役CEO
(モデレーター)
岩田 真吾
三星グループ
代表取締役社長
各務 亮
THE KYOTO
Creative Director
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1. 企業の存在意義を拡張するビジネスデザインとは?
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2.メディアはなぜレガシー産業になったのか? PIVOT佐々木さんの考察
本編
各務 では、佐藤さん、お願いします。
170周年を迎えた酒蔵を再興
佐藤 祐輔さん(以下、佐藤) 私は、秋田のしがない造り酒屋、新政酒造の代表取締役です。
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佐藤 祐輔
新政酒造株式会社
代表取締役社長 CEO
1974年生まれ。東京大学 文学部 英語英米文学科卒業後、ジャーナリストとして活動。
2007年、現存する最古の市販清酒酵母「6号酵母」の発祥蔵である「新政酒造」に八代目当主として入社。同社は「秋田県産米を、生酛純米造りにより、六号酵母によって醸す」という地域性の高い醸造方針を貫いている。ほかにも農業を特に重視し、10町以上の自社保有田では無肥料・無農薬の酒米の栽培を手掛けている。さらに昔ながらの木桶を45本も所有し、伝統的な「木桶仕込み」を推進・啓蒙している。なお同社では、途絶えようとする木桶づくりの技術を継承するため木桶工房の建設も予定している。
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岩田 大人気じゃないですか。
佐藤 いえ、まだまだです。
もともとは酒造りがやりたくて蔵に帰ってきたのですが、ものすごい赤字状態で、経営もやらざるを得なくなったという経緯です。
ですから、経営者としての自信はあまりないのですが、ここ何年かで、会社がどういうことをしてきたのかが分かってきました。
新政酒造は私が8代目で、2022年めでたく170周年を迎えました。
六号酵母という、日本酒づくりで用いられる酵母の中でも最古の酵母の発祥蔵であり、その縁でNo.6(ナンバーシックス)というお酒を造っていまして、お客様にご愛顧頂いています。
岩田 めちゃくちゃ美味しかったですよ。
佐藤 ありがとうございます。
六号酵母は、90年以上前にうちの蔵で見つかった、ロートルの古い酵母です。
日本酒造りで1,000年の歴史がある木桶作りを学ぶ
この六号酵母に特化するのが面白いと思い始め、毎年色々な取り組みをしています。
木桶は、日本酒造りにおいては全く使われていません。
これは、戦後すぐにホーロータンクに切り替わったからであり、普通の酒蔵では木桶は1つもありません。
日本酒の歴史の1,500年のうち、1,000年はずっと木で造っていたのに、いきなり造り手の都合で木桶を使わなくなったのはおかしいと思ったので、趣味として木桶を買い足していきました。
今の酒蔵はこんな感じです。
都市はグローバルに開かれているために、日本らしさがどんどん失われていると、ずっと思っていました。
色々な国を旅しましたが、クアラルンプールやシンガポールは、歩いていても面白くないのですよ。
パリやイタリアは歩いていて面白いのですが、感動するのは田舎や地方にある、畑などの光景です。
そういう体験を通して、日本酒にとって大事な本質がだんだん分かり、今は木桶を導入しています。
来年、52本の木桶が揃うと、うちの蔵の酒は全て木桶での仕込みになります。
▶編集注:登壇時は2022年2月
ただ、木桶にも問題があります。
現在、木桶の作り手は大阪府堺市にある、藤井製桶所しかいないのです。
▶150年以上も生きる桶「藤井製桶所」 – NIHONMONO
彼らが廃業を宣言しているので、今後、自分たちで木桶を作り直すとなると、問題が生じます。
そこで、7、8年前から社員を藤井製桶所に派遣し、木桶作りを学ばせていますが、自分たちで木桶を作り、発酵業界に提供する時期がそろそろ来たと思っています。
自社田に木桶の工房を設立する準備をしており、パッと見ただけではどこが木桶工房なのか分からないくらい、草屋根で、自然の中に隠れた建物を造ろうと思っています。
2027年頃には完成予定です。
秋田の豊かな自然で育つ無農薬の酒米を原料に
佐藤 また、無農薬栽培にも大変力を入れています。
外からものを買ってこなくても、地域内で自給自足ができるためです。
秋田は消滅化のリスクのある地域であり、20年もすれば完全になくなると言われています。
先ほど話したのと同じ理屈で、見方を変えると、これからは秋田の自然に価値が生まれると私は考えています。
実際、私たちの蔵で働く人のうち、7割ほどが首都圏などから来ている若者です。
地方には、自然資源によるベーシックインカムのようなものがあるので、必ずしも貨幣経済に完全に取り込まれなくても生きていけるのです。
特に、アーティストにとっては、すごく良い環境だと思いますね。
秋田県の真ん中で、27町歩(1町歩は約9,900㎡)くらいの田んぼで無農薬栽培を行っていますが、これは秋田県の中でも最大規模で、我が社のために酒米を育てて頂いています。
