9月2日〜5日の4日間にわたって開催されたICC KYOTO 2024。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。このレポートでは、このレポートでは、フード & ドリンク アワードに出展した14社のブースを紹介します。実際に見て、体験してわかる革新的な技術や、開発の作り手から直接紹介いただくという贅沢な体験と、審査風景とともにぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして 参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2025は、2025年2月17日〜 2月20日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
フード & ドリンク アワードアワードは、ウェスティン都ホテル京都の東館、葵殿に設置されたアワード展示会場で2日間にわたって開催された。北は北海道から南は沖縄まで今回は14社がエントリー、70名超の審査員とオーディエンス審査員も加わり、美味しいものを味わいに、生産者のストーリーを聞きに、会場は常に賑わいを見せていた。
▶【速報】フード & ドリンク アワード優勝は、泡盛粕からつくるDHA入りの“うま藻”で、美味しさとサステナブルを両立する「AlgaleX」(ICC KYOTO 2024)
ここではキックオフやファイナル・ラウンドでの印象的なスピーチと、ブースの模様をご紹介したい。
1位:AlgaleX
美味しさ 部門3位、社会性(サステナビリティ)部門2位、審査員賞1位
出品プロダクト:「うま藻」と「うま藻醤油麹」
フード&ドリンクアワードで優勝したAlgaleXの高田 大地さんは、ファイナルラウンドに先立って登壇したクラフテッド・カタパルトで3位に入賞。このファイナル・ラウンドでのスピーチは、うま藻の事業を作るに至った背景と、その目指すものを語った。
高田さん「前職が丸紅で、養殖業の餌を調達するチームにいました。南米のエルニーニョにのってやってくるアジやサバを捕まえて粉にして、それを運んで、日本の養殖のタイやマグロに供給する。餌となる数万トンの魚粉を港に運ぶと、30メートル級のサイロいっぱいが魚粉で埋まります。
仕事だしお金になるのですが、それって本当にいいのかな、続かないだろうなという思ったのが事業のきっかけです。設立4年ですが、丸紅時代を含めると8年ぐらい取り組んでいて、ようやくその糸口が見えたのが、今回ご提供したうま藻です。
海の魚を減らさないことを目指して、たまたま出てきたソリューションがうま藻です。これが美味しかったというのは、我々にとってラッキーでした。
サステナビリティは無理してやるものじゃないと思うんです。美味しかったり、楽しかったりすることの先に、気づいたらサステナブルな世の中になっていた、それが理想です。だからうま藻の美味しさを伝えて、美味しいものを食べていたら、魚が減らない世の中になっていたというのを目指していきたい。
ゴールは、魚を減らさない養殖です。やりきって、海の魚を減らさないで作った魚を世の中に出荷するまでは、辞めるつもりはありません」
チームワーク抜群のAlgaleXのブースでは、うま藻あり・なしのバーニャカウダの食べ比べを提供した。その味わいに驚く審査員たちに、どんなことを伝えていたのか。
「うま藻という海藻、1ミリの100分の1くらいの大きさの小さい藻を沖縄で作っています。カラスミみたいな香りがします。バーニャカウダの食べ比べでは味わいが全く違い、うま味が非常に濃厚になります。
うま藻は単一原料ながらめちゃくちゃ濃厚なうま味が入っていて、うま味成分が羅臼昆布の1.5倍、コハク酸という貝のうま味がしじみの4倍も入っています。うま藻を入れるだけで料理の味が奥深くなり、味の素の代わりに使えます。グルタミン酸が豊富に入っているんです」
パウダー状のうま藻をちょっと舐めてみると、カラスミのような複雑で濃厚な味と塩味に驚く。加えると味が底上げされるというのも納得だ。
「魚はDHAが豊富なんですが、魚はDHAがないと生きられない。そのDHAを自然界で一番最初に提供するのが藻なんです。藻は海の生命を支えていて、藻が無いと海の生物は生きていけない。太古の昔から藻はあったのですが、それを美味しく作るところが今まで確立できていなかった」
乾燥させた藻だけで、これだけ味が出るので、いろんなものに入れてもらえれば。普通のお肉のタレには化学調味料がたくさん入っていますが、それを全部うま藻で置き換えて、化学調味料を一切使わない美味しいタレができる。出汁醤油も作っています。添加物が悪いわけではないですけど、強い味わいに慣れてしまうと繊細な味を感じ取れなくなりますから」
ファイナル・ラウンドのスピーチでも語っていたが、AlgaleXが目指しているのは、海の魚を減らさない養殖だ。
「ある意味天然の魚を減らして人が食べたい魚を作るのが養殖業。天然の魚ではなく、DHAが豊富な藻を食べさせることで海の魚を減らさない養殖を実現するのが僕らのゴール。美味しい藻はあくまでその一歩目なんです。
