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4.日本の工芸をアップデートする中川政七商店の取り組み

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ICC FUKUOKA 2022のセッション「伝統や産業をアップデートするクリエイティビティとは?(90分拡大版)」その④は、まさにそれに取り組む当事者たちが集結!このパートでは、中川政七さんが「日本の工芸をアップデートする」取り組みを語ります。中川政七商店の業態変化や奈良のまちづくり、経営コンサルなどさまざまな事例から、時代に即した構造変革の必要が読み取れます。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回ICCサミット FUKUOKA 2023は、2023年2月13日〜2月16日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。

本セッションは、ICCサミット FUKUOKA 2022 プレミアム・スポンサーのNOT A HOTELにサポート頂きました。

NOT A HOTEL ロゴ


【登壇者情報】
2022年2月14〜17日開催
ICCサミット FUKUOKA 2022
Session 5C
伝統や産業をアップデートするクリエイティビティとは?(90分拡大版)
Sponsored by NOT A HOTEL

(スピーカー)
国見 昭仁
株式会社2100
CEO

佐々木 紀彦
PIVOT株式会社
代表取締役社長/CEO

佐藤 祐輔
新政酒造株式会社
代表取締役社長 CEO

中川 政七
株式会社 中川政七商店
代表取締役会長

濵渦 伸次
NOT A HOTEL 株式会社
代表取締役CEO

(モデレーター)

岩田 真吾
三星グループ
代表取締役社長

各務 亮
THE KYOTO
Creative Director

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1. 企業の存在意義を拡張するビジネスデザインとは?

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3.本質を求める酒造りで、日本酒をアップデートする新政酒造 佐藤 祐輔さん

本編

工芸の経営再生事業やまちづくりに取り組む

中川 政七さん(以下、中川) 先ほど、日本酒がネットで購入できないという話が出ましたが、(佐藤)祐輔さんの口から言うのは憚られたと思うので僕が言っておくと、新政酒造が中心となって作られたJSPという団体があります。

これは、僕たち中川政七商店が取り組んでいることの日本酒版と捉えていますが、JSPが日本酒文化の底上げを目的に、小売店に迷惑をかけないようにEC販売をしている、「UTAGE」というプラットフォームがあります。

そこでは毎週、一蔵ずつ紹介をしていますが、実は僕らがお手伝いをしています。

佐藤 そうなんです。

企画段階から、全て携わって頂きました。

岩田 この後、QRコードが出てきますか(笑)?

中川 いや、出ないです、気が利かなくてすみません(笑)。

改めまして、中川政七商店の中川と申します。


中川 政七
株式会社中川政七商店
代表取締役会長

1974年生まれ。京都大学卒業後、2000年富士通株式会社入社。2002年に中川政七商店に入社し、2008年に十三代社長に就任、2018年より会長を務める。業界初の工芸をベースにしたSPA業態を確立し、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンのもと、経営コンサルティング事業を開始。初クライアントである長崎県波佐見焼の陶磁器メーカー、有限会社マルヒロでは新ブランド「HASAMI」を立ち上げ空前の大ヒットに。現在は奈良に多くのスモールビジネスを生み出し、街を元気にする「N.PARK PROJECT」を提唱。産業観光によりビジョンの実現を目指している。2015年に「ポーター賞」を受賞。「カンブリア宮殿」「SWITCH」などテレビ出演のほか、経営者・デザイナー向けのセミナーや講演歴も多数。著書に『経営とデザインの幸せな関係』(日経BP 社)、『日本の工芸を元気にする!』(東洋経済新報社)等。

お酒と同様、工芸も業界としてはどんどん縮小していっています。

産地出荷額で言うと、ピーク時の5,400億円から900億円にまで縮んで、約6分の1の規模になっており、もしかするとお酒よりも小さくなっているかもしれません。

中川政七商店は創業が1716年なので、それから300年ちょっと経ちますが、麻織物を扱う問屋業からスタートし、ある時から製造もするようになりました。

僕が入社したのが2002年で、それから小売業も手がけるようになり、今はどちらかと言えば小売業が中心の会社で、工芸のSPAのような感じになっています。

産地の支援やコンサルティングをしなければものが作れなくなるという状況の中、2007年に「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げてから、小売業だけではなく、他社メーカーの再生事業にも取り組んでいます。

