ウミトロンの挑戦(2)水産業の救世主となるか? – 養殖業におけるICT活用の可能性 – INDUSTRY CO-CREATION

ウミトロンの挑戦(2)水産業の救世主となるか? – 養殖業におけるICT活用の可能性

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注目ベンチャー「ウミトロン」- 宇宙データの活用で狙うICT×水産養殖 で紹介しました、ウミトロン社の水産業向けICTソリューションを試験導入されている愛南町に伺いました。

「水産業におけるICT活用の最新事例 – ウミトロンは養殖業の救世主となるのか?」をテーマに特別インタビューを行いました。

2回シリーズ(その2)は、「水産業の救世主となるか? – 養殖業におけるICT活用の可能性」です。リアルな声を是非ご覧いただければ。

2017年2月21-23日開催予定の ICCカンファレンス FUKUOKA 2017 の「カタパルト」登壇企業を募集しております。詳細や募集スケジュールなどはぜひ募集ページをご覧ください。ICCパートナーズは、このような取材を行い、「カタパルト」登壇企業をサポートしております。

登壇者情報
2016年10月25日実施
特別インタビュー「水産業におけるICT活用の最新事例 - ウミトロンは養殖業の救世主となるのか?」
(出演者)
藤原 謙  ウミトロン株式会社 代表取締役
浦﨑 慎太郎 愛南町役場 水産課 係長
髙橋 智行 愛南町役場 水産課 課長補佐(水産振興係)
大西 光  大西水産有限会社 代表取締役
(聞き手)
小林 雅  ICCパートナーズ株式会社 代表取締役

その1はこちらをご覧ください:ウミトロンの挑戦(1)元JAXA研究開発員 藤原氏が挑む水産業のICT活用


データ活用によって水産業の生産性を高めることができる

小林 今ウミトロンさんと色々やられていると思いますが、他にも何かこんなのがあったらいいな、というのはありますでしょうか?

大西氏 同時に水温や潮の状況とかが分かると助かります。

養殖においては、水温や潮、プランクトンの量、溶存酸素量(注:海水に溶け込んでいる酸素の量)など色々大事な要因があり、装置を付けることでそれらが瞬時にすぐ分かれば「今日は多分餌を食べる日だな」というのが感覚的に分かってくるので、そのタイミングで餌をあげることができます。

小林 それは水温に関係するのでしょうか?

大西氏 魚によって得意な水温、つまり一番伸びる水温があり、鯛だったら20℃から23℃が一番良く成長する水温帯です。

写真:生簀

高橋氏 現状は役場とか漁業職員、各養殖生産者の従業員の方が沖に行って水温や塩分濃度、水の中に溶け込んでいる溶存酸素量等を定期的に調べているんですが、もしリアルタイムでこのような状況が分かるようなシステムがあれば、例えば夜中急に状況が変動した時などの対処も変わってくると思います。

その結果、それだけで魚が死んでしまうリスクを減らすことができます。

何となくぼやっと「あったらいいな」と思っていたんですが、藤原さんの登場でそれが非常に具体的に可能なんだろうな、というのが頭の中で描けそうな感じになってきていて、そこは私たちも期待しています。

小林 出来そうですか?

藤原氏 作れます!

今もう既にデータを送る(通信環境)のは出来ているので、そこにセンサーを加えれば色んなデータを取れるようになります。

浦﨑氏 今まであまりデータが無かったんです。

海の上にあり、養殖業者は生簀を何台も管理してますので1日中魚を見るわけにはいきません。

今まではベテランの人が経験を積んでやってきていて、それははかなり正確だと思うんですが、ただ大西さんのようにまだ経験が浅い方にそれをすぐに伝えられるかというとそれは不可能です。

お父さんは今までかなり経験したと思うんですが、それを大西さんに言葉で伝えるというのはなかなか難しいんです。こういうものができることによって色んなデータを蓄積すると、数字で分かることなので継承がしやすくなるかな、というのがあります。