2~3年後にはそっちのほうにいけたら。飼料のマーケットは1円以下の単位を争うマーケットなので、はっきりいってまだ勝てない。だから、美味しい藻という新ジャンル、新マーケットを作ることで足場を作って、飼料のほうに入っていきたいと考えています」
2位:うめひかり
ブランディング部門2位、想いへの共感部門1位
出品プロダクト:120年続く梅農家が食べてほしい梅ご飯
主流とは言いがたい酸っぱくて塩気のある梅干しを作っているのは、2位に入賞したうめひかりの山本 将志郎さんだ。ファイナル・ラウンドで語った新しい挑戦が、大きな共感を集めた。
山本さん「みなべ町で梅干しだから、梅本来の味がしないといけないだろうと、梅と塩だけの梅干しを5年前に作り、販路がなかったので軽トラックをピンクに塗って、全国都道府県に売りに行きました。
梅と塩だけの梅干しは本当にマイナーだと実感したのは、買いに来てくださった人が二言目には『はちみつ梅ありますか?』と言うこと。でもたまに、これを求めていた、お願いだから守り抜いてねという声があって、こういう人たちに直接届けようと、SNSやYouTubeで発信して届けるようになりました。
人気商品にもなって、やっと起動にのってきたので、“梅ボーイズ”次のチャレンジについて話していきたいと思います。
この5年で、新規就農したいという若者からたくさんDMをもらい、地域も後継者不足なので農家につなぐと、みんな1、2年で辞めてしまう。なぜかというと、後継者として認められなかったとか、よそ者だから農地をなかなか買えなかったりする。万が一買えても、梅の木は植えてから収穫するまで7年かかる。ハードルが高すぎて辞めてしまうんです。
農業の平均年齢は68.4歳です。2、30代が人生をかけて移住してきたのに、やりたい人はたくさんいるのにできない。なぜ農業してもらえないのかという憤りがあって、本当に何とかしないといけないと思いました。
考えた結果、僕は10万平米の畑を買って、農園長をどんどん生み出していこう呼びかけたところ、この1年で2、30代の10人が集まりました。これから農家の出身でなくても農業ができて、自分で農園長ができて工夫して売り上げが上がったら、ちゃんと稼げるという農業のスタンダードを作っていきたいと思います」
「シソだけで漬けたシンプルな酸っぱい梅干しをご飯と一緒に炊いて、米にも梅のうまみをしみ込ませた梅ご飯を出しています。梅って結構忘れがちなんですけどフルーツ。だから本当に、とにかくシンプルな果実感のある梅干しを味わっていただけると思います。もちろんしょっぱいんですけど」
そのご飯は品切れになってしまったが、梅干しを食べてみたいという人が話を聞いている間にもブースを訪れる。そんな中に憧れの起業家がたくさんいたことが嬉しかったという。
「農業でめちゃくちゃモデルというか、参考にさせていただいていた憧れの企業さんとかもたくさん来ていただいたので嬉しかったです」
そんな山本さんを紹介したのは、稲とアガベの岡住 修兵さんと齋藤 翔太さん。前回のICCサミットで岡住さんがSAKE AAWARDの準々決勝で出していた「稲とウメ」の梅は、山本さんたちの梅だったのだ。(そのときのレポートはこちら)
3位:おのざき
オーディエンス賞2位
出品プロダクト:まるで肉!?魚屋が手掛けるスパイスカレー、メヒカリの握り
ファイナル・ラウンドに進出した、福島県最大級の鮮魚店おのざき、小野崎 雄一さんの震災から13年たつ福島の水産業について問題提起するスピーチは熱かった。ICCサミットにはそんな真剣な訴えに耳を傾ける人がたくさんいる。
「あと25年で日本の海から魚が消える、そのペースで水産資源が減少しています。我々全員の問題です。日本の水産業の未来、活路についてお話をさせてください。
ノルウェーでは国を挙げて厳格な漁獲制限をしたことで、魚が太り、増えて稼げる水産業になっています。我々も乱獲は止めて量から質に変えないと、もう後はありません。
日本では約10年、自由に漁ができなかった海があります。福島です。3.11の震災後、漁獲制限が続いたことで、福島の海は再生し、太った魚が増えました。つまり福島は、ブランド力を高めて付加価値の高い水産業ができる下地があるのです。
震災からすでに13年がたっているにもかかわらず、風評被害を賠償してくださいといわんばかりの声があり、それは皆さんの公的資金で補填されています。僕はこれをどうにかしたいと思っています。
そもそも福島は、日本屈指の好漁場であり、そこに制限があったので、めちゃくちゃ魚が美味しいのです。だから、もう美味しさの話をしませんか? これでは宝の持ち腐れ、本当にもったいないです。被害者意識を乗り越えて、この未曾有の逆風をてこに、新しい福島、新しい水産業をつくっていかないと本当にもったいないです。
5年前に、100年の歴史を持つおのざきは過去最大の赤字で弱りきっており、私は家業の危機を知って急遽戻ってきました。我々も例外ではなく、保証金や賠償金に甘んじていたのです。
みなさんにメヒカリの握りや、スパイスカレーを食べていただくと、目を見開いておいしいとおっしゃってくださいました。我々は福島の価値を最大化する取り組みを行なってきて、その結果
100人いるスタッフが自信を取り戻し、それがお客様に伝播していって少しずつ売り上げがのびています。
