【NEW】ICC サミット FUKUOKA 2024 開催情報詳しくはこちら

1.「身体を持たずして『知能』は生まれえない」“ルンバの父” R.ブルックス博士が語る人工知能論とは

平日 毎朝7時に公式LINE@で新着記事を配信しています。友達申請はこちらから!
ICCの動画コンテンツも充実! Youtubeチャネルの登録はこちらから!

ICCサミット KYOTO 2018「AIやデータの活用が企業経営を変える(シーズン2)」の書き起こし記事を全9回でお届けします。(その1)では、スマートニュースの鈴木健さんが、“ルンバの父”ことロドニー・ブルックス博士が語る人工知能論を解説します。ぜひご覧ください!

▶ICCパートナーズではコンテンツ編集チームメンバー(インターン)の募集をしております。もし興味がございましたら採用ページをご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢800名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うためのエクストリーム・カンファレンスです。次回 ICCサミット FUKUOKA 2020は、2020年2月17日〜20日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。

本セッションは、ICCサミット KYOTO 2018 プレミアム・スポンサーの日本アイ・ビー・エム様にサポート頂きました。


【登壇者情報】
2018年9月4〜6日開催
ICCサミット KYOTO 2018
Session 4D
AIやデータの活用が企業経営を変える(シーズン2)
Sponsored by 日本アイ・ビー・エム

(スピーカー)
荒川 朋美
日本アイ・ビー・エム株式会社
取締役 執行役員 カスタマーサクセス事業担当

北川 拓也
楽天株式会社
執行役員 CDO グローバルデータ統括部ディレクター

佐藤 光紀
株式会社セプテーニ・ホールディングス
代表取締役 グループ社長執行役員

鈴木 健
スマートニュース株式会社
代表取締役会長兼社長 CEO

(モデレーター)

山内 宏隆
株式会社HAiK
代表取締役社長

『AIやデータの活用が企業経営を変える(シーズン2)』の配信済み記事一覧


本編

山内 宏隆さん (以下、山内) こんにちは、HAiKの山内です。


山内 宏隆
株式会社HAiK
代表取締役社長

1975年大阪にて自営業の家に生まれる。東京大学法学部卒業後、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)入社。2000年ドリームインキュベータ(DI)の創業に参画、2006年東証一部上場。執行役員として、IT・通信・メディア・コンテンツ・金融・商社・流通等の業界を中心に戦略コンサルティング・実行支援を行うと共に、スタートアップ企業へのプリンシパル投資・戦略構築・組織構築を手掛け8社のIPOを達成。15年以上に渡り一貫して「競争優位性の構築と成長の実現」を追求してきた。投資先であるアイペット損害保険株式会社代表取締役社長(日本損害保険協会理事を兼任)を経て、2016年株式会社HAiKを設立、現在に至る。

本セッションは、AIやビッグデータが企業経営をどう変えるか、というお題ですが、「シーズン2」と明記してあるように、前回の続きとなっています。

▶参照
・シーズン1:AIやデータの活用が企業経営を変える(ICC FUKUOKA 2017)
・関連:AIやデータの活用が企業経営のあり方を大きく変える(ICC KYOTO 2017)

今回は、企業経営だけではなく、もう少し広く、AIやビッグデータによって社会がどう変わるのか、場合によっては雇用環境なども含め、社会がどう変わるかというところも含めて議論できたらなと思います。

早速なのですが、最初に、AIとビッグデータによって企業経営やその周辺がこういうふうに変わっていくのではないか、というお考えを伺えますか?

時間軸も短期的なことだけではなくて、5年、7年、場合によっては10年ぐらいまでの先まで見据えて、幅も広く取って、多少発散もありで議論してみたいなと考えています。

トップバッターということで恐縮ですが、鈴木さんからお願いできますか?

