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注目ベンチャー「ウミトロン」- 宇宙データの活用で狙うICT×水産養殖 で紹介しました、ウミトロン社の水産業向けICTソリューションを試験導入されている愛南町に伺いました。
「水産業におけるICT活用の最新事例 – ウミトロンは養殖業の救世主となるのか?」をテーマに特別インタビューを行いました。2回シリーズ(その1)は、「元JAXA研究開発員 藤原氏が挑む水産業のICT活用」です。リアルな声をぜひご覧いただければ。
本記事で特集しております8分間のプレゼンテーションを行う「CATAPULT(カタパルト)」のプレゼンターを募集しております。「スタートアップ」「IoT/ハードウエア」「リアルテック」「カタパルト・グランプリ」の4カテゴリーで募集しております。ぜひ募集ページをご覧ください。
ICCパートナーズは、このような取材を行い、「カタパルト」登壇企業をサポートしております。
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登壇者情報
2016年10月25日実施
特別インタビュー「水産業におけるICT活用の最新事例 – ウミトロンは養殖業の救世主となるのか?」
(出演者)
藤原 謙 ウミトロン株式会社 代表取締役
浦﨑 慎太郎 愛南町役場 水産課 係長
髙橋 智行 愛南町役場 水産課 課長補佐(水産振興係)
大西 光 大西水産有限会社 代表取締役
(聞き手)
小林 雅 ICCパートナーズ株式会社 代表取締役
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小林雅(以下、小林) 注目ベンチャー「ウミトロン」- 宇宙データの活用で狙うICT×水産養殖 で紹介しました、ウミトロン社の水産業向けICTソリューションを試験導入されている愛南町に伺いました。
本日は、日本の水産業や養殖業を取り巻く環境やICTの活用について伺います。
平成27年度の水産白書には「世界に目を転じれば、健康志向の高まり、新興国を中心とした動物性たんぱく質摂取量の増加、水産物流通システムの整備等により、世界の水産物消費は一貫して拡大してきており、世界人口の増加が続く中で今後も水産物消費の拡大が予想される」とありますが、世界の水産物消費が拡大している中で日本の現状はどうなのでしょうか? そんなことを伺えればと思います。
世界の肉類と魚介類の年間供給量の推移
(出所:平成27年度 水産白書)
まず自己紹介をお願いします。
藤原 謙 氏(以下、藤原氏) ウミトロン株式会社の代表をしております藤原と申します。
元々はJAXAでエンジニアとして人工衛星の開発等をやっていたのですが、作った宇宙技術をもう少し実際に世の中の役に立つような取り組みができないかなということで、ちょっと方向を変えてビジネス側をやり始めました。
1982年大分県生まれ。東京工業大学機械宇宙システム専攻修了。学生時代に小型衛星開発プロジェクトに従事し、2008年より宇宙航空研究開発機構(JAXA)の誘導制御系研究開発員として、天文衛星プロジェクトや海外宇宙機関との共同実験等を担当。2011年、カリフォルニア大バークレー校ハースビジネススクールに留学しMBA取得。在学中、シリコンバレーにてベンチャーの創業支援を行い、2013年から三井物産株式会社にて新事業開発を担当。小型衛星、農業ITベンチャーへの投資を行い、衛星データを用いた精密農業サービスの海外展開に従事した後、2016年に水産養殖向けデータ・サービス会社、UMITRON(ウミトロン)を創業。衛星による地球観測データを活用し水産養殖の生産効率化を行うサービスを開発中。
