【NEW】ICC サミット FUKUOKA 2025 開催情報詳しくはこちら

2. 植物工場野菜は「お日様で育った野菜」への根強いニーズにどう応えるのか

新着記事を公式LINEでお知らせしています。友達申請はこちらから!
ICCの動画コンテンツも充実! Youtubeチャネルの登録はこちらから!

『テクノロジーによって「農業」「食」「健康」はどう変わっていくのか?』全12回シリーズの(その2)。皆さんは、植物工場野菜にどのようなイメージをお持ちですか?「品質が安定」「安全・安全」などの良いイメージの一方で、「太陽の下で育ったほうが美味しいに決まっている」「工場って、なんとなく不安」という方も少なくないように思います。そうした消費者の感覚を、植物工場を運営するの安田さんはどうお考えなのでしょうか? ぜひご覧ください!

▶ICCパートナーズではコンテンツ編集チームメンバー(インターン)を募集しています。もし興味がございましたら採用ページをご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回250名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2020は、2020年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。参加登録などは公式ページをご覧ください。

本セッションは、ICCサミット FUKUOKA 2019 プレミアム・スポンサー Honda R&D Innovationsにサポートいただきました。


【登壇者情報】
2019年2月19〜21日
ICCサミット FUKUOKA 2019
Session 4F
テクノロジーによって「農業」「食」「健康」はどう変わっていくのか?
Supported by Honda R&D Innovations

(スピーカー)
串間 充崇
株式会社ムスカ
取締役/Founder

羽生 雄毅
インテグリカルチャー株式会社
代表取締役

福田 真嗣
株式会社メタジェン
代表取締役社長CEO

安田 瑞希
株式会社ファームシップ
代表取締役

(モデレーター)

井上 浄
株式会社リバネス
代表取締役副社長 CTO

『テクノロジーによって「農業」「食」「健康」はどう変わっていくのか?』の配信済み記事一覧


連載を最初から読みたい方はこちら

1つ前の記事
1. ライフスタイルの多様化で、農業は「都市部集中」「個体管理」にシフトする

本編

植物工場の野菜、食べたことありますか?

井上 会場の皆さんの中で、植物工場の野菜を食べたことがある方はどのくらいいますか?

(会場を見渡して) 半分もいないですかね。

え、串間さん食べてないの? 福田さんも!?

今度一緒に食べましょう!

安田 実は植物工場の野菜は、分かりやすく「植物工場野菜」として売っているわけではなくて、例えば◯◯さん(某大手スーパー)のサンドイッチには、うちの野菜が使われています。

井上 おお、それなら皆さん食べていますよ!

安田 ですから、スーパーマーケットでサンドイッチを買って食べている方は、うちの野菜を食べていする可能性があります。

井上 食物繊維は明らかに体に良いことが分かっていますから、僕はいつも、畑に行かなくても家の中にミニ植物工場みたいなものがあって、そこから好きな時に野菜を摘んで食べられるといいなと思っています。

しかし現状、一般の人が植物工場野菜に触れる機会は少ないですね。

それが身近になるためには、どうしたらいいのでしょうか?

(左から2人目) 株式会社ファームシップ 代表取締役 安田 瑞希さん

安田 植物工場はキーワードとしては歴史が長いように言われますが、マーケットシェアはまだまだ小さいのが現状です。

例えば、ごく普通のレタスでも、植物工場野菜が占めるシェアはわずか2~5%程度です。

ただ、まだ出会える機会は少ないですが着実に増えてきてはいます。

技術も進化して価格も手頃になってきており、現在小売店を中心に2,500店舗ぐらいで、私たちの野菜が売られています。

地域的には、首都圏を中心に、中京や関西地方でも販路を広げています。

ここ福岡には、残念ながらまだ出荷できていませんが。

井上 あとは、災害などで作物が生産できなくなった時のバックアップとしても非常に重要ですよね。

安田 そのような側面もあります。

今私たちが注力している、野菜の生育を個別にカスタマイズしていく技術が生きてくると思います。

例えば災害現場では、必要なエネルギーが確保できないので省エネ技術が必要になります。

そこで、コンテナサイズの発電施設が1個あれば、周辺で暮らす人たちを賄えるだけの野菜がすぐにでも生産できます。

当然、先ほど述べたような、コンビニやスーパーのベンダーに、安定的に大量に供給していくソリューションもあり得ると考えています。

「お日様で育った野菜」への根強いニーズにどう応えるか

株式会社リバネス 代表取締役副社長 CTO 井上 浄さん

井上 よく言われるかもしれませんが、「やっぱりお日様で育った野菜が食べたいんだよね」などと言われた時は、どのように答えているのですか?

