ICC KYOTO 2024のセッション「大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン12)」、全5回の③は、Well-being for Planet Earth 石川 善樹さんがWell-being研究を、哲学者らによる第1世代、社会科学者らによる第2世代、自然科学者らによる3世代に分け解説します。Well-beingに生きる人の脳の情報処理パターンは必読です。ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2025は、2025年2月17日〜 2月20日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
本セッションのオフィシャルサポーターは エッグフォワード です。
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【登壇者情報】
2024年9月2〜5日開催
ICC KYOTO 2024
Session 2F
大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン12)
Supported by エッグフォワード
石川 善樹
公益財団法人Well-being for Planet Earth
代表理事
井上 浄
株式会社リバネス
代表取締役社長 CCO
嶋 浩一郎
博報堂 執行役員/博報堂ケトル クリエイティブディレクター
中村 直史
株式会社五島列島なかむらただし社
代表 / クリエーティブディレクター
(モデレーター)
村上 臣
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▶「大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン12)」の配信済み記事一覧
生きることは歌うこと、石川 善樹さん
村上 生きるとは水であるというところから、続いて(石川)善樹さんにウェルビーイングと絡めた上で、生きるとは何かについてお話しいただきましょう。
石川 何のために生きるのかという問いは、ウェルビーイングにおいては古今東西いつでも出てきます。
ですので、生きるとは何かについては、ウェルビーイング研究の歴史を追っていけば、何か分かることがあるのではないかと思いました。
僕から見ると、ウェルビーイング研究は今、第3世代まで来ています。
第1世代を、持論の時代と僕は呼んでいます。
ウェルビーイング「とは」何か?という問いについて考え続けて、それぞれの定義で答えを出していました。
例えば日本人は、生きるということを比較的、文学的に考えてきました。
古今和歌集(平安時代前期の歌集)を見ると、有名な歌人・紀貫之による序文の中に、「生きとし生けるものは歌を歌っている」、つまり、生きることは歌うことだというような内容が含まれています。
▶古今和歌集「仮名序」原文と現代語訳・解説|古今集(四季の美)
それが日本人の感性であると高らかに宣言しているのです。
生きるとは歌うことだと。
村上 歌なり、と。
石川 これが日本人の中に脈々と受け継がれている証拠として、こういう歌があります。
「♪ぼくらはみんな生きている 生きているから『歌うんだ』」!
村上 キタ!
石川 何でだよと思いませんか!?
井上 急にテンションが(笑)。
石川 歌うんだ!
あれは古今和歌集から来ているのですよ、生きるから歌うことである、と!
逆に言えば、歌っていないやつは生きていない、と(笑)。
井上 お前はもう死んでいる、と(笑)。
村上 それが大和言葉で歌われていれば、なお良いということですね。
石川 そうなんですよ(笑)。
人には3つの志向性がある
石川 第1世代の古今東西の結論をまとめると、生きるということにおいて、人は3つの志向性があるとのことです。
その3つとは、快楽を求めるか、意味を求めるか、あるいは、快楽も意味もないけれど目の前のことに没頭するかです。
3つ目は、マインドフルネスのようなものですね。
「幸せへの3志向性」というキーワードで検索してもらえれば、10数問のアンケートがヒットします。
▶日本人における幸せへの3志向性(熊野 道子 大阪大谷大学)
それに回答すると、快楽を求めるタイプなのかなど、皆さんの志向性を測定できるのです。
村上 なるほど。
石川 中には、快楽も意味も求める、つまり、複数の志向性を持っている人もいます。
そういう人は、自己矛盾を抱えやすいです。
例えば、仕事に楽しさも意味合いも求める人は自己矛盾が生じやすいです。
村上 これらの志向性はトレードオフなのですね。
石川 時にそうなります。
ウェルビーイングとは何ぞやという初期のウェルビーイング研究は、ここからスタートしています。
快楽なのか、意味なのか、没頭なのか。
井上 善樹さんはどのタイプ?