同じ業界内のメーカーなので、競合と言えば競合なのですが、彼らが廃業してしまうと僕らもビジネスができなくなるので。

最近では、まちづくりもしています。

中川政七商店による奈良のまちづくり 「N.PARK PROJECT」本格始動 | プレスリリース | 株式会社中川政七商店 (nakagawa-masashichi.jp)

中川政七商店が行った3つのアップデート

中川 今回はアップデートがテーマということですが、先ほどからの皆さんの話を聞く限り、「事象」の例を用意してしまっているので、この先は事象のアップデートの話をしますが、その根本になった「本質」はビジョンだったと思います。

300年も続く会社なので、社是や家訓などがありそうなものですが、何もなかったのです。

なぜないのかと父親に聞くと「そんなものがあっても儲からない」と一蹴されたのですが、企業活動には必要だと思い、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを作ったことが、全ての活動の根っこだったのだと思います。

日本の工芸を元気にする!(中川政七商店)

アップデートしたのは、3つです。

まず、分業制からSPA業態にしました。

工房、産地問屋、流通問屋、百貨店があったので、我々も百貨店に商品を卸して、売り場に人を派遣していたのですが、この分業制だと、ブランドとしてきちんと認知されることはないだろうと思ったのです。

百貨店では、自社品も競合品も同じように陳列される売り場しか作れなかったので、直営店という形式にしようと考えました。

昔は百貨店が中心でしたが、今は、ルミネやミッドタウンなど都市型のショッピングセンターにお世話になっています。

工房に対しては、自社オリジナルデザインの商品をOEMとして作ってもらい、自社で責任を持って売り切るSPA形式にしたのが、一つの変化だと思います。

ただ、僕らが小売を始め、業界内では好調に見えていた2006~2007年頃、京都勢が同じようなことに取り組み始めましたが、彼らは結局いなくなってしまいました。

当時はおそらく、「流通過程で中抜きをすると利益率が上がる」みたいに見えていたのかなと思います。

しかし僕らは、お客様の前に行って、自分たちのものづくりの背景を伝え、きちんとブランドとして認知してもらうことを目標にしていたので、取った手段は似ていたとしても、目標の違いが明暗を分けたのではないかと感じています。

2つ目のアップデートは、経営再生コンサルと流通サポートです。

行政の補助金を含め、日本のものづくりを何とかしようという動きは、この30年でたくさんありました。

誤解のないように言っておきますが、デザイナーが悪いわけではないのですが、著名なデザイナーが取り組んだとしても、そのうちの99%が何ともならない事例です。

何ともならないというのは、その会社の決算書が良くならないという意味です。

有名なデザイナーが手がけると、当然その商品は雑誌などに掲載はされますが、結果的に経営が改善されないということが起こっており、それを何とかしなくてはと思っていました。

僕たちはデザインができるわけではないのですが、「過去5期分の決算書を見せてください」というところから始め、ありとあらゆる手を使って、経営と決算書を改善するようにしてきたのです。

それが結果的にうまくいったので、コンサル事業は継続しています。

また、仮にコンサルがうまくいってものができても、専門の営業員はいないので、「大日本市」という合同展示会の体で、流通面のサポートもしています。

言い換えれば、これは、デザイナーが入る部分改善ではなく、全体改善にすることで結果が出てきたということです。

3つ目のアップデートは、祐輔さんの木桶の話(Part.3参照)ともつながります。

従来の産地のあり方は組合が起点で、補助金を得ながら、産地ブランドをみんなで何とかしていくというものでした。

しかし、いよいよそれでも回らなくなってきたため、僕らが行っているのは、産地の一番元気な一番星を起点に、製造背景の垂直統合です。

先ほど「工房」と一言だけ記載していましたが、ものづくりには色々な工程があります。

従来のままでは、例えば、お酒を造ろうとしても木桶がないと造れないということが起こるように、どこかでサプライチェーンが切れてしまいます。

これを解決するには、上流工程からの全てを自分たちで行う覚悟をしなくてはらないのですが、投資も含め、それは大変です。

垂直統合を成立させるためには産業観光、つまり、一番価値が伝わる「来てもらって見てもらえる状況」を作ることまで取り組む必要がある、と、創業300周年を迎えた6年前に提唱しました。

日本工芸産地協会という新しい業界団体を作り、20年先も生き残るために取り組むべきことを伝え、その流れの中で、自分たちも奈良のまちづくりを行っています。

各務 ありがとうございます。

ライフスタイルからライフスタンスの時代へ

岩田 全方位からの取り組みで、まさに完璧ですね。

僕も、鯖江の「RENEW」や燕三条の「工場の祭典」などを参考にし、「ひつじサミット尾州」を開催するようになりました。

「産地の一番星」という言葉をよく使われていますよね。

これは、規模が一番大きい会社やブランドということではないと思うのですが、定義は何なのでしょうか?