今年4月には1億円を投資して体験型の鮮魚店を作り、福島の魚の魅力をエキサイティングに発信しています。そこでみなさんに感じていただけるのは、福島の魚のおいしさだけでなく福島の未来、希望そのものです。
福島県最大級の鮮魚店、おのざき、完全に息を吹き返しました。これからです。魚のブランド価値を高めて、少ない資源でもしっかり稼げる水産業を、鮮魚店から、福島から作っていきます」
生ではなかなか流通しない福島を代表する魚、メヒカリの握りと、まるでひき肉のような味わいのカナガシラのフィッシュカレーを提供したおのざきのブースには、鮮魚店さながらのキラキラと光る魚が並び、訪れる人たちを引きつけていた。
「我々、福島の鮮魚店と鮨屋もやっています。メヒカリは鮨が一番美味しいので、今日は生と炙りの食べ比べをご用意しました。ほんと一瞬で口から消えちゃいます。もう一つはスパイスとココナッツミルクを使ったフィッシュカレー。魚はカナガシラという福島で水揚げが多い魚です。
メヒカリを使うのは我々の新しい挑戦をPRです。我々は鮮魚店ですが、鮮魚店のイメージは、いらっしゃいいらっしゃいって呼び込みがあり、魚が並んでいる。その通りなんですけど、我々は加工品が強いんですよ。かまぼこやカレー、離乳食なども売っています。
魚を介してワクワクを提供したくて、加工品は昔からやってはいましたがブランディングにここ数年で力を入れるようになりました。
日本の水産業は量から質に転換すべきで、その質という部分で我々は貢献したい。鮮魚店は消費者と一番近いので、我々が美味しさを伝えていくし、メヒカリはから揚げが美味しいのですが、鮨のほうがもっと美味しくて、一番美味しい食べ方を提案すれば付加価値が最大化されると考えています。
日本中でもこの握り、我々しかほぼやってないです。まだまだ福島に眠れる美味い魚があるので、我々が発信していきたい。物産展には結構出るんですけど、このブースは今日のために新調しました。力が入ってます!」
4位:GOOD NEWS
社会性(サステナビリティ)部門1位、ブランディング部門1位、想いへの共感部門2位、審査員賞2位
出品プロダクト:スキムミルクの利活用「バターのいとこ」
GOODNEWS 宮本 吾一さんは、地域で、自分も生産者もみんなの幸せをつくっていく、そのために産業を立体的に組み上げることへの想いをファイナル・ラウンドのスピーチで語った。
「僕はとにかく幸せになりたい、僕が幸せになりたいという強い気持ちで起業しました。
みなさんにとって幸せな状態って何でしょうか? 美味しいものを食べたり、好きな人と一緒にいられたり、買い物したりとか? いろいろあると思いますが、僕はまわりの人とご飯を食べて、隣の人が笑顔のときに幸せだなと感じたことがあり、だから飲食店をやっているし、食に関わる仕事をしています。
どうしたら幸せにできるかなと考え、Well-being、身体的にも、経済的にも、精神的にも社会的にも安定した世の中を作ることじゃないかと思いました。僕が住む那須高原で、どうやったらそれができるかと考えると、1つの産業だけ、例えば農業だけとか観光業だけだとちょっと厳しいと思いました。
お菓子という媒体は、みんな好きじゃないですか。ギリシャに『グリークデライト』って名前のお菓子がありますが、まさしくお菓子は喜びだと思っています。
僕はお菓子をハッピー産業と呼んでいるのですが、幸せはラッキーとちょっと違って、ストラクチャーがあって、それをきちんと組み上げれば、絶対に幸せになれると僕は信じています。そこで、農業と福祉と観光、地方独特の産業を立体的に組み上げることで考えました。
『バターのいとこ』は、地方の課題を挟むお菓子です。同時に、地方の幸せも挟んでいます。みなさんが一人ひとりが食べていただく向こう側にひとつのバターができて、1つの生産者が持続可能になる。それを理解していただいたことが、今日は本当に嬉しかったです」
日本各地で大小さまざまな産業が生まれ、育っていく未来が見える、まさにグッドニュースを伝えた宮本さんは、会社の理念から解説してくれた。
「僕らは食を基盤に地方の課題を産業にするということを目的にした会社です。地方の課題とは、人口減少に伴う後継者不足や、労働力の低下、サステナブルにならない経済をどうしたらいいかということです。
そこで農業と福祉と観光という産業を、どう立体的に組み上げるかを考え、具体的にはお菓子というプロダクトで解決していこうと思いました。食材の調達を酪農家とか農業の人たちと関わり、製造では福祉を絡ませて、最後まちづくりという観点で観光の出口を作るというのを組み上げていきます。
農業は未利用食品のスキムミルクを使っています。牛乳からバターを作りますが、バターは牛乳から4%しかできなくて、残りの水分はスキムミルク、無脂肪乳です。この無脂肪乳の価値を上げないとバターは非常に高い値段になってしまう。特に小さい酪農家さんはクラフトバターと呼ばれる牧場独自のバターを作ろうすると、スキムミルクの販路を価値をつけて作らないといけない。
福祉では、どの町にいっても必ず人口の9%が障害者の方がいらっしゃるんです。全員働けているかというと全然なので、この労働力の低下、人口の減少化への1つのソリューションとして彼らが働きやすい環境を作ることで、みんなが生きていきやすい環境を作ろうと、就職困難者の人たちと一緒に手作りの作業所や工場を作ってやっています。