小林 本当に経験と勘ですよね。

大西氏 「見て倣え」という感じだったのが、データを基にマニュアル化がしやすく、「このパターンはこう」という教科書ができます。

浦﨑氏 そこのところを「見える化」といういか、分かるようにできます。

昔はかなり儲かった時代なので失敗をしてもなんとか生き残れたんですが、今これだけ厳しいと1回の失敗で(売上が)下がってしまうとなかなか立ち上がることが出来ない。

若い子が失敗しないようにするにはデータを見せながら、というのが一番分かりやすいかなと思います。

IT化が進んでいない水産業の現場

小林 現在の生産管理、会計等はどういうシステムを使っているんですか。

大西氏 手書きの帳面を・・・・・

給餌や斃死の管理はクラウドのシステムを入れていて、この生簀に今日斃死が何匹、餌をどれだけあげたか、というのはデータを持っているんですが、会計に関しては手書きです。

小林 なるほど、それは昔からやってるからですか。

大西氏 そうですね、パソコンももちろん使うんですが、でもエクセルとかですね。

浦﨑氏 いまだに発注はFAXですね。

大西氏 そうですね、電話注文とかFAX注文。

小林 それは買い手の方がFAXだからですか。

大西氏 恐らくそうだと思います。

市場でも電話注文プラスFAXという形なので、ほぼ口頭かメモですね。

小林 それは愛南町だけではなくて、全国でも同じでしょうか?

浦﨑氏 この業界全体です。

本当に遅れてまして、うちがICTをやり始めて何社か来られて、「これを今時紙でやっているので、このシステムを何とか変えてもらえたい」と思うのですが、どうしても家族経営のところ等、皆んなに合わせてしまうんです。

愛南町も大西さんのところですとシステムを簡単に入れられて、オンライン化ができると思うのですが、家族経営と年配の方が多い地区があり、そこに合わせてしまうというのがあります。

全体を考えるとそれはすごく無駄かなと思います。これは漁業全体の高齢化という課題があります。

漁村の人口と高齢化率の推移
(出所:平成27年度 水産白書)
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漁村規模別の高齢化の状況
(出所:平成27年度 水産白書)
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小林 僕はどちらかというとIT側にいるので、「あー、そーなのか」と。

浦﨑氏 見たらおかしいと思うんですが。

小林 (酪農向けのクラウドサービスの)ファームノートという会社は元々手書きだったものをスマホで入力できるようになり、搾乳量等が見える化されて計画的に経営ができるようになった、という事例があります。

そういうのが全体として見えるというのは非常にいいと思いますし、役所の方もどこがどれだけ取れているのか、取れそうなのかが見えるだけでも全然違うと思うんですよね。

そういったものに取り組んでいくと生産性が上がる。

高橋氏 計画的にできると違ってきますよね。

小林 売り方も大きく変わると思います。

今までは取引先が限定されていたと思うんですが、例えば大手スーパーに直接納品することができますよね。

高橋氏 そうしたいところで、今考えているんです。

小林 そういったところを含めると、データ化がまず始めということですよね。

高橋氏 自分たちが持っているものがどういった状況なのか、というのをしっかり数字とかで管理できるというのが基本だと思います。

小林 魚を育てるということでは、餌の量と水温等色んなデータがあると思うのですが、大体これらのデータがあれば十分でしょうか?

浦﨑氏 あとは潮の流れ等ですね。

出荷の時に沖にある漁場から陸まで運ぶのですが、潮の流れが速いと網がたたまれてしまって魚が死んでしまうケースがありますので、その時にはゆっくり漕ぐんですが、潮が逆だと全く進みません。

大西さんのところは漁場が近いのでいいのですが、漁場が離れているところは1日かけて運ぶ時もあるので、潮流が分かるようになると潮の流れを見ながらこの時間に運ぼうか、ということが出来るようになると思います。

大西氏 潮流はすごく難しいと思うんですが、満ち干きにもよって一番丘側に入ってくるような潮と出る潮があるので、そこが分かったら助かります。

藤原氏 どこまでできるか分からないですが、でも毎日海に出られてる方は見ると分かるみたいなんですよね。

ちょっと今潮が変わったとか、あそこに潮目があるとか、僕が見ても何にも分からないんですが何か見てるんです。

経験で言われているのも何か測れるのではないかな、という気がするんですが。

小林 分かるということは何かを見て判断しているわけなので、測れるということですよね。

pa250065写真:生簀

藤原氏 本当に凄いんですよ。

一緒に船に乗っている時にちょっと色が違うとかすぐに気づかれて、勉強になります。

小林 何か他に話し足りないことはありますでしょうか?

