ICCカンファレンス KYOTO 2016 において大好評だった「優れた成果を実現する経営者の仕事とは何か?」【K16-5A】セッションの書き起し記事をいよいよ公開!3回シリーズ(その2)は、その1で議論した「創業メンタリティ」を持った組織をどう作るか?について議論しました。GMOグループ代表熊谷さんの後継者計画についてもお話頂きました。是非御覧ください。
ICCカンファンレンスは新産業のトップリーダー160名以上が登壇する日本最大級の招待制カンファレンスです。次回ICCカンファレンス FUKUOKA 2017は2017年2月21〜23日 福岡市での開催を予定しております。
登壇者情報
2016年9月6日・7日開催
ICCカンファレンス KYOTO 2016
Session 5A
「優れた成果を実現する経営者の仕事とは何か?」
(スピーカー)
熊谷 正寿
GMOインターネット株式会社
代表取締役会長兼社長 グループ代表
火浦 俊彦
ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン
会長 兼 パートナー
安渕 聖司
SMFLキャピタル株式会社
代表取締役社長兼CEO
(2016年9月5日より日本GEからSMFLキャピタルへ社名変更)
(モデレーター)
岡島 悦子
株式会社プロノバ
代表取締役社長
その1はこちらをご覧ください:「創業メンタリティを失った企業に未来はない」ベイン火浦氏が語る成長を阻害する「東風と北風」【K16-5A #1】
岡島 だからやはり、アントレプレナーシップ(企業家精神)、火浦さんが仰るところの「創業メンタリティ」みたいなものをずっと持ち続けることに対してのコミットメントが、定款のレベルというのは、今日はちょっと鳥肌が立つ感じです。
そこまでやっていらっしゃるということですよね。
火浦さんからご覧になって、この2社のこの理念の浸透みたいな点って、大企業病にならないというところではどんな風にお考えでしょうか?
経営理念の浸透の事例
火浦 色々な企業とお付き合いする中で、やはり共通している部分はあると感じます。
例えば、日本にはYKKという会社があり、実はファスナーで3割の世界シェアを持っているんです。
日本企業で3割の世界シェアを誇る会社というのはあまりないのですが、YKKさんには、「善の巡環」という、要するに自分達だけが繁栄してはダメなんだというような哲学があるそうなんです。出所:YKK社 Webサイト
岡島 「三方良し」のようなお話でしょうか。
火浦 取引先、お客様、従業員、そこに全ての善が循環してはじめて、会社が成長するということです。
それは、創業者の方が作られたものです。
今は創業者ではない方が経営を担っていらっしゃいますけれども、その方の時間の使い方を見ていると、世界71カ国のうちの相当の数を回って、とにかく皆とその考え方を共有しておられるんですよね。
「善の巡環」というのはどういう意味なのか、自分達が仕事をするということと「善の巡環」がどう結びつくかということを、ものすごく手間をかけながらやっておられるというのは、やはりすごいことだなと思います。
それは仕組みでやるというやり方もあるだろうし、コミュニケーションでやるというやり方もあるだろうし、すごくシステマチックな仕組みでやっている会社には、例えば、最近SABミラー(SABMiller)を買収した、ABI(Anheuser-Busch InBev)という世界最大のビール会社があります。
あの会社もコストカッターの鬼のように思われていて、確かにそういう部分もあるのだけれども、実は違うんですよね。
ドリームセッションというのをやるんですね。
世界各地で行われるこのドリームセッションでは、自分は個人として何がやりたい、自分は会社に対してはこう貢献したいというようなことを、ユニット単位で話し合ってロールアウトしていきます。
彼らが言うには、自分達の会社には、レストランでいうウエイターはいらないんだ。オーナーが欲しいんだと。
なぜならば、レストランのウエイターというのは、競合ができて自分達の店がダメになったら他店に行ってしまうからです。
