2月19日〜22日の4日間にわたって開催されたICC FUKUOKA 2024。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。このレポートでは、前後編で、2月20・21日に開催された第2回「SAKE AWARD」の模様をお伝えします。出展企業中唯一の泡盛の蔵、池原酒造がいかに優勝を勝ち取ったのかを詳細レポートします。ぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット KYOTO 2024は、2024年9月2日〜9月5日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
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地元文化への愛に乾杯! 第2回SAKE AWARD優勝の池原酒造が魅せた泡盛の魔法(前編)
DAY2 決勝トーナメント
決勝トーナメントは、まず準々決勝6社が4社に絞られ、4社から決勝進出2社が決まり、決勝と、3位決定戦がそれぞれ行われた。前日同様、最初の1分スピーチでは優勝にかける意気込みがさらに熱く語られた。
エシカル・スピリッツ小野さんは、酒の消費が循環経済に貢献する社会の第一人者となる夢と人類初のお酒作りを語り、ぷくぷく酒造の立川さんは「決勝では、ホップ酒の中でこの世で一番うまい酒が出ます」と勝利への意欲を語った。
OPEN BOOKの田中さんは「昨晩のみなさんとの飲み会が楽しく、勝敗を決めたくない」と言いつつも「テロワールも何もない自分たちの売りとは何かと改めて考えた」と勝負に臨む気持ちを明かした。
ペナシュール房総の青木さんは自分たちのラムをパリに届ける夢を後押しするのはアワードの優勝だと語り、稲とアガベ岡住さんは、世界に羽ばたく新しい酒のデビューの場として決勝を選んだこと、最高の状態で味わってもらうために酒碗まで特別に準備していることを明かした。
ICC FUKUOKA 2024では、どのカタパルトやアワードよりも、このSAKE AWARDが、誰もが優勝を求めて火花を散らし、熱い戦いを展開した。審査が始まり、美酒が回ると会場の雰囲気はふわっと柔らかくなるが、提供する側は真剣そのもの。どの酒をどの順番で出すか熟考を重ね、場合によってはその順番を変えることもあった。
前日に続いて、決勝トーナメントの勝ち抜きとブースでのプレゼンを紹介しよう。
準々決勝
【準決勝進出】 稲とアガベ / 稲とウメ
日本一の梅の産地、和歌山みなべ市で梅文化を残すために活動する農家梅ボーイズの梅を使った酒 「稲とウメ」を冷/熱の2種類で提供。といっても梅酒ではなく、米と麹を使った梅の醸造酒で、梅の風味を残した味わい、辛口も甘口もできる造りだ。
梅ボーイズリーダーの山本将志郎さんは、当初梅酒を造りたいと思っていたが、これを飲んでクラフトサケの醸造所を作ることを決めたという。岡住さんはそんな若手たちのサポートにも意欲的だ。
【準決勝進出】池原酒造 / SHIRAYURI INUI コーヒー割
決勝トーナメントでサプライズを連発した池原酒造、この準々決勝ではコーヒー×泡盛という組み合わせだ。
池原さん「オーダメード銅鍋の蒸留釜で直火蒸留していて、最後のほうでもろみの焦げ感が出て、香ばしさが出ます。INUIの特徴はその複雑な香ばしさで、コーヒーを掛け算すると、INUIの魅力を最大限に引き出してくれます」
比嘉さん「世界中で愛されるコーヒーと、泡盛の相性は抜群です。昨日は王様の飲み方をしていただいた泡盛ですが、戦争時は質が悪くなり薄めて飲むしかなく、大衆酒になりました。今日もきっと沖縄のどこかの居酒屋で、コーヒーと割って飲んでいる人がいますが、それだとちょっと物足りない。
なぜならコーヒーは世界で一番進んだ飲料なので、ちゃんと割り方、抽出があります。コーヒーを薄めてはいけないし、40度ぐらいだとコーヒー好きが飲めないので、10度に薄めたINUIで抽出した、泡盛出しコーヒーを用意しました。石垣島で焙煎したコーヒー豆と泡盛、島の掛け算です。
これを世界中のコーヒーファンに届けたい。そしてあなたが飲んでいる酒は日本の泡盛だよと伝えたい。まずは一口飲んでから、できたてのフレッシュでやわらかな黒糖をなめして、掛け算すると複雑な層が生まれておいしいペアリングになります。溶かしながら口内調味をお楽しみください」
【準決勝進出】OPEN BOOK / リアルレモンサワー(海外)
レモンサワーだけ4品を用意したOPEN BOOK田中さんだが、この準々決勝は”すごいレモンサワー”だという。背後ではシェーカーを振る音がしている。それに込めた想いは熱く、OPEN BOOKを通して目指していることを訴えた。
「日本でサワーというのは、居酒屋で出てくる炭酸で割るものをイメージされると思うのですが、海外でサワーというとこういうカクテルのようなもの。日本のサワーはガラパゴス的に進化しているのです。