最後に観光は、持続可能なまちづくりといって、栃木県の那須高原に商業施設を作っていて、環境問題と経済、ロマンとそろばんと呼んでいるんですが、両方よくないといけない。両方揃ってはじめて持続可能性があって、そのうちの1つがバターのいとこで、コーヒー屋さんや花屋さんなど、全国からいろんなお客さんがテナントで入って下さっています。
そういうところと組み上げていくことをショーケースと呼んでいます。今僕が説明しているようなことをお客さんにちゃんと伝える着地型の商業施設です。14店舗あるうちの僕らは半分やっていて、半分はテナントで入ってもらっています。
それ以外に全国に拡大中で全部で22軒。バターのいとこだけでいうと15軒のお店があります。1つずつ全国に店を作ることによって、こういう地方の課題を全国の出口があるから、安定的に計画的にできるということで始めて、組み上げたものが農・福・観で作った企業になっています」
お店を見るだけでは全然わからなかったことを知ることができた、と伝えると「だからICCに出ようと思ったんです。今さら出るなよってみんなに言われたんですけど」と宮本さんは笑った。
「でもまだ人口の1%ぐらいしか食べたことない。あと99%の人たちにこの考え方を伝えなきゃいけないから、まだまだやらなきゃいけない。ICCの力をちょっとお借りできればと思っています」
5位:千興ファーム
美味しさ 部門1位、職人技(アルチザン・技術力) 部門2位、オーディエンス賞1位
出品プロダクト:これこそが真の「馬刺し」
馬肉一筋の本物が来た、とブースやスピーチで思った人も多かったのではないだろうか。千興ファーム菅 浩光さんは、自分たちの作る馬刺しへの揺るぎない自信をキックオフで語った。
「火の国熊本より、馬肉に対する情熱を持ってまいりました。弊社は1トンにもなる生きた馬をわずか180分というスピードで、世界最高衛生基準のもと一気に馬刺しにする施設を実現化させた日本で唯一無二の馬肉カンパニーです。本日は皆様へ3つの真(まこと)、真実の真と書いて真を伝えるために参加させていただきました。
1つ目は馬肉の真の技術を知っていただくこと。2つ目は馬肉の真のおいしさを体感していただきます。3つ目は馬肉の真の知識、概念を変えていただきます。本日は美味しい馬刺しを、またすぐ食べたくなる馬刺しを準備しておりますので、ご試食よろしくお願いします」
熊本から、生きた馬から3時間で馬刺し加工する工場でできた、身の部分とうまトロという2種類の馬刺しを提供した千興ファーム。
「うまトロは、端材を叩いて、叩いてミンチ状にしている馬刺しになります。ミンチにするとリスクが高いんですけど、これができるのは私たち馬専用の工場でスピーディーに処理をしているからです。鮮度を閉じ込めることによって、赤身の魅力とうまみと甘味が出てます。
ミンチのほうに関しては脂身、不飽和脂肪酸が多くて、融点が低いのですーっと舌の上で溶けちゃう。食べていただきながらぜひ体験していただきたいと思います」
と、自信満々に2種類の握りを差し出した菅さん。確かにキックオフのスピーチで語っていた通り、これが肉とは思えないとろけるような美味しさである。ファイナル・ラウンドで美味しさ部門で1位を獲得、「みなさんが笑顔になって言葉が出ない。おいしいものをたべたときって、言葉が出ない。だから美味しさ部門では絶対的な自信がありました」と語った。
「馬肉は肉のダイヤモンド。食肉のなかで、こんなに優れた機能性をもったもものは他に無いのです」とも語った菅さん。その栄養と美味しさを人間だけでなくペットフードにも活用すべく、千興ファームでは10年前から取り組んでいるそうである。
nobilu
美味しさ 部門2位、職人技(アルチザン・技術力) 部門1位、ブランディング部門3位、オーディエンス賞3位、審査員賞3位
出品プロダクト:練りたてモッツアレラと手作りチーズ
【キックオフでのスピーチ】
目の前で練った出来立てのチーズを食べたことのある人は、どのくらいいるだろうか。渋谷でそんなチーズを提供しているCHEESE STANDの藤川 真至さんは、なぜ店を始めたかを語った。
「東京の渋谷でチーズを12年作っております。僕は20年ぐらい前に、南イタリアで出来たてのチーズを食べてすごく感動して、この美味しさをみんなに広めたいという思いで、東京の渋谷でチーズを作り始めました。
国内や海外のコンテストで多くの賞を受賞させてもらっていますが、チーズの味自体の価値を高めると同時に新しい価値を作る。絵本の出版や国内のチーズ工房の方たちを集めてイベントを主催するなど、チーズ業界を盛り上げようと向き合っております。チーズは素材であると同時にそのまま食べても美味しい素材であると同時に、トッピングやデザートにもなる商品です」
藤川さんが作る練りたてのチーズは、藤川さんの両手の間から手品のように現れる。ピンポン玉大のフレッシュなチーズだ。
「途中までやって持ってきているんですけど、最後はここで。それ以外にも他のチーズも食べてもらっています。出来立ての美味しさは食べていただくと伝わるんじゃないかなと思っています。
この店の出すきっかけとなったのは、イタリアで出来立てのチーズを食べた時にすごい感動して、それを多くの人に広めたいと思ったんです。そこから出来立てを食べてもらう、多くの人に食べてもらうというコンセプトができました。
