利己的な欲求と利他的な欲求の連鎖を可視化し、社会の仕組みをデザインする(慶應義塾大学 前野) – INDUSTRY CO-CREATION(ICC)

利己的な欲求と利他的な欲求の連鎖を可視化し、社会の仕組みをデザインする(慶應義塾大学 前野)

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「欲求には、利己的な欲求と利他的な欲求があって、利己的と言うと悪いようですけれど、お金が欲しいとか水が飲みたいとか自分が何かをしたいという欲求と、ソーシャル(社会的事業)な世の中を良くしたいとかアフリカの人にこれをしてあげたいといった利他的な欲求があるのですが、その連鎖を可視化するすることによって、社会の仕組みの分析やデザインを行う手法が『欲求連鎖分析』なんですね。」

「ソーシャル・イノベーションのインパクト創出」の(その4)はソーシャル(社会的事業)の事業展開のスピード感の違い や「欲求連鎖分析」の事例を交えて議論をしました。是非ご覧ください。

登壇者情報
2016年3月24日開催
ICCカンファレンス TOKYO 2016
Session 1C
「ソーシャル・イノベーションのインパクト創出」
(スピーカー)
太刀川 瑛弼  NOSIGNER株式会社 代表取締役
前野 隆司   慶應義塾大学 教授
米良 はるか  READYFOR株式会社 代表取締役 CEO
(モデレーター)
西村 勇哉   NPO法人ミラツク 代表理事

その1はこちらをご覧ください:ソーシャル・イノベーションのインパクト創出を実現するには?
その2はこちらをご覧ください:「郵便」はソーシャル・イノベーションの代表事例(ミラツク西村)
その3はこちらをご覧ください:指数関数的なスケーリングを実現するソーシャル・デザイン(NOSIGNER 太刀川)


西村 ありがとうございます。

米良さんにお聞きしましょうか。

インターネット業界とソーシャル(社会的事業)業界のスピード感の違い

米良 私は2011年にREADYFORをスタートさせていまして、ちょうど5年くらい経ちます。

2011年の5月に初めてインターネット業界のカンファレンスのピッチ・コンテストに出場出したんですね。当時はまだ大学院生だった私が、初めて公の場でプレゼンテーションをさせて頂いて、それ以来、ICCカンファレンスなどのインターネット業界の方が参加するカンファレンスに継続して参加させて頂いています。

やはりインターネット業界は、すごくスピーディーでしたね。ただ、当時はゲームの話ばかりで、私にはあまり関係ないと思っていました。

今では殆どの話題が「C to C」のサービスについてで、この5年間でも丸きりプレイヤーやトピックが変わりましたね。

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米良 はるか
READYFOR株式会社 代表取締役 CEO
1987年生まれ。2012年慶應義塾大学メディアデザイン研究科修了。2010年スタンフォード大学へ留学し、帰国後、2011年3月日本初のクラウドファンディングサービスREADYFORの立ち上げを行い、NPOやクリエイターに対してネット上で資金調達を可能にする仕組みを提供している。World Economic Forumグローバルシェイパーズ2011に選出され、日本人史上最年少でスイスで行われたダボス会議に参加。St.Gallen Symposium Leaders of Tomorrow、内閣府 国・行政のあり方懇談会 委員等国内外の数多くの会議に参加。2014年7月READYFOR株式会社 代表取締役に就任。

次は人工知能だとかいうことですが、その領域のスピーディー感と、かたやソーシャル(社会的事業)の世界の結構ゆっくりした感じにはギャップを感じてしまいます。

ウェブの会社というか、インターネットの会社はやはりPDCAサイクルがすごく速い。

今いる人たち、あるいは10年後、20年後に生きる人たちのために自分たちが何をしなければならなくて、そのために何を試さなければならないのかということについての回転を、ソーシャル(社会的事業)の世界でももっと速くしていくことができないかなと思います。