海外で日本酒は売られていても、焼酎は全くない。僕らがサポートしたいのはそこで、焼酎を売るために僕らのレモンサワーで何かができないか。
日本のレモンサワーをそのまま持っていくのではなく、海外のカクテルを学んだうえでやる。Bar Aoで学んで実践しながら、輸出する。レモンサワーからサワー・カクテルにどうやったら持っていけるか、それを伝えることをしながらお酒を売る。ものの前に事が必要ってことです。
ペルーのマイナーだった酒のピスコが、ピスコサワーになって売れたようなことを、レモンサワーでやりたい。僕らのオープンブックは日本のブランドだけど、焼酎でそういったことをやっていきたい」
【準決勝進出】エシカル・スピリッツ / Re FLY
「Re FLY」で準々決勝に臨むエシカル・スピリッツは、JALとのコラボジンで勝負をかける。ブースではエシカル・スピリッツの山口 歩夢さんがトニック割りを作り、製造担当の辰巳 和也さんが説明した。
「間違いなく、世界で一番貴重な体験をしていただけます。JALのファーストクラスラウンジで出されている最高級のコーヒー豆の抽出後のコーヒー粉と、オリジナルラウンジアロマの香りを思わせるヒバや柚子などをボタニカルに使っています。トニック割りでどうぞ」
と言って、小野さんがトニック割りにアトマイザーから吹きかけたのが、ごくわずかしか採れない貴重なWoodSpirits。森林のような素晴らしい香りがジンに加わり、審査員たちはしばしうっとりと香りに酔いしれた。
ぷくぷく醸造「ぷくぷく醸造の純米酒 天のつぶ92 w/ホップ」
ぷくぷく醸造の立川さんは、敬愛する米農家への尊敬を真摯に伝えていた。それを受け止める審査員たちも真剣に、酒の奥にある農家の想いまで受け止めようと、冷酒と熱燗の両方を味わっていた。
「こちらは根本有機農園のお米”天のつぶ”による純米酒です。避難指示区域で、根本さんは2012年に人が住んではいけなかったころに田んぼを再開して、2016年までは栽培しても食べていけなかったのですが、田を荒らさないためにずっと栽培をしていました。その方と一緒にお酒作りをしています。
2杯目はホップを入れたお燗でどうぞ。日本酒はそのまま飲むという固定観念があると思いますが、十辺舎一九の『手造手法』という文献によると、26種のお酒のレシピが書いてあります。今のクラフトサケに通じるような自由な酒造りを江戸時代からしていたんです。
ホップのお酒を口に含みながら、炭酸水を飲んでいただくとレモンサワーのようなビールのようなさわやかな味が口の中で体験できます」
ペナシュール房総「BOSO Rhum Fleur-花- Contient de la mélasse alc.40%」
ペナシュール房総の青木さんは、牛乳とラムを合わせたカクテルをプレゼン。ペアリングのチーズタルトまで、同じラムで揃えるというこだわりぶりだ。
「ラムにもホットカクテルがあります。『ホットバタードラム』を用意しました。
南房総は日本酪農の発祥地、私たちのさとうきびの搾りかすを飼料として提供して、堆肥と交換している須藤牧場のノンホモジャージー牛乳で仕上げた循環型カクテルです。スパイスには南房総産の『やぶ肉桂』を使っています。ベースはうちで一番弱い40度のラムです。
ペアリングは、同じラムを使用したラムレーズンチーズタルトです。バターは入っていませんが、この牛乳は乳脂分が高いのと、ペアリングも合わせていただければ」
決勝トーナメントは展開が早い。準決勝に駒を進めた「稲とアガベ」「池原酒造」「OPEN BOOK」「エシカル・スピリッツ」は、その場でガッツポーズしてすぐに次の戦いのための準備を始めた。惜しくも脱落した2組は、準備した酒が出せなくて残念そうにしているが、ここからは勝負の緊張感から解き放たれ、審査員に回る。
この先4組は、決勝戦に進む2組、3位決定戦に回る2組に運命が分かれる勝負に挑む。
準決勝
【決勝進出】池原酒造 / shimmer #5
また、あの小さい酒杯、チブグワァーがやってきた。何かが起こりそうな予感である。この二人、今度は何で驚かせてくれるのか。期待はここまで裏切られたことがなく、審査員たちはわくわくしながら次の泡盛と説明を待っている。
池原さん「名前になっている”shimmer”は、 沖縄の方言で島々、または泡盛のことを島酒といいます。若者や地元の人はしまと略して使います。『今日しま飲みに行こう』みたいな。
去年12月、泡盛をアップデートしたいという気持ちから生まれました。『白百合』と違うのは、泡盛酵母を使っていないことです。泡盛業界では初、チャレンジングなウィスキー酵母を使っています。泡盛の独特な香りは抑えられ、華やかな甘みが出るような特徴に仕上がりました」
比嘉さん「昨日に続いて王様の飲み方を、アップデートしたいと思います。
昨日は冬瓜漬だけですが、その上にカカオニブが乗っています。この状態を何というか知っていますか?