オーナーの場合、このレストランが負けたら、自分にも自分の家族にも全て影響するから、必死で戦う。
そういう想いを持たせるために、そんなことをプログラムとしてやっているんですね。
やり方の差はあるかもしれませんが、仰って頂いたことというのは結構、グローバルで、使える普遍的な原則かなと思いますね。
岡島 だから経営者マインドみたいなことを皆さんに持って頂くために、なるべく小分けにしていって分散させて機会を渡して、経営者マインドを実体験として作っていくんですね。
その時に評価の仕組み、目標の作り方のようなことをかなりガラス張りにして、そして権限委譲していくわけですけれども、意思決定の順位みたいなことはやはり重要になってくるので、そこは理念のようなものでしっかり縛っていく。
今お話を伺いながら、このような形でやっておられるのかなと思いました。
もう1つ私がすごく気になっていることがあります。
永続的に成長していく時の、イノベーションのジレンマみたいなことについて伺いたいと思っているんです。
色々な企業をお手伝いしていると、「Destroy our business」のようなことがすごく難しいなと思っていています。
どうしても自分達が持っているところと競合してしまうので、そこは手を出さないといったことが沢山出てくるのではないかと思うのですが、GMOインターネットさんにしてもGEさんにしても、一番か二番ではなくて切っていくといったことも含めてですけれども、どんどん社内から、持続的ではなく破壊的なイノベーションが生まれているような気がするんですよね。
そこもどのようにされているのかというのを、熊谷さんに伺いたいと思っています。
ICCカンファレンスでもかなりこの議論をしてきましたが、新しい第二の柱を創るとか、次の収益の柱を創る時というのは、かなりその事業に対してパラノイア的に夢中になってやっている人がいないと、できないというような話があります。
【参考資料】 2016年3月24日に開催したICCカンファレンスにおいての議論 ・新しい成長分野を創る経営とは何か ・イノベーションと既得権益 ・日本からイノベーションを生み出すには? ・破壊的イノベーションを生む組織とリーダーとは?
ICCカンファレンスの参加者でも色々なベンチャーの方が、持続的な仕組みは創っていく、または本当に次の収益の柱を創る時には、自分がやるよという方も沢山いらっしゃるのですけれども、GMOインターネットさんの場合はやはり「仕組み」という感じがすごくするんですよね。
熊谷 自分でやるか仕組みでやるかというと、企業の成長ステージによって違うと思うんです。
あと創業者の性格によっても違うのではないでしょうか?
岡島 それはありますね。
熊谷 例えば、企業の成長ステージだけでは説明できないのは、ソフトバンクの孫(正義)さんなどで、孫さんが周期的にバーっと集中したら、ポイっと誰かに任せてしまって、それを忘れているかの如く次の新しいことに取り組まれるではないですか。
これは企業の成長ステージだけ説明がつかない。
僕の場合には、やはり最初の頃は自分で全部やっていたのですが、今はなるべくやらないで、人にやって頂くようにしています。
自分で思いついたことも、人にやって頂きます。
当事者意識を持つための取り組む
岡島 でも、その人に熊谷さんほどの情熱を持てるのでしょうか?
熊谷 それも、仕組みでモチベーションを持ってやっていただけるようにするのです。
そして、誇りを持てて皆が笑顔になれるようなことをやっていれば、いずれその人の事業になりますから。
ここ最近 僕らがすごく力を入れているものでは、例えば、新ドメインで「.shop(ドットショップ)」というのを獲得したんですけれども、それこそ思いついたのは僕なんですが、いつしかGMOドメインレジストリの塚原という30代前半の経営者が、自分の事業として世界中を飛び回り、7年間かかけて獲得し、今は普及に奔走していますね。
岡島 その塚原さんは、夢中になるということによって、段々変わられていかれたのですか?
