知の蓄積によって大学は「価値ある研究」を生み出せなくなる【K16-6C #4】 – INDUSTRY CO-CREATION(ICC)

知の蓄積によって大学は「価値ある研究」を生み出せなくなる【K16-6C #4】

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「最先端テクノロジーは社会をどのように変えるのか?」【K16-6C】セッションの書き起し記事をいよいよ公開!6回シリーズ(その4)は、知の蓄積により研究の新規性や進歩性を獲得するタイミングが遅れていること等を議論しました。是非御覧ください。

ICCカンファンレンスは新産業のトップリーダー160名以上が登壇する日本最大級の招待制カンファレンスです。次回ICCカンファレンス KYOTO 2017は2017年9月5〜7日 京都市での開催を予定しております。

登壇者情報
2016年9月6日・7日開催
ICCカンファレンス KYOTO 2016
Session 6C
「最先端テクノロジーは社会をどのように変えるのか?」
 
(スピーカー)
石川 善樹
株式会社Campus for H
共同創業者
 
出雲 充
株式会社ユーグレナ
代表取締役社長
 
福田 剛志
日本アイ・ビー・エム株式会社
理事 東京基礎研究所 所長
 
(モデレーター)
小林 雅
ICCパートナーズ株式会社
代表取締役

その1はこちらをご覧ください:【新】ミドリムシ×Watson? 最先端テクノロジーで変わる社会を徹底議論【K16-6C #1】
その2はこちらをご覧ください:コグニティブ・コンピューティングの衝撃は産業革命に匹敵する【K16-6C #2】
その3はこちらをご覧ください:「ミドリムシはワカメより圧倒的に凄い」ユーグレナ出雲節が炸裂【K16-6C #3】


出雲 途中で申し訳ないのですが、これは別に「Watson」が良いとか悪いとかいう話ではなくて、先ほど、すごいデータ量を扱うようになりますというお話がありましたよね。

これはITの分野では常識なのかもしれませんが、情報量が多ければ多いほど正しいとか、情報というのは多ければ多いほど良いという風になっているのかもしれないのですけれども、生物の分野では、一つの生物が扱える情報量や心臓の拍動の回数というものは、殆ど遺伝的に制御されていて、限界値が分かっているので、それ以上の情報というものは捨てる、扱わない、ハンドルしないというのが前提にあります。

必要な部分にフォーカスする、或いはそうではないものは使いません。

これはご存じの方も多いと思うのですが、例えば遺伝情報というものも、ゲノムの中には30億塩基配列格納されていますけれども、実際にアクティブになっている遺伝子なんて、そのうちの数パーセントなんですね。

殆どは、ずっと寝ていて、いつ使われるかも分かりません。

一生のうち、一回もアクティベート(活性化)されないで終わるということが多いのですが、情報の分野では、速ければ速くて、インプットする情報の量が多ければ多いほど良いというのは、それはもうコンセンサス(合意)として成立しているものなのですか?

情報の量が多ければ多いほどよいのか?

福田 いえ、全くそんなことはないです。

もちろん情報は量だけではなくて、質がものを言いますね。

ですが、質は上がれと言っても上がらないので、沢山の情報の中から意味があり価値のある良質な情報を掬い出さなければなりません。

ベースがないと話にならないので、そういう意味だと、沢山あることで結果的にその中から選択された選りすぐりのデータというのは価値が高いということにはなると思います。

先ほどおっしゃったゲノムも、沢山あって実際に使われているのは一部だけで、ごみかもしれない情報が沢山ある訳ですよね。

その中から本当に使われるものを使っていくということで言うと、割と近い話なのかなと思っていました。

石川 (会場の最前列に座っている)ヤフー(CSOの)安宅さんのご専門になるかもしれませんが、3Vでしたか、ボリューム(量)だけではなくて、バラエティー(多様性)とベロシティー(速度)が大切だということですよね。

適切な情報がどれだけ速く来るかということも大切で、量だけではないということですよね。

福田 まさにその通りですね。

これからIoTの時代で、リアルタイムに世の中のデータを集めることができるようになり、更にこの知性と繋がった時に新しいことが起こると思うのです。

情報の増え方には、色々な要素があると思うのですけれども。

石川 同じ情報ばかりずっと集めても仕方がないということなのですよね。

福田 昨日の情報と今日の情報は期限が違いますよね。

時間的に変化があります。

石川 違うみたいですね。

福田 脳の仕組みを解決していくアプローチはまさにバイオインスパイアード(Bioinspired)です。

知性を研究するには人間或いは生物に学びましょうということで、ニューロモーフィック(Neuromorphic)、つまり神経を真似した計算機というのをIBMは作ったりしています。

