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光合成を見える化!三重県の“農業ベンチャー”あさい農園の最先端ハウス栽培とは?【ICCビジネス・スタディツアー vol.6 あさい農園編】

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今回のICCビジネス・スタディツアーでは、三重県津市に本社を置く「あさい農園」を訪ねました。あさい農園は、ミニトマトの開発から生産・流通までを自社で構築する、1907年創業の“農業ベンチャー”です。光合成の可視化設備や、太陽光とLEDを併用した植物工場を見学させていただきました。ぜひご覧ください!

▶ICCパートナーズではコンテンツ編集チームメンバー(インターン)の募集をすることになりました。もし興味がございましたら採用ページをご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2020は、2020年2月17日〜20日 福岡市での開催を予定しております。参加登録などは公式ページをご覧ください


2019年11月、ICCパートナーズはICCサミット参加者の皆さんや運営チームスタッフとともに、愛知・岐阜・三重・京都と渡り歩いた第6回ICCビジネス・スタディツアーを実施しました。当レポートでは、同ツアー2日目の模様を詳細レポートとしてお届けします。

本日の目的は、三重県津市に本社を置く「あさい農園」の最先端のハウス栽培を学ぶこと。同社代表取締役の浅井雄一郎さんは、前回ICCサミット KYOTO 2019のアグリ&フード・カタパルトに登壇いただいた農業経営者です。

名古屋から東名阪自動車道を走ること約1時間、芸濃インターチェンジを降りて数分のところに「あさい農園」はありました。

株式会社浅井農園(三重県津市)

ICCサミット参加者からは、ファームシップの安田瑞希さん、inahoの菱木豊さん、日本農業の内藤祥平さん、三星グループの岩田真吾さんらにご参加いただきました。運営チームからは、石橋康太郎さん、坂上聖奈さん、津田晋吾さん、そしてファームシップに勤める能任花林さんの4名。

全員が到着したところでインターホンを鳴らすと、浅井さんがお迎えしてくださいました。浅井さん、よろしくお願いします!

株式会社浅井農園 代表取締役 浅井 雄一郎さん(右)

お出迎えいただいた浅井さんの後ろに、ガラス張りの大きな部屋が見えます。建屋の外観からは想像できませんでしたが、このフロアは出荷場になっているようです。

出荷作業を行うスタッフの方々

浅井さん 「本日は遠いところまでようこそお越しくださいました。よろしくお願いします。

ここは、全部で4箇所あるミニトマトの出荷場の1つです。機械化も積極的に進めていて、設定したグラム数にあわせて自動でトマトを選んで詰め込んでくれる機械を導入しています。ちなみに出荷量は、グループ全体で1日3〜5万パックほどです」

「自動?」「5万パック!」「すごい」

エントランスからいきなりスタートした見学ツアーに、語彙力が追いつかない参加者一同。

浅井さん 「本日は『オランダ式』と『スペイン式』のハウス見学ツアーをご用意しています。その前にまずは、弊社の取り組みや昨今の農業が抱える課題について説明させていただきたいと思います」

2階の会議室にご案内いただき、浅井さんのレクチャーをいただきました。

このままでは、世界人口100億人時代の食料がまかなえない!

浅井さん 「ご存知のことと思いますが、農業分野では今、大きな構造変化が起こりつつあります。

まずは市場環境の変化です。農業の話題というと、高齢化などのネガティブなニュースが多いように思います。確かにそのとおりなのですが、2050年に予想される『世界人口100億円人時代』に向けて、市場が拡大しているという見方もできます。

2030年には、食市場は現在の約1.5倍、1,360兆円に成長すると言われています。さらに、インターネットによる情報化がもたらす食文化の多様化も大きな流れです。日本食が世界で注目されるように、日本の優れた農作物が世界から注目される機会は、今後も増えてくるでしょう。

ただやはり、農産業そのものに目を向けてみると決して楽観的にはいられません。統計データによると、日本の農業経営体数は1995年から2015年までの20年間で年間6万戸以上のペースで減少しています。この流れは現在も止まりません。2015年に138万戸存在していた農業経営体は、2030年には40〜80万経営体に減少すると試算されています。

