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「ソーシャル・イノベーションのインパクト創出」の(その3)は指数関数的なスケーリングを実現するソーシャル・デザインの事例として「OLIVE」や「東京防災」のプロジェクトの事例をNOSIGNER 太刀川さんに説明いただきました。
指数関数的なスケーリングするプロジェクトとそうではないものと違いは何か?など必読の内容です。是非ご覧ください。
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登壇者情報
2016年3月24日開催
ICCカンファレンス TOKYO 2016
Session 1C
「ソーシャル・イノベーションのインパクト創出」
(スピーカー)
太刀川 瑛弼
NOSIGNER株式会社 代表取締役
前野 隆司
慶應義塾大学 教授
米良 はるか
READYFOR株式会社 代表取締役 CEO
(モデレーター)
西村 勇哉
NPO法人ミラツク 代表理事
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本編
西村 ここからは、皆さんと一緒にお話をしていきたいと思っています。せっかくの機会ですので、興味に対してダイレクトに答えをもらえる場にしようと思っています。
思いつきから始めて、「まあまあいいね」と評価されて広がり始めたものが、本当に世の中にインパクトに与えらる段階にジャンプするのか、成長するのかは分かりませんが、どうやったらそちらのステージに入っていけるのか。
例えば、太刀川さんが色々なプロダクトを見てこられて、このプロダクトはいけるなとか、もう少しこうすればよいのにとか感じた時に、そのもう少しというのは一体何なのか。
米良さんが色々なプロジェクトを見てこられて、このプロジェクト育つなとか、育たないなとか感じた時に、その違いとは一体何なのか。
もしくは、ご自分の会社がある時にステージが変わったな、と思う瞬間のようなことをまずはお聞きして、前野先生と一緒に分解していければいいなと思っています。
スパイラル型スケーリングの成功事例「OLIVE」
太刀川 まず手前味噌ですが、スケーリングしていって先程のスパイラルを一番感じたプロジェクトが、「OLIVE」という復興支援というか震災への緊急対策でした。
最終的に、「OLIVE」が最もスケーリングを感じるものとなりました。
きっかけはというと、私はデザイナーですが、デザインがさっぱり役に立たなさそうで、ホームレスがどうやって暖をとっているかのようなことを、震災直後にツイートしたことでした。
そのツイートが結構広がることが分かり、翌日ぐらいにはそれをデザイン的なもに落とし込んでみようということになり、「ペットボトルが湯たんぽになります」といったことを、ビジュアルにしてツイートしていきました。
そして、それが更に広まるにつれて私以外にもそういう人が沢山いることが分かり、タイムラインが早すぎてアイディアが流れてしまうのを恐れて、Googleサイトを使って「OLIVE」というプロジェクトにまとめていくことにしました。
GoogleサイトというのはWiki(ウィキ)ですね。
Wiki上に「OLIVE」というプロジェクトを作り、皆が投稿できる場所を作りました。
それが結構バズりまして、1週間程で約100個のプロジェクトが集まり、4カ国翻訳版ができ、その週の終わりには、被災地でフリーペーパーを配ることができました。
そして3週間後には100万PVを記録し、テレビや新聞などのメディアにも広がったので、約1,000万人の目に留まったことになります。
その後半年程で書籍になり、現在のところ累計約2万部出ています。
震災関連の書籍としてはそこそこ売れた本になりました。
その後、防災キット(THE SECOND AID 仙台市の高進商事と共同開発した防災セット)にしたりなどしました。
ある時、都知事が防災の本の製作を電通さんに相談したそうです。
そこで、その「OLIVE」の本をご覧になっていた電通の方が「OLIVE」に目を留めて下さり、一緒に編集とデザインをして作ったのが、「東京防災」という本です。
東京都にお住まいであれば持っていらっしゃるかもしれませんが、累計で770万部発行し、20万部増刷したので、結局全世帯に配られ、現在では各書店で140円で買えるようにもなりました。
防災プロジェクトとしては、恐らく日本最大、いや世界最大かもしれませんね。
これは大分スケーリングしましたけれども、考えてみればツイートから始まっていて、とても小さいものが承認され、誰かがそれを後押ししてくれるところから始まっています。
そして、Googleサイトで作ったといっても、Googleさんが作った仕組みを使っているわけですから、私はデザインとしては「OLIVE」のロゴを作るぐらいのことしかしていません。あとは、裏で膨大な編集作業をしてましたが。
要するに、小さなトライを周りの人がどんどん認めていってくれることで、スパイラルが段々大きくなり、最終的には少し想像のつかないところまでいったなという印象です。
防災のデザインが今後どのぐらい広がっていくのか分かりませんが、東京防災を超えるようなプロジェクトにさらに広がったらすごいですね。
でも、何て言うのかな…例えばデザインでも、皆さんのベンチャービジネスでもそうだと思うのですが、自分たちと同じような立場の人たちというのは、後押しをしてくれるというよりは、上手くいっている人をとかく斜に構えて見るじゃないですか。うーん、みたいな。(笑)
指数関数的なスケーリングを実現するソーシャル・デザイン
太刀川 でも、上手くいくパターンというのは、「それいいね」といった感じで、周りの人が結構助けてくれるんですよね。
何と言えばよいのか、乗数になっているというのか。
足し算で段々と増えるというより、指数関数的に増えていっているという感じがあります。
それは多分、イノベーションを見たときに、それに共感した人たちがどう動くかということなんだと思うのですが、私は、デザインもまたそこを担保していると考えています。
僅かでもよいから、乗数を持っていること、つまり、何かポンと生み出されたものが、すぐ隣の人に話したくなるようなものは、こういう感じ(指数関数的)に伸びますよね。
そういう感覚はあるかなと思いました。
震災時には、あのような状況でしたから、そのような(イノベーションが周りの人に後押しされるような)モードが最初からあり、すごくやりやすかったんですよね。
そういう状況でなければ発動しないのかと考えるとすごく切ないので、そういう状況ではなくても、「面白いっ!」という強い印象を最初から与えるようなものではなくても、そういうものにタッチできるものとは何なのかなというのは、考えさせられるところではありますけどね。
西村 皆さんにお聞きする前に、少し質問させて頂けますか。
「東京防災」が出版されるほどにまでに至った、防災情報収集の取り組みについて2つお聞きしたいことがあります。
1つは、今までのご経験を振り返られて、上手くいったプロジェクトとそうではないプロジェクトには、どんな違いがあるかということです。
もう1つですが、上手くいったプロジェクトは、デザインという観点から、他のものよりも何かしら良い要素やクオリティーを持っていたと思うのですが、そのクオリティーの良さについて少し噛み砕いて説明して頂けますか?
