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「「小売」はテクノロジーの進化によってどのように変わるのか?」8回シリーズ(その3)は、セブン&アイの「1,000億円オムニチャネル計画」のエピソードを紐解きながら、旧態依然の小売業に変革をもたらす「鍵」に迫ります。是非御覧ください。
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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢800名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回 ICCサミット KYOTO 2018は2018年9月3日〜6日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
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【登壇者情報】
2017年9月5-7日開催
ICCサミット KYOTO 2017
Session 10D
「小売」はテクノロジーの進化によってどのように変わるのか?
(スピーカー)
奥谷 孝司
オイシックスドット大地株式会社
執行役員 統合マーケティング部部長 Chief Omni-Channel Officer
鈴木 康弘
株式会社デジタルシフトウェーブ
代表取締役社長
長谷川 秀樹
株式会社東急ハンズ
執行役員 オムニチャネル推進部長
濱野 幸介
プリズマティクス株式会社
代表取締役
(モデレーター)
逸見 光次郎
オムニチャネルコンサルタント
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最初の記事
1.ネット時代の小売を牽引するエキスパートたちが一挙集結!
1つ前の記事
2.大きく変わる「小売」と「消費」のカタチ
本編
逸見 本題に入る前に、購買にまつわる消費者の在り方が世の中がこれだけ変わってきたんだということを、さっと確認してきました。
「オムニチャネル」(※)という話まで来ました。
▶編集注:オムニチャネルとは、小売業において実店舗とネットショップなどあらゆる販売・流通チャネルを統合すること。
オムニチャネルに関しては、私もやっていましたし、鈴木さんのところも関わっていました。
今までネットを何とかしなければというところに、「店舗とネットで何とか合わせて一緒にやろう」という考え方ができてきたのですが、オムニチャネルというのがそこまで浸透しないような気もします。
奥谷さん、なぜなのでしょうか?
オムニチャネルが浸透しない理由
奥谷 やはり、オールド・エコノミーの人が分かっていないからではないでしょうか?
オイシックスドット大地株式会社 執行役員 統合マーケティング部部長 Chief Omni-Channel Officer 奥谷 孝司 氏
経営陣の頭が固いからですよね。
長谷川さんがもうニヤニヤしているので、本音を語って下さると思いますけれども(笑)
長谷川 頭が固いというのは、経営陣がアホやからということですか?
奥谷 いやいや、そんなことないと思います。
逸見 本当のところ、経営をやっている人自身は、決して頭は悪くないですよ。
奥谷 そう、だから「たちが悪い」ですね。
違う意味で僕なんかより頭がいいから、話しにくいですよね。
やはり因数分解できることが好きだから。
新しいことはあまり好きではないですよね、長谷川さん。
長谷川 まあ、ちょっと…何と答えればよいのでしょう。
(会場笑)
長谷川 これは、オムニチャネルが是としたときの話になってしまっていますが、ただオムニチャネルをするという方向性は間違いないと思いますね。
逸見 そうそう。
長谷川 オムニチャネルの定義はそれぞれの会社によってやや違うにしても、ネット活用を全くしない小売業というのはこれからあり得ないです。
濱野 皆が頭では思っているのだけれども、会社の経営会議や営業会議に行った瞬間に、なぜか「こういうITは使いたくない」だとか、お金がかかるから次のフェーズでとか、そういう議論になりがちですよね。
奥谷 小売業さんでも、アプリは最低限持っているというところはだいぶ増えましたよね。
どこに行っても(アプリを見せて)「ピッ」とやってくれるところが増えたので、その一巡が今終わった段階かなと。
長谷川 僕もそう思います。
セブン&アイ「1,000億円オムニチャネル計画」のインパクト
長谷川 今、AI(人工知能)という言葉が流行っていて、社長が「うちもAIで何かやれ」と無茶振りして皆が困るのと同じように、僕の隣に座っている鈴木さんが「オムニチャネル、オムニチャネル!」と言ってくれたおかげで進んできました。