気候変動の問題も無視できません。気候変動に起因する自然災害の増加、生態系の変化、枯渇する天然資源と国際競争など、農業環境の持続可能性(サステナビリティ)は危機に瀕していると言えます。

今のままだと、2050年の人口100億人時代の食料を私たちはまかなえないのではないかという危惧があります。このような中、各国の農産業政策をレビューしたOECD(経済協力開発機構)のレポートでは、『日本は農業のイノベーションに対する投資が少ない』と論じられています。

2019年OECD報告書「日本農業のイノベーション、生産性及び持続可能性」(英語)

農産業が盛んなオーストラリアやカナダなどでは、国の農業予算がイノベーションに直結する形でかなり多く配分されています。一方で日本では、農業土木のインフラ投資や米への補助金が大きな割合を占めているのが現状なのです」

冒頭から決して明るくないトーンではありますが、日本と世界の農産業の切実な問題を改めて認識した参加者一同。一方で、今回ツアーに参加いただいたファームシップ、inaho、日本農業に始まり、ICCサミットではファームノート、農業情報設計社、GRA、seak、ビビッドガーデンなど、農産業のイノベーションに挑戦する多数の農業系スタートアップに登壇いただいていることは、大変喜ばしいことだなと感じます。

続いて、そうした状況下においてあさい農園が何を目指すのか、その取り組みをご紹介いただきました。

あさい農園は、創業100年で「ベンチャー企業」に?

浅井さん 「あさい農園は1907年創業の会社です。私は28歳のときに東京から三重にUターンし、家業であるあさい農園を継ぎました。家業と言っても、父親の代までは花や植木などの花木生産だったので、いわゆる“第二創業“ですね。創業からちょうど100年後の2007年に完熟チェリートマトと呼ばれるミニトマトの生産を開始し、今に至ります。

弊社の強みは、この10年間、R&D(研究開発)から生産、流通までの農業バリューチェーンを自社で構築し、規模拡大と生産性向上を図ってきたことにあります。

さらに最近では、種や農業技術の開発と出口戦略に資本を集中投下しながら、生産面は必ずしも自社で100%のオーナーシップを持つのではなく、さまざまな企業とパートナーシップを結んで取り組んでいます。本日最後に見学していただくうれし野アグリもその1つですが、こうした取り組みで農産業の価値最大化を目指しています。

あさい農園のコーポレート・スローガンは『常に現場を科学する、“研究開発型の”農業カンパニーを目指す』です。

ゲノム育種、AIによる生産管理、光合成の見える化、農作業用ロボットの開発などその範囲は多岐にわたりますが、まずは何と言っても、目指すべきは光合成量の最大化です。これについては後ほど現場をご覧いただきます。

品目としては、ミニトマトの他、キュウリ、パプリカ、ナス等の施設栽培品目の研究開発・試験栽培も行っています。三重の温暖な気候を活かして、キウイフルーツ、アボカド等の果樹園地開発にも着手しました。さらに、種子・資材・グリーンハウスなどのあらゆる面で海外パートナーとの連携を広げ、海外の先端技術の発掘と自社技術との融合に努めています。

事業承継した当時は両親とお手伝いさんのみの会社でしたが、いまはグループ全体で500人の会社になりました。トマトの栽培自体は僕一人から始まったようなものなので、今の組織はみんな僕よりも若い世代です。歴史だけ見れば創業110年の老舗企業ですが、ベンチャー企業のような気持ちでやっています」

スペイン・アルメリア地方の巨大ハウス群

最先端の施設園芸を知るために、毎年のように海外視察を行うという浅井さん。スペイン・オランダ・イスラエル・中国・韓国といった世界各国のハウス栽培の最新動向なども解説いただきました。

途中、ファームシップ安田さんやinaho菱木さんからの専門的な質問が飛び交いながら、30分のレクチャータイムは終了。次はいよいよ、あさい農園が誇るミニトマトの栽培現場の見学です。

「光合成」を見える化!あさい農園の最先端農業

まず見学させていただいたのは、「オランダ式」と呼ばれるガラス張りのハウスです。

種子や微生物を持ち込まないように、靴の上からビニールを履きます

あさい農園のオランダ式ハウス(研究棟)