太刀川 防災系のプロジェクトというか、震災復興系のプロジェクトで、失敗も経験しています。
例えば、節電を推進するために、ステッカーを流行らせようとしたことがありますが、ほとんど世の中には出ていないので、皆さんは恐らくご存知ないと思います。
多分、そのプロジェクトは私たちだけに閉じていたんですよね。
スケーリングするためにはコミットしてくれる人たちのポテンシャルを活かす
太刀川 「OLIVE」の場合は、結構委ねていました。
西村さんは得意だと思うのですが、スケーリングするためには、相手に丸投げしたり委ねてみたりすることが、実は結構大事な要素だなという気がしているんです。
コミットしてくれる人たちのポテンシャルを活かしきるというか、そこに加わってくれる人たちにとって、可塑性のあるもの、タッチできるものであるということは、結構大事だなと思っています。
「OLIVE」の場合は、女子高生達が結構頑張って絵を描いてくれました。
ただ、デザイン的なクオリティーは決して高いものではなかったので、今度はイギリスのイラストレーターがイラストだけ描いてくれたりもしました。そういう風に発展していったんですよね。
文字の校正だけできる人は、文字の校正だけひたすらやってくれるとか。共感した人たちがあんな風に動けて、よいプロジェクトだったと思うんですよね。
率直な言語(デザイン)であること
太刀川 私がデザイナーとして大事にしていることは、1つに、見れば分かるということですね。率直であるということです。
「あっ、そうそう」「それそれ」のような感じで、何をやろうとしているのか理解されるまでの距離が短い。つまり、デザインを言語だと考えた時に、その言語が率直である方がよいと思っています。
率直であり、深みがあるとなお良いです。
何をやりたいかが端的であるということでしょうか、何と言えばいいんでしょうね。あとは、皆に共通したリテラシーがあることですよね。
先程の話でいくと、例えば、「和える」は、私のブランディング的なコンセプトで言うと、マイナーな和雑貨ではなくて、例えば無印良品あたりよりも少し上質なものとして伝統工芸を捉えてもらい、それをベビー・キッズの領域にあてていくということを考えています。
要するに、私たちのリテラシーにミートさせていくと同時に、表現としては新しくもないといけないので、新しい部分も別個に作っていくことになります。
知っているものの領域と、少し知らない領域のバランスがあって。知っているものを体験していたら、いつのまにか知らないところまで連れていかれるみたいな感覚を上手く作れるとよいですね。
「東京防災」で言うと、例えばキャラクターはイエロー、黒の工事現場ラインがカバーに表現されています。
エマージェンシー感と都市感と漫画の可愛さをパッと視覚で捉えて、「あっ、緊急系の可愛い何かで、漫画で読めばいいのね」と手にとってみる。ざっくり言うと、進研ゼミの封筒で届く漫画みたいなものです。
イラストも可愛いから、とりあえず中もパラパラ見てみようかなという感じになりますよね。残念ながら、防災の情報というのは面白いものではないんですよ。
でもそこに面白く感じてもらうための階段がいくつも設計されていて、パラパラ漫画があることに気が付かされたり、そういった体験を重層的に繰り返すことで、最終的にはすごくディープなところまで連れて行かれることになる。
「東京防災」では、すごく低い階段が、1個目、2個目、3個目、4個目と準備されていますが、そういうことが結構大事だという気がしています。
西村 面白いですね。
時々デザイナーが作ったプロジェクトなどを拝見するのですが、つまらないものも結構たくさんあり、何が違うのかが今少し分かりました。
太刀川さんは相手が理解してくれるために積み重ねていっていらっしゃるけれど、逆に、自分が何かを説明したいがために、そのコンセプトの説明を積み上げているような、つまらないものが結構あるなと思っています。
説明を聞くと、「あ、きっとそういうことが言いたいんだよな」と、自己表現のようなものを積み上げていることが分かります。
表現そのものを目的化しない
太刀川 ある時は新規性になるから、それはそれであった方がよいのですけれどね。表現そのものを目的化してしまうと、デザインは機能しなくなり始めますよね。
表現のためにプロジェクトがある訳ではないですからね。私は、そこは結構クールに俯瞰しているところがあります。
けれども、プロジェクトは圧倒的にイノベーティブでなければならないと思っているし、でき上がる形は新しくないといけないと思っているので、間が難しいですね。
やはり、両方できるとすごく上手くいくイメージがありますね。
西村 ありがとうございます。
(続)
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続きは 利己的な欲求と利他的な欲求の連鎖を可視化し、社会の仕組みをデザインする(慶應義塾大学 前野) をご覧ください。
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編集チーム:石川 翔太/小林 雅/Froese 祥子
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