中川 僕らが最初にコンサルティングをしたのが、HASAMIと書かれた、マルヒロのマグカップブランドです。

コンサルを始めた時には8,000万円だった彼らの売上は、今では3億円規模にまでなっており、最初は真っ赤だった経営も、今は営業利益が15%出る状態に改善されました。

すごいですよね。

波佐見という産地では、規模だけで言うと、10倍の問屋もありますから、彼らは一番大きい会社ではないです。

でも、彼らには元気な感じというか、発信力があります。

彼らは去年、HIROPPA(※)という公園を作りました。

憩いの場、そして旅の目的地に。波佐見焼の産地メーカー・マルヒロがつくった公園「HIROPPA」 | 中川政七商店の読みもの (nakagawa-masashichi.jp)

これは、僕らがお手伝いに入った10年以上前から彼らが掲げている「波佐見パークを作る」というビジョンを、多少形を変えながらも具現化したものです。

僕らは経営に関するお手伝いをしましたが、この十数年を振り返ってみると、マルヒロにとっても、ビジョンを設定できたことが大きかったのではないかと思います。

岩田 HIROPPAを作るための投資は自社でしたのだと思いますが、HIROPPAに来た人に対し、自社だけではなく他の工房に行くことも推奨するわけですよね。

最近、今さらながらですが、「利他」という言葉が僕の頭の中をめぐっていいます。

ブランディングなのだからそもそも利己の話ではないかと言われそうですが(笑)、ブランディングや産地活性化においては、利己ではなく利他が大事だと思います。

利他を自然に取り入れているということでしょうか?

中川 利他というと語弊がありますが、そういう気持ちはありますし、回り回って自分たちに返ってくると信じています。

ここ15年はライフスタイル全盛期ですが、今はライフ「スタイル」ではなくライフ「スタンス」の時代に変わりつつあるのではないかと最近、ずっと感じています。

利他とは、まさにスタンスの話です。

利他的行動で直接的に儲かることはありませんが、回り回って返ってくる、また、うちの店で買うかどうかの判断をする際、多少なりとも影響する要素になると信じています。

岩田 消費者や生活者のそういった動きは感じていますか?

先ほど別のセッションで、「企業はESG戦国時代と思っているけれど、消費者はほとんど意識していない」という話をしていたのですが、中川政七商店の現場では動きを感じることはありますか?

中川 ありますね。

最近、ICCサミットでも人気のCOTEN RADIOCOTEN CREWになりました。

岩田 ありがとうございます。

中川 あ、そうですよね、出資されていますよね。

COREN CREWになったというのはつまり、スポンサーになったということですが、見返りは何もありません。

でも、COTENを応援することが、ライフスタンスに関する意思表明として意味があることだと僕らは思っています。

そうしたらTwitterで、「中川政七商店もCOTENも大好きだったから、中川政七商店がCOTENを応援してくれてすごく嬉しい」という意見が散見されたのです。

岩田 すごい。

中川 お客様が喜んでくれているということですよね。

直接的な見返りはないし、商品には表れないかもしれないけれど、思想の表明がブランドラブにつながっていると感じます。

岩田 COTENのチャレンジはまさに、資本主義に対する利他の精神によるチャレンジですから、つながっていますよね。

中川 そうですね。

こういう文脈だと、つい環境問題にどれだけ配慮しているかという話になりがちですが、環境問題に配慮しているというのはスタンスの一部ではあるけれども、全体の話ではないですよね。

社長と社員は対等で、社長にも辞める権利がある

各務 中川さんは、構造の中にある課題を発見する力というか、事象ではなく本質の課題を見つけ、解決していくその戦略思考がすごいと思います。

その戦略思考はどこから出てくるのでしょうか?

また、構造を変えようとすると、従来のしがらみの中は、既得権益や抵抗勢力などもあると思うのですが、それらを乗り越えるポイントは何だったのでしょうか?

