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「IoT時代のビジネス/テクノロジー/デザインの考え方はどのように変わるのか?」【F17-2B】セッションの書き起し記事をいよいよ公開!11回シリーズ(その9)は、IoT及びそのプロダクトを普及させるために、デザインの重要性について議論しました。フランス企業が手がけるIoTの多彩な事例もご注目ください。是非御覧ください。
ICCカンファレンスは新産業のトップリーダー160名以上が登壇する日本最大級のイノベーション・カンファレンスです。次回 ICCカンファレンス KYOTO 2017は2017年9月5〜7日 京都市での開催を予定しております。
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【登壇者情報】
ICCカンファレンス FUKUOKA 2017
2017年2月21日〜23日開催
Session 2B
「IoT時代のビジネス/テクノロジー/デザインの考え方はどのように変わるのか?」
(スピーカー)
青木 俊介
ユカイ工学株式会社
代表
小野 直紀
株式会社 博報堂
プロダクトデザイナー
田川 欣哉
Takram
代表取締役
村上 臣
ヤフー株式会社
執行役員CMO
(モデレーター)
林 信行
ジャーナリスト/コンサルタント
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【前の記事】
【本編】
林 ここでビジネスの話だけでなくて、デザインについてもテーマに取り上げたいと思いますが、そもそもIoTはこれだけ話題になっているにもかかわらず、本当のヒットは出ていないような気もします。
そもそも、IoTはどのようにキャズム(「アーリーアダプター」と「アーリーマジョリティ」の顧客層の間にある越えがたい「深く大きな溝」のこと)を超えていくか、どういうビジネス、開発をしていったらいいのかという話があります。
それこそ最近はCES(Consumer Electronics Show)へ行っても、フレンチ・テック、フランスのIoTが非常に活発です。
優れたデザインで頭角をあらわすフランス発IoT
村上 すごかったですよね!フランス祭りでしたよね。
林 そうですね。サンズエキスポの方の会場は、本当に半分くらいフランス企業でしたよね。
スライドをご覧いただきたいのですが、実際に昨年の統計を見ても、世界のIoT関係の優れた会社の上位はほぼアメリカの都市が占めていますが、6位にパリが出てきて、東京の12位に比べると、その差は歴然です。
実はフランスは、IoTという言葉がこれ程騒がしくなってくる以前から、既に頭角を現わし始めていました。
私が一番好きな会社で、個人的にも付き合いがあるのが、Parrot(パロット)社です。
一番初めに民生用の、個人用のおもちゃのAR.Droneを出してきた会社なのですが、ご存知でしょうか。
創業者のアンリ・セドゥ氏は、娘さんのレア・セドゥさんがボンド・ガールを演じた女優だったり、クリスチャン・ルブタンの最初の投資家だったりします。
村上 そうなんですか、すごいですね。
林 いわゆる名士なのですが、デザイナーのフィリップ・スタルクと仲が良く、彼を連れてきてIoTのかっこいいデザインのスピーカーやヘッドホンで業界を沸かせました。
スタルクは、その後、フランスの「Withings」などのインターネットウェアラブルや体重計を作っているような会社のデザインをしたり、あるいは「netatmo」のデザインをしたりしています。
フランスのIoTはデザインが優れており、日本のIoTもかっこいいものが増えていますが、アメリカや中国のIoTは正直残念というか、これは来年残っていないだろうなという感じがありました。
家庭の中に入ってくるIoTのデザインは、デザインといってもスタイリングの部分が大きいかもしれませんが、フランス勢はデザインの重要性を感じて意識的にやってきています。
「リリックスピーカー(Lyric speaker)」もまさにそこを意識してやってきているのだと思います。
小野 リリックスピーカーに限りませんが、新しい機能を持った何らかの存在が家の中に入ってくる時には、その機能が何の機能を持っているのかということがすぐに伝わらないといけないと思っています。
ある種シンボル性を持って家の中に入ってくるわけですから、リリックスピーカーで気を付けたことは、とにかく「モニターにみえない」ことでした。
先ほど青木さんもおっしゃっていましたが、テレビ以外のモニターは要らないという流れがあると思います。
ですからモニターにみえないことを意識し、透明ディスプレーを採用して、モニターディスプレーを作っている会社が通常は絶対やらないだろう、モニターの前に何かを置くということ、あえてモニターの前にスピーカーを置いて、モニターを見づらくするというようなことをやりました。
音とともに歌詞が情報となって出てくるという狙いと、モニターにみせないという、両方について、新しい見え方の実現を意識して作りたいなと思っていました。
新しさと、その製品が何をしてくれるものなのかというメッセージ性、そういったものを込めてデザインをしています。
林 最近では大手メーカーもIoT家電を作っていますが、大手メーカーにしても、ハードウェアスタートアップにしても、IoTを作る企業はこれまでエンジニア中心に進めてきています。
これからIoTなどを作っていくうえで、どのような転換が必要になってくるとお考えですか?