熊谷 そうですね、段々段々集中していきましたね。
岡島 その何らかのきっかけが仕組みとしてあったのだとすると、素晴らしいレッスンだと思うのですが。
熊谷 仕組みとしてあるとすると、まずやりたい彼にやらせてみようという「立候補」という仕組みや、彼の評価もガラス張りで行ったという点でしょうか。
岡島 所謂「Will-Skill Matrix(部下のタイプ別4つの指導法)」で言うと、Will(やる気)がすごく高いのだけれどエグゼキューション(実行)できないというケースの人と、Skill(スキル)はあるのだけれど、やらされ感があってWillがないから夢中にはなれないというケースとがあるのですが、それは両方が担保できたということですよね。
熊谷 そういうことかもしれないですけれども、もう少し噛み砕いて言うと、上手くいく商売と上手くいかない商売って、もう最初から決まっているんですよね。
ベンチャーの痛みとか問題点は、上手くいけば全て解決するんですよ。
ベンチャーの痛みは、商売が上手くいくと癒してくれるんです。
岡島 「成長がすべてを癒す」ということですよね。
熊谷 そうなんですよ。
逆に言うと、成長すれば全てが上手くいくんですよ。
成長させることだけに命を懸けていればよくて、どうしたら成長するかを考えますが、そもそも成長する商売とそうではない商売というのは、最初の段階から決まっているんですよ。僕から見るとね。
商売って、どんな商売でも、必ず因数分解できていくつかのパラメーターの掛け算に落ちてくるわけですよ。
それが多かったり、掛け算の数が多い商売は、そもそも常人がやったら上手くいかないんです。
なるべくシンプルな商売が上手くいくんですよ。
岡島さんに今度やって頂きたいのですが、上場企業を分析すると、ストック収益の会社がとても多いですよ。
企業は成長しないと上場できないじゃないですか。
例えば分かり易い例で言えば、ダスキンさんなんてそうですけれども、一度契約すると契約が増えていきますよね。
NTTドコモさんだってそうじゃないですか。
契約費を頂いて固定費を頂いているから、勝手に売り上げが上がっていくのです。
「ストック&トランザクション」ですね。
我々のグループ会社で、本体よりも時価総額が高いGMOペイメントゲートウェイもそうですけれども、彼らも契約を取ったらあとはトランザクションですから。
だから、そもそも成長するビジネスなんですよ。
まずはそういう領域でビジネスをするかどうかですよね。
この、商売の原理原則みたいなものが分からない経営者は、多分そもそも何をやってもダメなんですよね。
「破壊」と「創造」を行う経営の仕組み
岡島 その点で言うと、GEさんの場合は、かなり仕組みで担保されているのではないかと思うのですが。
安渕 破壊的と言うとですね、例えば営業利益の3割以上を出しているキャピタルビジネスをほぼ全部売却するなどそういったことをやってきて、結局GEという名前で120年以上やってきていますけれども、もう中身はどんどん変わっているわけですよね。
例えば、キャピタルビジネスの売却で4万人くらいは外に出て5万人くらい入ってきたとか、どんどん人が変わってくるわけです。
つまり、内部で多様性をどんどん作り出しているわけです。
どんどん人が変わっている、色々な人が入ってくるという多様性がある。
それはM&Aでは、買収した会社の創業者をそのまま執行役員に入れるとか、そういう風にして会社を変えようとする努力をしています。
つまり、内部をどんどん破壊していくような仕組みができているわけです。
リーダーとしても、同じ仕事を去年より少しばかり頑張っても、「何を変えたのか?」と問われて全然評価されないわけです。
究極的にはあなたの仕事がいらなくなるくらい、下が育たないとダメですよという話で、じっとしていてはどんどん評価が下がっていくような仕組みになっているんですね。
岡島 現状維持はないという、下りエスカレーターみたいな感じですね。
安渕 きちんとしたスケールがあるんですけれども、スケールが毎年動いていく、レベルアップしていくので、自分も動いてないとどんどん背後に遅れていくということですね。
岡島 この「Acqhire 〔優秀な人材を獲得するために企業を買収する)」みたいな話はすごく面白いなと思っていて、私が何となくイメージしていたのは、GEキャピタルさんの方が何となくイノベーションとかリーダーシップとかがすごく進んでおられて、日本のリース会社を沢山買っておられると思うのですが、買われる状況になったらなったなりの理由があって、そしてそこの経営者の方々は、先ほどの「東風」の方の話なのですが、そちらに何となく空気を作ってしまうのではないかなと思っているのですが、そんなことはないんですね?