石川 僕は快楽寄りかな(笑)。
(一同笑)
自分で調べて、残念な気持ちになりました(笑)。
村上 まあ、志向性なのですね。
石川 ちなみに日本人には、意味を求める人が多いです。
村上 パーパス経営ですね。
石川 アメリカ人には、没頭を求める人が多いです。
ですから、ジョブ型雇用というスタイルが西洋で生まれたのは、行うことが決まっていた方が没頭しやすいからなのです。
井上 なるほど。
石川 一方でジョブ型は部分を担当することになるので、全体の中でのその部分の意味が分からなくなってしまいます。
どちらかと言えば、日本人はメンバーシップ型雇用で、何のためにしているのかという意味を求めるのが好きな人が多い。
僕は日本でも西洋でもない、残念な快楽タイプですが(笑)。
井上 別に、残念ではないよ(笑)。
村上 多分、僕も快楽寄りだと思います。
石川 多分そうですね。
HAPPYの研究からウェルビーイングの研究へ
石川 第1世代では諸説ありすぎるので、自分がしっくりくるものを選べばいいと思います。
第2世代は帰納の時代と書いていますが、帰納とは、データからパターンを見出すということです。
この世代における問いは、ウェルビーイングとは?ではなく、「誰が」ウェルビーイングだと「言って」いるのか?です。
あるいは、「いつ」ウェルビーイングだと「言って」いるのか?です。
同じ人でも、ウェルビーイングである時とそうではない時がありますよね。
第2世代では、ある意味、ウェルビーイングとは何かと定義することを諦めたのです。
諦めて…。
村上 聞いて、データを集めてみようと。
石川 データからウェルビーイングが導き出せるのではないかということで、初期の結論がこれです。
▶VERY HAPPY PEOPLE | PSYCHOLOGICAL SCIENCE(Chico State)
井上 「VERY HAPPY PEOPLE」(笑)。
中村 すごいタイトル(笑)。
石川 論文のタイトルが、「VERY HAPPY PEOPLE」。
井上 これはやばいですね、VERYですよ(笑)。
石川 ウェルビーイング研究の父と言われるDiener先生、そしてポジティブ心理学を創り出したSeligman先生によるものです。
彼らは、「最近、調子どう?」と人々に聞いていったわけですが、VERY HAPPY、つまり「サイッコー!」だと答える人たちがいたのです(笑)。
村上 10段階で、10をつけちゃう人たちですね。
石川 そうそう、そういう特殊な人たちは何なのだろうと。
学歴、収入、地位などが高いのかという仮説を最初は持っていたのですが、全部否定されました。
VERY HAPPY PEOPLEの特徴は、よい友達がいたことだったのです。
井上 なるほど、シンプルですね。
石川 これを以て、ある意味、幸せ研究は終わったのです。
というのは、HAPPYという感覚は、 誰と一緒にいるのかという感覚で決まりやすいのです。
中村 なるほど。
石川 HAPPYは瞬間的な感情なので、この研究の後、HAPPYの研究からウェルビーイング研究に移っていきました。
中村 そうか、ウェルビーイングとHAPPYは違うのですね。
石川 では、よい友達とは何なのか。
井上 よい友達とは何か(笑)。
中村 とは。
村上 とは。
石川 これは、困った時に手を差し伸べてくれる友達です。
調子が良いときは、みんな、周りに集まってくるのです。
でも、調子が悪いとき、苦境に陥ったときに手を差し伸べてくれるのが、よい友達です。
そしていよいよ第3世代に入るわけですが、ようやく生物学や脳科学など、自然科学の研究者が入ってきてくれたのです。
生きるとは、ウェルビーイングとは、というのは、要は脳の情報処理なのです。
脳がどう情報処理をするかについては最近、統一理論ができまして…詳細に話すとややこしいので話しません(笑)。
自由エネルギー原理というものがありますので、興味があれば調べてください。
▶参考:自由エネルギー原理(脳科学辞典)
脳は、外の世界、つまり外部環境あるいは体内の内部環境に対して、長期的に最適な情報処理を行いますが、これが生きるということなのです。
浄さんではないですが、僕らも数年前に論文を発表しました。
井上 おめでとうございます。
石川 脳科学の観点からウェルビーイングや生きるについて研究する際、この図に従って研究をしませんかという研究提案を、その論文でしたのです。
井上 なるほど。
石川 ですから、生きるとは何かを脳科学的に図式化すると、これになります(笑)。
村上 なるほど。
石川 生きるとは、これです(笑)!