藤原氏 僕は違う業界から来て色々教えてもらいながらやっているんですが、最初びっくりしたのは、生産者の方はデータを結構見られているんです。

データの記録の仕方は紙に書いたり、エクセル管理だったりと色々違うんですが、でも何月にどれくらい餌をあげたとか、何匹死んだとかというデータをずっと貯めているんです。

それは僕からしたら「今までもちゃんとデータを使ってやってるんだ」というので、逆にびっくりしました。

浦﨑氏 でも記録をつけていることで満足している部分があるので、見返すという作業をするためにももう少し見やすくしてあげる必要があるのかなと思います。

小林 解析はした方がいいですよね。

高橋氏 解析能力も問題があります。

浦﨑氏 みんな記録をつけているんですが、それを上手く活用出来てないのかなというのはあります。

記録をつけていることに満足していて、「去年よりちょっと少ない。では何が違うんだろう」というところまではまだいけてないですね。

大西氏 そこの研究心はまだ薄いと思います。

高橋氏 色んなデータの相関等は分からないところが多いので簡単ではないと思うんですが、そういったデータを解析して「このようなトレンドだったらこのようになる」というのが、何となくというところでは認識しているかもしれませんが、分析までは多分されてはないのかなと思います。

大西氏 水温や溶存酸素や餌の質など莫大な要因があるため、「これ」と自分で判断ができない部分があるので、ちょっと曖昧になって終わってそこで満足してしまうんでしょうね。

小林 解析を加えると「実はこの要素が重要だった」というのが分かりますよね。

藤原氏 水温や溶存酸素のデータは、毎日取っているのが紙で10年分ぐらい残ってるんですよ。

それが今度は先程話したセンサーが入ると、自動的にデータ化されてすごく見やすくなると思います。

浦﨑氏 解析も簡単にできるようになりますね。

大西氏 そこで年間のグラフを作れば、色々見えてくると思うんです。

こういうポイントのところで餌をやるべきだ、というところまである程度は見つかるとは思うんですけどね。

浦﨑氏 まだまだ経験に頼っているところが多いですね。

小林 データ化したりIT化した方が良いというのはありますが、それはやはり職業人口自体が減ってると思うのですが、どれくらい深刻なものなんでしょうか。

高橋氏 水産関係は従業員の高齢化も進んでいて、全国で10数万人程いたのがどんどん加速度的に減ってきています。

漁業就業者数の長期的な推移
(出所:平成27年度 水産白書)
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残った人間でどうこの産業を回していくか、というレベルに今きていますので、そういった意味でもこのシステムが働き方の改革に繋がればと思います。

小林 (対談開始前の雑談でお話した)「ファクトリエ」という会社があるのですが、地方で服を作っていて海外の有名ブランドの下請けをやっていた会社が、いわゆる自社ブランドとして直接消費者に届くようになって感謝の手紙が届いたりするようになってから、なんと30年ぶりに新卒社員が5人ぐらい採用できたいうことがありました。

もちろん5人だけですが雇用を生み出していて、そういう感じでより面白さというのがありますよね。

【参考資料】
 Made in Japanのものづくりの復活を力強くサポートする「ファクトリエ」

大西氏 この取り組みを通してここの魅力も多分伝わっていくんじゃないかなとは思うんですが、現状としてはすごくアナログなままなんです。

なのでやりたいという人は少ないでしょうし、僕はすごくレアなケースで多分愛媛県で一番若いと思うんですが、上は80才ぐらいの大先輩もいます。

漁業後継者がいない理由(複数回答)
(出所:平成27年度 水産白書)
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小林 大西水産の中でも最年少ですか?