”チョコレート”っていうんです。みなさんが食べたことのあるチョコレート、本当にそれはチョコレートですか? 意外といろんな物が入っていますよ。
砂糖とカカオ、材料2つのチョコレートを食べたことがなければ、きっとこれが人生初めてのチョコレートかもしれません。丁寧に焙煎された浅煎りのカカオ豆と、冬瓜の砂糖漬の砂糖でチョコレートです。
これを咀嚼しながら、つなぎの役割でshimmerを口のなかへ。複雑味が減ったぶん、余韻にきれいにチョコレートの香りが広がるはずです。これは琉球の王様も食べたことのないアップデートされた、今だからできる王様超えのチョコレート体験です。ぜひゆっくりとチャレンジしてください。
カカオは油分が豊富です。油と相性がいいのはアルコール。そこに混じり合ってチョコレートが生まれます。少量だけ口に含んでください。逆に水分量が多いと流れてしまってチョコレートは成立しません。このきれいなウィスキー酵母のshimmerだからこそできる香りのペアリングでもあります。
一日の終わりに泡盛を思い出してください。いろんなお酒を味わったあとに、ちびちびとゆっくり味わうのが泡盛の魅力です」
【決勝進出】OPEN BOOK / レモンサワー缶
予選ラウンドでは果たしてどこまで本気なのか、審査員を楽しませながらもポーカーフェイスなプレゼンをしていた田中さんだが、この決勝トーナメントでは熱の入った語り口だった。しかしこの期に及んで、勝負の行方をどこまで気にしているのか、缶のレモンサワーを出してきた。
「乾杯しましょう! このレモンサワーには、焼酎の末垂れ(蒸留酒を抽出する際の最後の部分)を入れています。産業廃棄物です。蒸留の最後で使えないアルコールを使って、4%という低アルコールのカクテルを作り直す。SDGsなレモンサワーです」
これは2023年9月に本格営業を開始した店舗「OPENBOOK破」で製造されたもので、店では缶チューハイ工場を併設しており、眺めながら飲食を楽しめるのだという。
「サードレモンサワーは、国産プレミアムチューハイ。カクテルに合わせないで、缶をそのまま売ります。
ものばかり売るのではなくて、こういうカルチャーを伝える。日本のお酒文化を伝えるために、サワー・カクテルを缶チューハイでという、レモンサワー缶のアイデアです」
これがすこぶる美味しいらしく、審査員たちは福岡から帰ったら店に行ってみようと口々に話し合っている。
稲とアガベ / 男鹿限定みずもとDOBUROKU
追われる立場のチャンピオン、岡住さんは声を張っていた。
「最後はどぶろく。副原料はなく、米と麹とお水だけです。最高の熱燗で楽しんでいただければ。
どうですか? ほっとしますか? 肩の荷を下ろして聞いていただければ。
ただのどぶろくではなくて、室町時代に生まれた菩提酛(ぼだいもと)という製法で、水の中に生米と炊いた米を入れておくと、天然の乳酸菌や酵母がやってきます。それを『そやし水』といいますが、それを仕込み水に使う天然の乳酸菌で作ったお酒です。
そやし水は結構臭いのですが、臭くないそやし水の製法を確立しました。製造の期間に一定の温度ショックを与えると、臭くならないんです。でも、製法だけではこんなにおいしくならないです。
秋田には耕作放棄地がどんどん増えています。それを僕たちの手で開墾して田植えして出来上がったお米で作ったのがこのどぶろくです。それもただの米じゃないです。肥料も農薬も使っていない、自然栽培です。そのお米じゃないとこの味は出せません。
ちゃんとロジックはあります。酒に使う米はなぜ磨くのかというと、米の外側のタンパク質が雑味につながるからです。僕たちは磨きたくない。そのタンパク質は田んぼの肥料からくるから、肥料を抜いてあげると、タンパク質の少ない米ができる。そういう特殊な米だから、磨かなくてもおいしいお酒ができるんです」