そのうちの10町歩分は、我々の社員を派遣して管理している自社田ですが、四方を山に囲まれた、区切られた田んぼなので、無制限に広げることは不可能です。
川の上流周辺には村がないので、水がエメラルドブルーで、飲めるくらいの美しさです。
大変贅沢ですよね、これこそがベーシックインカムだと思います。
一年中、この素晴らしい環境で無農薬のお米を育てています。
茅葺き屋根の家もたくさん残っており、文化的なセーフティネットでもあります。
このような自然の豊かさが日本の豊かさだと思いますので、その中で造る酒が必要だと思っています。
移ろいやすい事象と変わらないDNA
佐藤 日本酒についての「本質」と「事象」が何かと考えると、植物で例えると、種と花だと思います。
花は毎年変わる、移ろいやすいものであり、日本酒のパッケージデザインや味は花に当たり、これが事象です。
逆に、酒ができる地域の地域性や伝統製法は1500年間蓄積された連続性のあるものであり、絶対に変わらないDNAなので、種ですね。
その代わりパッケージや味については、No.6と名付けるなど、結構攻めています。
これら2つのバランスが、今後、伝統産業をアップデートする際に大事なのではないかと思いながら、仕事をしています。
『近代風な大都市から遠く離れた地方で、日本独特なものが多く残っているのを見出します。ある人はそういうものは時代に後れたもので、単に昔の名残に過ぎなく、未来の日本を切り開いてゆくには、役に立たないと考えるかも知れません。
しかしそれらのものは皆それぞれに伝統を有つものでありますから、もしそれらのものを失ったら、日本は日本の特色を持たなくなるでありましょう。』という、柳宗悦(美術評論家、思想家、民藝運動の主唱者)さんの言葉があります。
岩田 これは、いつ頃の言葉なのでしょうか?
佐藤 彼の晩年のものだと思います。
岩田 何十年も前でしょうか?
佐藤 そうですね、かなり昔の言葉です。
岩田 慧眼ですね。
佐藤 僕は、時々出張で行く都市も、遊べるので好きです。
ですので、全てはバランスだと思います。
都市を否定しているわけでは全くなく、都市がグローバル化するその反動で、我々のような会社が過去に回帰し、素晴らしいバランスが取れるのだと考えています。
岩田 秋田県民と秋田県民以外に分けると、新政のお酒を飲んでいるのは、秋田県民以外なのでしょうか?
佐藤 秋田県内では、全体の出荷量の10%ほどを占めています。
しかし、やはり資本の論理で、たくさん買ってくれている東京の飲食店への出荷が、会社の売上の多くを占めています。
ですから、実際のところ、秋田ではあまり流通していません。
岩田 職人を育てるなど、桶への投資が必要ですよね。
建物も、前方後円墳みたいで、めちゃくちゃかっこいいですよね。
佐藤 そうですね。
岩田 田んぼを運営するにも、かなり大きな投資が必要ではないかと感じました。
ですので、稼がなければいけない時は、都市との連携が必要なのかなと思いました。
佐藤 その通りですよね。
岩田 それが、先ほどおっしゃったバランスということでしょうか。
佐藤 はい。
基本的には地域の中で、自社の社員やその周辺の人々に、貨幣経済に取り入れられない、ベーシックインカムのあるような生活を提供するのですが、民俗学者の柳田國男も言っているように、都市と地方のバランスが取れていないといけないのです。
ずっと昔から、日本人にとって、都市とは人を惹きつける綱であり、都市そのものが心のふるさとでもあると言われています。
外貨獲得の場として都市がありますが、地方も観光資源となりえます。
どちらかがだけが生き残るという議論は不毛であり、どちらも楽しくしないといけないと思います。
持続的な都市繁栄のために地方の活力は絶対に必要
岩田 どちらが主体かは分かりませんが、都市があるから地方の存在も際立って価値が生まれるということでしょうか。
アンチテーゼなのか、両立するものなのか…。
佐藤 実際はその通りで、例えば地方がなくなってしまうと、東京には人が来なくなります。
東京の出生率は47都道府県の中で最低で、1.1くらいしかありません。
つまり、数十年で高齢者だらけになってしまうということです。
首都圏にとっては、持続的な都市繁栄のために地方の活力は絶対に必要で、地方にとってもそれは同様です。
地方分権のような単純な話ではなく、国家的対処法が必要なのですが、民間の草の根運動だとしても、取り組みによって健康的なバランスに近づけられればと思っています。
岩田 5年前に入山章栄先生(早稲田大学大学院教授、経済学者)からほぼ同時期に同じ企業のインタビューを受けた時から、僕と佐藤さんにはつながりがあります。
インタビューの際、僕が「羊を飼っているところを見てもらえれば、ウール製品に対する感じ方が絶対に変わるから、もっと尾州に来てほしい」と話すと、入山先生から、「先月、新政酒造で聞いた話と同じだ、ワインツーリズムの日本酒版をやりたいと言っていたよ」と言われました。
それで昨年、昔からプロセスエコノミーについて提唱している事例として、僕と佐藤さんを挙げて頂いたようです。
実際、秋田に人は来るようになってきているのでしょうか?