井上 (笑)。
村上 答えが出ちゃいましたね。
石川 出ちゃっているんですよ(笑)。
でもこの図も説明するとややこしいので、飛ばします(笑)。
この図よりも、結論を理解してもらった方が良いので。
良い生き方の人は脳に3つの情報処理パターンがある
石川 アメリカのオクラホマ州にライバーという研究所があるのですが、彼らと一緒に人を研究しています。
それで分かったことは、ウェルビーイング、つまり、苦しみがなく良く生きている人の脳には、3つの情報処理パターンがあるということです。
1つ目は、「他者承認に対する欲求が少ない」ことです。
これは別の言葉で言うと、自分の中に評価基準があるということで、それに照らして自分を評価します。
でも、 自分の中に基準がない人は、外に評価を求めます。
外を求めた瞬間に、キラキラしたものとの比較になってしまうのです。
村上 隣の芝は青いということですね。
嶋 千葉雅也さんの『センスの哲学』という本があり、どうすればセンスが良くなるのかということが書いているのかと思って一生懸命読んだのです。
▶『センスの哲学』(Amazon)
最初は、ピアノが上手くなりたいとか、ファッションセンスが良くなりたいとかで、誰かのモノマネをし、その人の物差しで練習をしていくけれど、最終的にその物差しを使わなくなった人が、センスの良い人であると。
つまり、他人の物差しではなく自分の物差しを持つことがセンスが良いということで、それと近いですね。
石川 近いですね。自分の中に基準ができるとは、どういうことか。
私の限られた経験からですが、自分の中に軸がある人の特徴として、昔、すごく大変な経験をしているというものがあります。
すごく大変な体験を乗り越えていると、そこが基準になるのです。
それと比べると、全てがよく見えるのです。
村上 なるほど。
石川 「若い時の苦労は買ってでもせよ」という不思議なことわざがありますよね。
それはつまり、自分の中に基準を作るべきということです。
村上 ベースラインを作れということですね。
石川 それがないと、常に外と比べてしまうからです。
井上 精神発達もそうですよね。
過去に大きな辛い経験があると、成長すると言いますよね。
石川 脳の色々なパラメータを調べたわけですが、他者承認についてはなるほどと思いつつ、2つ目と3つ目は結構意外でした。
井上 これ、面白いですね。
村上 2と3はネガティブですよね。
石川 ウェルビーイングである人は、学習が遅い(笑)。
村上 なるほどね。
学習が遅い方が長期的に見て適応しやすい
石川 2つ目の「学習が遅い」というと、良くないことに聞こえますよね。
これは時間軸と環境変化の激しさが関係してくるのですが…安定した環境にいるのであれば、学習が早い方が良いのです。
でも、環境が変化し続けるのであれば、学習が遅い方が良いのです。
なぜなら、その方が長期的に見て適応しやすいからです。
村上 早い、遅いというのはどういうことですか?
