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『テクノロジーによって「農業」「食」「健康」はどう変わっていくのか?』全12回シリーズの(その5)。2013年、オランダで“ビーフ100%”ならぬ“培養細胞100%”のハンバーガーが誕生して以来、国内外で様々なプレイヤーが培養肉市場に参入しています。食糧危機を解決するのみならず、屠畜を伴わないことからベジタリアン・ビーガンからの需要も考えられます。ぜひご覧ください!
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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回250名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2020は、2020年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。参加登録などは公式ページをご覧ください。
本セッションは、ICCサミット FUKUOKA 2019 プレミアム・スポンサー Honda R&D Innovationsにサポートいただきました。
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【登壇者情報】
2019年2月19〜21日
ICCサミット FUKUOKA 2019
Session 4F
テクノロジーによって「農業」「食」「健康」はどう変わっていくのか?
Supported by Honda R&D Innovations
(スピーカー)
串間 充崇
株式会社ムスカ
取締役/Founder
羽生 雄毅
インテグリカルチャー株式会社
代表取締役
福田 真嗣
株式会社メタジェン
代表取締役社長CEO
安田 瑞希
株式会社ファームシップ
代表取締役
(モデレーター)
井上 浄
株式会社リバネス
代表取締役副社長 CTO
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最初の記事
1. ライフスタイルの多様化で、農業は「都市部集中」「個体管理」にシフトする
1つ前の記事
4. 宇宙農業の“元素循環システム”は、エコロジカルな地上農業の究極形
本編
細胞農業の普及に必要な消費者の“培養リテラシー”
羽生 次は、このまま「汎用大規模細胞培養技術」が進んでいくとどうなるかですが、これは会社というより完全に個人的な意見です。
培養肉が本当の意味で普及するには、最終的にはビジネスの理屈だけではだめだと思っています。
一つの企業がある製品を開発しましたとか、新商品を出しましたと言っても全然だめで、個人が好き勝手なことをやるようぐらいの状況にならないと、きっと食品としては定着しません。
それをイメージしたのがこの図ですが、アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)で発表したときに示したスライドです。
右側の子が、地球に遠足に行って「WAGYUの細胞」をお土産に買ってきて、火星で和牛ステーキをつくってお姉ちゃんに「できたよー」と報告している様子です。
井上 地球遠足ということなので、この子たちは地球に住んでいないということですね。
羽生 そうです、火星生まれです。
この図では設定年齢は13歳ですが、そのような人たちが自主的に細胞培養を行っている状況だということです。
ただ、この細胞農業の技術は実はハードルが高いものでは全くないのです。
実際、井上さんの会社のリバネスが主催する超異分野学会で、小学生が魚の細胞を培養しましたという内容を発表する予定です。
▶第2回細胞農業会議が開催されました(Shojinmeat Japan | Midium)
このように見る見るうちに現実のものとなり、「超パーソナライズ化」が進んでいくのではないかと思います。
井上 スーパーで肉を買ってきて、少しだけ切り出して、培養して増やせるということですか?
羽生 そういう方法もありますし、ほかにも色々な方法があると思っています。
例えば、細胞だけ販売するというのもありえます。
井上 なるほど、培養肉の“タネ”となる細胞を販売して、それを消費者が自分で増やす世界もありえると。
100グラム2万円以下で培養肉がつくれる
写真左から、井上さん、串間さん、安田さん、福田さん、羽生さん
井上 僕がすごいなと思うのは、このような状況がすでに動き始めていて、実際に培養レバーができている(本セッションPart2参照)ということです。
それから、肉が100%培養細胞のハンバーガーができたと言われたのは、何年だったでしょうか?
羽生 2013年、オランダでの取り組みですね。価格は開発費込み約3,770万円でした。
井上 今、羽生さんが作ろうと思ったらいくらでつくれるのですか?
羽生 使う細胞にもよります。簡単な細胞と難しい細胞があるので。
一番安いものなら、100グラム当たり2万円ぐらいでできるのではないかと思います。
井上 えっ!
羽生 今はもう少し価格は下がっていますかね。
先ほどの「食品グレード培養液」も上市したので、さらに価格は下がっているかなと思います。
井上 では、2万円以下で僕も100グラムの培養肉を食べられるということですか?
羽生 はい。よく皆さんから「食べたいのですが、どうすればいいですか?」という質問をもらうのですが、そういう方には、「ネットの情報や同人誌を見て、自分でつくってください」と言っています。
もう高校生がとっくに作って食べているわけですから。
井上 なるほどね。同人誌を見て作ればいいわけですね。分かりました。
いや、これもわかったんですけど、しかしすごいな(笑)。
羽生 「ニコニコ動画」にもつくり方がアップされていますので。
培養肉は「アニマルフリー」なのか?
