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5.評価が両極端に分かれるイノベーションは、やり抜けば絶対成功する

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ICCサミット FUKUOKA 2020 新・雑談シリーズ「テクノロジーはどこまで進化するのか?」の全文書き起こし記事を全7回シリーズでお届けします。(その5)は、DRONE FUND千葉さんが、前日に体験した「脳を開く」体験から議論がスタート。そこから生まれるイノベーションが成功するときの、重要な視点とは? ぜひご覧ください!

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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回250名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2020は、2020年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。参加登録などは公式ページをご覧ください。

本セッションは、ICCサミット FUKUOKA 2020 プレミアム・スポンサーのオープンエイト様にサポートいただきました。


【登壇者情報】
2020年2月18〜20日開催
ICCサミット FUKUOKA 2020
Session 11A
新・雑談シリーズ「テクノロジーはどこまで進化するのか?」
Supported by オープンエイト

(スピーカー)
粕谷 昌宏
株式会社メルティンMMI
代表取締役

千葉 功太郎
DRONE FUND 代表パートナー / 千葉道場ファンド ジェネラルパートナー /
慶應義塾大学SFC 特別招聘教授

土佐 尚子
京都大学
総合生存学館/凸版印刷アートイノベーション産学共同講座(産学共同)/特定教授

(モデレーター)

西脇 資哲
日本マイクロソフト株式会社
コーポレート戦略統括本部 業務執行役員 エバンジェリスト

「新・雑談シリーズ『テクノロジーはどこまで進化するのか?』」の配信済み記事一覧


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最初の記事
1. 新・雑談シリーズ登場!テック系の4人が語る、最近驚いたことは?

1つ前の記事
4. 人間の感覚や能力を拡張できるのは、サイボーグ技術だけ

本編

100分の1しか使っていない脳を開きたい!

写真左から、京都大学 土佐さん、DRONE FUND 千葉さん、メルティンMMI 粕谷さん

千葉 よく言われる話ですが、赤ちゃんは凄く脳が開いた状態で生まれてきて、それが3歳までにはきっちりと閉じてしまい、我々が生成されてくると。

つまり、生まれた瞬間100ぐらいパワーがあるのが、99ぐらい閉じてしまって、最終的に我々は今1だけを残す状態になっているとのことなのです。

生まれたての赤ちゃんは、どんな言語、母音、音だろうと聞き分けることの出来るスーパー耳を持っているのですね。

どんな言語でもインストールできる素地があって、天才で何でも考えられるのに、ある意味、我々親が愚かすぎて、赤ちゃんが赤ちゃんながらにそんなに必要ないなと思い、だんだん能力を閉じていくと言われています。

元々、我々は100の能力を持っていた筈なのに、それを急速に閉じてしまっているのですよ。

でも、閉じた分をギリギリ1を2とか3に戻すことは出来るのではないかと、それが身体拡張性だと思うのです。

以前の雑談セッションでも話したのですが、昔ドローンを飛ばしている時に、空から映像を撮ったりFPV(遠隔操縦)で動画見ながら運転することをずっとやっていたのですね。

すると、自分が地面を歩いている時に、同時に鳥瞰図が脳内に広がるようになり、自分を空から見ている自分が見えるようになったのです。

初めて歩いている街なのに、空から見た街の映像が同時に出てくるようになり、立体的に脳内に映像が出るような身体拡張能力が身についてきて、急に3D空間になったのです。

今度は飛行機で飛ぶようになりますと、どんな街にいても、さらに上空から街を望む映像が頭の中に浮かぶようになったのです。

人間はデバイスと共に、どんどん脳を開かせることができるのではないかと思っており、これは訓練で何とでもなるような気がしています。

西脇 テクノロジーはどこまで進化するのかという話ですが、テクノロジーがどんどん進化するにつれ、私たち人間は幼い頃に持っていた力を現実空間にどんどん閉じ込めてしまっている。実は、それがもっと開けるようになるのではないかという話ですね。

テクノロジーの進化で人間がもっと進化をする、進化をしなくてはいけないということですね。

千葉 原点回帰ですよね。閉じてしまったものを、テクノロジーを使ってもう一度開けていくような作業かなと僕は思っています。

粕谷 赤ちゃんの話に戻りますが、結局は具体化と抽象化なのですよね。

例えば「あ」と言った時に、僕たちはもう「あ」という「記号」に置き換えてしまいますが、赤ちゃんはおそらく「あ」という「音波」を聞いているわけですよね。

僕たちは情報のシンプリファイ(単純化)をしてしまっているが為に、閉じてしまっている状態が生じ、記号ではなく「音」として聞くといったマインドセットの変え方だけでも、若干開くことはできると思いますね。

