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9月5日~8日の4日間にわたって開催されたICCサミット KYOTO 2022。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。今回は、エイターリンク岩佐 凌さんが優勝を飾ったリアルテック・カタパルトのレポートをお送りします。ディープテックに追い風が吹くなか、7人のプレゼンターがどのような研究開発に取り組んでいるのか? 社会に何を伝えようとしているのか? ぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回300名以上が登壇し、総勢1,000名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2023は、2023年2月13日〜2月16日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。
今回で12回目を迎えるリアルテック・カタパルト。なんと12回目にしてユーグレナ以外で初めて、優勝企業には賞品が提供されることになった。
宿泊や食事で使える一休1万ポイント「こころに贅沢させよう賞」は、もともとはスタートアップ・カタパルトで提供されていた賞品。「リアルテック・カタパルトが本当に好きなんです」と一休の植村 弘子さんは、今回このカタパルトで商品提供する理由を語った。
三栄商事の後藤 正幸さんが提供するのは「名古屋ものづくり満喫ツアー」賞。その内容は後藤さんのガイドによる、地元名古屋の工場見学や、中小製造業の見学や訪問、サウナなどで、前回のソーシャルグッド・カタパルトで提供されたサツドラ富山 浩樹さんによる「北海道SDGsツアー」に続く、ローカルスタディツアー企画だ。
そしてナビゲーターを務めるユーグレナ/リアルテックファンドの永田 暁彦さんからは、「寝ずに研究を続けても栄養が摂れる(笑)」として「からだにユーグレナ」が詰められた専用冷蔵庫が贈られる。
優勝者は心と体を癒やし、新たなインスピレーションを得るこれらの賞を総取りとなる。続いてキーノートスピーチとして、永田さんがプレゼンを行った。
「大切なのは続けること、稼ぐこと」
このとき、永田さんが最も伝えようとしたメッセージがこれだ。
「これからマクロ環境は間違いなく資金調達がしやすい。ディープテックにもっともっとお金が流れる環境になります。そこで私たちがやらなくではいけないこと、大切なのは『続けること』です。そしてそのためには『稼ぐこと』です」
政府の10兆円ファンドの噂や、岸田政権が発表した「新しい資本主義」(※)には明確にディープテック領域のベンチャーを後押しするということが明記されていること、東証が発表した、ディープテックベンチャーの上場基準審査の見直し。これらはすべてこの場に登壇するような企業にとって追い風が吹いていることを示している。
▶新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(内閣官房) – 「科学技術・イノベーションへの重点的投資」はPDF14枚目から
▶IPO等に関する見直しの方針 について(東京証券取引所) – 「1.ディープテック企業に関する上場審査」はPDF3枚目から
「産業界も政府も、ディープテックの価値を確信して、どんどんお金も人も政策も集まり始めている、今こそ投資のタイミング」と声を強めたうえで、永田さんは続けた。
「2005年にユーグレナ社ができたとき、外部から資金調達できた金額は1,000万だけでした。めちゃくちゃ苦しくて貧乏で、今商品になっているような健康食品を一生懸命作って、研究開発費を稼いで、なんとか研究を続けてきました。
アメリカで2008年には、ビル・ゲイツが出資する100億円を最初から調達した藻類ベンチャーが現れた。ほぼ同時期に圧倒的差で、1,000倍のサイズのベンチャーがアメリカでは生まれたんです。でも、今その会社はない。そして、先に飛行機を飛ばしたのは僕たちなんです」
チャンスが来ている今だからこそ、自分たちが見つけた素晴らしい技術を、社会に役立てるべく続けることが大事、そのためにはきちんとビジネスしろ、と永田さんは呼びかけた。研究開発しているからといって、ビジネス面で手を抜くと社会では生き抜けないぞという激励だ。
7社のプレゼン
長距離ワイヤレス給電技術「エイターリンク」
続いて登壇した7組は、その激励に応えるかのように、しっかりと自分たちの技術を社会に実装しようとしている企業ばかりだった。簡単に紹介していこう。