これは田川さんが一番造詣が深いと思うのですが。
ビジネスとテクノロジーだけではIoTは浸透しない
田川 そうですね、いずれにしても、物が非常にパーソナルな圏内に入ってきますよね。
自分の服を着る、ベルトを買うというようなことと似たような感覚で物が選ばれるようになりますので、スタイルやデザインをきちんとコントロールできる人材、例えば、スタートアップできちんとクリエイティブ・ディレクターのような人材がいるかどうかというのは、IoTに関しては必須となる気がします。
フィリップ・スタルクもヨーロッパのプロダクトデザイン史の中ではスターだったのですが、彼のピークは90年代後半だったはずなんですよね。
いったん消えたかなと思っていたら、IoTの流れに乗ってグワーッと再浮上しています。
Fitbit(フィットビット)のプロダクト・デザインをしている人なんかも、昔からいいプロダクトデザイナーでした。
日本にもいいプロダクトデザイナーがたくさんいますので、そういう人たちと例えばIoT系のデバイスを作っている人たちがマッチングの機会を通して協力してくのもいいかもしれません。
もしくは小野さんのように、チームの中にプロダクトデザインができる人材を持つこともありだと思います。
ただいずれにしても、私はよく「BTC」と呼んでいるのですが、サービスでも製品でも、ビジネス、テクノロジー、クリエイティビィティの3つの観点から作っていかなくてはなりません。
▶【新】イノベーションを生み出す人材の3つの要件とは?(Takram田川)
ビジネスとテクノロジーだけで市場に浸透できると考えるのは、少し見込みが甘いので、必ずクリエイティブのコントロールができる人をチームの中に据えておくことを、会社や事業を作る時にしっかり検討した方がいいと思いますね。
小野 私も同感です。
少し昔の話ですが、iPodが出た時にイヤホンの色が白くなりました。
今までずっと黒かったイヤホンが白くなったことで、おしゃれな人は白いイヤホンをしているというイメージが形成され、広告塔になり、一気に広がりました。
もちろん機能面でも優れていましたが、持っている人が周りに増えていることが可視化されていった、つまりイヤホンを白くするだけで、プロダクトの象徴を作ったりすることもできるのだと考えています。
やはり新しいものが世の中に広がっていく時には何らかのシンボルがあり、それをもって世に広がっていくというベクトルが生まれるのかなと思っています。
物を作る時には、そういうところを意識的に広げていくということを念頭に置いてやっていかなければならないなと、そしてそれはクリエイティブの仕事の一つなのかなと思ったりしています。
優れたIoT製品を生み出すチームづくり
林 「リリックスピーカー(Lyric speaker)」は製品が市場に出るまでの過程でいろいろな人が関わっていると思います。
エンジニア、技術も優れていますし、見た目もかっこいいですが、どういう形でプロジェクトを進められたのですか?
小野 博報堂のグループ会社で、クリエィティブ・ブティックのSIX(シックス)という会社があるのですが、「リリックスピーカー(Lyric speaker)」はもともと、同社のクリエイティブ・ディレクターの発案で作っていくことになったものです。
しかし、同社はどちらかというとブランディングを専門とする会社なので、技術を持っている人材は外部から集めてこなければならず、普段一緒に仕事をしている優秀なエンジニアに声を掛けたわけです。
私が入ったのは、1回目のモックアップというかプロトタイプ・・・ハードモックができたくらいのタイミングでした。
その時はパッと見て、「あ、テレビがある」と思ったんですね。
そこから今の最終的な形の一歩手前のようなものをデザインして、更に商品化するぞという段階で、量産に必要ないろいろな人たちが加わってきました。
でも、皆あれで儲けようと思って入ってきたというよりは、一つの指針というかコンセプトに人が群がってきたという感じでした。
コンセプトに共感して面白いと思った人が集まってきたという形です。
いろいろな会社の人たちがフラットに仕事をしているので、不思議な集まりというか一体感が生まれて、ムーブメントのように物が作られていくというのが、メーカーのトップダウン方式とは違って、非常に新鮮な経験でした。
林 IoTがキャズムを超えていくにあたっては、持続性というか、一つのIoTが信頼されてずっと進化し続けるということが大事だと思うのですが、今は花火が打ち上がるように次々と出てきているように思います。
村上 継続性が少し足りませんよね。
林 その点青木さんがすごいのは、BOCCOは結構長く、様々な展開を見せていますよね。
青木 そうなんですよ。