中川 僕は難しい話やカタカナは苦手で、シンプルにしか理解できないので、それが本質的な構想の理解につながるのかなと思います。

また、僕の前職は富士通という全く工芸とは関係のない仕事だったので、業界のことをあまり勉強していなかったことも逆に良かったのかなと思っています。

うちの社員も、一番多いのはリクルート出身者で、もともと業界内で働いていた人がほとんどいません。

抵抗勢力という点では、自虐的にはなりますが、業界自体が瀕死で、生きるためにはどうするかという状態だったので、抵抗する力すらなかったのです。

僕らが何かを変えようとした時、職人たちから何か言われませんでしたかと聞かれますが、そもそも死ぬか生きるかの時にオファーが来てお手伝いをするので、変わる覚悟は皆さん既に持っているということです。

各務 ビジョンを発信しており、そのビジョンに共鳴した人たちとかみ合った状態でスタートできるということですね。

中川 そうですね、僕らはコンサルティングサービスの営業はしていないので。

オファーが来て、変わる覚悟のある会社とのみ一緒に取り組むという形です。

岩田 僕がひつじサミット尾州を開催した際、おじいさんたちに「何を勝手なことをやっているんだ」と言われるかなと思いながらも、義理は通さないといけないと思って説明に行った際、上の世代の人たちはみんな、すごく応援してくれたのです。

「ようやくそんなことをやる気になったのか、いいじゃないか、やれやれ、金も出してやる」みたいな感じでした。

逆に一番苦労したのは、同世代で別の路線で頑張っている人たちで、「僕たちには僕たちのやり方があるので」と最初は断られたのです。

一緒に産地を盛り上げるムーブメントを作ろうと提案したのに、断られてしまい、「ええーっ!?」と思いましたが、最終的には、三顧の礼を尽くして「やってみてもいいよ」と言ってもらえました。

そして実際に開催した結果が良かったので、次回も一緒にやろうという感じになったのです。

危機感による賛同があったということですが、同じ世代の方々との方向性の違いはありませんでしたか?

中川 あまりなかったですね。

産地という枠そのものがあまりなくて、奈良で、江戸時代から麻屋の商売をしているのは、うちしかいなかったので。

輪島なら漆器、有田なら焼き物となりますが、奈良や京都は街場なので、色々な種類の工芸品がたくさんある分、何かの産地という感覚があまりないのです。

でも、岩田さんのおっしゃることは想像できますし、三顧の礼を尽くすところが偉いなと思います。

僕の場合、一回で「ああ、そうですか」と終わってしまうので(笑)。

岩田 (笑)。あと、産業と工芸だと、規模が違いますよね。

ウールは工業化された産業なので、工芸とは動きが違うのかなと思いました。

僕が中川 政七さんの好きなところは、「いつでも社長を辞めてやる!」というスタンスで社員と接しているところです。

先ほど各務さんが言ったしがらみを振り切れたのは、その軽やかなスタンスからではないでしょうか。

ずっとそこにいないといけないと思うと、怖くなりますよね。

中川 そうですね、実際もう辞めていて、2018年に社長交代をしています。

今はコンサルと奈良のことだけに取り組んでいて、本業には全く関わっていません。

世の中にこれだけ良い会社がたくさんあるので、労働基準法の観点からだとそうならないかもしれませんが、個人の価値観によって、選び選ばれになると思います。

社長と社員は対等だと思っているので、もし社員が会社を気に入らなければ辞めればいいし、僕にも辞める権利があるとは伝えていましたね。

岩田 国見さんが言っていた、サラリーマンこそ冒険者という話とつながる気がします。

後継や経営者は辞めてはいけないという呪縛があるがゆえに、動けない、ここにいないといけないという気持ちがあるのではないでしょうか。

中川さんは、そこから抜け出しているように思います。

中川 後継の方からの相談は、めちゃくちゃ多いですね。

親との確執があるなどですが、そういう時に僕がいつも言う一言は「もう辞めたらいいと思いますよ」です。

星野リゾートの星野(佳路)さんも一度辞めていますし、それくらいの気持ちの方が結果は良くなるのではないかと思いますね。

岩田 そのくらいのスタンスでいる方が、アップデートできる可能性が高いということですね。

中川 はい。

各務 では、少し毛色が変わって、デザインとテクノロジーで不動産業界をアップデートされている濱渦さん、よろしくお願いいたします。

(続)

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編集チーム:小林 雅/星野 由香里/浅郷 浩子/正能 由佳/戸田 秀成/大塚 幸

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