ハウスの中は思った以上に天井が高く、その日の晴天もあってか長袖だと蒸し暑さを感じるほどの温かさでした。身長の倍くらいある植物体から、たくさんのトマトが実っています。

こちらのミニトマトは、浅井さんがスペインで探してきた品種だとか。海外視察に行った際、良い品種があればそれを持ち帰ったり、さらにそれを品種改良したりするそうです。ここで、ICC FUKUOKA 2019 スタートアップ・カタパルト王者、inahoの菱木さんから質問が入ります。

菱木さん 「良い品種はどうやって見つけて、どうやって持って帰ってくるのですか?」

浅井さん 「種苗会社の試験場に赴いて、そこに無数にある品種の中から『これなら日本で売れそうだな』というものを目利きして、契約交渉をして持って帰ってきます。ただ彼らとの関係性も大事で、最初の頃は大学院生という身分を活かして『自分もブリーディングの研究者だ』と言って現地のブリーダーと仲良くなれたのはよかったですね。今では毎年会いに行く海外のブリーダーもいて、そのたびに新しい品種を見せてもらいます。

ただ、育てる環境が違うとうまくパフォーマンスしない品種もあり、試行錯誤をしながら開発をしています」

この研究棟の管理者でもあるエミルさんにもお話を伺いました。

スウェーデン出身のエミルさん

エミルさん 「私は1年ほど前にあさい農園に入社し、半年前からパート従業員の皆さんの労務管理や、美味しいトマトを育てる環境づくりを担当しています。ここで言う環境づくりとは、受粉のためのハチの管理から温度・湿度の管理などですね」

菱木さん 「天井からぶら下がっている、あのビニールは何ですか?」

自動野菜収穫ロボットを開発するinahoの菱木さんは質問に余念がありません。

光合成量を可視化する装置

浅井さん 「これが、先ほどお話しした光合成を見える化する装置です。このチャンバーの中には2つの植物体が入っていて、チャンバーの下部は開放状態、上部にはファンがあり、空気が下から上に抜ける仕組みになっています。すると、入り口のCO2(二酸化炭素)濃度と出口のCO2濃度の差分を測ることでその植物体が吸収したCO2量が分かり、光合成量がリアルタイムで計算できるというわけです」

浅井さんによると、こうした方法による光合成量の可視化研究は世界でもかなり先進的な取り組みだそうです。

さらに根元側に目をやると、四角く囲まれた土部分に白いチューブが接続されているのがわかります。

このチューブからは、各植物体に水と肥料(養液)が供給されています。1つの区画ごとに、植物が必要とする十分量の養液がドリップされ、植物に取り込まれなかった養液は廃液として下に流れ出る仕組みです。その廃液量を測定することで、ドリップした量との差分から取り込まれた肥料の量が測定されます。光合成の可視化と同様、この“アップテイク・アナリシス(up-take analysis)”を行いながら、肥料の量やレシピを変化させ、その植物にとっての最適な生育環境を研究します。

白いビニールの中は、根がびっしりと張っています

また、房状にぶら下がるトマトを見ると、地面から比較的位高い位置に実がなっているのが分かります。これは、腰を曲げずに全ての作業が行えるように設計されているのだそうです。通路には台車を通すレールが敷かれ、重いものを持つこともないように考えられています。

エミルさんによると、ここ研究棟で栽培されたトマトも、実際に商品としても出荷もされているそうです。ケースに収穫されたミニトマトは、ツヤ・形ともに美しいの一言!