これは読んだ話なのですが、シャープが液晶ビューカムを出した時、それまでのビデオカメラに比べて、とても特殊な形状をしていましたよね。
液晶パネルを目の前に持ってビデオを撮ると。
最初出した時は、デザインが新しすぎて全く売れなかったそうなんですね。
その時に、その当時の社長さんがおっしゃっていたのは、新しいものは「信頼」がないから売れないと。
それでも3代続けてやれば信頼も生まれるから、そこでようやく売れるようになるだろうとおっしゃったそうなんです。
そして実際にその通りに、モデルチェンジ3代目で大ヒットしたそうです。
ですので、BOCCOも今までになかった新しい形の製品だと思うのですが、どんどん機能が新しくなっていくとか、追加されていくとか、いろいろなセンサーと新しく連動するなど、絶えず手を入れて、長く進化を続けていくことによって、ユーザーからも欲しい思ってもらえるようになるのではないかなと思って頑張っています。
「IoT」とモノが主役の「ToI」
村上 私はそもそも、IoTは「ToI」(=Things of Internet)と呼んだ方がいいと思っているんですね。
要は、インターネット・オブ・シングスはモノそのものが主役であり、モノが単体としてかっこよくないと、絶対に売れないと思うんですよね。
成功しているクラウド・ファンディングなどのプロジェクトも、単純にスマホとつながっているだけのものでも、すごくかっこいいものはやはり売れています。
モノの存在感はやはり大きいので、モノとしてちょっと・・・と思うものは機能で押しても絶対に売れません。
それを上回るものがまだ少ないので、まだキャズムも超えていないのだと思います。
田川 今日は、その軸線がいいですね。
IoTは、「IoT」と「ToI」の二つに分けた方がいいと。
村上 そうそう。
田川 それは本当の話で、ビジネスモデルが違うんですよね。
村上 そうなんですよ。
田川 IoTは最終的に、インターネット・ビジネスに結合していないものは、持続しないだろうと思っています。
世の中でIoTと呼ばれているものの大半は、実は「ToI」です。
村上 そうなんです。
田川 ToIは、実は20世紀型のいわゆる量産品で、売上回収をしている。
村上 基本的に売り切って、いったんリクープ(回収)できるというのが前提ですから。
田川 そうそう。たぶん違うんですよね。
恐らくその真ん中もあり得るのだけれど、基本のポジショニングに関しては、商流、儲け方、原価回収の仕方にしても、少し異なりますよね。
村上 ビジネスモデルも違いますし、Amazon Echoの話が最初に出たので言及しますと、売れたと言われていますが、購入した友人たちになぜ購入したのか聞くと、「ちょうどいいんだよね、Bluetoothスピーカーとして」と言うんです。
要は縦型で少しクールな音質のいいBluetoothスピーカーが、Amazon Echoが市場に出た当時はカテゴリーとして存在しなかったんですよね。
ですので皆、「ちょうどキッチンにスピーカーが欲しかったんだよね」というような理由で購入して、使ってみて、多少便利だなと思いつつも、その後はほとんどの人が単にスピーカーとして使っているんですよね。
「Alexa!」と呼び掛けている人なんて、半分もいないくらいですよ。もしくは贈り物としてちょうどいいなどの理由で売れていると。
リサーチ結果も出ていますが、「Amazon Echo」のインターネット機能をずっと使っている人というのはかなり少なくて、インターネット・サービスの利用継続率は半分以下なんですね。
ですので、モノが先に立っていないと、やはりコンシューマー向けとしてはウケないです。
やはりIoTで儲けようと思ったら、B to Bが一番早い。今利益を上げている業者さんというのは、皆、BtoBモデルですよね、コマツにしても、GEにしても。
林 話にエンジンがかかり、滅茶苦茶盛り上がってきているのですが、会場からの質問を受けてくださいという指示が出ているので、ぜひこのタイミングで何かありましたら挙手をお願いします。
(続)
続きは IoTはキャズムを超えられるのか? をご覧ください。
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編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/横井 一隆/立花 美幸/鈴木ファストアーベント 理恵
【編集部コメント】
継続性のお話は、継続課金でサービス化するIoTプロダクトが広く浸透した事例がほぼないということも言えるかと読んでいて思いました。この後は、IoTよりもむしろ「ToI」の話が盛り上がってまいります。ご期待ください(榎戸)
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