日本で同じ味を実現しようとするとやはりすごく大変で、前例がなかった。酪農家さんのところでやっている方はいても街でやっているモデルはなくて。牛乳は東京の清瀬の酪農家さんのものを使っています。美味しいとたくさん言っていただいて、嬉しいですね」
フェルメクテス
社会性(サステナビリティ)部門3位、職人技(アルチザン・技術力) 部門3位
出品プロダクト:納豆菌タンパク質kin-punフィナンシェ
【キックオフでのスピーチ】
長内 あや愛さん「私たちは今の時代、タンパク質生産をもっともっと効率的にする必要がある。プロテインを飲んでる方がいらっしゃると思うんですが、これももっともっと効率的に、日常的に摂れたらいいなと、納豆菌を新しい食材としてタンパク質として食べること、この実用化に取り組んでいます。
小麦粉の代替として使えて、ゆくゆくはもっと安価な動物飼料にもなりえる環境低負荷で、タンパク質・生産効率も高い、安全性もある、このような素晴らしい食材が納豆菌です。今回は美味しい小麦粉フリーの納豆菌のフィナンシェを作ってお持ちしました。ぜひ皆さん、いち早く菌の味をお召し上がりください」
ファイナルラウンドに先立って、リアルテック・カタパルトで2位に入賞したフェルメクテス長内さんは、ブースでも同じく熱心に納豆菌の魅力について語りかけていた。
「我々は納豆菌を菌そのものを培養して粉末にして、食材にすることに取り組んでいます。タンパク質危機の課題解決に立ち上げた会社です。納豆菌のすごいところは、15分で倍になるという圧倒的な生産効率、速い速度でのタンパク質生産が可能で、これを実用化したのが我々の強みです。食材としての価値も高い納豆菌をパンや麺に入れて食べていただけます。
皆さん初めての体験だとは思うんですけれども、納豆菌なのに香りがしないとおっしゃいますが、納豆ではありません。美味しいと言っていただけるのが嬉しいですね!」
長内さんはそもそもなぜ納豆に着目したのか。
「タンパク質を速い速度で生産したいときに、地球上で最も増殖速度が速い生物が納豆菌です。目に見えない菌ですから納豆菌をそのまま食べられないのですが、創業者の大橋(由明)が納豆菌研究者で、菌株に育種ができて、食材用の菌株を作ったんです」
従来のタンパク質危機とは、全く異なるアプローチの課題解決。提供していた「kin-punフィナンシェ」は、小麦粉の代わりに納豆菌の粉末を用いているが、全くそれを感じさせないしっとりとした味わい。小麦アレルギーの人も楽しめるスイーツだ。
オオヤブデイリーファーム
想いへの共感部門3位
出品プロダクト:牧場独自開発オメガ3・A2ミルクの発酵乳
【キックオフでのスピーチ】
大薮 裕介さん「世界25カ国のヨーグルトを食べ歩く、2代目酪農家、熊本のオオヤブデイリーファームの大薮 裕介と申します。弊社では堆肥から餌を作って牛を育てて、そのミルクの一番輝く舞台というところでヨーグルトを作ってます。酪農家の一番の強みは、絞った瞬間にこの世に存在しない自社独自のミルクが作り出せるということです。
今回フランスの団体と一緒に作ったオメガ3脂肪酸を含むミルクと、牛は400日に1産しかしないんですが、そこで地道に遺伝交配をして作ったA2ミルク、それぞれでちょっと変わった発酵乳を作りました。ぜひブースに食べに来ていただければと思います! コラボやアドバイスなど、先輩たちの力を借りていきたいと思うので、よろしくお願いします」
オオヤブデイリーファームは、自慢の乳製品を使った様々なヨーグルトやディップソースを用意。自慢のミルクで作った”エイジング”ヨーグルトは爽やかなヨーグルトの層と、濃厚なクリーム層の2層という珍しいもの。A2ミルクを使ったヨーグルトは、乳製品でお腹がゴロゴロしてしまう人も楽しむことができる。
「我々のミルクは濃くて、ノンホモジナイズドの牛乳なので2層になります。乳脂肪分、生クリームに分かれるのですが、その油の中にアンチエイジング成分のオメガ3がたくさん入っています。
結局油分とかカロリーといわれるけど、オメガ3が多い分、油分が下がります。くちどけが濃厚だけどシュッと消えます」
牛はお腹でミルクを発酵させて栄養を増やすのだそうで、その発酵の熱がずっと体にこもっている状態。今年の猛暑は牛にとっても酷暑で、3方から扇風機を回し、暑いときは直接背中からシャワーを当てたりもしたけれども、それでも暑かったんじゃないか、と大藪さん。
濃厚かつ爽やかな、他では食べられないような特別なヨーグルトを作るために、牛も人間もそんな苦労があることが知ることができるのもこのアワードならではだ。
果実庵とざわ
出品プロダクト:りんごジュース「緑凛」
【キックオフでのスピーチ】
兎澤 忠良さん「酒屋さんみたいな格好をしてますけど、秋田でりんごを作っています。当農園は明治初期から、約300年の歴史があります。果実庵とざわは酒を造るために2008年に立ち上げたのですが、有機栽培に没頭すること16年、私は普通のりんごのおじさんになってしまいました。
ただ、その取り組みを鹿児島の万膳酒造という焼酎蔵の社長に認めていただいて、ジュースに「緑凛」という名前をつけてリリースしました。2種類用意しましたので、よろしくお願いいたします」
2種類のりんごジュースは、いずれもオーガニック認証のりんごを使ったもの。