安田 はい。実は、その手の話は植物工場以前にもありました。

水耕栽培が流行った時にも、「土を使っていない野菜はだめだ」という、いわゆる「土耕神話」がありました。

そしてここ数年が、「太陽光を使っていない野菜はだめだ」という「太陽神話」です。

皆さんもご存知のとおり、野菜の成長には太陽光が絶対に必要なわけではなくて、何らかの光源が必要なだけです。

井上 それを知っていても「でもやっぱり……」と感じるのだと思います。

安田 お年寄りの方には、よくそう言われます。

ただ私たちのスタンスは明確で、単純にオプションを提供しているだけなのです。

私たちの野菜は、「水耕栽培で栄養価が高く、フレッシュで、土が付いていない野菜」という1つのオプションです。

ですから、土の付いた緑の濃い野菜が好きな人は、そちらを買っていただければいいと思います。

食には多様性があってしかるべきです。

植物工場が全ての野菜生産に置き換わるとは思ってもいないですし、それを求めてもいないです。

多様なニーズにしっかり応えていけるソリューションが、非常に重要だと思っています。

植物工場野菜の“負のイメージ”に勝る便益とは?

福田 真嗣さん(以下、福田) ちょっとよろしいですか?


福田 真嗣
株式会社メタジェン
代表取締役社長CEO

2006年明治大学大学院農学研究科博士課程を修了後、理化学研究所基礎科学特別研究員などを経て2012年より慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授、2019年より同特任教授。2016年より筑波大学医学医療系客員教授、2017年より神奈川県立産業技術総合研究所グループリーダー、2019年よりマレーシア工科大学客員教授、JST ERATO副研究総括を兼任。2013年文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞。2015年文部科学省科学技術・学術政策研究所「科学技術への顕著な貢献2015」に選定。同年、第1回バイオサイエンスグランプリにて、ビジネスプラン「便から生み出す健康社会」で最優秀賞を受賞し、株式会社メタジェンを設立。代表取締役社長CEOに就任。専門は腸内環境制御学、統合オミクス科学。著書に「もっとよくわかる!腸内細菌叢 健康と疾患を司る“もう一つの臓器”」(羊土社)。

植物工場の野菜は、なんとなく「遺伝子組換え食品」のイメージに近いのではないかと思っています。

遺伝子組換え食品は、「機能性が高くて良さそうだけれども、あまり利用したくない」という風潮があります。

それでも遺伝子組換え食品に一定の需要があるのは、例えば干ばつに強いとか、害虫やウイルスに抵抗性があるとか、通常では植物が育ちにくい環境でも育つような特徴をもち、明確な便益があるからです。

そのような意味で、植物工場の植物がどのようなアドバンテージを示せるのかが重要だと思ったのですが、その点いかがでしょうか?

安田 植物工場は極端な話、電力と水さえあれば、どこでもできます。

あとは多分マーケティングの問題になってくるかもしれないです。

やはり遺伝子組換え食品は、ここ20年くらいで消費者に受け入れられにくい文化が育ってしまったように思います。

植物工場も、もしかすると過去10年くらいで同じような方向に進んでしまったのかもしれません。

消費者エデュケーションか、消費者への寄り添いか

井上 僕が確信していることを言ってもいいですか?

結局、なんとなく感じる「人工っぽさ」が問題なのだと思います。

極端な話、植物工場の外見が“木”でできているとか、自然ぽさを出せていれば、状況は違っていたのではないでしょうか。

安田 私たちもここ2年くらい、「食とは何か」について消費者エデュケーションを行うことの重要性を感じています。

遺伝子組換えもそうですが、いったい何が良くて何が悪いのか、冷静に考えてみようということです。

例えば日本の消費者の皆さんの中で、オーガニックの野菜は何が良いのか、どのような意味があるのかを的確に答えられる人は、ほとんどいないと思っています。

それと同じように「植物工場の何が良いのか」というエデュケーションが重要だと思います。

例えばファームシップでも、本社の一部に見学用の植物工場をつくって、実はそこは「木製」にしようと思っています。

井上 そう、そう。そういうことです。

植物工場をやっている人たちはみんな格好よくて、立派な設備があって、全体にピカピカしている印象がありますが、それがむしろ逆効果になっている気がします。

テクノロジーの部分はロジックやエビデンスで説明できると思いますが、消費者の感情については、ロジックやエビデンスだけでは乗り越えられない部分があると、研究者としていつも思っています。

その人が感じているストーリーに沿ったものをつくれるかを、いつも気にしています。

安田 それは本当に感じますね。

井上 やはり木でつくったほうが(笑)。

安田 そうかもしれないですね(笑)。

井上 ありがとうございました。

植物工場の話から、次は細胞培養による「細胞農業」の話に移ります。

先に言っておきますと、変態的と言えるほどマニアックな話です。

それでは羽生さん、自己紹介とともに、やっていることを思う存分話してください!

(続)

次の記事を読みたい方はこちら

続きは 3. 細胞農業が実現すれば、培養槽で“魚の切り身”が泳ぐ光景が見られる? をご覧ください。

新着記事を公式LINEでお知らせしています。友達申請はこちらから!
ICCの動画コンテンツも充実! Youtubeチャネルの登録はこちらから!

編集チーム:小林 雅/尾形 佳靖/小林 弘美/戸田 秀成

他にも多く記事がございますので、TOPページからぜひご覧ください。

更新情報はFacebookページのフォローをお願い致します。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!