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前職は三井物産でベンチャー投資をやっていまして、その中でたまたま農業×ITを少しやっていたのですが、一次産業にそういったデータを使用したり、人工衛星のデータを使ったりという話があったので、ITと一次産業の組み合わせで新しいことができないかと思い、ウミトロンという水産養殖向けのデータの会社を始めました。
小林 ありがとうございます。
では大西さんお願いします。
大西 光 氏(以下、大西氏) 大西水産で真鯛の養殖をやっています大西 光と申します。
私は今26才ですが、2年前に先代の後を継いで真鯛を年間30万匹程 出荷しています。業界でいうと中堅ぐらいの規模です。
養殖の課題から入るんですが、餌代が原価の6割から7割を占めるので、そこをなんとか最小限に抑えたい、無駄を無くしたいというのがみんなの課題としてあります。浦崎さん(愛南町役場 水産課 係長)の紹介で藤原さんと出会って面白いなと思い、今は 開発に向けて出来る限りの協力をしているというところです。
小林 ありがとうございます。では高橋さんお願いします。
髙橋 智行 氏(以下、高橋氏) 愛南町役場の水産課で水産振興を担当しております髙橋智行といいます。
私自身は、今は愛南町の職員ではあるのですが、元々は農林水産省の外局で水産庁というところから人事交流として来ておりまして、約1年半経ちました。
▼髙橋 智行
愛南町役場 水産課
課長補佐(水産振興係)
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赴任した目的は愛南町の水産業を振興するというのがあります。また、最近流行りである農林漁業の6次産業化ですね。「生産者が水産物を生産するだけではなくて、加工や流通も含めてより所得を向上させる」という取り組みを進めたいという役場のニーズや、それ以外のことも含めまして、今こちらの方で色々な取り組みをさせていただいています。
その中で今回 藤原さんの、ICTを使った水産養殖業のコスト削減、働き方の改革ということは可能性があると思っています。
それに対して私は、国から来たというのもありますが、町と国、そして生産の現場を繋げる橋渡しという役で少しでも貢献出来ればと考えています。
小林 ありがとうございます、最後に浦﨑さんお願いします。
浦﨑 慎太郎 氏(以下、浦﨑氏) 愛南町役場水産課の浦﨑です。
高橋さんと同じく愛南町の水産の振興をやっています。
メインは魚類養殖が担当です。現在、魚類養殖は餌代等が上がって厳しい状況ではあるんですが、町内の養殖業者には若い経営者の方が結構おられて、この人達と色々話しながら考えてやっているという状況です。
平成20年には愛媛大学の付属機関である南予水産研究センターが愛南町に来ていただきましたので、色んな人を交えて水産振興を図れたらと考えています。
水産業/養殖業を取り巻く経営課題
小林 よろしくお願いします。
では早速、そもそも養殖業や水産業における経営課題というと難しい言い方ですが、餌代のコストの増大等色々あると思います。全体で言うとどういうものが一般的に課題になりますか?
大西氏 一番重要な課題は餌代の削減です。
魚の餌の、成分の6割から7割を今まで魚粉が占めていたのですが、魚粉の値段がここ数年で急激に上がったことにより自動的にコストアップになります。
原油価格と魚粉輸入価格の推移
(出所:平成27年度 水産白書)
それに伴って低魚粉化を進めてはいるんですが、それでも今までのスペックの餌と今の餌を比較すると3割から4割値段が違うので、それをどう削減していくかということと、養殖業者としては最小限の餌で最大限の増重をするというのが理想なので、やはり餌の価格高騰が一番の課題です。
高騰は恐らくもう止まらないので、どこで削減できるかというのが課題です。
小林 なるほど。
でも逆に言うと、餌代が高騰しているということは、魚自体の売値も上がっているんではないでしょうか?