「1つは秋田県鹿角市で栽培しているりんごを使用しまして、こちらはオーガニック認証、JAS認証を行っています。りんごジュースでオーガニックJAS認証は国内では初です。
もう1つは栽培地が違いまして秋田市、収穫してから蔵で数カ月寝かせて、余計な水分を飛ばしてから搾汁、ジュースに加工しています。そうすることによって、飲んでいただけたら一番わかるんですけど、すごく甘くて、審査員の方々に驚かれました」
「私も今日テイスティングしてみたら、だいぶ甘い」と感じたという兎澤さん。この日の審査員たちの反応は甘いほうが好きという反応が多くて驚いたという。
「なんでだろう?と考えたら、多分ICCではみんな頭使っているから糖分を必要としているのかなと(笑)。ICCは想像以上に熱いですね。一番嬉しかったのが、こうして自分の気持ちを伝えられる、そういう場があるっていうのが幸せで、幸せな気持ちでいっぱいです」
オーガニックJAS認証は、生のりんごを食べているような味わい。秋田市産で3〜4カ月寝かせたりんごは、話の通りシロップのように甘いが、皮の爽やかさも伝わる。2箇所でりんごを作っている理由は、廃業する農家の農地を借りて守っているのだそうである。
「秋田市に国際教養大学 があって、学生さんが多くて手伝いに来てくれているんです。すごく大変な作業なんですけれども、なんでそんなやりたいの?と聞いたら、オーガニック栽培に興味や関心があるということで。オーガニックは栽培大変ですけれども、やっててよかったなって思います。
海外だとオーガニック志向の方がたくさんいますので、ジュースを作って輸出しようというのが目的だったんですけど、若い人たちが集まってくれるという予想外の嬉しい結果になりました」
RUSO
出品プロダクト:ティラミス専門店が作る本気のティラミス
中川 将さん「大阪の谷町6丁目から世界にティラミスを届けていきたいという思いを込めて、谷町6丁目の6からお店の名前をTiramisu No.6としております。全ての商品を冷凍でお渡ししており、一度解凍してもほろ苦く甘くお口の中で溶け込むようなティラミスを用意しています。一緒に作ったパティシエもブースにおりますので、我々のこだわりも聞いていただけたらと思っております!」
ティラミス専門店とは聞いたことがない。ティラミスを構成するマスカルポーネとビスキュイとエスプレッソのそれぞれを徹底的にこだわるという、その内容とは。
「一般的にマスカルポーネチーズはイタリアから仕入れますが、意外と日本人の口には合ってなかったりもする。マスカルポーネチーズはフレッシュさが一番大事ですが、仕入れている時点でフレッシュじゃなくなる。それならいちから作ろうというので、マスカルポーネチーズは自家製です。
冷凍なので日持ちは3週間。普通の大阪の小さいお店でやっていますが、冷凍にした目的は2つあって、1つはフードロスの観点。小さいところで本当に手作りでやっていて、何人来るか予想できない状態で捨てることになるので、冷凍です。
あとは我々は日本のティラミスとしていろんな生産者の思いを、牛乳、果物、コーヒーすべてそういったものをビンに詰めて、世界に届けたいという思いで全部冷凍です。もちろん生とは違いますが、解凍してもふわっとした作りたてのような、極限まで生に近づけるよう徹底的にこだわったティラミスです」
様々な種類のティラミスがあり、お酒が入っているビターテイストや、子どもや妊婦でも食べられるエスプレッソのないもの、宇治抹茶や季節限定のフルーツを使ったものがあり、ビッグサイズもある。もともと大学で化学を専攻していたというパティシエ玉木 啓悟さんはこう続ける。
「農家さんで市場に出回らないようなB品のものとか、そういったちょっと訳あり商品のものとかも積極的に使いながら、冷凍でできますので、旬の美味しいフルーツを使っています」
ティラミスの入っていた空き瓶を6個を店に返せば、1個のティラミスと無料で交換するサスティナブルなサービスは、大阪の人に「すごく刺さって、すごく空き瓶を持ってきてくれる」そうである。
西田農園
出品プロダクト:栽培期間中農薬不使用コシヒカリ精米
【キックオフでのスピーチ】
西田 博泰さん「埼玉県熊谷市から来ました西田農園と申します。暑さですごく有名な地域ですが、高温の影響を受けずに美味しいきれいなお米を作っております。すごく美味しいんですよ、うちの米。日本最大の産直サイトで2023年米・穀類のカテゴリーで1位を頂いちゃいました。
環境面も独自の温室効果ガスを削減するような取り組みをしていて、農水省の温室効果ガス削減『見える化』実証事業では、最高ランクの星3つを頂きました。そんなお米を作ってます」
全国一暑い都市で、連日ニュースとなっていた熊谷市からやってきた西田さんは、自慢のお米の玄米と精米した白米、そして米ぬかを持ってきた。ちょうどニュースで米不足が騒がれていた時期、今年の状況を聞いてみると…。
「実際販売店のほうではお米がまだまだ足りない状況なのかなとは思いますが、令和6年産はこれから収穫が徐々に増えていくので、問題になっているものが少しずつ解消してくるのだと思います。栽培期間中、農薬や化学肥料を一切使用しないコシヒカリを持ってきました」
日本一に選ばれたからには、お米の美味しさは間違いない。しかし米ぬかはなぜ?
