ICC KYOTO 2024のセッション「大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン12)」、全5回の②は、リバネス 井上 浄さんが生きるとは「水」との関わりだと解説します。人間の体重の約60%は水分で、新生児にいたっては80%、摂取する水は約10日~2週間で代謝され、人間の腸内環境の維持に非常に重要なのだとか。そんな重要な水にちなんだ名言も合わせて紹介します。ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2025は、2025年2月17日〜 2月20日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
本セッションのオフィシャルサポーターは エッグフォワード です。
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【登壇者情報】
2024年9月2〜5日開催
ICC KYOTO 2024
Session 2F
大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン12)
Supported by エッグフォワード
石川 善樹
公益財団法人Well-being for Planet Earth
代表理事
井上 浄
株式会社リバネス
代表取締役社長 CCO
嶋 浩一郎
博報堂 執行役員/博報堂ケトル クリエイティブディレクター
中村 直史
株式会社五島列島なかむらただし社
代表 / クリエーティブディレクター
(モデレーター)
村上 臣
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▶「大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン12)」の配信済み記事一覧
村上 トップバッターは、(井上)浄さんでございます。
井上 ありがとうございます。
改めまして…12回ですよ? 6年ですよ?
これまで散々データは出してきましたが、今回は論文をご紹介できたらと思いまして。
皆さん、このセッションが終わった後すぐに自慢していいですからね。
村上 (笑)
井上 自慢できるものを持ってきました。
生命と「水」の関わりを解説、井上 浄さん
井上 生きるとは何か?について、だいぶ大きく、メタ視点から入ってみようと思いまして。
最初に、簡単に自己紹介です。
井上浄と申します、初めましての方はどうぞよろしくお願いいたします。
浄さんと呼んでいただけると嬉しいです。
僕はもともと薬学出身で、研究者です。めちゃくちゃ研究が好きなんです。
世界初が、目の前で、自分の手で証明できる。
これより楽しいことがこの世に存在するのかと思っていて、どっぷり研究にハマっております。
22年前、大学院生の時に仲間15人でリバネスという会社を立ち上げ、科学技術の発展と地球貢献を実現するため、サイエンスとテクノロジーを活かしてグローバルハピネスを作っています。
そんな、研究者集団が世の中の課題を解決していくぞ、という会社を経営しています。
ですので僕は、経営者であり、研究者です。
今回、生きるというテーマですが、まず地球を見てみましょう。
宇宙から見た地球は青く輝き…あ、ちなみにこの文章は、国土交通省の資料から引用しています。
村上 ちゃんと出典が記載されていますね(笑)。
井上 はい、ちゃんと。
宇宙から見た地球は青く輝き、「水の惑星」とも呼ばれています。
石川 国土を語るには、宇宙から語らないといけないですからね。
井上 そうそう。メタから見ないと、道一つ分からないわけです。
石川 土の前に水だと(笑)。
井上 (笑)地球の表面の3分の2は水で覆われていると。
これは皆さん、どこかで聞いたことがあると思います。
村上 そうですね。
井上 それはその通りですよね。
人間は、体重の60%が水分でできている
井上 では、その地球に暮らす人はどうか。
我々の、身体の体重の60%は水分でできている。
これも、ご存知の方が多いのではと思います。
新生児にいたっては、80%です。
村上 すごいですね(笑)。
井上 つまり、ほとんど水です!
村上 赤ちゃんはほとんど水なんだ(笑)。
井上 そうです、ほぼ水を抱っこしているということですよ。
でも抱っこしているその人も、6割が水ですからね。
石川 大人が赤ちゃんを抱っこしてるのではなく、水が水を抱っこしていると(笑)。
井上 そういうことです(笑)。
他に体を構成する成分には、タンパク質、脂質、無機質などありますが、約6割は水です。
そして、スライドの左下に書いている通り、それは徐々に減っていきます。
ちなみにこの情報は、大塚製薬のホームページから引用しています。
そんな我々の体の水、どこからとっていますか?
作り出していますか?
村上 え、どこからと言うと…口から飲んでいますよね?
井上 飲んでいますよね! では、その飲んだ水はいつ、自分のものになりますか?
その飲んだ水はいつ、どこに行くのでしょうか?
村上 サウナで水風呂に入ると、毛穴から水が体に入る感覚を覚えるのですが、それは気のせいでしょうか?
井上 一部、皮膚からもとっているらしいですが(笑)。
あと、体の酵素が色々なものを分解する時、水ができるということもあります。
つまり、体内で水が生成されることもあります。ただ、多くの場合、外から水をとっていますよね。
村上 はい。
井上 それが出ていくわけですよね。では、今日ここで僕が飲んだこの水は、いつ僕の体になるのでしょう?
村上 大腸の毛細血管からでしょうか…。
井上 気になりませんか?