おそらく、そういうものがアートに繋がっていくのですよね。

土佐 人間は概念化し過ぎていますよね。

粕谷 そう、そうなんですよ。

土佐 固定概念にはまりすぎている。だから先程の千葉さんの話にも通じますが、見えなくなってしまっているのですよ。

見たいものしか見ない、そういうふうになってきているから、それをもう少し開くと言われているのは、外側を見ることによって進化を「思い出す」といったようなことだと思います。

「開く」はイノベーションにつながる

千葉 昨日の夕方、土佐先生のセッション(新しい価値を創造しよう!「アート・イノベーション〜リーダーに必要なアート力を身につける」)がありまして、参加された方いらっしゃいますか?

僕は壇上から10分程じっと先生の作品を見ていたのですが、その時まさに「開く」感じを受けました。

経営者よ、表現者たれ!なぜイノベーションにはアートが必須なのか?【ICC FUKUOKA 2020レポート】

粕谷 僕も見ていました。それは確かに分かります。

土佐 それは、すごくいいことを言ってくださいますね。

粕谷 5秒とか短い時間だけなら、こういう映像作品かという感想だけで終わってしまうのですが、ずっと見続けるとそういうふうに「開く」感じが得られてくるのです。

千葉 そうです、数秒見ただけでは、こういうふうにして映像を撮るんだなとか余計な考えだけで終わってしまうのですが、でも、ずっと黙って数分間見続けていたら「開いて」きたのですよ。

土佐 それは凄いことではないでしょうか。

私は本当に子どものころからシュールレアリズム(※)とか、見えないものを見るということに強い関心があり、美術の時間に目覚めたのですね。そこが一番の原点かなと思います。

▶編集注:超現実主義。不条理で非論理的な風景や、日常的な風景と奇妙な非現実的な生き物を並列して描くなど、意外な並列、不条理性を特徴とした特徴をもつ表現方法。代表的な作家にサルバドール・ダリなど。

西脇 昨日の土佐さんの「サウンド オブ 生花」の映像を観てみましょうか。それを流しながら話を続けましょう。

土佐 「開く」ということはとても大事で、やはりモノをきっちり見る、深く見る、考える、思考するといったことに繋がるのではないかと思っています。

固定概念をまず外す、タブーを外すというところにイノベーションは存在すると思うのですよね。

(一同大きく頷く)

イノベーションと言っていいかどうか分かりませんが、ニュートンがリンゴが木から落ちるのを見た時、普通だったら当たり前で終わらせるのに、ニュートンは何故落ちるのだろうと思ったわけですよね。

そこが凄いでしょ。今の話で言うと「開いていた」わけです。

それで万有引力といったサイエンスの基礎たることをどんどん築いていくのですが、そういうモノの見方というのが、やはり生きていくため、何かを発見するために、真理というか原理というか、”大きな岩石”を見つけるために、必要なのではないかと思います。

共感覚の持ち主、粕谷さん

粕谷 先程の千葉さんのドローンの話と近いのですが、視点がどんどん変わり、見えるものがどんどん変わり、街を歩いていても、上空から歩いている自分が見えてくるとあったじゃないですか。

僕も同じように、ロボティクスといったものに精通してくると、ニュートンのリンゴの話もそうですが、リンゴが落ちた瞬間、リンゴが落ちた映像と同時に、僕にはそこに働く物理法則や、力の平衡の数式等が見えるのですよね。

西脇 ほーう。

粕谷 そういった意味では、おそらくニュートンもリンゴが落ちた瞬間に、数式がそこに見えたはずなのですよね。

千葉 共感覚(※)ですか。

▶編集注:ある刺激に対して、通常の感覚だけでなく「音や文字に色が見える」など、異なる種類の感覚をも生じさせる知覚現象。
「共感覚」の持ち主には、世界がこんなに違って見えていた(現代ビジネス)