今日収穫されたばかりのミニトマト

ハウス内の環境は、リアルタイムにモニタリング

次に私たちは、ハウス内の環境を制御するための設備を見学させていただきました。

ハウス内部に供給するリソースは1箇所にまとまっています

それらを制御するシステムに…

システムを制御するコンピューター

画面には、ハウス内の様々なパラメーターが映し出されていました

例えば地下部のパラメーターとしては、水分量・温度・肥料濃度がリアルタイムで表示されています。画面に映し出されたグラフを指で追いながら、浅井さんが説明してくださいました。

浅井さん 「いい実はいい根があってこそですから、地下部の状態は常に安定させておきたいと考えます。夜間は灌水を停止するので、地下部の水分量は次第に減っていきます。朝になって日射量が100ワットぐらいになると灌水をスタートさせるのですが、そのタイミングで土の温度も上がっていき、逆に肥料濃度は薄くなっています。この他、ドリップと廃液の部分でpHも測定していて、異常があるとアラートが飛ぶようになっています。

そしてこれが、先ほどのチャンバーで測定された光合成速度ですね。この辺りをうまく組み合わせながら、栽培の最適化を図っています」

真剣な表情で見つめるinaho菱木さん

今後の展望についても伺いました。

浅井さん 「こうした環境条件を測定できるようになってはきましたが、私たちが売っているものは『果実』ですので、やはり果実を見なければなりません。どのような条件の時に、どのような果実が実るのか。それを研究し、新卒社員でも制御できるような形で品質を標準化する仕組みを整えたいですね」

今は果実側の反応を人間が見て、人の手でパラメーターを変化させるなどの介入をしています。将来的には、リアルタイムで測定しながら、環境制御システムにフィードバックする仕組みも求められています」

昼食タイムは、あさい農園のミニトマトに舌つづみ

午後の部が始まる前に、お昼ごはんをいただきました。昼食のお供はもちろん、あさい農園のミニトマトです。

あさい農園が生産するミニトマト

宝石のようなミニトマトに、運営スタッフの若手メンバーからは黄色い歓声が上がりました。左下のゼリービーンズのようなカラフルな品種は「スナックトマト」。色ごとに味や香りが異なり、特にヨーロッパで人気だそうです。中央上は、「スカーレット」と呼ばれる品種。その名の通り黄色みがかった赤い果皮が特徴で、甘さと酸味のバランスがとれた味と、“サク”っとした歯ごたえが印象的でした。スカーレットは、浅井さんがスペインで見つけてきた独占品種だそうです。

そして、全員が「こんなミニトマト見たことない!」と興奮したのが右下の「ぷちぷよ」。まるでチェリーのような見た目と、“むち”っとした独特の弾力、果物のような甘みが特徴でした。

その他に、あさい農園では完熟するぎりぎりまで樹につけてから収穫する「完熟チェリートマト」など、複数の種類のミニトマトを栽培しています。これらのトマトは小売店で販売されているほか、あさい農園からの直送サービスもあります。トマト好きの方、いつものサラダに彩りが欲しい方、ぜひお試しください。

「まいとまと.net」(あさい農園オンラインショップ)

なお、あさい農園さんでご用意いただいたお弁当も特別なものでした。地元の人気店のうなぎ弁当を頬張りながら、あさい農園のミニトマトをいただく一同。至福のひとときでした。

三重県津市の人気うなぎ店「うなふじ」のお弁当

自然とディスカッションが始まります

しかしここはICCビジネス・スタディツアー。間もなく浅井さんと参加者の間でディスカッションが再開されました。

ファームシップの安田さん、日本農業の内藤さん、inahoの菱木さんら農業系ベンチャーの方々と、会社組織のこと、営業活動のこと、2019年から始めた定期お届け便のこと、需要予測のこと、跡継ぎのことなど議論しました。

浅井さん 「父は60歳になったときに『あとはお前たちに任せた』と言って、私と弟に事業承継し、経営に一切口を出さなくなりました。

農業の世界は70歳、80歳まで働く方が少なくないですが、自分が50歳になったときに承継されても、チャレンジできることは多くありません。その点、僕が承継したのは29歳のときだったので、父の判断は賢明だったのかなと思います」

ここで、前日のツアーから引き続き参加の、三星グループ岩田真吾さんが質問しました。岩田さんも、2010年にお父様から事業承継を受けた5代目社長です。

岐阜羽島に133年! 三星グループが織り上げる、世界が認めた高級生地の製造現場を見学【ICCビジネス・スタディツアー vol.6 三星グループ編】

岩田さん 「ちょっと抽象的な質問なのですが、創業事業とやっている仕事も違う、人も違う、資本構成も変わっているとしたら『あさい農園』という法人の“連続性”はどこにあるのでしょうか?」