エシカル・スピリッツ「KYOTO PEPPER ÉTHIQUE」
「KYOTO PEPPER ÉTHIQUE」は、もともと2番目に出すことを想定されていた。もちろんこれも未活用の素材を使ったもので、山口さんが解説する。
「京都の産官学で生育している新京野菜『京の黄真珠』というハバネロの未成熟果で蒸留したジンです。ジュニパーベリー、粕取り焼酎だけで仕上げたジンです。焼酎を使い、ゆっくり揮発を抑えながら抽出したことで、辛味はありません。まずは生のまま飲んでください。素晴らしい香りがあります。
このジンはカクテルにとても合います。ブラッディーサムという、トマトジュースに少しだけレモンと黒こしょうで造りました。
カクテルは料理に合わせるものがありませんが、焼酎をベースにすることで、エシカルなカクテル、食中酒になります。ペアリングで、飲んだあとにイタリアの薄いパリパリとしたパンを食べていただく、それを繰り返していただくと、お互い引き立てあいます。
ジンはいろいろなロスになるもの、未成熟な農産物をどんどん使える、新ジャンルのお酒になると思います。新しいもの、未活用なものの香りにフォーカスをして、新しいおいしさを作っていきたいと思います」
◆ ◆ ◆
4組のブースを審査員が回り切ると、結果発表。おそらく会場の誰もが愛し応援しているディフェンディング・チャンピオン、稲とアガベは、なんとここで3位決定戦に回ることになった。泡盛vs.レモンサワー。この決勝戦を、始まる前は誰が予想できただろうか。
3位決定戦
【3位】 稲とアガベ「花風」
3位決勝戦に回りながらも、再びギアを入れ直した岡住さんは、3位を確定させるべく全力のプレゼン。なんといっても前回の優勝から生まれた「花風」のお披露目の場なのである。
「前回ありがたいことにチャンピオンに選んでいただきました。ICCという場には、チャンピオンに責任が伴うと思っています。世界に羽ばたく、日本を代表する銘柄を作る。それがICC SAKE AWARDです。そこで優勝した僕は世界に羽ばたかないといけないんです。その責任が生じました。
1か月悩んだ末の結論は『獺祭、ヤッホーブルーイングに僕はなる』。クラフトサケをしっかりした文化にするんだと、そう覚悟して半年間試行錯誤して造った酒がこのお酒です。世界初公開です。ぜひ飲んでってください。精米は90%、磨いていないです。
乾杯。
クラフトサケ、色々やってきましたが、本気の課題は定番酒がないことです。
僕たちの酒が飲食店に置かれたとき、通常1杯2000円とか2500円です。そうなると一般の人は手を出せないじゃないですか? なので、僕たちがこの半年でやってきたのは価格を下げることです。
通常もろみの発酵期間は、30日〜35日ぐらい。それをいろいろ試行錯誤した結果、半分に縮めることができました。そうすることで倍製造できます。そうすると価格が下げられます。 2/3の価格にすることができました。 720mlで2,100円なら、飲食店さんに置いてもらえるんです。
このお酒を日本中世界中の飲食店さんに置いてもらってそれを一般の方々が楽しむ、そういった存在にクラフトサケがなっていく歴史の1ページがこのお酒です。この場でこのお酒を飲んだことを、いつか皆さんが誇りに思えるようにこれから頑張っていきますので、ぜひ応援をよろしくお願いいたします」
強力で魅力あるライバルの前に倒れながらも、自分たちの信念を伝える岡住さんに、参加者たちはエールで応えた。ファンを毎回増やし、みんなが応援している蔵、そんな共通認識がありながらも3位に甘んじたのは、残る2組があまりに新鮮だったから。それでも3位というのは十分すごいことなのだが。