株式会社東急ハンズ 執行役員 オムニチャネル推進部長 長谷川 秀樹 氏
奥谷 そうそう、それは偉大な功績ですよね。
長谷川 セブン&アイ・ホールディングスがオムニチャネルに1,000億円投資するというのが日経新聞に載った瞬間に、「セブン&アイ・ホールディングスが1,000億か!」となりました。
▶参考:セブンの1000億円オムニチャネル計画、電通など参加(日本経済新聞)
僕らなんて、1億円使いますと(していた時期でした)。
1,000分の1ってすごいでしょ。
オムニチャネルを何とかしなければとなりました。
我々小売ITの人間からすると、「オムニチャネル」というキーワードが出てきてお金が使いやすくなりましたね。
アプリを作らなければならないということで、急いで適当なものを作っている会社が出てきたりするような弊害もありますが、裏方の在庫管理などというよりは、もう少しお客様のためになるようなところに、堂々とお金を投じることができるようになりましたよね。
逸見 フロントのサービスですよね。
長谷川 経営陣も後押しして下さるような雰囲気ができましたね。
セブン&アイ・ホールディングスがオムニチャネルに投じた「1,000億円」という数字は、日経新聞に掲載された時、我々の業界からするとすごく一歩前に進んだなと感じました。
逸見 小売全体では、オムニチャネルは、成功した・失敗したみたいな話では今はなかなか判断がしづらいのですが、ネットを使わないというのはあり得ないですよね。
一方で、セブン&アイ・ホールディングスはじめ、1,000億円というインパクトが一番分かり易かったと思うのですが、そういった先例が出てきたら、皆取り組み始めるのです。
逸見 濱野さんのところには、「良品計画と同じアプリ(MUJI passport)を作ってよ」という話がたくさん来る訳ですよね。
濱野 そうですね。
良品計画のアプリはあそこの髭のおじさん(奥谷氏)と一緒に作ったのですが、
奥谷 当時は髭を生やしてなかったですよ(笑)
濱野 各社から「MUJI passport」が欲しいと言われました。
2012年に企画して、2013年にリリースをしました。
それ以降、MUJI passportを使ってリアル店舗での集客を伸ばしたという事例も増えてきたので、小売業の皆さんが、あれが欲しいという風に思い始めたのかなと思っています。
奥谷 そういう意味では、良品計画はクローズドな「MUJI経済圏」の中で、アプリが順調に育ち、また育ちやすい環境でもあった点で、良かったですね。
さらに、今も堅実に伸びているというのはよいことですよ。
小売における、テクノロジーのハードル
逸見 今回、テクノロジーでどう小売が変わるのかというテーマでお話していますが、テクノロジーという言葉の幅がとても広いですよね。
例えば良品計画さんは、アプリをしっかり作ってオペレーションをやっていますが、元々SPA(Speciality store retailer of Private label Apparel:製造小売)で在庫管理がし易い状況にあるなど、そういった背景があります。
そもそも先ほど長谷川さんがおっしゃっているように、バックエンド(在庫管理などの流通オペレーション)の管理ができていないところがフロント(消費者との接点)のものを沢山作っても、うまくいかないというのもある訳じゃないですか。
長谷川 そうですよね。
僕ら東急ハンズの場合、オムニチャネルはすごく単純で、東急ハンズにかかってくる電話というのは「○○商品が△△店にありますか?」「商品があったら取り置いてもらえますか?」というのが8割で、あとの2割くらいが営業時間に関する問い合わせやクレームなんです。
ですから、「今電話でやっているところをインターネット上でできるようにしよう」というのは、僕からするとすごく大それた何かというよりは、お客さんの不具合・不都合を一個一個直していくということです。
東急ハンズのネットストアで各店の在庫を公開して、お取り置きボタンを押したらお取り置きができるようにするみたいなことからやっています。
逸見 確かにテクノロジーと言うと、「デジタルマーケティングで何かやらなければ」といった話から、「Amazon Echoに対抗して、もしくはそれを使ってどうこう」といった話もあります。
ですが、今までのフェーズというのは、自分達がやっていた最後の部分、例えば先ほどの取り置きのように、電話してもらっていた部分をネットに置き換えていくことです。
そうすると、お客様が注文し易くなりお店の作業も減るよねという、置き換えが今まで進んできたと思います。
例えば鈴木さんのところでも、その置き換えが一番得意で、ではその先どうするんだといったことを、色々なベンダーを束ねてやっていらしゃったと思います。
創業者でないと「チェンジ」を起こせない?