エイターリンク岩佐 凌さんは、ワイヤレス給電を、ヘルスケアから職住環境にいたるまで幅広く適用し、未来の生活を描いてみせた。
大型バッテリーを開胸手術で入れる必要のあった心臓のペースメーカーの小型化・ワイヤレス給電や、アルツハイマー病を改善する脳内デバイスの研究、コードの断線がないファクトリーオートメーション、ビル空調などを皮切りとするワイヤレス環境の実現といった、実用性が高く社会的インパクトの大きい技術をプレゼンして、文句なしの優勝となった。
世界初の技術、30カ国に輸出開始といったスケールの大きさ、グローバルにおけるルール作りのリーダーシップなど、聞けば聞くほどワクワクするような未来があり、計画もしっかり描かれている。ビルマネジメント領域は、まだまだ拡張性が非常にあるのだ。
素材設計で引き算のものづくりを可能にする「Nature Architects」
Nature Architects株式会社の大嶋 泰介さんは、素材開発メーカーは現在、こんなことをしているのかという発見とその課題がわかるプレゼンだった。
構造を変えることで、金属や木材、ゴムに本来持たない機能をもたせる設計ができるという魔法のような技術を持ち、たとえば一定の方向にだけ柔かい金属素材が作れたりする。それで実現するのは、たとえばエアコンの室外機の静音性が上がったり、素材に複数の機能をもたせることで組み立ての少ない精密機械が作れること。その結果故障が少なくなり、価格も下げられることなど。
「製品のライフサイクルが短い現代、ものづくりは複雑化する一方だが設計リードタイムが増えるのはデメリット」と言い切る言葉の強さに、技術への自信が見えた。あとで聞いたことだが、東京は素材開発メーカーが集まっている世界でも類をみない都市だそうで、世界中に発信できる地になりえるそうだ。
人工衛星内での実験・調査を高い技術で実現する「ElevationSpace」
国際宇宙ステーションで創薬が行われていることは、その方面に詳しい人には常識かもしれないが、一般の人はどれだけ知っているだろうか。重力の影響がない環境では理想的な結晶を作ることができるためで、乳がんの薬などが作られているそうだ。一方、その宇宙ステーションには限られたスペースしかないことは、想像に難くないだろう。
ElevationSpaceの小林 稜平さんがプレゼンしたのは、無人の小型人工衛星を使って、宇宙ステーションで行われている実験などを実現するプラットフォームの開発。ユーザーが実験したいものを人工衛星に乗せて打ち上げ、無人空間で実験をし、地球に帰還した衛星を回収してユーザーに戻す。
そこでのコア技術は日本に強みがある「大気圏再突入」の技術。素材や操作のコントロール、エンジン開発など複数の技術が必要とされ、民間企業でそれを持っているのは彼らだけだという。2023年の実証実験を踏まえて、衛星の大型化やその後のサービス化を予定している。
現地訪問不要で農地の詳細データを把握できる「天地人」
天地人の櫻庭 康人さんは、宇宙ビッグデータを農業に活用するプラットフォーム「天地人コンパス」をプレゼン。スタートアップ・カタパルトでも今回衛星データを活用するアグリテック企業が登壇したが、このジャンルは現在熱い。天地人は、より能動的にビジネス要件に合ったものを見つける技術を有している。
たとえば地球温暖化でコメの高温障害の出ている農地を探して対策を早めに打つ、外国で日本のブランドのコメの生育に適した場所を探すといった具合に、現地に赴くことなくデータで見ることができる。従来非常に高価で難解なデータを、圧倒的に安価で専門知識不要の状態で見られるという。
当然ながら世界どこでも必要とされるデータのため、欧米や東南アジアの取引も増えて前年度比10倍以上の推移で売り上げも伸びているというから凄い。
曲がれるロープウェイを都市のモビリティに「Zip Infrastrcture」
Zip Infrastrcture株式会社須知 高匡さんがプレゼンした新しいモビリティは、見る者をワクワクさせた。スキー場や観光地で見るロープウェイを、都市の乗り物にしようというのだ。ロープウェイの大問題”角を曲がれない”ことを解決して、須知さんたちは着々と実装に向けて動いている。
ロープウェイの強みは、高頻度で自律的運行ができること。すでに神奈川県秦野市で試験線の試乗会を始めているという。眼下の渋滞を眺めながら、ロープウェイがよどみなく人々を運ぶ……そんなことが近い将来、2025年には複数自治体で可能になるという。
最後に語った、創業から3年間、1人の投資家も、どの研究室も振り向かなかった話もエモかった。現在順調にプロジェクトを進めている須知さんだが、駆動部でベース車両のEVを使う必要があり、車メーカーにプレゼンがしたいと呼びかけた。ICCサミット中に見つかったのだろうか?