粕谷 そうです。ある一種の共感覚で、僕もgrapheme-colorという、文字に色がつく等、色んな共感覚を持っています。

キーボード配列もバイリンガルで、僕は2つの配列を使うことができます。

例えば、普通のQWERTY(クワーティ)という配列でO(オー)にあたるキーはDvorak(ドボルザーク)配列だとRになるのですが、ドボルザーク配列だと思って見るとOがRに感じ、クワーティだと思って見るとOに感じるのです。

そういった共感覚のスイッチの切替のようなことも、慣れてくると出来るようになってきました。

また、この土佐先生の映像のようなものをじっくり見る、これってゼロ、コンマ何秒で起こっていることを人間が観察できる時間に引き伸ばしているわけじゃないですか。

土佐 これは2,000分の1秒の世界です。

粕谷 それによって、今まで見れなかったディテールが見えるようになってきた、それによって新しいモノが発見されるようになってきた、そういった新しい思いを感じるというのがおそらくアートになっているのですよね。

不思議なものすら数式化して理解の範疇に収めたい

西脇 土佐先生、この2,000分の1秒の世界を今までアートにした人はいないんですよね。

土佐 いないですね。これの発想の元は、ミルクの上にミルクを1滴落とすときれいな王冠状の形になるミルククラウンなんですけどね。

制作にあたっては、失敗の連続があり、この舞台裏には本当に超アナログな世界があるのですよ。

昨日のセッションで少しお見せしたら、皆さんの何かが開かれていきました(笑)。

粕谷 あれは面白かったですね(笑)。

西脇 この制作作業自体、相当アナログですよね(笑)。

土佐 そうそう(笑)。掃除だけを担当しているのではないかというような学生もいて、だんだん来なくなる学生と、さらに興味を持つ学生との二手に分かれるのです。

西脇 確かに千葉さんがおっしゃるように、この土佐先生のアートは今まで見えていない映像で新しい感覚ですし、これを見ていると、自分になかった時間軸で視覚的に物事を得ることができますよね。

土佐 でも、これは物理的にそこに存在する世界で、CGではないのですよ。

粕谷 そうそう、CGではないところが凄いのですよ。

千葉 これが不思議なのは、計算で作っているのではないところで、それが心地いいと昨日のセッションで話したのですよね。

粕谷 そう思うと、僕は逆に計算したいと思ってしまいますけどね。

西脇 これを数式が見える形にしたいということでしょうか。

土佐 私も計算したいなとは思いますよ。

粕谷 数式はある程度、この中にも見えるのですよ。

僕がサイボーグをやりたいというのも宇宙に行きたいというのも、この世界を全て把握したいという強い願望があることからきていますので、こういう不思議なものすら全て数式化して、自分の理解の範疇に収めたいという欲求はやはりあるのです。

土佐 それは人間だったら必ずあると思います。私もそれは感じていて、研究としてやっていますね。

粕谷 素晴らしいですね。

土佐 私は無重力のオブジェクトというのを作っています。

ICC初体験で仮説が実証された

西脇 素晴らしい映像をお作りになっているアーティストの土佐先生、最近驚かれたことは何でしょうか。

土佐 それこそ昨日思ったことで「アートとはイノベーションなんだな」ということです。これを心底合点したのが昨日です。

土佐 実は私、こういうところに呼ばれたのは初めてでして、今までは大学に属していることから、学術、アート、もしくは工学の世界で交流することが多かったのです。

このようなイノベーション、起業家さんたちの集まりは初めてで、それでも何となく薄々、この両者は似ているのではないかと自分自身思っていたのですよ。

共鳴してくださった凸版印刷さんが、大学にアートイノベーション産学共同講座というのを立ち上げてくださり、その教授としてやっているのですが、やはりアートがイノベーションであるということに今回気づきました。

西脇 そうすると、今までアートは何だったのでしょうかね。

土佐 学問体系が縦割りだったのです。なぜかと言いますと、日本は文科省の下に文化庁があってという分け方でしょう。昔は、その文部科学省と科学技術省が分かれていたのですが、それが合体して今は文理融合になっています。

そういう位置付けなのですが、実は今まで残ってきている素晴らしいアートの特性は、全てイノベーティブなのですよ。ピカソもダリも、以前のものを大きく覆しています。

そのような要素を持つ教育が、美術教育の中でなされていないのですが、でも実はそうなのだということを昨日のセッションで、強烈に直接的に感じました。

今までそういう体験がありませんでしたので、これは驚きでした。今まで思っていた仮説が実証された感じです。

マイクロソフトの教育課程にアートを導入

日本マイクロソフト コーポレート戦略統括本部 業務執行役員 エバンジェリスト 西脇 資哲さん

西脇 私はマイクロソフトに勤めていますが、弊社ではまさに先生が今おっしゃったことを具現化していっています。

逆なのですよ、イノベーションには逆にアートが凄く必要とされるのですよ。

イノベーションにはアートが必要だ マイクロソフトの新しい人材教育「Flags!」(EnterPriseZine)