浅井さん 「そうですね…やっぱり『誇り』だと思います。全然違う名前の会社にしてもよかったのですが、そうしなかったのは、やはり僕らが植木からスタートし、私たちの生活が植物なしでは成り立たないとがよく分かっているからです。トマトに限らず『植物』へのリスペクトや想いがあるからですね。企業理念も、最近『植物と、一歩先の未来へ』としました」

光は大切!「光が1%増えると、売上が1%増える」

美味しいお弁当とミニトマトで満腹になった一行は、車で数分のところにある、スペイン式のハウスも見学させていただきました。

スペイン式ハウスはビニール(フィルム)張りの構造

浅井さん 「先ほど見ていただいたのはガラスで囲われたオランダ式ハウスでした。こちらのスペイン式ハウスは、厚さ0.2ミリのポリオレフィン系フィルムになっています。また、横窓や天窓(てんそう)は2メートルの大開放式なので、春や夏はオランダ式に比べると涼しいのが特徴です。

緯度が高いところなど、気候が涼しく気密性が必要な地域はオランダ式が、三重のように比較的温暖な地域では、窓の多いスペイン式が向いています。また、スペイン式はオランダ式に比べると材料コストが1/3ほどに抑えられるというメリットがあります。

あさい農園のスペイン式ハウス外観

浅井さん 「よくあるのが『オランダ式の立派なハウスを建てれば野菜がたくさん採れるんでしょ』と、つまりお金をかければ良いハウスができると思うケースですね。そうした見た目から入るケースはたいてい失敗します。

ハウスは言ってみれば『箱』なので、私はむしろお金をかけたら負けだと思っています。ハウスの建築コストはできるだけ抑えて、先ほどお見せしたようなソフトウェアや制御系にコストをかけたいというのが本音です。

ただ光が1%増えると(植物の成長が促進され)売上が1%増える『光1%ルール』というものがあり、この天井には旭硝子さんが販売する『エフクリーン』と呼ばれる光透過性の高い、高価な特殊フィルムを張っています」

スペイン式ハウス内の様子

ハウスの内部は写真のような感じ。先ほどのオランダ式とあまり違いを感じられませんでしたが、奥行きがものすごいことにお気づきます。このスペイン式ハウスは、合計で5,000平米の広さがあるそうです。

浅井さん 「次はもっと広いハウスをご案内しますよ。では、松坂に向かいましょう」

私たちは再び車に分乗して、おとなりの松坂市を目指しました。

総面積3.2ha、LEDが輝く太陽光利用型の植物工場

次の目的地は、あさい農園から車で30分ほどのところにある「うれし野アグリ」です。同社は、辻精油、あさい農園、三井物産の出資で2013年に設立(2015年イノチオアグリが株主として参加)された農業生産法人です。

うれし野アグリが生産するのは、見た目・美味しさ・鮮度を兼ね揃えた房どりミニトマトと呼ばれる商品。通常のミニトマトとは異なり、ひと房丸ごと出荷されるのが特徴です。

うれし野アグリの「房どりミニトマト」(HPより)

うれし野アグリのハウスは、隣接する高速道路から一望することができました。オランダ式ハウスが32,000平米(3.2ha)に渡って並ぶ様子は圧巻の光景です。

高速道路から見る「うれし野アグリ」のハウス群

そして、うれし野アグリを説明する上で欠かせないのはLED照明です。ここは、全てのハウスにLED照明が設置された「太陽光利用型植物工場」でもあるのです。それでは、早速中を覗かせていただきましょう。

ピンク色に見えるのがLEDライト

浅井さん 「赤と青の光が植物の吸収しやすい波長なので、それをあわせたピンク色のLED照明になっています。日射量が一定量を下回ると自動で点灯して、最長18時間照射されます。そして決めた日射量に達すると自動で止まる仕組みになっています」

ここで、つい先日ファームシップの完全人工光型植物工場を見学した私たちは思いました。自然光とLED光を併用する理由はどこにあるのでしょうか?