Industry Co-Creationa(新たな産業の共創)というように、もっと一緒にやっていくことができるのではないかと思っています。

2011年には、そういった産業分野ばかりでした。でも、先日ここで行われたICCの学生向けのイベント(ICCスタートアップ・カンファレンス2016)では、私も登壇させて頂いた「社会を変える起業家になる!」というセッションが学生さんに一番人気だったそうです。

参加資料:「社会を変える起業家になる!」の記事の一覧はこちらをご覧ください。

若い世代の方たちは、これからの世の中をデザインしていということに対して、ものすごく関心が高いですよね。

でも、一旦社会に出てしまうと、売り上げや利益を上げて速く成長しないといけないという風になってしまって、ギャップがありますよね。

ソーシャル(社会的事業)なものだからといって、ボランディアな訳ではありません。

太刀川さんや西村さんが仰っているように、今の時代の人々が求めているものをきちんと作って、その対価としてお金を手に入れて、また新しいものに投資していくという循環のシステムをできるだけ速く、きちんと作っていこうとすることがソーシャル(社会的事業)において重要だと思うんです。

ソーシャル(社会的事業)の領域に比べてITやインターネットの領域での循環の方が速いので、例えば、ヘルスケアとIoTの領域ではソーシャル(社会的事業)がどんどん普及していくと思いますし、そちら側の人たちの方が産業を思い切り変えて、人々の生活を豊かにできる可能性があるのかなと思っています。

私はどちらをも行き来しますが、できるだけ多くの人に、「それがあるから生活が豊かになった」という体験をしてもらえるように、もっとコラボレーションが生まれればよいなと思っています。

太刀川 たとえばどこにスローさを感じられているのでしょうか?

私もね、それを感じるんです。やはりゆっくり育つスピードが遅すぎるなと感じるところはあります。私の相手は企業であったり、ソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)でだったりするのですが。

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米良 単純に言えば、例えば、IT系やインターネット系の会社には、TechCrunch(インターネット・サービスの動向を中心にウォッチするメディア)に投資をいくら受けましたとか、バリエーション(時価総額)がいくらでしたという記事が掲載されるように、皆に分かりやすい数字が存在していて、そこに向かって一生懸命速くやらなければならないという理由があります。

参考資料:同じ時間帯のセッションでは「ビッグ・ベンチャーの作り方」では資金調達に関する議論を行っていました(「ビッグ・ベンチャーの資金調達の考え方」

(ベンチャーキャピタルなどから)投資を受けて3年間くらいでどこかからまた投資されるためには、このくらいまでの規模に達しないといけないという目標が定まっているので、速くしないといけない理由がすごくあると思うんです。

けれども、ソーシャル(社会的事業)の世界では、売上や利益以外のインパクト指標が曖昧なので、だからといって「幸せが目標だよね」ということになると、基準が曖昧で、自分の世界からもう一歩踏み込むということが起こりにくくなります。

READYFORという会社はどこからも投資を受けていないので急ぐ必要がないのですが、インターネット系の世界の人たちは、資本市場などから多額の資金調達を行ないユーザーのためにスピード感を持って事業展開しています。

それが全てだとは思いませんが、インパクトを起こすためには、ソーシャル(社会的事業)の世界でも「速さ」は重要ではないかなと思います。

「スケールディープ」(質を高めること)

西村 米良さんの話をお聞きして浮かんだのが、先程のお話に出てきた、スケーリングの3つの方向性の1つ、「スケールディープ」(質を高めること)です。

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NPOは現在5万社くらいあるのですが、そもそもすごく少ないんですね。

しかも、クオリティーの高いプロジェクトや社会価値の高いプロジェクトが沢山あるかと言うとそうでもない。

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4つの価値の内、他の3つが弱いから社会価値がすごく目立っているだけであって、良さそうに見えるけども、普通の会社に比べてすごく社会価値が高いかっていうと、そうではないものも結構たくさんあるわけです。