エシカル・スピリッツ「LAST ELYSIUM(ラスト エリジウム)」
3位決定戦は、山口さん小野さん2人が、声を振り絞って自分たちの酒と目指すところを訴えた。廃棄されるものが、新たな味を生み出すポテンシャルを時間の限り伝えた。
小野さん「みなさんが我々のジンを飲んで少しでもワクワクしたなら、今回参加した意味があると思っています。
原点回帰というところでいうと、我々は酒粕です。その有効活用からスタートしているので、それをいかにインパクトをもって消費量を上げていくかということになると、我々はナショナルブランドにならなければならない。そこで初めて酒粕を消費できていると言うことができます」
山口さん「最後に出すお酒、ラスト エリジウムといいます。原酒に佐賀県の粕取り焼酎を使い、ボタニカルは収穫の際に廃棄されてしまう生姜の葉の部分、柑橘の絞り粕の皮の部分など計13種類のボタニカルを使った新しい僕らのシグネチャージンです。
粕取り焼酎の吟醸香からきて、生姜の葉、柑橘性のフルーティーでオリエンタルな香りが後に続きます。蒸留でも工夫しております。アルコールが立ったドライジンとは違って口の中でふわっと柔らかく降りてきてストンと落ちるようなまるで羽のようなフェザータッチジンです。
今からジントニックも出すので、ぜひ飲んでみてください。ジンはトニックで割ると、非常に香りが開きます。先ほどまで少し閉じこまっていた果実の顔がぱっと開いて、非常に飲みやすい味です」
小野さん「酒粕を使ってジンを作っていくのですが、全国の酒粕の生産量は3万2000 トン、そして3200トンが廃棄されていると言われています。僕らが今どれだけ再利用できているかというと、1%でした。まだまだ僕らは未熟です。
その消費率を100%に上げたいと思っております。みなさんがお酒を造るときに出る酒粕を僕らが使ってあげます! いろんな未活用を使うことによって、世界で最も価値のある、価値を作り出すゴミ箱になりたいと思っております!」
未活用素材という制約を楽しむかのように、それぞれ異なる4種類のジンを出し切ったエシカル・スピリッツ。普段口にしない素材から素晴らしいジンができることを知り、素材が意外だからこそ味覚嗅覚を刺激されるという体験は、審査員たちに唯一無二の存在を印象付けたのではないだろうか。
決勝
既報の通り、池原酒造が優勝を飾ったが、決勝戦で2組がどんなプレゼンを展開したのかをご紹介しよう。
この決勝トーナメントで、サプライズの連続で審査員のみならずライバルたちも魅了してきた池原酒造の泡盛と、「最初はピンとこなかったけど世界に行ける可能性を感じ始めた」と審査員が言うレモンサワーの店のOPEN BOOK。どちらもダークホースだが今回最も支持された2組である。
【優勝】池原酒造 / shimmer ハイボール
今思い返しても感嘆してしまうのは、彼らが出してきた4種の泡盛の順番、構成の見事さである。
予選では王様の飲み方、準々決勝では10%の泡盛で抽出したコールドブリューのコーヒー、準決勝では泡盛がアシストするカカオニブと砂糖漬けの口内調味によるチョコレート。審査員は毎回そのアイデアに驚かされ、続いて味わいに驚かされ、楽しんだ。
それがこの決勝ではどうだ、普通に泡盛のハイボールと駄菓子というシンプルさである。プレゼンを聞いてみよう。
池原さん「沖縄で乾杯は『カリー』という言葉です。幸あれという意味があります。私たちが『カリー』と言ったら、みなさんもお願いします。それで乾杯しましょう。
今日は本当にありがとうございます。まだまだ頑張ります!『カリー!』
塩せんべい、めちゃくちゃ合いますのでどうぞ」
比嘉さん「泡盛は、蒸留酒ですが、ドライではありません。甘みを感じませんか?