ファームシップが運営する世界最大規模の完全人工光型植物工場「富士山グリーンファーム」を見学しました!【ICCビジネス・スタディツアー vol.5】

浅井さん 「自然光のみで栽培していると、冬と春夏ではやはり2倍くらいの収量差が出てしまいます。その日射量の差をLEDで補完することで、年間を通して生産量を一定化しようというのがこの工場の考え方です。

季節による生産量や仕事量の変動は、農業の生産性を阻害する大きな原因です。LEDにより生産量が一定化すれば仕事量も一定になるので、作業を平準化しやすくなり、生産性を高めることができるのです。

私たちも試行錯誤を繰り返している段階ではありますが、今後は、あさい農園のハウスの半分くらいにもLED照明を入れて、生産量を一層安定化したいと考えています」

続けて、この植物工場での仕事内容についても解説いただきました。

浅井さん 「1つめの作業が『吊りおろし』です。トマトを効率よく成長させるには、通常、群落の中でやや下目の葉っぱに光を照らす必要があるのですが、トマトは1週間に25センチずつ成長するので、放っておくとLED光が当たる箇所が相対的に下がり過ぎてしまします。吊りおろしは、それを避けるために植物体の高さを下げる作業です。上の方をご覧ください」

そこには、紐により植物体が吊り上げられている様子と、ワイヤと紐をつなぐフックのようなものが見えました。実はこのフック、植物体を吊るす紐が凧の糸巻きのように縦方向に巻き付けられていて、成長に応じてそれを解くことで植物体の位置が下がるような仕組みになっています。それにより、常にLED光が最適な箇所に照射できるのだそうです。

その他、トマトが自重で倒れてしまわないように紐やクリップで倒壊を防ぐ「誘引」、古くなった葉っぱを削ぐ「葉かき」、花の量を調整することで果実の大きさを整える「摘花」、そして適熟のトマトを摘む「収穫」の作業があります。こうした地道な作業を1週間かけて行うのだそうですが、その数、全部で15〜20万本!

ここで菱木さんが質問します。

菱木さん 「作業効率が求められると思いますが、例えば『それぞれのパートさんが時間内でどれぐらい葉かきをしたか』などのデータは測定しているのでしょうか?」

「ママさん世代の働きやすさ」を追求した労働環境

浅井さん 「測定はしています。でもそれは、個人を評価するためではありません。

確かにオランダなどでは『何本収穫したらいくら』といった歩合制が一般的です。でも日本ではむしろ、個人ではなくチームの目標を決めて、チームとしての作業効率を見るほうが重要だと思っています。昨年に比べてこのチームの生産性は10%上がったとか、そうしたことへの賞賛を意識しています。

生産性の向上には作業の熟練も不可欠ですが、そのためには長く働いていただく必要があります。弊社ではママさん世代にしぼってパート募集しているのですが、遅刻欠勤などのペナルティがなければ半年ごとに時給が上がる制度になっているのと、シフトの柔軟性を高めるような努力をしています。

例えば、9時にお子さんを登園させて14時にお迎えに行くママさんでも働けるように10種類ほどのシフトを用意したり、自社で労務管理アプリを作成して、スマホで簡単にシフト変更が申請できるようにしています」

冬場は、精油工場の廃熱を利用してハウスを温める

さて大規模なLED設備が特徴のこのハウスですが、もう1つの大きな特徴があります。上の写真をご覧ください。トマトの上にLED照明が見えますが、トマトの下にも同じような白い管が走っているのがわかります。

実はこの配管には、隣接する精油工場の廃熱を熱源として利用した45〜70℃の温水が流れていて、ハウス全体を温める役割を果たしています。しかも、精油工場が利用するのは間伐材の木質チップを使ったバイオマス蒸気。さらに植物工場で余剰になった熱は再び精油工場に戻され、バイオボイラーの予熱に再利用されているのだそうです。

つまり、このハウスはバイオマスエネルギーを活用した環境低負荷化型の植物工場でもあります。同社へ共同出資する辻精油の辻保彦会長は、うれし野アグリの紹介動画の中で、「このハウスはある種の実験工場」と語ります。浅井さんは、辻会長について次のように語りました。

浅井さん 「実はこの工場は、辻精油の本社工場より大きいんですよ(笑)。三重県を代表する食品工業企業のお膝元でこんなに自由にやらせてもらえるのは、本当にありがいですね。

この土地自体は辻会長を含めて十数名の地権者がいるのですが、やはり辻会長の地元での信用があるので、植物工場の建設に際しても何も問題はありませんでした。

僕にとって辻会長は父親のような人で、『浅井くんが好きなようにやりなさい』と支えてくださっています。頭が上がらないですね」

「房どりミニトマト」は◯◯部分が一番甘い?