最近、AI、ビッグデータ、その辺りで気になっていらっしゃるようなことを皆さんにぶつけていただけるとありがたいです。

“ルンバの父” R.ブルックス博士が語る人工知能論

鈴木 健さん (以下、鈴木) そうですね、僕はもともと人工知能ではなくて人工生命という分野の研究をずっと大学院時代にしていました。


鈴木 健
スマートニュース株式会社
代表取締役会長兼社長 CEO

1998年慶応義塾大学理工学部物理学科卒業。2009年東京大学大学院総合文化 研究科博士課程修了。博士(学術)。情報処理推進機構において、伝播投資貨幣PICSYが未踏ソフトウェア創造事業に採択、天才プログラマーに認定。著書に『なめらかな社会とその敵』(勁草書房、2013年)。東京財団研究員、国際大学グローバル・コミュニケーションセンター主任研究員、東京大学特任研究員などを歴任。2006年株式会社サルガッソー設立。2012年スマートニュース株式会社(旧:株式会社ゴクロ)を共同創業。2014年9月SmartNews International Inc.設立、Presidentに就任。2019年6月より単独CEO体制となり現職。世界中の良質な情報をなめらかに発信中。

当時から、今でもそうなのですが「人工知能 vs 人工生命」みたいなの論争があって、どっちの方が偉いんだ的な議論がずっとされているんですね。

そもそも「人工生命」なんて聞いたことすらないのではないかと思うんですけど、聞いたことある人いますか?

(会場挙手)

山内 マニアですね、数名いらっしゃいました。

鈴木 そうですよね。

それぐらいの知名度なのですが、「そもそも知能とは一体何なのか?」ということを考えていったとき、「ある種の生物とか生命システムが進化的に獲得してきた1つの能力である」というふうに考えると、実は生命の方が知能より大きいわけですよね。

そう捉えたならば、人工知能を実現するためには生命自体から作っていかないといけないのではないか、という論争が1980年代ぐらいからあるんですね。

この前、人工生命の国際会議が東京で初めて開かれたのですが、大体30年ぐらい歴史のある分野で……。

山内 結構長いですね。

鈴木 そこで人工知能でも結構有名なロドニー・ブルックスという人がキーノートスピーカーとして登壇しました。

MITのコンピューターサイエンス・人工知能研究所の所長だった人で、iRobotの創業者でもあり、ルンバの父と呼ばれています。

ロボット掃除機「ルンバ」を作ったエンジニア ロボットエンジニア ロドニー・ブルックス(週刊東洋経済プラス)

そのブルックスが、いわゆる知能というものは体を持たないとそもそも実現しない、というようなことを言っています。

つまり、どんなにデジタルコンピューターだけで計算していても「知能」というものは実現されないと。

他にも同じようなことを言っている人はたくさんいるんですけれど、ちゃんと身体を持って環境とインタラクションをすることによって、初めて知能というものが生まれてくるのだということを、初期の頃に提唱した人なんですね。

コンピューターで「生命の進化」を再現できるか?

北川 拓也 さん (以下、北川) でもその物理的な世界というのは、ある程度シミュレーション可能なのではないでしょうか。


北川 拓也
楽天株式会社
常務執行役員 CDO(チーフデータオフィサー) グローバルデータ統括部 ディレクター

ハーバード大学で数学と物理学を専攻し、同大学院物理学科博士課程を修了。物性物理の理論物理学者として、『Science』、『Nature Physics』、『Physical Review Letters』などの学術雑誌へ20本以上の論文を出版。その後、楽天でデータサイエンスの組織を立ち上げ、現在は、CDO(チーフデータオフィサー)としてグループ全体のAI・データ戦略の構築と実行を担い、日本だけでなく、アメリカやインド、フランス、シンガポールを含む海外拠点の組織も統括。データに関しては、収集から管理、データサイエンスに関連したプロダクト開発、コンサルティング、プロダクトのセールスまで、あらゆる価値の創造に貢献している。現在、消費者及び人間行動の理解を目指して科学的なアプローチを加速化させること、さらに、消費者のより深い理解を基にした新たなビジネスの創造に注力している。楽天データマーケティング株式会社では2017年より取締役を兼任。データ基盤作りや科学的な理解に基づく顧客体験の提供、広告事業の立ち上げ、データによるビジネスイノベーションなどを推進している

それでも、現実世界の体を持つ必要があるという話をしているんですか?

