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2. 順算か、逆算か。企業経営における「シミュレーション」の在り方を考える

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「AIやデータの活用が企業経営を変える(シーズン2)」9回シリーズ(その2)では、スマートニュースの鈴木健さんが「シミュレーション」を3つに大別して解説します。鈴木さんによると、そのうち企業経営に最も重要となるシミュレーションは、他の2つとは異なるある性質をもつとのこと。ぜひご覧ください!

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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢800名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うためのエクストリーム・カンファレンスです。次回 ICCサミット FUKUOKA 2020は、2020年2月17日〜20日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。

本セッションは、ICCサミット KYOTO 2018 プレミアム・スポンサーの日本アイ・ビー・エム様にサポート頂きました。


【登壇者情報】
2018年9月4〜6日開催
ICCサミット KYOTO 2018
Session 4D
AIやデータの活用が企業経営を変える(シーズン2)
Sponsored by 日本アイ・ビー・エム

(スピーカー)
荒川 朋美
日本アイ・ビー・エム株式会社
取締役 執行役員 カスタマーサクセス事業担当

北川 拓也
楽天株式会社
執行役員 CDO グローバルデータ統括部ディレクター

佐藤 光紀
株式会社セプテーニ・ホールディングス
代表取締役 グループ社長執行役員

鈴木 健
スマートニュース株式会社
代表取締役会長兼社長 CEO

(モデレーター)

山内 宏隆
株式会社HAiK
代表取締役社長

『AIやデータの活用が企業経営を変える(シーズン2)』の配信済み記事一覧


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1つ前の記事
1.「身体を持たずして『知能』は生まれえない」“ルンバの父” R.ブルックス博士が語る人工知能論とは

本編

山内 今のお話に出てきたキーワードで、ずっと前から気になっていることがあります。

それは「シミュレーション」という言葉です。

特にAIやデータ、企業経営ということを考えたときに、シミュレーションでかなりのことができるようになるのではないかと思っています。

株式会社HAiK 代表取締役社長 山内 宏隆さん

非常にプリミティブなところでいうと、たとえば会社を買収するときなど、学卒でコンサルティング会社に入ると、徹夜でExcelをいじって100通り、200通りの収益シミュレーションを作らされます。

これはちなみにソフトバンクの孫さんが言っていたのですが、今のソフトバンクモバイルが、携帯電話の会社(ボーダフォン)を買った時は、2万通りぐらいシミュレーションしたそうです。

ソフトバンク、ボーダフォンを1兆7500億円で買収(IT Media Mobile 2006年03月17日)

投資銀行のアソシエイトたちは、さぞや疲労困憊だっただろうなと想像できるのですが、要は、異様な工数をかけてシミュレーションをしていたと。

しかも、たぶん人力でやったと思うんですよ。

人力とExcelみたいな世界でやったのだと思うのですが、シミュレーションを他社より徹底すれば、企業経営で圧倒的に有利に立てるのではないかというのが1つ。

もう1つは、同じ言葉ですが違う意味でのシミュレーションで、R&Dにおけるシミュレーションです。

たとえば何か新しい薬を作りますというときに、化学会社で新しい分子構造の素材を作るようなところに今後AIを入れていったらどうでしょう。

今でも既に始まっていますが、この分野には今後AIがどんどん入っていくはずです。

R&DとAI、ビッグデータ、何かこの辺を徹底的に攻めてくるような会社は、1年、2年のスパンではなくて、5年、10年を視野に入れて考えた場合、相当有利に立つのではないかという気がしているのですが、どうですか?

皆さんのExcelワークも立派な「シミュレーション」

スマートニュース株式会社 代表取締役会長兼社長 CEO 鈴木 健さん

鈴木 たぶんシミュレーションというのは3パターンぐらいありますよね。

1つは、皆さんもたぶんやっていると思うのですが、普通に、たとえばExcelでパラメーターを入れていって、1月、2月、3月、4月と入力していって、それでセルを引っ張るとシミュレーションができますよね。