資料:日本IBM講演資料から転載

ここにコンピュータ・チップの絵が出ていますけれども、このチップはニューロモーフィック・チップと呼ばれるもので、この中でニューラルネットワーク(神経回路網)を直接実行します。

昨今流行っている ニューラルネットワークの演算は、GPU(Graphics Processing Unit)、つまりグラフィックス(画像)を処理するための専用のチップを使ってシュミレート(模擬)して演算しているのです。

実際のニューロンが中にある訳ではなくて、ベクトル計算を繰り返して神経が動いているかのように計算をしているのですけれども、このニューロモーフィック・チップは中にニューロンに相当するトランジスターがあって、ニューロン間が実際に繋がってそのまま計算されます。

それをすることによって、このチップ1個で70ミリワットと非常に省電力で演算できます。

このチップを利用することで、例えばオブジェクト認識、こういうビデオとか、ここに人がいるとか、自転車が走っているとか、そういうことが認識できるようなチップが作られています。

IBMと幾つかの大学でこれに似たような研究をしているところがありますけれども、非常にユニークなものです。

普通のコンピュータに入っているのが20ワットや50ワットくらいのCPU(Central Processing Unit)だと思うので、これはミリワット、つまり消費電力が1,000倍少ないわけです。

石川 より脳に近づいているということですか?

福田 でもまだ脳の方が圧倒的に小さいですし、効率も何桁かいいのですけれども、そういうところに3桁分くらいは近づけるテクノロジーが出てきていて、脳に学ぶというアプローチをとっています。

もちろん他のことも行っていますけれども、こういうことも、コグニティブなコンピュータの能力を飛躍的に上げるということですね。

分野を狭く設定しないと役に立つ知性は作れない

石川 逆に、今のコグニティブの「Watson」に何か弱点や改善ポイントはあるのですか?

福田 今はまだ、本当に一般的なことを何でも知っていて、このようにランダムな会話ができるような知性というのはまだコンピュータには備わっていません。

専門分野を非常に細く狭く設定しないと、役に立つ知性というのは作れないのですよ。

先ほど人の命を救ったというお話をしましたが、ゲノムに関する知識をたくさん入れて、どんな専門家よりもゲノムに関して詳しいコンピュータは作れるのですが、一般常識を持ってランダムな会話ができるような知性というのは、全く作れていませんね。

メインをいかに絞るかというところが、「Watson」を上手く使えるかどうかのキーになっていて、Domain Adaptationというのですが、新しいドメインに「Watson」を適用させていくというところにどれだけ手間をかけなければいけないか、結構手間がかかるのですが、そこが難しいところです。

人間でも、専門家を育てるのは結構大変ですよね。

そういう意味では、賢いコンピュータを作ろうと思うと、当然手間をかけて育て、学習させなければならない訳です。

石川 例えば僕は研究者ですけれども、専門家になる年齢が最近どんどん上がっているのです。

例えばノーベル賞を受賞した研究者を調べると、ノーベル賞を受賞するような研究を大体何歳くらいで始めたのかという研究があって、今、日本人の場合は40歳前後でノーベル賞を受賞するような研究を始めているんですね。

昔はもっと早かったのですよ。

でも、どんどん専門が深く広くなっていくので、本当に価値ある問いを見つけるのに、40歳くらいまでかかるようになっているんですね。

今の時点で40歳ですから、もう100年すると、多分60歳くらいまで修行をして、ようやく「よし、そろそろ研究するか」という時代が来るのでしょう。

もっといくと、多分人間の寿命を超えてくるのだと思います。

未来の研究の在り方というのは一体どうなるのだろうかということを、僕は今から心配しているのですよ。

今の時代でよかったなというのはありますね。

小林 ちなみに出雲さんがミドリムシの専門家になられるまでには、どれくらいかかったのですか?