「食べてもらうためです。審査員の方々にほめていただいたんですけど、皆さん初めて食べたっておっしゃっていました。
お米を育てるときに農薬や化学肥料を使うと、ぬかのところにそういった残留物が一番貯まりやすいんです。うちのお米は栽培期間中無農薬なので安全です。長期保存する場合は煎ってあげないと保存上良くないですけれど、短期間で食べていただければ冷蔵で十分、そういった食品ですね」
パラパラのぬかのまま食べた審査員たちはびっくりして、甘い、美味しいという声が多かったという。
「審査員の中でも食べた後も連絡がきて、何社かブースのほうに寄っていただいて、色々と話を聞いていただきました。甘さに特化した米ぬかなんです。まるできな粉のようですってみんな言っていました。
糠(ぬか)は漢字で書くと米に健康の「康」って書く。糠は栄養素の塊なんですよ。一番美味しいところがみんな集まっています。食べてみると皆さんびっくりします。
うちは田んぼにも戻したりするのですが、微生物が元気になります。米ぬかは素晴らしいポテンシャルを持っています。もちろん普通に食べていただいても美味しく頂けると思うんですけど、新たな食品の存在を再認識していただけたらなと思ったので、今回このようなものをご準備しました」
台風18号の直撃後のイベント。雨の話題になった。
「やはり日本人が主食として食べてきたっていうのは、それなりの理由があるんです。
この稲作というもの自体が国土の保全という部分でもかなり大きな役割をしておりますし、今回みたいな集中豪雨のときは、田んぼ自体が平野部のダムになる。私たち農業従事者の年齢は高齢化しておりますけれど、少しでもそういった国土保全という部分でも一助になればなと思っております」
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出品プロダクト:氷点下で熟成された冷凍熟成餃子-ond°
【キックオフでのスピーチ】
星 慧介さん「冷凍熟成餃子 -ond°」という餃子ブランドを運営しています。生産者、餃子、お肉、野菜それぞれの生産者の思いを餃子を通して伝えて大切な人の体温を上げたいという思いで、約4カ月前に作ったブランドです。冷凍庫に置いてある間に旨味を熟成させる冷凍熟成という技術を作り、それをオンラインで販売しています。美味しい餃子を用意してますので、よろしくお願いいたします」
「餃子は一種のプラットフォームになり得ると思っていて、それぞれの生産者の思いも、一粒の餃子という形になって、そして世の中に発信していく。自宅での餃子体験が対話に繋がるような、対話のタネになるために、いろんな味を展開しています。まず餃子の説明を特にしない状態でどうぞ」
あさい農園の浅井さんは「僕、餃子屋もやったことあるので、餃子にはかなりこだわりが(笑)」と言いながら、渡された餃子を口に運んでいる。焼いたそばから飛ぶようになくなっていった餃子の美味しさの秘密を、星さんはブースでこう伝えていた。
「3つあるのですが、そのうちの1つが冷凍熟成。マイナス23℃で1カ月間保存しておくことで、入っているグルタミン酸が増幅することが分かりました。生を超える冷凍食品です。餃子専門店ではあふれる肉汁などと言いますが、通販やスーパーで買った餃子は結構パサパサ。美味しい肉汁をたくさん出すためにまず冷凍熟成というのが、コンセプトの1つです」
保志漁業部
出品プロダクト:広尾町産コンブ100%の天然うまみ調味料
【キックオフでのスピーチ】
保志 弘一さん「北海道からやってきました、現役昆布漁師の保志 弘一といいます。今私の住む広尾町は昆布漁の最盛期ですが、将来昆布がなくなる未来が来るかもしれません。漁村や漁師がいなくなる未来が来るかもしれません。課題だらけの水産ではありますが、私はクズと呼ばれた昆布をアップサイクルする星屑昆布という商品を作りました。
調味料の『さしすせそ』の先にある昆布の『こ』、これを使って世界中のあらゆる食と昆布をつなぎ合わせる、新しい食文化の創造をしたいと思っています。同時に水産、地域、社会全てが良くなるような、”究極のきれいごと”を皆さんと一緒に作っていきたいと思います」
ICCで、いろいろな人と話せることを楽しみにしてきたという保志さんは、昆布の端材を粉にした星屑昆布と様々な食材を掛け合わせて提供。昆布漁師として漁に勤む一方、Instagramでは現場を発信している。
「単純に本当に日々の昆布漁をイメージできるようなものと、星屑昆布という六次化を始めて、選択肢と可能性が広がる新しい昆布のあり方みたいなところをイメージできればいいかなと思っています。実際ただコンブを持ってくるのではなく、加工の関連で粒度を変えてできる商品や、あるいはメタバースを合わせたりとか…」
と言って、保志さんが見せてくださったのは、漁場の360度映像。自分が浜にいるような感覚で、保志さんの仕事場を見ることができる。インスタでも昆布漁師の仕事も見ることができて、それがとても面白い。ICCには一次産業の方々も多く参加し、磯焼けの問題など海の環境については一定の知識があるが、昆布もまたそういう課題を抱えているのだろうか。
「そもそもうちの地域的の課題としては、高齢化が進み獲る量も落ちて生産力が落ちている状況があるのですが、なんとそれは課題ではありません。実は獲る量に対して自然の再生産が今のところ逆転しているんです。うちの地域は生産力が弱いんですけど、例えば、コンブ漁の時に磯焼けが起きていると何もないじゃないですか。
それが、シケの時に昆布が打ち上げられる。穫りきれなくて海に浮いている昆布で陸地が出来上がるくらいの昆布がある」
生産力が弱い地域で、昆布の成長が収穫量を上回るという、漁師側の問題。この時期こそ、「ただそれにあぐらをかくんじゃなくて今ある段階で次の一手をうつのが大事」と保志さんは言う。
「まだまだ課題もたくさんありますし生産力の強化、高付加価値、あるいは次の何かを生むためのアクションというところも含めてやっていこうとしています。