安渕 今も残って活躍している人が結構多いんですよね。
だからやはり、そこの変化を乗り切って、自ら変化できる人が一定数ちゃんといたということと、あとは、歴史的に言うと、金融危機で倒れた会社というのは、例えば、銀行が倒れたから連鎖倒産しただけの企業も結構多いんですよね。
岡島 業界の構造的な問題ですね。
安渕 事業そのものが痛んでいたわけではなくて、連鎖倒産というとばっちりですから、やはりそこを生き延びて、どうやって自分達のビジネスを再興するかという情熱のある人達が当然いて、そういう人達が残ってきたわけです。
そういう人達は、今も我々のところで活躍してくれているということになります。
やはり人を見て、そういう人達を伸ばしていく、つまりプロモートしてマネジメントしていくということをやっていかなくてはならなくて、それは私の大きな仕事でもあるわけです。
岡島 GEさんの場合はどんどん人も入れ替わっていて、事業ドメインも変わっている。GEキャピタルも手放され、現在は三井住友フィナンシャルグループになっている。
こうなってくると、会社って何なんだろうという話になってくるのですが、今までのところを聞いておられて、もしよろしければ火浦さんからもコメントを頂きたいと思います。
この破壊的なイノベーションのところですね。
火浦 やはり、確かにGEさんのように評価の仕組みや育てる仕組みというのもあると思いますが、やはり最後は「人」だと思うんですよね。
いくら仕組みがあっても、イノベーションをするんだ、したいんだ、変えたいんだという人がいなかったら、いくら評価してもダメですよね。
創業者ではないんだけれども、創業者のメンタリティがある人がどれだけ会社の中にいるか、もしくは外部から連れてきたり人を育てたりするという、そこがあっての仕組みなのかなと思います。
だから逆に熊谷さんにお聞きしたいのですが、そういう方々が恐らく次々と社内に出てきてるんですよね。
そこは仕組みなのか、それとも元々そういうDNAがある人達が集まっているからそういう風になるのか、非常に興味がありますね。
熊谷 2つありまして、今、事業を推進している幹部達は、1つのパターンは資本・業務提携、いわゆるM&Aを通じて参画した創業メンバー達なんですね。
その会社の創業メンバー達です。
私は普段「M&A」ではなく、「仲間作り」と言っており、担当役員も「仲間作り担当役員」と名刺にも書いてあるんですよ。
「M&A」や「子会社」や「買収」などといった上から目線の言葉を使うと、買われた側だという上下関係を感じて嫌な気分になるわけです。
ですから、なるべく人的リソースを失わないために、そういう配慮をしているんです。
もう1つのパターンは、それこそ本社でも新卒からのスタッフが半分以上を占めていますから、そういう中から、どんどん成長して事業を担ってくれているといます。
この両パターンがあって、お互いに刺激し合っています。
岡島 健全な競争があるというのも、すごくいい感じですよね。
熊谷 はい、社内ではかなりの競争がありますよ。
安渕 丁度我々のところでも、1,200人くらい社員がいますけれども、半分くらいが所謂「仲間作り」(M&A)から来た人達ですよね。
あとの半分くらいが新卒或いは中途で入ってきた人達で、そこである意味熾烈な競争が起こって、良い人材が浮かび上がってくるという形です。
火浦 このお話、本当に日本の大企業の人達に聞かせたい!
岡島 これは普通ではなくて、全くマイノリティーですから。(笑)
火浦 親子みたいな関係の中で捉えてしまうから、「仲間作り」ではなくて、俺が上お前が下みたいになってしまうんですよね。
岡島 せっかくその仲間となった企業の人達を、大企業カルチャーに染めていってしまうという企業もやはりすごく多くて。
火浦 或いは管理してしまう。
岡島 はい。
そして、一番ダメなのは、本社側から、あまりもうイノベーションと関係がなさそうな人が社長で行ってしまったたりすることになると、もう完全に個性が死んでしまうというか、何のためにこの会社を買ったんだっけ、ということになりますよね。
火浦 本当ですよね。
日本にもまだこのような創業目線がある企業があることはとてもくエンカレッジングだったのですが、日本は、海外のそういうバリバリの創業者と競争しなければならないんですよね。家電業界をみていてもわかりますが、日本の家電メーカーはグローバルな創業者が率いる企業に負けているんですよね。
ですから、そういう人達を会社の中に、或いは日本の中に何人作れるかというのは、大げさに言えば国家的課題というくらいのことで、こういうお話はすごく参考になります。
熊谷 私達のところには、C to Cの「minne(ミンネ)」というサービスをやっているGMOペパボという会社がありまして、グループジョインのきっかけは、実は、僕がインターネットで検索していた時に、すごく素敵な会社だと思って目に留まったのが始まりなんです。