イノベーションを起こすための教育とは、例えばロジカルシンキングだとか、ユーザーの体験をデザインしていくデザインシンキングだとか、色々ありますが、今一番新しいのはUXを超えて「アート」なのですよね。

アートを生み出す力、このアートはどういうものなのか、相手にどういう感覚を伝えるべきなのか、これを学ぶことが実はイノベーションを起こすと言われています。

土佐 まさにその通りです。

西脇 我々の会社は、それを教育の中に入れています。教育の過程の中で必ずアートを学び、アートというものがどういうものであるかということを知って物事をデザインしたり、UIを作ったり、プロセスを考えたりということをやっています。

土佐先生、やはりアートは重要ですよね。

土佐 そうです。アートは新たな価値創造ですから。

評価が両極端なものは絶対成功する

土佐 価値を創造するためには周りを説得しなければいけません。でも、無理に押しても誰もついてこないわけで、共感だとか周りが同意する形に持っていく力が必要になるのですね。

あともう1つ、新しいものというのは必ず抵抗する勢力がありますから、Uの字になるのが理想です。

凄く押してくれる人たちと駄目だという人たちが分かれるパターンは、絶対新しい、反対があっても新しいのです。

まあ、いいんじゃないですかという抵抗勢力がないものであれば、それは大したことがないのです。

西脇 何か新しいことを始めようと思ったときに、両極端でUの字で、賛成して押してくれる人も相当いるけれども、否定的でネガティヴでアンチな人達もいる、こういう世界は成功するということなのですか。

土佐 成功します、絶対成功します。その反対勢力を耐えないといけませんよ、耐えないと。

西脇 そりゃそうですよね。これは経営者、ベンチャー、スタートアップ、イノベーターに凄く重要な視点ですね。

自分がやろうと思っていることを他人に発したとき、両極端な意見がある、これは成功すると。アートの世界でもそうなのでしょうか。

土佐 そうです。どこの世界でも絶対そうだと思います。

西脇 先生がやっていらっしゃることも、こんなU字体験はありましたか。

土佐 ありました。京大の理事の大反対を受けたことがありますよ。

西脇 オフレコじゃなくて大丈夫ですか。

土佐 もう終わった話ですから大丈夫です(笑)。でも、それが最後には賛同してくれたのですよ。

西脇 ほう、反対者が賛成側になってくれたのですね。それは何がキーだったのでしょうか。転換点は?

土佐 それは具体的には言えません(笑)。やはり彼らにとっては守りたいもの、崩されたくないものがあったので、彼らにとってみればタブーだったのですよ。

新しいルールが提議されて、今までのルールで許されないことをやろうとしていたわけですから。

政治の中でもそういったことが多々あると思うのですが、でもそれに対抗して変に罵ったりとかするのではなく、自分が信じる方向を淡々と続けていく、地道に押し進めるのです。

少し心痛いときもあるのですが、それでもやり通すと結果は裏切らず、やはり成功します。私自身、そういうことを人生の中で何度も経験していますから。それの連続です。

西脇 千葉さんもそうですよね。

千葉 はい、そうです。Uの字っていいですね。今、僕が取り組んでいる空の産業革命というのも、まさにUの字です。

空飛ぶぞ、ドローンがモノを運ぶぞ、みんなの生活を支えるぞと言うと本当にUの字です。熱狂的にサポートしてくれる人たちと、馬鹿じゃないのかという反対意見の人たちで半々になります。凄く叩かれます(笑)。

でもゾクゾクしますよね。これだけ叩かれると、逆にやってやろうじゃないかと意気込みます。

粕谷 それはまさに新規性ということですからね。

西脇 そういうことのほうが進化しやすいと言いますか、将来があり価値があります。

土佐 そして残りますからね。

西脇 では次に、その「進化」とは何なのかということを皆さんに投げかけたいと思います。

(続)

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続きは 6. ウェラブル、五感、インフラ、家電……4人が考えるこれからの進化とは をご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成/蒲生 喜子

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