大西氏 そうです。

僕は面白いと思ってやっているんですが、そういうちょっと変な人じゃないとやりにくい仕事なのかなとも思います。

それは僕等の商売として魅力とお金、福利厚生も含めてそうですが、生き物相手というのもあり安定性がないので、そこをどう安定させていくかにもよると思うんです。

それがクリアできれば魚が好きな若い人も多いでしょうし、働き手も少なからずいると思います。

高橋氏 町内では過去には自動給餌機をつけていた養殖業者さんで、無駄な餌が落ちていたということで結局今では自動給餌機を外し、従業員総出で手やりで餌をあげているところもあります。

そうなると人手がかかってきて皆んな休みもなく働くようになると、人口減少している中でその作業が今後は成り立たなくなる可能性もあります。

そういった要素からも今回のシステムは何とか普及を進めてもらって、勿論儲けることは1つの魅力ではあるので収益性の改善というところと、後は休みがちゃんと取れるようになることを目指したいです。

例えば週末はちょっと遠くの温泉に行って「(スマホで)餌をコントロールしようか」というぐらいの、そんな気軽さがあると若い人も取っ付きやすいと思うので、イメージを変えていく必要があると思います。

今回 藤原さんが愛南町に来られたことをきっかけに、ITはツールであって色んなコンテンツに広がってきていることもあるので、そういうのとマッチングして先程言っていたデータの解析も入ってくると、ゲーム感覚ではないですが、そういった感じで経営改善をやりたいという人も出てくるのかなと思い始めました。

こういう可能性が広がるので、今回のようなご縁は大事だなと感じます。

小林 「漁業のデータサイエンティスト」というような新しい職業が生まれそうですね。

藤原氏 会社を設立して、水産業向けのソリューション開発を始めて良かったなと思うのは、課題がいっぱいあるのでやることが尽きないんですよね。

やることがいっぱい残っていて、まずは餌のコスト削減は初めにやっていますが、後はデータを管理したりすることもできる。

小林 データさえ取れればリモートでも仕事はできるわけじゃないですか。

大西氏 生産者として永遠の課題になると思うのですが、生き物という大前提があるので「たまたまいい遺伝子の子だったから」というのが1つの要因としてあったり、とにかく1匹づつそれぞれ違うので、データを基にというのをもっともっと積み上げて成果を出してやっといい結果が出るので、毎年多分それを繰り返さないといけないです。

小林 漁業のデータ化を更に進めようという、もっと国家プロジェクト的に進められるといいですね。

大西氏 ノルウェーとかはそうですよね。

高橋氏 働き方改革やICTというのが国の施策で重要視され、その関係予算が平成28年度の補正予算でかなりついてきています。

この業界はICTの導入がちょっと遅れていたんですが、早くテコ入れして、特に水産業は地方でやっているところが多いので、人口減少の対応としても少しでも働き方を変えて若い人でも定着しやすいような土台作りを急いでしなければいけません。

その為には技術革新に資するようなシステムを早く作りましょう、ということで研究予算が出てるということもあります。

愛南町としては、せっかくすごく貴重な人材とご縁があって一緒にやっているので、今までのように役場、大学、漁協、生産者、後は今回の藤原さんといったところが一体となって課題解決に取り組んでいければと思っています。

小林 ありがとうございました。最後に何か話し足りないことはありますか?

皆んな魚を食べよう!とか。

大西氏 そこですね。

高橋氏 コストのところもそうですが、役場も漁協も生産者もやはり売値、単価そしてどれだけ多く買って、食べてもらえるか、ということに対して努力をしないといけません。

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pa250111写真:インタビュー後に真鯛の刺し身を美味しく頂きました!

これまでの魚の売り方や流れも変えていかないといけない、という話も出てきていますし、そういったことも行政としても支援していくべきだと思います。

1人当たりの年間水産物消費量の長期的な推移
(出所:平成27年度 水産白書)
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地方創生関係の予算は今手厚くなっているので、愛南町の水産物をもっと普及するような取り組みに対してお金を使い、特に首都圏に対してどうやって愛南町の魚を出していくかということで調査をしたり、あとは魚食教育(食育の魚版)にも力を入れて魚をもっと食べてもらう、ということを町としても進めています。

食べてもらわないとやっぱりダメなので、それも永遠のテーマとしてずっと言い続けていかないといけないのかな、ということで町としても取り組んでいます。

ICTはツールとして何にでも使えるので、そういった普及の部分にもICTが活用できればと思います。

小林 今日はお忙しい中ありがとうございます。

一同 ありがとうございました。

(完)

編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/城山 ゆかり/戸田 秀成


【編集部コメント】

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