九州に創業者の家入さんという方がいらっしゃって、飛行機に飛び乗って会いに行ったのですが、社内に入って感動したのは、すごく静かだったことでなんです。
サイレントオペレーションなんですよ。
本当に生産性の高い状態だったんですよね。
一方、弊社は人数規模が3倍くらいあって、もう電話は鳴るわ、ガヤガヤしているんですよ。
これではこの会社に絶対負けてしまうという風に確信して、仲間に加わって頂きました。
その時にグループの幹部に言ったのは、「絶対に私達の色を付けるな」ということです。
あなた達全員が「ペパボ化」しなさいと。
絶対にペパボに我々の色を付けてはならんと。
我々がペパボになるんだということを申し上げたんですね。
「仲間作り」をしても、相手の良い文化を吸収できなかったら何の意味もないと思うんですよね。
売上だけ、顧客シェアだけ買うのは何の意味もないと思うんですよ。
すごく大事なことだと思います。
岡島 ダイバーシティや、色々な知見や視点を綺麗ごとではなくて活かしていくということですね。
そして私がすごくいいなと思うのは、「仲間作り担当」といった言葉です。言葉はすごく大事ですよね。
ベンチャーのどの会社にもお願いしているのは、役職で呼ぶのをやめて「さん付け」にして下さいということです。
どんどんプロモーションさせる一方で、どんどん降格することもあり得るので、「部長ではなかったですね。部長代理になった○○さんですね」のような感じになると非常にまずいので、「さん付け」運動を薦めています。
お話をお聞きしながら、こういうかなりディテールなことが、実は、この「大企業化」の予防策になっていくのではないかなと思いました。
「創業メンタリティ」は遺伝するのか?
一方で、今すごく気になっていることがありまして、これは火浦さんにも伺ってみたいと思っています。
「創業者メンタリティ」とか「創業メンタリティ」と言うんですけれども、やはり創業者が残っているからこそ意思決定がブレないとか、DNAが残っているとか、行動指針が意味を持って伝わっていくといったことがあるのではないかと思っています。
そのサクセッションプランが、人をまたいでも上手くいっている会社には、例えばどういうところがあるのでしょうか。
火浦 そもそもこの本を作った時に、「創業者メンタリティ」というタイトルにしたんですけれども、どうしてもやはり創業者の話だと思われてしまうので、「創業メンタリティ」というタイトルに変えたんです。
創業者でなくても、創業メンタリティを持っている会社というのは沢山あるんです。
岡島 今日ずっと議論している仕組みや文化のようなものですね。
火浦 仕組みや行動の仕方のような、そういうものを持っている会社は実は沢山あって、そういう意味で、このメンタリティというのは決して創業者個人のものではなくて、学習可能なものなんですよね。
先ほど申し上げたように、色々な仕組みの中で人が育てられていく中から、或いはミニ創業みたいな経験をしながら、実はそういうメンタリティを持った人達が出てくるんです。
これがものすごく大事だと思うんですね。
岡島 今2社でお話を頂いたように、先天的な人ではなくて、後天的に仕組みとして学習可能なものなんですね。
それから、制度だけではなくて、恐らく文化みたいなものだと思うのですが、こういうことで作られるということですよね。
火浦 そうですね。
もちろん優れた創業者がいた方がいい場合もあるし、そういう方がいた方がよりパワフルだと思うのですが、そうでなくともできるというのは1つの大きなメッセージです。
僕らのスタディだと、やはり最後は何でも自分でやりたいと、創業者がボトルネックになっているケースも結構あるので。(笑)
岡島 「竈の灰まで自分のもの」、みたいな。(笑)
火浦 「Unscalable Founders」と言っているんですけれども。(笑)
優れた創業者がおられる会社はずっとやられた方がいいかなと思います。
安渕 だからそういう違ったタイプの人間を、どれくらい積極的に受け入れていけるかの力なんですよ。
要するに、創業者が自分と似たような人だけ見ていて、自分と似たような人が優れていると思ってしまうと、会社がそのカラーに染まってしまって、次の創業メンタリティーが生まれてこなくなってしまう。
岡島 確かに、家入さんなんて全然タイプが違いますもんね。
でもそこをリスペクトしよう、つまりInclusion(含有、包含、一体性)ということなんだと思うのですが、そこがやはり環境の変化に適応していく1つの術ということなんでしょうかね。
聞きにくい質問ですが、熊谷さんはサクセッションプランはどうされるのですか?