石川 ネガティブなフィードバックがあった時、それをすぐに取り入れるかどうかです。
村上 すぐにアクションを起こすかどうか、ということですね。
石川 例えば、「横断歩道では、手を上げましょう」と言われますよね。
手を上げてないと、上げなさいと怒られる。
怒られた時、すぐに手を挙げる人は学習が早いということです。
でも、腕をまっすぐ挙げるというこの行為は、海外ではネガティブなジェスチャーにも捉えられかねませんから、、横断歩道を渡ったり、タクシーを止めたりする時にこんなことをしていたら、「やばいヤツがいるぞ」となります(笑)。これが環境変化です。
3つ目の「忘れやすい」も意外でした。
ネガティブな結果が出た時、忘れる、許す力が強いというのは、ウェルビーイングであると。
村上 これは、そんな気がしますね。
井上 学習が遅いというのは、かなり意外ですね。
村上 意外です。
石川 これはまだ途中結果ですが、脳科学の観点からは、こういう特徴があるということです。
生きるとはということについて、少なくともこれまでのデータから見えてきたパターンとしては、友達がきちんといて、他者承認を求めず、忘れっぽく、人を許す力がある人が、良く生きている人たちであると。
でも、このパターンから外れていてもウェルビーイングである人もいるのです。
これは、研究成果を解釈する時に重要なのですが、今、世の中に出ている研究成果とは所詮パターンでしかなく、事象の全てを表しているわけではありません。
ですから、これからの時代の「生きるとは」という新境地を開くため、友達が少なくて、他者承認ばかり求めて、一度起こったことは絶対に忘れず、学びが早い、それでもウェルビーイングである人は、ぜひ、私と仲良くなってください(笑)。
村上 研究が進むと(笑)。
石川 そう、研究を進めるために(笑)。
井上 そういう人は、どこいるのでしょうかね(笑)?
村上 Xには、たくさんいそうですよね。
石川 ここにはいないかもしれないですね。
村上 Xで文句ばかり言っている人をリクルートしていけば、すぐに見つかると思います。
そういうポスト、よく見ますので。
石川 まあ色々話しましたが、個人的には、「生きるとは歌うことである」というのが一番好きな定義ですね。
村上 ありがとうございます!
石川 ありがとうございます。
村上 いやあ、深いですね。
自分で設定したテーマではありますが、結構良い話が聞けています。
ここまでをおさらい
村上 ではここで、恒例の中締めです。
まず、(井上)浄さんと(石川)善樹さんから投げかけを頂きました。
基本的に人は水でできているということ、赤ちゃんに至っては8割が水なので、ほぼ水であると。
物理的に水を摂取するのが大事で、その論文も発表されて、腸内環境にまで影響するほどなので、適切に水を飲みましょうということでした。
そして、水はことわざにもよく登場し、流れている限り水は腐らないとあるように、経営にもつながる示唆がありました。
キャッシュフローがしっかりと回っていれば会社は潰れない、とも言いますよね。
動き続けることが大事、止まった瞬間にショートして死んでしまうと。
次に、ウェルビーイングについて。
VERY HAPPY PEOPLEという衝撃的タイトルの論文があり、HAPPYについて明らかにされました。
人間はソーシャルな生き物なので、人との関わり合いからHAPPYを感じるということでした。
そして意外だったのは、学習が遅いとウェルビーイングであること。
ビジネスの世界では、学習が遅いのはかなりネガティブなことですが、劇的に環境が変化する昨今では、何かを言われた時に脊髄反射ですぐに反応するよりは、ゆっくり時間をかけて咀嚼しながら動く、レジリエンスなやり方が合っているかもしれない。
忘れっぽいこともネガティブに捉えられますが、どんなに嫌なことをされても、許せるかどうかが大事だと思いました。
井上 やはり、本人の判断基準なのだなと思いましたね。
村上 そうですね。
井上 善樹さんは、VERY HAPPY PEOPLEの一人ですか?
ご自身は、ウェルビーイングなんですか?
石川 いつも、よく分からなくなるんですよね(笑)。
村上 考えすぎているから(笑)。
井上 調べすぎて、何だか分からなくなる(笑)?
石川 でも、壮大な勘違いをしながら生きているんだろうと。
自分には友達が多いと思っていますし(笑)。
相手が自分を友達と思っているかは知りませんが。
(一同笑)
嶋 判断基準を持っている人が幸せなわけで、早く判断する人が幸せであるわけではないですよね。
状況を見て、結論を出さずにずっと放置して、でも幸せという人がたくさんいます。
ある本では、ネガティブケーパビリティの研究者曰く、『源氏物語』のような長い話は、早く結論が欲しい人にとっては長すぎて意味が分からなくなるそうです。
その本では、学習が遅い人は『源氏物語』のような文学を楽しめる人だと捉えていたので、石川さんの話は面白いなと思いました。
村上 面白いですね。
(続)
編集チーム:小林 雅/星野 由香里/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成