大西氏 そこが大問題ですね。
僕らの商売のスタイルは基本的に市場に卸すというのが大きな仕事なんですが、値段がある程度固定していて、それに縛られます。
もちろん高く買っていただきたいんですが、そこが難しく、なかなか値段が通らないのです。
生産者みんなが「せ〜の」で値上げをすれば自動的に高くなる可能性はあるんですが、現状そうなれていないので、高値で売れないというのが1つかもしれないです。
小林 これを聞いてどうですか。
高橋氏 補足というわけではないですが、売る側の話は高く売りたいんですが、買う側の、食の多様化等ある中で、「魚離れ」ということが言われています。
調理するのが大変、食べ方が分からない、調理したら臭いが出るということもあって、「魚離れ」が起きてきています。
年を取ったら魚が好きになっていくという傾向(注:加齢効果)はあるんですが、そういった方も含めても、年間で摂取する魚と肉の量が平成20年ぐらい迄は魚の摂取量の方が多かったそうですが、今は大人も子どもも押しなべて、1日平均当たりの肉類と魚類の摂取量が逆転してしまっています。
食用魚介類及び肉類の1人当たり年間消費量(純食料)の推移
(出所:平成27年度 水産白書)
肉が輸入の関係で安いものが入ってきていたり、景気も悪くなってきて安い肉の方にどんどん特化したりということで、消費者はそういう方を選んでいます。
そういう中でコストの高い魚になかなか手が出づらくなっている。
それも複合的な要因があって、現状、国内では魚自体の消費が落ちてきているということ言われています。
生鮮魚介類の1世帯当たり年間支出額・購入量の推移
(出所:平成27年度 水産白書)
浦﨑氏 勝負するところが魚類の養殖対天然のもの、というのではなくて、肉類、特に鶏はグラム100円ぐらいで売っているので、なかなか魚の養殖の単価としてはついていけません。そういうところとも勝負しないといけなくなってきています。
遠洋・沖合・沿岸漁業の平均魚価の長期的な推移
(出所:平成27年度 水産白書)
そういうふうになった時に、どうやってコストをカットするかというところは今後考えていく大きな課題です。
「ウミトロン」のソリューションは養殖業の課題を解決する
小林 それを踏まえて、ウミトロンのソリューションの着眼点に関してですが、何故餌代に目をつけたのでしょうか。
藤原氏 餌代が高騰しているというのは、マクロな環境なのでなんとなく新聞などを読んで知ってはいたのですが、実際現場でどの程度課題として感じられているのかは分かりませんでした。
愛南町に来ていろいろと話を伺うと、ITを使って効率化するんだったらここしかないな、という課題が明確になりました。
餌をどうやって減らすかというのは僕は分からなかったので、そもそも減る可能性があるのかを(養殖業を営んでいる)大西さんにお伺いしました。
ちゃんと管理すれば、無駄になっている分があるのでその分は減るだろうとおっしゃっていたので、ITを使ってもっと細かく管理すれば減らせる余地はある、という仮説を立てました。
小林 突然よく分からない人(藤原さん)がやって来たわけですが、最初はどういう印象だったのでしょうか?
大西氏 面白いな!と思いました。
浦﨑氏 最初は2016年4月に僕が大西さんに電話をして、「こういう面白い人がおるんやけど、試験をやってみようか」という話をして、そこからスタートしました。
藤原氏 最初は愛媛大学の研究発表会に参加して愛南町での取り組みを知り、訪ねてきたら浦崎さんがいらっしゃって色々とお話を聞いてくださいました。
そこで大西さんを紹介してくださって、そこから実証実験を始めることになりました。
小林 実証実験ですが最初は何を行ったのでしょうか?
浦﨑氏 初めは赤潮の話しで来られて、愛媛県でも平成24年と27年は10億円近い被害が赤潮で出まして、それをICTで情報発信しながらという取り組みを愛媛大学と一緒に愛南町でやっていたんです。
その発表を藤原さんが聞かれて、愛媛大学の太田先生・清水先生のところに訪ねて来られたんです。
ただ、赤潮で商売になるようなところは、養殖業者が赤潮情報の天気予報みたいな形で、「すぐにお金を払うという段階ではない」と僕の中では思っていたのです。
手っ取り早く商売にするのであれば、一番コストが高い餌代をいかに削減するか、というところなら商売できるんじゃないかな、ということでこの話が進みました。
藤原氏 餌を減らすにはどうしたらいいかというのを僕なりに考えて、結局与えた餌量と出てきた魚の大きさ、この効率が上がれば餌が減ってるということなので、入り口と出口をちゃんとデータ化することがまずは大事なんじゃないかと思いました。
最初は魚体計測、魚がどれくらいのサイズかというのを色々技術を使って自動で測れるような水中カメラの試作をやって生簀に設置させてもらいました。