例えばものづくりをしながら、お客さんがすごく来るようになった。観光は相性がいいところから漁業を観光化したり、教育化をする。ユーチューバーが来ればエンターテイメントに、精神科の先生が来たときは医療にもなる。こんなふうに引き出しを広げて、今までなかった答えをどんどん生んでいけたらと考えています」
今まで、海の環境が変わってしまって大変だという考えしかなかったが、おのざき同様、保志さんは豊漁に対する課題解決を考えている。
「人がいなくなる未来のほうが脅威だと思っています。人が減って今までの形が機能しなくなった段階で漁業が継続できなくなるので、どれだけ若い人がいても、獲る力があってもそもそも流通もしなくなります。
なので水産業により人が関われるように、関わりたいと思ってもらえるような水産業の面白さや業界に対する期待感を生み出さなきゃいけないと思って、いろいろなトライ&エラーを自分がやっていければなと思います」
保志さんは自分のことを「センスがない、いわゆる漁師としての本物にはおそらく届かないんじゃないか」と言うが、漁業への情熱は人一倍あり、「自分がいる以上はこのまま消えてほしくないし、胸張って漁師やってますと言いたい。本物に届かない奴が知恵を使っていろんな人の力を借りて、本物の先を行くぐらいのストーリーを描けたほうが面白い」と言う。
雑貨店にありそうなパッケージデザインや、先に話に出たメタバースなどが、クリエイターやデザイナーが地域に入って来た段階で物事が加速度的に変わったそうで、「漁師も地域も関わる人が増えれば増えるほどいろんな世界を見せてもらえるんじゃないか」と、ICCでの出会いにも期待している。
「もうすでに結構満足しているぐらいいろんな人にお話を聞けました!」
そこからどんな共創が生まれるのか、漁師の先を行くストーリーは、きっと保志さんが発信で知ることができるだろう。
あじかん
出品プロダクト:カカオ不使用!ごぼう生まれの新スイーツ
【キックオフでのスピーチ】
龍地 泰明さん「あじかんは、広島で業務用の卵焼きのメーカーを60年ほどやっている老舗の卵焼きメーカーです。また、巻き寿司文化を広める業務用食品事業、そしてごぼう茶の日本一の会社でございます。我々は2030年ビジョンとして卵焼き、巻き寿司、ごぼう、この3本の軸で世の中に貢献していくことをビジョンとして掲げました。
今回私はその3本柱の1つ、ごぼうの事業の代表として参加しています。昨年Makuakeさんで発表した、ごぼうでできたチョコレート風のお菓子のGOVOCEを皆さんに知っていただくためです。GOVOCEはカカオを一切使用していません。皆さんぜひ、ごぼうを超える、常識を超える食体験をしていただければと思います」
チョコレート色ならぬ、ゴボウ色のポロに身を包んだあじかんのチーム。ブースにはゴボウとは思えない太さの大きなゴボウが飾られている。GOVOCEは、ゴボウの香ばしさと、ビターチョコのようなクリーミーな味わいに驚かされる”チョコレート様スイーツ”で、カカオは入っていないとは信じられない。
「でもこれがごぼう茶なんです。ごぼう茶のそのままの原料で、粉砕したものに油分と砂糖を混ぜたもので、着色料や香料も一切使っていない。チョコレートの香気成分と焙煎ごぼうの香気成分が8割似ているというのが分かりまして、そういったところから開発しました。
ごぼうって、家庭でもきんぴらごぼうや筑前煮、豚汁など、和食で出るイメージですよね。親が40代くらいの方だと、家庭の食卓には出てこないというのを聞いていますし、さまざまな要因は考えられますけれど、ゴボウの消費がどんどん減っているんです」
スーパーで売っているゴボウはだいたいS、Mサイズで、ディスプレイされていた太いゴボウは業務用の規格で、2Lサイズ。青森、茨城が二大産地で、大阪では茨城産が主に流通しているそうである。あじかんといえば通販番組などでごぼう茶が有名だが、それを不思議に思った審査員が多いそうだ。
「食べていただくと皆さん驚いて、なぜこんなチョコレートのような味が、すごいと言ってくださる方が8割9割。あと美味しいとおっしゃっていただけました。
カカオには原産地で児童労働問題などがありますが、うちはゴボウで偶然チョコレートのようなものができた。狙ったわけではなくて、チョコレートを代替するという目的でもなく、我々としてはゴボウがより食卓、口に入るような範囲を広げようとしています。その選択肢がスイーツで、手軽に食物繊維を摂れる。
あとはチョコレートにカフェインが入っているとは知らなかったという方がいらっしゃいました。これならノンカフェインなところも推しですね。今回出られている生産者の方々の背負っているもの、熱量などでは負けるかもしれませんが、驚きという部分では負けないと思っています」
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私たちが日々、何気なく口にしているものは、生産者の想いや苦労の結晶であるということに改めて気付かされるのが、このフード&ドリンクアワード。その思いの中には、先人たちから受け継いできたものと、現在・未来を展望するときの課題が含まれている。
▶【速報】フード & ドリンク アワード優勝は、泡盛粕からつくるDHA入りの“うま藻”で、美味しさとサステナブルを両立する「AlgaleX」(ICC KYOTO 2024)
こんなことを考えて作っているのか、という驚きや素晴らしい食と生産者の出会いとともに、彼ら・彼女らの課題を理解し、そのうえで作り上げられている味わいを体験する。すると、生産者のファンにならずにはいられないし、伝えたくなるし、応援したくなる。
このアワードに出展していなくても、知られていないだけで日本全国には想いを持った生産者たちがまだまだたくさんいるはずである。審査員が発信力の強い経営者たちというこのアワード、ものづくりに自信があり、新たな出会い・刺激を求める生産者の方々は、ぜひ参加いただいて新たなCo-Creationを見つけていただければ幸いである。
(終)
編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成