佐藤 そうですね。
観光設備が整っているわけではありませんが、私たちの酒を飲んで感動してくれた方が、わざわざお金を払って、私たちの無農薬栽培中の田んぼに見学に来てくださることがあり、大変ありがたいと思っています。
岩田 旅行業界におけるアップデートとも言えるかも知れませんが、それも面白い視点ですよね。
佐藤 そうですね。
ただ、それにはお金もかかりますし、私たちは零細企業なのでゆっくり進めているところですが、いずれはやってみたいと思っています。
岩田 財布をあたためて、みんなで秋田に行きましょう。
日本酒業界の最大の問題…なかなか買えないこと
佐々木 私は、ほぼ毎日日本酒を飲むのですが、東京では、日本酒はどこで売っているのでしょうか?
というのも、東京では、日本酒を買う場所がないのです。
佐藤 ないのですよね。
これは、日本酒が大量生産された時代に、酒販店の免許が緩和されてスーパーマーケットが販売の主体となり、大手の安い酒が市場を占有し、小さな酒蔵をつぶしてしまうほどでした。
手造りで、良い酒を造っている酒蔵はスーパーには勝てないので、生き残りをかけて、先見の明のあった全国の酒屋と共に、狭いコミュニティというか、流通機構を作ったのです。
これを地酒の流通と呼ぶのですが、大量生産時代にスーパーマーケットだけが主戦場となることを避けるため、これまで細々と流通させてきました。
ただ、この流通に弊害もあります。
皆さんが飲みたいと思ったときに、どこで買えばいいのか分からなくなりますよね。
これは、業界全体の問題です。
岩田 Twitterでたまに感じるのですが、新政酒造や他の酒蔵について紹介されていても、最後に「近くの酒屋で購入ください」と書かれていて、ネットでは購入できないのですよね。
佐藤 いや、蔵によってはネット販売もしていますよ。
岩田 でも、ネット対応していないところの方が多くないですか?
佐藤 そうですね、人気の酒だと転売に結びつく可能性があるので…。
岩田 その理由なのですね。
佐藤 それから、やはり生産量が多くないため、お得意様への配慮が必要になるので、酒販店に対しては、「適切なお客様に販売してください」とい申し出ざるをえません。
それが結果的に、インターネットでの販売を差し控えることになる場合があります。
岩田 もっとスムーズに買えると、日本酒好きとしては嬉しいですね。
佐々木 本当に、買える場所がないのです。
佐藤 確かに、それは我々の業界の最大の問題です。
東京に住んでみて故郷の魅力を発見できた
各務 業界のアップデートの話に戻すと、伝統技法や土地の自然を活かすのが本質だと気づかれたということで、郷土愛をとても感じました。
記事(※)を拝見してびっくりしたのですが、もともとはジャーナリストでいらっしゃって、日本酒に興味があったわけではないのに、地元に帰って郷土の魅力を再発見し、本質にたどり着いたのはすごいです。
▶編集注:東大卒・元ライターが再興させた名門酒蔵 “添加物だらけで日本酒と呼べるか” | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)
その本質にたどり着くきっかけは何だったのでしょうか?
レガシーをアップデートする時に、どう見定めるのかのヒントになればと思います。
佐藤 何が本質で何が事象かは、人によって違うからこそ、できるプロダクトが多様化すると思います。
切り口は、その人が見てきたものや風景、培ってきた教養に影響されるものなので、同じでいいというわけではないと思います。
僕の場合、『週刊朝日』や『週刊SPA!』、『週刊ダイヤモンド』に記事を書くジャーナリストをしており、その頃に見ていたものでしょうか。
18歳から30歳近くまで東京に住んでいて、そこから故郷に帰ったのも良かったのだと思います。
各務 ジャーナリストとしての編集思考というか、地元の魅力やストーリーを改めて発掘し、それがお酒としてアウトプットされているということでしょうか。
佐藤 そうですね、おとぎ話にあるように、「宝物を探しに家を出た放蕩息子が、家に帰ってきたらそこに宝物があった」に近い感じでしょうか。
各務 ありがとうございます。
では引き続き、そういった手法について全国でコンサルティング、プロデュースをされている中川さん、よろしくお願いいたします。
(続)
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続きは 4.日本の工芸をアップデートする中川政七商店の取り組み をご覧ください。
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編集チーム:小林 雅/星野 由香里/浅郷 浩子/正能 由佳/戸田 秀成/大塚 幸
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