そもそもあの3つは循環モデルなので、どれか1個が弱いと、例えば「スケールディープ」が弱いと「スケールアップ」しないんですね。

ですので、質の高いものではないと皆やりたがらないし、皆やりたがらないと市場ができないので大きくはならないし、大きくならないということはクオリティーを上げにくいので、結局負の循環が生まれてしまうんですよね。

一番最初に取り組みやすいのは、質を高めるということなので、そこがきちんとできていれば、皆が真似してくれて市場が生まれて大きくなっていきますが、そこがやりきれていない感はありますね。

そこに目を留めないと、社会価値だけがずっと小さくなってしまって、他の部分だけで勝負し始めてしまうので、結局しんどくて持続できないビジネスモデルになってしまいます。

そうしたときに難しいのは、米良さんが仰ってくださったように、テーマ毎、あるいはテーマに関わる人毎にインパクト指標が異なってきて、どれが本当に良いのかよく分からなくなるというところが1つの課題だなと思っています。

では、前野さんお願いします。

前野 色々な話があったので、それぞれコメントしたいなと思ったのですが、大分忘れてきたのでどうなるか…速い遅いという話と、それからスケーリングについてお聞きして思ったことがあります。

私はもともとロボット、というか機械工学をやっていたんです。

モーターの進歩って遅いんですよ、ところがコンピューターの進歩は速いので…コンピューターってほら、ムーアの法則で伸びるじゃないですか、インターネットが速いのもそれに乗っているからですよね。

ところがハードって遅いんですよね。

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前野 隆司
慶應義塾大学 教授
1984年東京工業大学卒業、1986年同大学修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校訪問研究員、ハーバード大学訪問教授等を経て現在慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科委員長・教授。博士(工学)。著書に、『無意識の整え方』(ワニプラス、2016年)、『幸せの日本論』(角川新書,2015年)、『システム×デザイン思考で世界を変える』(日経BP、2014年)、『幸せのメカニズム』(講談社現代新書,2013年)、『思考脳力のつくり方』(角川書店,2010年)、『脳はなぜ「心」を作ったのか』(筑摩書房,2004年)など多数。日本機械学会賞(論文)(1999年)、日本ロボット学会論文賞(2003年)、日本バーチャルリアリティー学会論文賞(2007年)などを受賞。専門は、システムデザイン・マネジメント学、地域活性化、教育工学、幸福学など。

この差があるなと思っていたんですけれど、ソーシャル(社会的事業)の問題は更に社会の、まさに幸せという非常に巨大なすぐには分からないものを対象にしているから、遅いのは当然だなと思っているんです。

ただ1980年代くらいから見ていると、ソーシャル(社会的事業)は速いと思うんですね。もちろん、インターネットよりは遅いですけれど。

ソーシャル(社会的事業)というか、世の中を良くしたいという動きは昔よりもグーッと加速してきている。ITの速さに比べたら遅いかもしれないけど、ものすごく速くなってきているなというのはありますね。

一般論ですけれど、やはり速いものというのは要するに速く流行って、速く廃れる。

だから、産業革命の頃に蒸気自動車が出てきて、いや電気自動車もあるよ、となり、ハイブリッドカーなんかも出て、何十種類も出た後で、うわーっと淘汰されて、またガソリン自動車に戻ったんですよ。

だから、速いというのは良いことのようで、実は栄枯盛衰がすごく激しいということでもあるので、それで頑張るのもよいけれど、遅いことはそんなに気にせずに、上手くマッチングして委ねて育てていくのも悪くないのではないかなというのが、まず1つです。

欲求連鎖分析による可視化

それから、スケーリングの話に関連してですが、「欲求連鎖分析(Want Chain Analysis)」という私の研究について少しお話したいと思います。

「欲求連鎖分析(WCA)の研究」 (出所:「欲求連鎖分析(Want Chain Analysis)」のWebサイト)

「欲求連鎖分析(WCA)の研究」
(出所:「欲求連鎖分析(Want Chain Analysis)」のWebサイト)