鈴木 これもまた長い論争になるのですが、コンピューター・シミュレーション上で、どこまで複雑な環境を作れるかということなんですよ。

たとえば、コンピューター・シミュレーションで計算可能な環境というものが、本当に「閉じていない」のかということですよね。

それでも、理論上あり得るのかどうか、オープンエンドというのですが、そのような研究もおこなわれています。

オープンエンド・エボリューションという概念があって、つまり終わりのない進化ですね、永遠に進化し続けるシステムを作ることが可能か、という研究分野があるのです。

生命というのは、40億年前に地球上で生まれてからずっと進化し続けているわけですよね。

40億年間ずっと進化し続けるというのは、すごいことです。

普通だったら、どこかで変化が止まるわけですよ。

ずっと終わりなき進化をし続けるというのは、一体どういうことなのかと。

これをコンピューター上で実現しようとすると、まあ大体できないんですね。

なぜできないのかというと、コンピューター上のシミュレーションをすると、なぜか、どこかで限界に達してしまうのです。

北川 そうなんですか。

鈴木 進化が止まるわけですよ。

北川 へぇぇぇ~。

鈴木 多段創発というのですけれども、進化というものが、ひとつ上の段階までは行くのだけれども、そこからもうひとつメタレベルで進化が起こるなんていうことは起きないわけです。

たとえば生物だったら、単細胞生物が多細胞生物になるということは、極めて大きな変化だったりするわけです。

あとは、性が生まれるとか、そういうのは非常に大きな変化ですよね。

そういった進化が40億年間ずっと続くわけですけれども、こういったことがコンピューター上では起きない。

なぜなのか。

知能の問題も実は同じです。

基本的に、最適化するべき対象となるものは「正解」ですね。

つまりコンピューターは、正しいもの、これが正解ですと定義できるものに関しては、それに対して最適化をすることができるのだけれども、何が正しいか分からないものに対しては、答えが無いわけなので、コンピューターはそういうものがとても苦手なわけです。

こういうことが30年前ぐらいからずっと議論されているのだけれども、最近国際会議に出たらやはり同じ話を皆ずっとしていて、変わらないんだなと思いました。

つまり人工知能は、そもそも何ができて、何ができないのかという議論がずっとされているんですよね。

50年ぐらいずっと論争が続いているのだけれども、基本的にそんなに変わっていません。

最近のディープラーニングの登場で少しブレークスルーしていますが、基本的な限界、昔から議論されている限界は、まだ超えられていないといった状況なんですね。

人工生命研究は「進化の壁」に直面している

北川 今、そのバーチャル世界で生命を作ろうとすると、どこまでいくんですか?

鈴木 うーん、大したことはできていないですね。

たとえば生命を作るといっても、バーチャル世界というか、コンピューター・シミュレーション上でやる研究分野と、ケミカルでやる、つまり化学的に生命を作る研究分野があります。

生命の特徴の1つに自己複製というのがあって、細胞が分裂するように自分自身を複製していくシステムがあるんですよね。

こういったものを作る研究分野もあるのですが、なかなかそれ以上進みません。

自己複製するシステムは、実は作れるんです。

フォン・ノイマンなどが自己複製オートマトンの研究なんかを昔からやっていて、その延長線上の研究はたくさんあるのだけれども、そのシステムが進化しないんですよ。

複製はするんだけども、進化しないというか。

北川 なるほど。

鈴木 自己複製しても進化しないと、生命らしくなかったりするわけですね。

(続)

次の記事を読みたい方はこちら

続きは 2. 順算か、逆算か。企業経営における「シミュレーション」の在り方を考える をご覧ください。

平日 毎朝7時に公式LINE@で新着記事を配信しています。友達申請はこちらから!
ICCの動画コンテンツも充実! ICCのYoutubeチャネルの登録はこちらから!

編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/尾形 佳靖/戸田 秀成/鈴木ファストアーベント 理恵

他にも多く記事がございますので、TOPページからぜひご覧ください。

更新情報はFacebookページのフォローをお願い致します。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!