合計3つのハウスを見学させていただいた一同は、最後に、うれし野アグリで生産された「房どりミニトマト」を試食させていただきました。

ところでみなさん、トマトがどのように色づくかご存知ですか? 房状のトマトを普段目にしないのでので私も知りませんでしたが、以下の写真のように根本から色づいていきます。赤くなるにつれ徐々に酸味が抜け、甘みが際立つようになります。

トマトは根本(茎に近い部分)から熟していく

そのため、房状のミニトマトでは根本と先端では違う味を楽しむことができます。「房どりミニトマト」を店頭でみかけた際には、ぜひ購入の上お試しいただければと思います。

ちなみに通常のミニトマトは、先端まで赤く熟すとその頃には根本側が熟れすぎて割れてしまいます。一房単位で出荷できるのは、皮と身の柔らかさの絶妙なバランスをもち、熟しても割れにくい品種だからとか。

うれし野アグリの「房どりミニトマト」

場所ごとに味が違うので、例えば好みに応じて家族のみんなで楽しめたり、実がなっている状態なので子どもの食育にもなりそうですね。

本日2回目の試食タイム。ごちそうさまでした!

最後に、ファームシップの安田さん、日本農業の内藤さんに今回のスタディツアーの感想を伺いました。それぞれ、ICCサミットのスタートアップ・カタパルト、カタパルト・グランプリで優勝に輝いた、日本を代表する農業ベンチャー起業家のお二人です。

ファームシップ 安田さん

安田さん 「植物工場には、私たちファームシップのような完全人工光型の植物工場と太陽光利用型の2つがありますが、後者を間近で見学できて本当によかったですね。また、私たちが扱う葉物野菜に比べて見た目や味の要素がより重要になってくるトマトという野菜で、どのようなパラメータを追い、どのように制御しているかという話はとても勉強になりました」

日本農業 内藤さん

内藤さん 「データドリブンな農業の実際を見学することができてよかったです。あとは、農産業の一般的な会社に比べて社内の雰囲気がとてもよいことや、生産性を高めるための工夫が印象的でした。自社でも、帰ってすぐに応用したいことを学ぶことができました」

私たちの「食」を支える農業、その未来を共に創ろう!

以上、“明治創業の農業ベンチャー”あさい農園のICCビジネス・スタディツアーの様子をお届けしました。美味しさや見た目のみならず、生産性の向上、低環境負荷の追求など、ミニトマトの栽培を通じて、ソフトとハードを駆使して次世代の農業に挑戦する浅井さんの姿勢に、日本の農業に一縷の光を見たようでした。

同時に、内藤さんが最後におっしゃったように、現場で働く皆さまの生き生きとした姿が印象的でした。上記では触れませんでしたが、収穫中の従業員の皆さんから、文化祭でもするのかな?と思うような大きな歓声が聞こえてきたのには驚きました。ハウスですれ違うどの方も明るく、あさい農園やうれし野アグリで働くことが楽しそうな印象でした。

高齢化により農産業が衰退しつつあると言われる一方、地方において新たな農業形態を通じて雇用を生み出しているあさい農園のような会社が、今後少しでも増えてゆけばと願います。また、そうした産業構造の発展に、私たちICCも微力ながら貢献してまいりたいと改めて感じたツアーでした。

浅井さん、そしてあさい農園とうれし野アグリの皆さん、お忙しい中貴重な体験をありがとうございました!

(終)

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編集チーム:小林 雅/尾形 佳靖/浅郷 浩子/戸田 秀成

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