金属部品の地産地消を可能にする3Dプリンター「SUN METALON」
SUN METALONはアメリカに本社を置く西岡 和彦さんたち日本人が作った会社で、日本の技術で金属3Dプリンターを作っている。3Dプリンターの需要は年々高まっており、過去のカタパルトでも何社か登壇しているが、その革新性のポイントは今のところスピードと素材に集まっているようだ。
SUN METALONの凄さはそのスピードで、なんと生産性が500倍に上がるというから、世界中が欲しがり、予定より前倒しで製造に入ったというのも納得だ。しかも素材は、精製された材料を購入して輸送しなくても原石から金属の粉を作り出す技術を持っているという。
ということは、材料の原石がある場所ならば、そこで製造ができる。アフリカでも、火星でも可能だ。「人類のフロンティアを切り拓いていく上で絶対に必要な技術」という言葉に胸が熱くなった人もいるのではないか。
走行中の車が道路点検をしてくれる「RoadManager」(アーバンエックステクノロジーズ)
株式会社アーバンエックステクノロジーズという社名は、街のさまざまな課題(X)をテクノロジーで解決するという意味が込められているそうだ。前田 紘弥さんたちが現在、着手しているのは「都市の劣化する道路」の課題。走行中の事故につながる道路のくぼみや穴を修理するのは簡単だが、発見するのが難しい。
前田さんたちが開発したAIによる道路損傷検出ソフトウェア「RoadManager」をスマホやドラレコに積んで走行すれば、問題が発見されたときに通知が届く。AIが検出してくれるため、点検作業は属人化せず、自動車保険と合わせてドラレコにインストールするケースも始まっている。大阪府ならば2週間走行しているだけで道路の9割がカバーできるという。
テクノロジーと課題の掛け合わせは、どこに着眼するかでインパクトの規模が変わる。「街の課題を技術で解く」と街の便利屋さんのように語る前田さんだが、人口減少が進む日本において、こんな分野でもテクノロジーが人の作業を肩代わりして効率化できることが伝わるプレゼンだった。
研究開発ベンチャーを取り巻く好材料
すべてのプレゼンが終わり、このカタパルトをスポンサーするKOABASHI HOLDINGSの手塚 裕亮さんが、研究開発スタートアップの支援環境や課題の変化について語った。かつては量産方法についての課題が多かったものの、現在は組織体制や経営戦略的な相談が増えているといい、この業界でも成熟が進んでいる環境を思わせた。
手塚さん自身もラクスルからの転職。全く違う分野からディープテックに携わる人が入ってくるというのは、現在のディープテックを象徴する流れの1つといっていいかもしれない。
プレゼンするKOABASHI HOLDINGSの手塚裕亮さん
審査員にフレッシュな顔ぶれが加わったのもしかり。ディープテックが研究室から外へより大きな展開を求めて広がる予兆を感じさせた。
高塚さん「インパクト投資ファンドをしています。今回初めての参加ですが、皆さんそれぞれかっこいい。目に自信がみなぎっていて、皆さんの素晴らしい技術、想いのなかでも課題解決に訴えるものが個人的にも響きました。日本の今後を投資家と一緒に切り開いていただけたら」
山岸さん「ここ5〜6年この分野の投資をしていますが、企業が増えているのは素晴らしいことです。永田さんの言うように、これからもっと稼ぐリアルテックを作っていかなきゃいけない。僕はエイターリンクに投票しました」
田口さん「刺激的で楽しかった! 社会課題に対して、ど真ん中から事業化できる方法をいつも考えていますが、アルツハイマーの話についても医療で治療できなければ技術でとか、目からウロコのアプローチというか、違う角度で考えるのはすごく大切だと思います。日本が世界に貢献できるのはこの分野だと、改めてこの分野を勉強したいと思いました」
ディープテックは世界を目指す
優勝は既報の通りエイターリンク、2位にSUN METALON、3位はアーバンエックステクノロジーズとなった。
▶【速報】長距離ワイヤレス給電で配線のないデジタル世界を創る「エイターリンク」がREALTECH CATAPULT優勝!(ICC KYOTO 2022)
優勝した岩佐さんは、「普段会話するのはコテコテのエンジニアばかりなので、プレゼンはめちゃくちゃ緊張しました!」と開口一番にそう言った。
「今回登壇の機会をいただいて、登壇されている方も含め、参加者も本当に素晴らしい方ばかり。自分と違う領域で社会課題をどう解決していくのかを聞いて刺激になりましたし、事業にも活かせると思いました。私どもも少しでもいい影響を与えていけたらと思います。ともに、日本を代表するようなスタートアップを作っていきたいです!」
日本経済の鍵を握るとさえ言われることディープテック。日本でもその価値と可能性に気づきはじめ、それを後押しする環境が少しずつ整えられつつある現在、今回のカタパルトでは確かな技術で世界を変えるポテンシャルのある7社が登壇した。
テクノロジーは言語を超える。どの登壇者も日本だけという視野で事業を考えておらず、当たり前のように世界を変える計画を宣言した。投資にしろ人材にしろ、乗るなら今、ディープテックは一番夢があり、面白いジャンルであることには間違いない。
(終)
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成