福田 また、一つ聞いてもいいですか?
「培養細胞で肉をつくる」と言われると違和感を感じてしまいますが、いわゆるアニマルフリーという考え方には合っているのではないですか?
そこにも需要があるかなと思ったのですが。
羽生 はい。ただ、何をもってアニマルフリーとするかの問題があります。
井上 この定義は難しいですよね。
羽生 難しいです。実際、ビーガンやベジタリアンの人たちの中でも、肉を食べ控える動機はさまざまです。
さまざまな意見がありますが、ただビーガンの人たちの間では「いいのではないか」という意見が多いです。
井上 おおー!
羽生 でも感情的には嫌だという人が多かったりします。
「いいけど、俺は食べない」という人が多いです。
井上 この肉は、ワクチンや抗生物質などを添加しなくても培養で増えるので、完全にピュアな肉と言えるわけですよね。
羽生 そうですね。今、豚コレラが大変な問題になっていますけれど、あのようなリスクが事実上無視できるレベルになります。
豚コレラは人間に感染するものではないとはいえ、こうした細胞農業のシステムを持つことは、畜産農家さん側のリスクヘッジにはなると思います。
この世界が実現すれば、農家や街の肉屋さんなどが、自分のレシピを開発して独自ブランドの培養肉を作れるようになります。
今は色々な肉のブランドが大きなメーカーに握られていますが、それがより普通の人々の手の元に戻ってくることになります。
まるで地ビールみたいですよね。
培養肉が身近に慣れば、再生医療も身近に?
井上 それはちょっと違うと思いますけど(笑)、でもまあ、オリジナルの肉が作れるくらい身近になるということですよね。
羽生 はい。この技術を使えば、お酒を飲みすぎてしまう人は、自分のスペア肝臓をつくっておいて調子が悪くなったら病院でそれを注入してもらうみたいなことも考えられます。
井上 再生医療とも直結するのではないですか。
羽生 同じです。
井上 それは結構大きいことですね。
再生医療を進めていけば、例えばやけどをして皮膚の移植が必要なときに、自分の皮膚を切り出すことなく移植が可能になるわけですよね。
羽生 ちなみに、自分の皮膚を切り取って細胞培養して、東京都美術館に展示したアーティストがいますが、その人の皮膚をまた培養して治してあげるというミッションがあります。
▶「誰かの為につくりたい、片思いの虎」 藝大生インタビュー2017|先端芸術表現 学部4年・岡田未知さん(東京都美術館×東京藝術大学とびらプロジェクト)
井上 これは少し難しくなってきたな(笑)。
なるほど。分かりました。うーんやっぱり、これは分からないかも(笑)。
色々な可能性があるのですね。
自宅で味噌をつくるように、 培養肉をつくる未来
井上 ところで羽生さん、将来本当にこのような世界がやってきて、培養肉を僕たちが食べられるようになるのは、何年後ぐらいになるのでしょうか?
羽生 商品化タイムラインを追っていくと、肉を商品として販売することが近いうちいにできても、正直なところ、お客さんがいくらなら払って購入してくれるか、という課題が出てくると思います。
井上 なるほど。でもその培養液はもう販売していて、やろうと思えば自分で培養して食べることはできるのですね。
羽生 できます。実際にそれをやって、「ニコニコ超会議」で堂々と発表している人がいました。
ちなみに、培養液としては自動販売機で買えるサントリーの「GREEN DA・KA・RA」も使えます。
福田 培養液の替わりにですか?
羽生 はい。DMEM(哺乳類細胞の培養に幅広く使用される培養液)に6割までは「GREEN DA・KA・RA」を入れても大丈夫で、残りの4割についても、自宅でビタミン剤などを混ぜたらできてしまって、それで友達がニワトリの初代心臓細胞を培養していました。
井上 いや、気軽に話していますけれども、そんなに気軽な話ではないと思いますよね。
細胞培養が日常なのですね。すごすぎますね。
そうすると、もしかすると会社が培養肉を売るというよりも、先ほどおっしゃったように消費者が自分でつくる世界になるかもしれませんね。
家庭菜園じゃないですが、我が家の培養槽で肉をつくりましょうとなるような気がします。
羽生 あえて例えれば、自宅で味噌を醸造するような感覚でしょうか。それと同じだと思います。
大豆で麹菌を培養するのか、培養液で動物細胞を培養するのか、それだけの違いですので。
井上 植物工場に肉の培養、いろいろな未来が見えてきましたね。ありがとうございました。
(続)
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続きは 6. 昆虫を活用した「完全循環型有機農業」でタンパク質危機に挑むムスカ をご覧ください。
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編集チーム:小林 雅/尾形 佳靖/小林 弘美/戸田 秀成
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