村上 気になりますね。
井上 なんと、一昨年2022年の秋、大好きなお友達の山田(陽介)先生が、ヒトの水の代謝回転を予測できる計算式をついに発明したのです。
▶ヒトの体の水の代謝回転量を予測する式を世界で初めて発明 ~23カ国5604人を対象とした国際共同調査の結果から~ (国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)
つまり、とった水のどれくらいが体の中に残り、どれくらいが出ていくのかが、計算式によって示されたということです。
これは、Scienceに掲載された、すごい論文です。
村上 超一級ですよね。
井上 乳児は体水分量の約25%、成人でも約10%が、たった1日で体外に失われるとのことです。
村上 これは、今まで明らかではなかったのでしょうか?
井上 このくらいの期間で代謝回転をしているだろうということは分かっていましたが、正確に調べたのは初めてのことです。
多くの国の5、6,000人のデータを……。
村上 23カ国、5,604人と書いていますね。
井上 そうそう。
10%が抜けているので、成人男性で言うと、おそらく10日~2週間で入れ替わっているのではないかということです。
今日皆さんが飲む水は、10日~2週間で徐々に体になり、出ていくということが証明されました。
石川 先10日間は、これが自分であると思った方がいいのですね(笑)。
井上 そうそう、そう思うと、この水が愛おしくなりませんか?
村上 すごいですね。
井上 これが今回発明された、成人の代謝回転の計算図です。
計算式に使われた因子は、性別、年齢、身体活動、スポーツなどです。
環境にも依存するということですね。
僕らが生きて活動する中で、代謝される水分量を算出する計算式が発明されたのが、山田先生の功績です。
十分な水分摂取は腸内環境や免疫の恒常性に重要
井上 実は、水の研究を僕も山田先生と行っているのですが、独自で行っていた研究もあります。
今年の5月、それについての論文を発表しました。
村上 すごいですね。
井上 腸内環境の維持には水を飲むことが重要である、ということを発見しました。
どういうことか説明しますね。
皆さん、水を飲みますよね。
一日にどれくらい飲まれますか?
山田先生の論文では、成人の場合、一日1.8~2リットルが推奨されています。
ただ、人によって様々なので、実際は計算して調べた方がいいのですが、大体それくらいの量だと思ってください。
僕が行ったのはネズミを使った実験で、脱水症状が出ない程度に、水を制限させます。
僕は摂取した水分量のログをずっとつけていたのですが、一日2~3リットルでした。
酒を飲む日は4リットルを超えていましたが(笑)。
一度調べてみるといいですよ。
一方、大学院生時代は一日ペットボトル1本を飲むか飲まないかだったので、1リットルくらいでした。
つまり、かなり個人差があるのです。
それによって何か変わるのだろうかとふと疑問に思い、十分な水を飲めるネズミと、摂取水分量を25%と50%に制限したネズミで実験をしました。
結果、十分な水分摂取は、腸内細菌叢や免疫系の恒常性を、今ある状態を維持するのに重要であることがわかりました。
これは論文の最後の結論ですが、水を節制して飲まなくなると、腸で感染症にかかりやすくなる、かかると治りが遅くなるということが証明できました。
つまり、水を飲むという行為は、体の60%分を維持するという目的もありますが、恒常性を維持して活動するために必要なことなのです。
節水すると増える菌、減る菌がいたので、おそらく、摂取水分量は腸内環境叢にも影響があります。
まあ原理主義者に言わせれば、僕らは腸内環境にコントロールされているのかもしれませんが(笑)、水を飲むのが重要であるということが分かりました。
村上 なるほど。
井上 ということで、物理的な身体を考えてみても、生きるとは水との関わりであるというのが1つの結論です。
アメリカでの摂取水分量の大規模調査において、どうやら人類には水が足りないかもしれないということが分かり、人類はやや脱水状態ではないかという論文も出ています。
日本でも大規模調査をしたいと思っています。
水を飲む人の方が健康で、保険料も安い世界観が作れたら面白いのではないかと思っています。
黒田官兵衛や老子も「水」の重要性を説いていた
井上 実は、水をテーマにした名言やことわざは非常に多いのです。
スライドで紹介しているのは、黒田官兵衛(※)の「水五訓」です、読んでみてください。
▶編集注:黒田官兵衛(Wikipedia)
心にしみません?
ああ……と思いません?