出雲 ミドリムシの専門家…

小林 そうですよね。もう。

若い段階で新たなテーマにタックルする

出雲 私が得意なのは、バイオ、特に大量バイオと、ニーズのあるアプリケーションに合わせてミドリムシをカスタマイズするというところなのです。

やはり専門家といっても色々な分野の専門家がいますし、私が一番楽しみにしているというか期待しているのは、やはり光合成で、中でも、人工光合成なのです。

石川さんがおっしゃったように、偉大な研究をするためには、今はあまりにも膨大な基礎研究のデータがあるので、なかなか決めきれません。

ですから、本格的な研究をスタートするのにすごく時間がかかって、それが人間の寿命を超えると、人間は一生、少なくとも大学という拠点からは人類に貢献するような新しい科学技術の進歩が生まれなくなるという議論は本当にしているんですよ。

ですが、「根拠があってこういうミドリムシの研究をすると世の中が良くなる」というアプローチではなくて、私はそれよりももう少し自分のような、ミドリムシが好きだからやってみたいという人が、すごく若い段階から何か新しいテーマを見つけてそれにタックルしていくという方法もあるのではないかと思っています。

もちろん上手くいかないことの方が多いのですけれども、そういうブレークスルーの仕方というのもあるじゃないですか。

ですから、リーズナブルに新しい発明を大学が行うというのは、そのうちできなくなると思うんですね。

それが2045年なのかもしれないのですが。

私は人工光合成にすごく興味があります。色々なタンパクがあって、タンパクというのは立体構造がすごく重要じゃないですか。

先ほどのスライドで、薬がこの左下に出ていますよね。今、神戸の理化学研究所に「京」という一秒間に1京回計算できるスーパーコンピュータがありますが、私は「Watson」やビッグデータについて私の分野で最初に聞いた時には、あらゆるタンパクの立体構造をスーパーコンピュータの中でシミュレートしてどういう薬理活性効果があるのかということを、非常に大型の高分子なタンパクでも全部網羅的に計算をして、すごい効き目の高い薬ができると聞いていたんですよ。

でも、いつまで経ってもそんな薬は出てこないではないですか。

光合成を行っているタンパクも、ルビスコ (Rubisco)、リブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ (ribulose 1,5-bisphosphate carboxylase/oxygenase)というタンパクなのですが、

福田 早口言葉ですよね。

小林 多分これ、書き起こせないですよね。

出雲 それはGoogleで検索すれば出てきますけれども(笑) 。

(会場笑)

(編集注:実際に検索して調べました!)

出雲 どこでどういう電子の受け渡しをしているのかということは分かっていて、それを我々がアミノ酸からもう一度この立体構造に作ったら、同じ機能を持ったタンパクを再現できるというような話だと思っていました。

ずっと楽しみにしているのですが、20年経った今も残念ながらそういう話がないんですよね。

「Watson」にはあれもこれもできると言われて、「Watson」のことをよく知らない人の半分くらいはお困りなのではないかと思っているんですよ。

「Watson」がそんなことをできるなんて一度も言っていないのに、周りの分野の人の中には、「いや、『Watson』にこれができると聞いたのですけれども」と私みたいなことを言う人は結構いるのではないですか?

福田 そうですね。

本当に万能なAIが出来上がっていて、聞けば何でも答えてくれるという風に思っている方がかなりいらっしゃると思います。

モレキュラーダイナミクス(Molecular Dynamics、分子動力学法)を使ったシミュレーションが行われていて、実際に成果は出ていると思うのですが、ものすごいものが出たかというと、そこまでは分からないのですけれども。

そういうシミュレーション等と、更に論文等に書かれている知識とを組み合わせることで、「Watson」のドラッグディスカバリーを加速しようというのは、ここの使い方ですよね。

そういうスーパーコンピュータを使ってプロテインフォールディング(Protein Folding)を行うというようなことは以前から行われていて、それなりの成果は出ているのだと思っているのですが、そうでもないのですかね。

小林 ありがとうございます。

(続)

編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/Froese 祥子

続きは 「解くべき問いを立てる」 - 人工知能時代に生きる人間がやるべきこと をご覧ください。

【編集部コメント】

続編(その5)では、会場からの質問を受け付け、脳神経科学者でもあるヤフーCSO安宅さんやしつもん家のマツダミヒロさんと議論しました。是非ご期待ください。他にも多く記事がございますので、TOPページからぜひご覧ください。

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