あれは、ちょっとした関数を使った立派なシミュレーションです。

掛け算、足し算かもしれないけれども、簡単でもちゃんとした計算を使いますよね。

それこそ、コンピューターが生まれる前は、人間があれを手計算でやっていたわけですよ。

実は「コンピューター」という職業の人がいました。

日本語で言うと「計算手」と言うのですが、大体女性だったのですけれども、弾道計算などに携わっていました。

第2次世界大戦中はアメリカに、データセンターではなくて、コンピューターという職業の人たちが何千人と働いているところが何ヵ所もあったんですね。

ある意味、人間コンピューターで、それを機械に置き換えたんです。

自動運転が普及したら、「運転手」という職業がなくなると思います。

しかし恐らく、今度はそのソフトウエアのことを「ドライバー」と呼ぶようになるわけです。

それと同じで、機械ではなくて人間が計算していたのを機械に置き換えたんですよね。

だから、Excelのシミュレーションも結構立派なことをやっているわけです。

皆さんも使ったことがあると思うのですが、ちょっとパラメーターを変えるだけで結果がすごく大きく変わるということに気付くと思います。

だからシミュレーションをしても、ちょっとしたパラメーターの違いで、大幅に結果が変わってしまいます。

台風予測は、非線形システムのシミュレーション

鈴木 もう1個のシミュレーションは、いわゆるコンピューター・シミュレーションです。

たとえば今、台風が来ていますけれども、台風の進路・速度・強さをどういうふうに計算しているかというと、まさにシミュレーションでやっているわけですよね。

ところが、そのシミュレーションにも2つの全く違うシステムがあって、1つは線形システム、もう1つは非線形システムです。

どういうことかというと、線形システムというのは基本的に、初期のパラメーターがちょっと変わったとしても、最終的な結果もちょっとしか変わりません。

一方、非線形システムというのは、初期のパラメーターがちょっと変わると、結果が非常に大きく変わります。

だから、台風の軌道というのは予測できないんです。

これはカオス理論(※)と呼ばれていて、予測できないということが数学的に証明されてしまっているわけです。

▶編集注:カオス理論とは、初期条件の微小な誤差により想定外の現象を起こす、複雑で一見予測不可能な現象を扱う理論。「ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきが、テキサスで竜巻を起こすか?」という「バタフライ・エフェクト」は、カオス理論の比喩のひとつ。

それを前提として、では台風のコースをどのように計算するかというと、基本的には、微妙にパラメーターを変えて何万本ものシミュレーションを走らせます。

そうすると、その軌道の束のようなものが生まれて、「もしかしたら確率的には大幅に反れるかもしれないけれど、多くの軌道はこの辺に集まるからまあこうなるだろう」という予測をやるわけですね。

こういったことをシミュレーションで何万回も計算します。

これは極めて強力で、予測の確率の精度が上がりますね。

ピタッとはまらないのだけれども、確率的にはこんなものだなと分かる、という世界があるわけです。

企業経営で一番重要となるシミュレーションとは?

3つ目のシミュレーションは、脳内シミュレーションなんですね。

どういうことかというと、基本的に未来についてシミュレーションするとき、我々は、今現在のパラメーターを前提にするのではなくて、意思に基づいて制約条件を置きます。

たとえばスマートニュースの経営で注視している指標の1つに、「ユニットエコノミクス」というのがあるんですけど、つまり1人のユーザーを獲得したらそれがきちんと収益に結び付くかということを計算します。

山内 ライフタイムバリュー(※)みたいなものですね。

▶編集注:顧客生涯価値。1人の顧客が、企業に対して最初の利用から最後の利用まで、関係性が続く間にどれだけの利益を生み出すかを算出したもの。

鈴木 そうそう、ライフタイムバリューのようなものです。

たとえば100円を投資したら、100円が何ヶ月で返って来るかを計算するわけですが、もし広告の収益が将来上がると、最終的にライフタイムバリューが上がってしまうので、実は獲得単価が100円ではなくて200円かかっても回収できてしまうということになります。

そうすると、この場合100円でなくて200円になると、そもそもシミュレーションしてもおかしくなってしまうわけです。

これはでも結構予測できないんですよね、どれくらいになるのかを予測すること自体が複雑なので。

そうするとある種、経営の意思で、鉛筆ナメナメして、よしこれは「1年後はこれぐらいになるだろう!」みたいな。

山内 それが結構当たる(笑)。

鈴木 むしろ「1年後にこうなるようにするんです!」みたいな。

そうなんですよ。当たる。当たるというか、当てるんですよね、つまり。

そこに会社を持っていくというか、最終的にこの制約条件をクリアしないと次のステージに僕らはいけないよねと。

だからあらゆることの優先順位を落としていって、こいつだけは達成しよう、と考えて実行するわけですよね。

そういうポイントを見つけることによって目標を達成していく。

いわば、そのためにシミュレーションするんですよね。

山内 なるほど。

鈴木 経営をするうえで一番重要なのは、実はこの3番目のシミュレーションだと考えています。

会社を成長させるには、次のステージにいかなければいけませんよね。

次のステージにいくには「こいつ」をクリアしないといけない、その「こいつ」を見極めるということなんですよね。

佐藤 光紀さん 「正しいことを選ぶ」よりも、「選んだことを正しくする」ということですよね。

株式会社セプテーニ・ホールディングス 代表取締役 グループ社長執行役員 佐藤 光紀さん

選んだことを正しくするために英知を結集するという。

鈴木 そうそうそう、全力を尽くす。

山内 ベンチャー企業を経営していて、自分でも感じていることがあります。

あるレンジ内であれば、正しく努力することで後々帳尻を合わせられますが、あまりにもピント外れな、精神論と言ったら少し言葉が悪いですが、何かこうザクッとしたシミュレーションで目標を設定する人が多いように思います。

僕は長年コンサルタントをやっていたので、コンサルタントとしてはそういう人は結構困るなと思ってしまいます。

鈴木 シミュレーションというのはすべて「順算」ですよね。

今の状態から未来に対して、順算していくわけです。

ところが、意思を持って1年後にこうするという目標を設定すると、今度は逆算するんですよね。

これを達成するためには、まずこれを達成しないとできないよね、というように逆算していくわけです。

そうすると、その逆算をしたときに、簡単に達成できるか、ものすごく難しいかがやはり分かるわけですよ。

ではその難しい課題をどう突破するかと。それが、そこが経営です。

山内 なるほど、分かりました。

鈴木 難しいですよ、とにかく。

(続)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/尾形 佳靖/戸田 秀成/鈴木ファストアーベント 理恵

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