一応サイズが取れるような装置はできて、それを置いてもらって鯛の測定をやっていたのですが、色々話を聞いていると魚体計測に対するニーズはそんなに強くないというのがあり、1ヶ月に1回すくって測ってるので、それが自動になったからといってあまり需要はありませんでした。
大西氏 月に1回だけですむので元々の手間がそこまでかからないので。
藤原氏 それは結局インプットとアウトプットを比べて効率が高いかどうかという前に、そもそも餌やりのところで無駄になってる分が既に存在する。
効率化するために僕が最初考えたのは、魚の消費の生態的なメカニズムの中で、「どういう条件で餌をあげれば太るのか」という結構難しいテーマを考えていたのですが、まず入り口のところで餌をあげている時に、「そもそも食べているかどうか」というのが分かればそこでも多少減らせる可能性があるというのを教えてもらいました。
そこで開発の方向を変え、餌をあげてる時に食べているか食べてないかを判断するということに絞って、違う水中カメラの試作機を作り、それをまた生簀に置いてもらいました。
高橋氏 補足ですが、養殖魚への給餌方法としては主に直接人の手で給餌する方法や、船から機械を使って餌を生簀に飛ばして給餌する方法、それと自動給餌機を使った方法があります。
人件費削減という点で自動給餌機を使っているケースは多いのですが、給餌量の微妙なコントロールは難しいです。
今回は自動給餌機に水中カメラを外付けで設置された、ということです。
大西氏 自動給餌機があるんですが、そこに例えば200キロぐらい餌が入ったとして、その200キロが落ちるのを人がずっと見ていられないという状況があります。
見てない間に餌を食べてない時間もあるんじゃないかという仮説を立てました。
リアルタイムで給餌状況を見ることができれば、食べていない時は給餌機を止めることで、その分の無駄な餌がなくなるのでそこで方向性がまとまりました。
映像:餌を食べている様子
藤原氏 2016年5月のゴールデンウィークに僕の大学の同級生のエンジニアにいっぱい声をかけて、愛南町の愛媛大学の施設で合宿をし、そこで第3世代ぐらいのまでのプロトタイプを一気に開発しました。
本職でもカメラをやってる人と、電源をやってる人と防水関係をやってる人に来てもらって、一緒に合宿して「こういうのがいい、ああいうのがいい」と言いながらアイディアを固め、それを大西さんのところにみんなで持っていきました。
小林 それを見た瞬間はどうでしたか?
大西氏 「おーっ」て感じでした。
初号機がまあまあ大きかったんですが、その次にコンパクトになり、更にこの半年でどんどん小型化されていきました。
写真:現場で作業するウミトロン藤原さん(左)と大西水産の大西さん(右)
小林 実際に餌は減るものでしょうか?
大西氏 現状としてまだ手応えは分からないんですが、これからそれを試していきたいです。
時期にもよりますが、今は餌を結構食べる時期でもあるので、見てる中ではいつも食べてるんです。
多分削減できる部分は4月から5月ぐらいで、珪藻というプランクトンが増えると鯛の餌食いが落ちる時があるので、その時に食べてない時は止めることができれば餌代の削減に繋がると思います。
浦﨑氏 餌の削減だけじゃなくて、一気に食べる時に食べさせるというのもあります。
今まで捨てるのが怖くてあまり入れてなかったものが、実際毎回食べているのであればもうちょっとあげるようになり、そうすると期間短くして出荷できるというケースもあります。
飼育期間を短くすることで、これもコストカットに繋がります。食べる時期に食べさせて、食べない時は止めさせるということが出来るんじゃないかと思います。
小林 開発のチャレンジは何がありますか。
藤原氏 やはり海の上で独立して動き続ける装置を作るというのは結構チャレンジです。
電力や熱、防水等もありますが、やってみると意外とその辺は人工衛星でやっていたようなシステムに似ていて、お金のかけかたはもちろん違いますけど、電力を制御したり太陽光を貰ってどれくらい上手く電力収支を取るかというのは何となく土地勘があるので、やり始めたらJAXAで経験した宇宙開発技術が役に立つと思っています。
高橋氏 自分たちの中ではそういう発想がないので刺激的です。
(続)
続きはウミトロンの挑戦(2)水産業の救世主となるか? – 養殖業におけるICT活用の可能性をご覧ください。
編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/城山 ゆかり/戸田 秀成
【編集部コメント】
続編(その2)では「水産業の救世主となるか? – 養殖業におけるICT活用の可能性」ついてお話頂きました。是非ご期待ください。今回の感想はぜひNewsPicks(ICCのNewsPicksページ)でコメントやフォローを頂けると大変うれしいです。
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