鈴木 小売業は「流通業」とも言われるように、モノを流すわけですよね。
商品を沢山仕入れて売る百貨店から始まって、そのうち安く売るということで差別化するようになり、スーパーが出てきて、コンビニというものが出てきました。
セブンイレブンでもローソンでも全部同じなのですが、何が大きく変わったかというと、お店ごとに発注をする、つまり地域に任せて発注をするという形に変わったんです。
このような小売の変遷がある中で、結局、小売業は全体的な仕組みを変えないと大きく変わりません。
表面上でデジタルマーケティングだ、何だかんだと言ってもあまり変わらないというのが現状かなと思います。
株式会社デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長 鈴木 康弘 氏
セブン&アイ・ホールディングスにいた時に、オムニチャネルというのをやろうと思いました。
先ほど1,000億円という話がありましたけれども、セブン&アイ・ホールディングスの売り上げが10兆円だったので、その1%でいいやという、そういう考え方でした。
セブン&アイ・ホールディングスは、百貨店、スーパー、コンビニ、色々な専門店や銀行などを持っています。
その時に考えたのは、iPhoneとかiPadの世界で、色々なデバイスがあって、それがクラウド上につながっていって、そこにコンテンツがあると色々変わっていくということです。
仮にお店をデバイスとして考えたら、これは面白いことになるなということで、オムニチャネルに踏み出していったんですね。
僕は元々ソフトバンクにいて、会社ごとセブン&アイ・ホールディングスに引っ越してこうした取り組みを始めたのですが、まずこの発表に行きつくまでに(会社を)7年説得しましたね。
そしてスタートして2年で作り上げたのですが、なぜできたかというと、創業者がいたからなんですよね。
ちょうど昨年創業者が引退しまして、さあ困ったぞというところで、少し残念だなと思いながら、1社でやらないで色々なところに広くやろうということで、セブン&アイ・ホールディングスを出ることにしました。
小売業の特徴として、創業者がいないと伸びないんですよね。
ダイエーさんもそうだったし、長崎屋さんもそうだったのですが、創業者がいる時に伸びていく。
では、なぜ創業者がいなくなると伸びなくなるのかというと、小売業には、中の教育制度が全くないというのが一番の問題というか原因なのかもしれません。
通常、30~40歳まで店で品出しをやっていて、その人が急にマネージャー、部長と上がってきます。
先ほど少し辛辣な言葉も出ていましたけれども、教育を受けていないせいか、経験主義の人がすごく多いんですよね。
ですから、日本の小売業界はなかなか今苦労しているんだろうなという風に思っています。
逸見 確かにそれは小売だけではなく、他の業種でもそうですよね。
やはり創業者が残っていると、方針が明確に決められて、リスクをかけてできる。
例えば、小売の中でも家電量販のヨドバシカメラには、藤沢昭和社長がまだ残っておられて、副社長がネットを運用していて、という非常に分かり易い構造の中で回っていますよね。
他のメーカーさんでも、創業者が踏ん張っているところは結構強かったりするのが、代替わりすると弱くなるといったことはあるのかなと思いますね。
長谷川 弱くなるのもあるのでしょうけれども、やはり創業者ではないと大きなチェンジができないと思うんですよね。
役員会では皆が同意したように見えても、心の底からやりなさいと強く指示する人がいないと、皆きょとんとして、「今のはやるってことになったの? やらんってことになったの? どっちなん?」という風になってしまいがちです。
だからやはり、「俺達は今からこっちに行くんだ、皆でやるんだ」という創業者の号令が必要です。
それから、創業者にはすごい成長DNAというか、マインドがあるじゃないですか。
いつも危機感を持っていて、このままではダメで次のところに行かないと、というようなマインドが強いですよね。
でも、やはり他の人は普通に生まれて、普通に小学校に行って、カレーライスを食べて育ってきた訳ですから、
逸見 何でカレーライスなんですか?(笑)
(壇上笑)
長谷川 だって、年々10倍という目標言われても普通そう思えないですよね。
大きく“チェンジ”するって、創業者がいないと難しいですよね。
奥谷 でも、その中で言うと、良品計画には創業者がいないんですよ。
創業者というのは、もちろん堤清二さんという方がいてこそ良品計画がブランドになったのだけれども、成長路線に入ったのは全然違うフェーズなので、特殊なケースですよね。
鈴木 この前、聞いたのですが、小売業って本当に創業者じゃないと伸びない。
ユニクロの柳井正さん然り、ニトリの似鳥昭雄さん然り、ダイソーの矢野博丈さん然り、だいたい皆さんよく知っているのですけれども、正直言って強烈ですよ。
良品計画さんにはそういう人がいないのに伸びているというのが、不思議で仕方ない。
その辺はどうなんですかね?
「あの人がいないとダメ」という企業になってはいけない
奥谷 先ほどこのICCサミットでも、ブランドのセッションに弊社社長の高島宏平が出ていましたが、やはりブランドや思想ってすごく大事だなと思っています。
参考:「愛されるブランドを創る」(ICC KYOTO 2017)
それを抽象的に創って、たまたま特定の社員にイニシアティブが持てる環境というのを、今の経営陣が作っているというのもあります。
そういった環境を作っていますが、全員が「こんなことをやりたい、やってもいい」という環境ができているのはいい点です。
オイシックスなどを見ていても、創業社長がいるというのは強いなと思っています。
逆に僕が常に周りに言うのは、アンチテーゼなのですが、「早くオイシックスもサラリーマンカンパニーになって欲しい」ということですね。
良品計画のようになって欲しいんですね。
あの人がいないとダメという風になるのではなくて、自分たちの会社だと思える人をもっと増やしましょうということです。
今日も高島がブランドということを言っていましたが、究極、別に自分が創業していなくてもその企業に勤めていれば「自分の会社」だろ、という話ですね。
こうした意識の高め方をもっとちゃんとやっていこう、という風にしないといけないと思っています。
(続)
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編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/本田 隼輝/尾形 佳靖/Froese 祥子
【編集部コメント】
今回は、小売のテクノロジー化を支える組織の在り方へと議論が進んでいきました。小売業に限らず、大企業の創業者の方々は強烈なキャラクター、カリスマ性をお持ちの方が多いですね。次回は、リアル店舗の要不要の議論が展開されます。ぜひ上記リンクからご覧ください!
他にも多く記事がございますので、TOPページからぜひご覧ください。
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