これがやっぱり手作りならではの1回しか蒸留しない泡盛の特性であり、だからこそ塩味の効いた食べ物はそれを抱きしめてくれて旨味が増します。
ペアリングはローカルなんですが、鉄板です。塩せんべいは水分も欲しくなるから交互に楽しんでください。ローカルの子どもたちもよく食べます。サクサクしてて塩味があるから、バニラアイスとか乗せて食べたり。
基本の白百合でありますが、甘みのボリュームがしっかりあるので、こうやって炭酸割りにしたら泡盛でも相性もばっちりです。泡盛はいろんな表情、いろんな飲み方で体験ができます。
今日を思い出して、コーヒーで飲みたいとか、炭酸で割りたいとか、 1日の終わりにストレートに飲みたいとか、皆さんの人生の中で白百合を思い出してもらえると嬉しいです。
1、2、3 回ともちょっとハードル高い王様のペアリングとか入ってましたが、最後はこれ。手軽に乾杯しましょう。
石垣のスナックの特徴って、おばあとかが無限におつまみを出してくるんですよ。頼んでもいなくて、今食べてきたというのに、手羽先とか出てきます(笑)」
そう言うと池原さんと比嘉さんは、この2日、本当に楽しかったと審査員たちと語り合いながら和やかに飲み始めた。まるで戦いが終わったあとのようだった。さまざまな酒を飲んだあと、審査員たちが欲していたのもおそらくこれだったのだろう。
【2位】OPEN BOOK / リアルレモンサワー(樽)
一方、OPEN BOOK田中さんのプレゼンは、回を増すごとに硬派な思想がどんどん見えてきて、それが審査員たちの心を捉えている。
「樽をやっていると面白くて、やっぱ世界のスピリッツは樽に向かうんですよ。
樽熟でウイスキーと言ったときにウイスキーで海外だと基本的には穀物、とうもろこしを使ったり、ピートで香りづけをしたり、基本的には最後樽熟にしていくスピリッツをみんなウイスキーと呼んでいる。僕はどんどんそういう風にして、日本のスピリッツをどんどん樽熟させて付加価値をつけて売るっていうスタンダードを作りたい。
海外ではお酒を造ってないボトラーズという概念があるんです。
造らないで、樽にお酒を入れることによって価値を出して売るのは海外では当たり前で、僕はそういうことをやりたいんです。醸造も蒸留もしないんですけど、 逆に売るマーケットをすごく理解しているから絶対お店をやめないつもり。お店をやってそこがわかっているからこそ、ちゃんと付加価値をつけて売りたい。
そうすることによって、僕らが買う値段、今僕らこの蔵元さんから一升瓶で3,600円ぐらいという結構高い値段で買わせてもらってるんですが、僕らが買う付加価値も上げて売るというのを4杯通じてやらせてもらいました。だからこの樽熟のレモンサワーが 1番高い酒です。僕らはプロダクトはないんですけど、こういう風にしてやってます」
すべて飲みきったあと始まった優勝発表と表彰式では、皆お酒が入っているためか、ゆったりとした雰囲気のなか感傷的にもなる。造っている人たちの想いをひたすら受け止めながら飲んだ2日間を終えて、審査員たちからは、未来の獺祭がここから出てくることへの期待、全力投球の戦いへの感動が語られた。
温かい雰囲気のなか、出展企業に向けてスタンディングの拍手が行われ、池原酒造の優勝が発表された。マイクを握ったICC小林も「予想もしていなかった」と詫びていたが、おそらくそれは前日の誰もがそう思っていたことだろう。壇上では前回チャンピオンの稲とアガベ岡住さんが、お祝いを伝えている。皆笑顔で、前夜のCo-Creation Nightですっかり仲良くなっていたようだった。
優勝後、池原さんにコメントを聞くと「石垣島から来て泡盛一社だけで、どんな戦いになるのかなと思ってたんですけども、まだ知られていないという状況だったので、まずは知ってもらおうという気持ちが強かったです。
泡盛はきついとか臭いとか、マイナス要素がすごく大きくて、振り幅がすごい。泡盛を知ってもらって、価値観を皆さんに伝えられることができたから優勝できたのかなと、ミラクルだと思います」と語った。
その隣では、毎回トーナメントを勝ち抜く度に、動画を撮っていた比嘉さんが、最高の結果を全国のシラユリスト(池原酒造の白百合のファン)に報告するために、池原さんの動画を撮っていた。
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酒造りというと、無口で自分の酒造りに向き合う人たちが多いのかと思いきや、このSAKE AWARDでは誰もが雄弁、自分たちの夢と酒造りを語って伝えてこそという場になっている。とにかく旨い酒を造って伝えること、それがこのノンジャンル・バトルを成立させている。
オフィシャル審査員の他に、このアワードは志望動機をしっかり書いて参加するゲスト審査員もいる。お酒が好きであれば、これほど熱いプレゼン&飲酒バトル、そして未来のスター蔵が生まれる瞬間を目撃できる場を見逃す手はない。ナイト・プログラムも充実しているICCサミットだが、このSAKE AWARDはその目玉の一つである。
▶前編はこちら
地元文化への愛に乾杯! 第2回SAKE AWARD優勝の池原酒造が魅せた泡盛の魔法(前編)
(終)
編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成