欲求には、利己的な欲求と利他的な欲求があって、利己的と言うと悪いようですけれど、お金が欲しいとか水が飲みたいとか自分が何かをしたいという欲求と、ソーシャル(社会的事業)な世の中を良くしたいとかアフリカの人にこれをしてあげたいといった利他的な欲求があるのですが、その連鎖を可視化するすることによって、社会の仕組みの分析やデザインを行う手法が「欲求連鎖分析」なんですね。

VOLVICの1L for 10L (Drink One, Gove Ten Campaign) (出所: http://www.kirin.co.jp/products/softdrink/volvic/1lfor10l/ )

VOLVICの1L for 10L (Drink One, Gove Ten Campaign)
(出所: http://www.kirin.co.jp/products/softdrink/volvic/1lfor10l/ )

WCA(欲求連鎖分析)の例 VOLVICの1L for 10L (Drink One, Gove Ten Campaign)のビジネスモデル (出所:「欲求連鎖分析(Want Chain Analysis)」のWebサイト)

WCA(欲求連鎖分析)の例
VOLVICの1L for 10L (Drink One, Gove Ten Campaign)のビジネスモデル
(出所:「欲求連鎖分析(Want Chain Analysis)」のWebサイト)

利己的な欲求は赤い図で描かれて、利他的な欲求は緑の図で描かれると関係が見えるんですよ。

ここで、ソーシャルビジネスや日経ビジネスに「敗軍の将、兵を語る」という特集が載っているので、失敗ビジネスを図に描いてみます。

そうすると、スケーリングしないでダメになったのは緑だらけだったんです。

つまり、利他的に、「皆クラウドファンディングしてくれるから、よい人ばっかりでしょう」というだけではダメで、やはりそこでお金がきちんと回り、お金が欲しいからこうするみたいな、利己とは少し違いますが、やはりこういうものがビジネスの基盤ですよね。

利他だらけのNPOやソーシャルのビジネスは、利他だらけだからではなくて、もっとよい類似のものが出てくると人が移ってしまうから、ダメになってしまうのです。

やはり、まさにデザインなのかな、アイデンティティーのようなものが残っていないといけないんだなということを思いました。

それから、もう1つ申し上げたかったことは、スケーリングする話というのはすごく苦手だなということです。

自分がキャノンにいたときは、もちろんものすごく売れるものが作られていましたが、それは私一人の成果ではないし、私の本で一番売れたのでも約5万部止まりなので、スケーリングの話はむしろ教えて頂きたいなと思ったくらいです。

そこで閉じていたという話と、委ねていたというお話を聞いて、そうだなと思って。

委ねるから大きく広がり伝わっていく

私の本が売れないのは、「私は心についてこう思う」と、自分の考えを述べた話で閉じているからなんですよね。

委ねている時には、要するにスケーリングするシステムも意識してか、あるいは無意識でデザインしていたんだなと思ったんですよ。

委ねないと、「私が、私が」になってしまって、広がる訳ないじゃないですか。

先程も楽屋で、READYFORの社員50人になったので、次のフェーズに入ってこれからが難しいんですよと仰っていましたが、まさにまさに委ねるフェーズに入っているんですよね。

委ねるから、大きく広がっていって、それが伝わっていくというシステムになっているんだなと思って。

私なんか茂木健一郎と戦うつもりで本を出したら、茂木健一郎はスケーリングして、私はスケーリングしなかったので(笑)、スケーリングする方法を知りたいんだけど、それは置いておいて。

斜に構えるような人たちも取り込むようなデザインや、仕組みのデザインができていたのかなと思うんですよ。

そういう訳で、聴いていて思ったこの点について、また何か教えて頂けるといいなと思いながら発言してみました。

(続)

編集チーム:石川 翔太/小林 雅/Froese 祥子

続きはこちらをご覧ください:ソーシャル・イノベーションに必要な要素は利他を超えた「利世界」や「利未来」(NOSIGNER 太刀川)

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