創業経営者のサクセッションプラン
熊谷 そうですね、「55ヵ年計画」というものがありまして、基本的にそれは皆で共有しています。
「スピリットベンチャー宣言」という定性的な社是・社訓にあたるものと、1996年をスタートとする、「55ヵ年計画」という超長期経営計画というのがあります。
あとは、どうやって会社を後進に譲っていくのかということについて、ここ最近、歳のせいなのか、或いは世の中の影響なのか考えることがありますね。
先日のセブンイレブンさんじゃないですけれども。孫さんもそうですよね。(ニケシュ)アローラさんとかね。
取材で昨日もご質問を受けたのですが、結論から言うと、どうやってバトンタッチするのかということについては具体的には考えていないのですが、あってほしい姿はイメージできています。
それはどういうことかと言うと、例えば今、世の中に残っている会社で、百年単位で続いていて社会に貢献している会社というと、例えば旧財閥グループだと、「三菱」の冠がついている会社というのは沢山あるじゃないですか。
組織としてはきちんと冠をつけ、いまだに成長或いは社会に貢献されていますが、あそこに「後継者」っていたんだっけという話なんですよ。
多分、(岩崎)弥太郎さんの次くらいはいたんだと思うんですが、自然と分散化してブランドを守り、利用しながら今に至っているのではないかと思うと、願わくば我々のグループもあのような形で50年後、100年後に世の中に貢献できるグループになっていたらいいなと思うんですね。
あの時って、確かに弥太郎さんの次には後継者がいたんだと思うのですが、でも、今までの間にいつしか「後継者」と言われる人はいなくなってしまっていて、「金曜会」で動かしているわけじゃないですか。
岡島 安渕さんは三菱商事で会長業務秘書とかやっておられたので、その辺はお詳しいと思うのですが。
熊谷 どうなんでしょうかね、あれって。
安渕 全くいないですよね。
岩崎弥太郎、小弥太、彦弥太がいましたけれども、その後は主要なところにはあまりいないと思います。
私のいたころの三菱商事には、特にそういう名前の人もいなかったし、それが社内のどこかに残っているということもなかったですね
熊谷 だから、歴史的にそれが正しいという証明が、今回されているわけじゃないですか。
ああいう形態にどうやって持っていったらいいのかなというのが、今の自分の課題なんですよね。
僕がものすごく刺激を受けた本に、「目立った経営者がいる会社は長続きしない」と書かれていたんですよ。
岡島 「ビジョナリー・カンパニー」の「第5水準のリーダー(経営者)」みたいなことでしょうか。
熊谷 そうです、「ビジョナリー・カンパニー」です。
岡島 統計的なデータを見ても、「第5水準」という本当に目立たない、あまりエゴが立っていない、というかある意味高次元のエゴの人というのは、業績もよく成長率もいいという話ですよね。
そして、むしろ目立っていてメディアにもすごく出ているような人達は「第4水準」なんだけれども、長期で見たら業績どうなの、みたいなお話ですよね。
熊谷 そうですよね。
あまりに強烈で、それがブランドとして浸透してしまうと、次にそれを支える人が出辛いというのは、その通りだなと思うんですよね。
だから、50年後100年後に三菱グループのような形になれるように、今後研究を続けていきたいと思います。
岡島 このベンチャー業界でも、やはり、段々と世代が、私達世代も年齢を重ねていくみたいなことになってくると、恐らく、株主と経営者みたいなことや、段々と色々ときな臭い問題などが出てきて、創業者リレーションシップをどうするんだみたいな、オーナーリレーションシップをどうしていくんだみたいなことが、この間のセブンイレブンさんの話のように出てくる。
では、今は構想中ということですね。
ありがとうございます。
ここまでで、経営者の役割について、かなり重要なエッセンスの部分をお伺いしましたので、一旦会場からご質問を伺いたいと思います。
(続)
編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/Froese 祥子
【編集部コメント】
続編は会場からの質問を受け付け、各登壇者が考える経営者の仕事について語って頂きました。登壇者と参加者の経営者同士が真剣に議論する素晴らしいセッションの最後となりました。是非ご期待ください。感想はぜひNewsPicksでコメントを頂けると大変うれしいです。
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