「自ら活動をして他を動かしむるは水なり」。
「水なり」と続きますが、読んでいると、そうだよねと思いますよね。
村上 水なり、ですね(笑)。
井上 まさに、水なり、です。
嶋 浩一郎さん(以下、嶋) これ、いいですね。
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嶋 浩一郎
株式会社博報堂 執行役員
株式会社博報堂ケトル クリエイティブディレクター
1968年東京都生まれ。1993年博報堂入社。コーポレート・コミュニケーション局で企業のPR活動に携わる。01年朝日新聞社に出向。02年から04年に博報堂刊『広告』編集長。04年「本屋大賞」立ち上げに参画。現NPO本屋大賞実行委員会理事。06年「博報堂ケトル」を設立。統合キャンペーンを多数手掛ける。12年東京下北沢に本屋B&Bを開業。20年から博報堂執行役員。
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井上 流れる水は腐らない、と。
松下幸之助さんの本でも引用されており、「われわれの日常生活が、もし十年一日(いちじつ)のごとく同じ状態であるならば、ともすれば色々の問題が…」と書いています。
つまり、流れゆく、循環していくことが重要なのです。
皆さん大丈夫ですか、滞留していませんか?
村上 流していかないとね。
「ゆく川の流れは絶えずして…」とも、昔から言いますしね。
井上 そうです。流れる水が腐らないことも事実です。
水というものは、日常生活にあり、我々の体にも必要なものです。
各時代の世の中を変えてきた人たちも、水に対して色々考えていたので、こうして名言に現れるわけですね。
そして、「上善は水の如し」。
村上 お酒にもありますね(笑)。
井上 はい、大変素晴らしいお酒だと思いますが、これはお酒の話ではないですから(笑)。
この言葉は、実は老子が言っていた言葉です。
水は善の中でも一番上のものである、なぜなら、万物に利益を与えながら、争わず器に従って形を変え、自らは常に低い位置に身を置くからです。
村上 下に流れていく、謙虚な姿勢ということですね。
井上 その通りです。
「上善は水の如し」は、万物を助ける、柔軟である、謙虚であることを示しています。
まさに、僕たちが生きていくのに一番重要な3要素ではないかと。
この3要素の面でも、人類に水は足りているのか?
中村 深いですねえ。
村上 深いです(笑)。
井上 体に水は必要ですが、皆さん、「上善は水の如し」は足りていますか?
身体においても、マインドセットや思想においても、生きるとは、水であると。
そして私の最後のスライド。
まだまだ研究が足りないぞということで、テーマは身体的でも情緒的でも、一緒に水について共同研究をしてくださる方……!
石川 今日が火曜日であることが残念ですね(笑)。
井上 そういうことです!
(一同笑)
村上 明日だったらね(笑)。
石川 水曜であれ、と(笑)。
井上 明日のセッションだったらビンゴだった(笑)。
村上 本セッションは毎回、ICC1日目のこの時間と決まっていますから、仕方ないですね(笑)。
井上 今度は火の研究を(笑)。
村上 浄さん、ありがとうございます。
会場の皆さん大丈夫ですか、ついてこられていますか?
という感じですので、このセッションの内容は今日にも明日にも絶対に役に立ちませんから(笑)。
(会場笑)
井上 コラッ(笑)!
村上 ただ、ちょっと人に話したくなる内容ですよね?
井上 そうそう、「上善は水の如しだよ」って。
村上 人を助ける、柔軟、謙虚の3要素ね。
井上 まさに、我々が生きるべき姿そのものですよ。
村上 猫も、デローンとなる柔軟性があって液体と言われることがありますよね。
井上 身体的柔軟さね(笑)。
あのブルース・リーも水にまつわる名言を!
嶋 先ほどの松下幸之助の言葉を見て思い出したのですが、ブルース・リーは、”Don’t think! Feel!”と言っていたり名言が多いです。
「ズボンや靴下を履く際にもバランスをとる練習をしろ」みたいな笑える言葉も多いのですが、一番有名なのは、”Be water”、つまり「水になれ」というものです。
井上 それ、今度使わせてもらっていいですか!?
嶋 はい。
水は形を変えて、しなやかで、どんな容器の形にも合うのだけれど、固まると強いし、勢いが強いと岩をも砕く、つまりしなやかさと強さの両方を兼ね備えている、とブルース・リーは言っているんですよ。
ブルース・リーの伝記か何かで読んだのですが、その時はそこに線を引きましたね。
▶水になれ、我が友よ 不滅のドラゴン伝説 ブルース・リー没後50年(朝日新聞デジタル)
井上 水です!
村上 Be waterですね。
石川 座右の銘は?
井上 水です!
石川 (笑)。
村上 座右の銘が”Be water”だと、何かかっこいいですよね。
アメリカ人とイギリス人を並べて言わせてみるというギャグもできますね。
ということで。
井上 水の話でした(笑)。
世の中を変えている人たちは水に魅せられているのだと、本当に思いましたね。
本当に体に重要なのも水なので、皆さん、水に敬意を持って、”Be water”.
村上 京都という名水が多い土地で話すには、最適なテーマですね。
地下には琵琶湖と同じ量の地下水が溜まっていると言われています。
石川 水の神様の貴船神社もありますしね。
村上 はい、ぜひ行ってみてください。
(続)
編集チーム:小林 雅/星野 由香里/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成