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5.「なぜ物理の公式はシンプルなのか?」人間の知性が世界を単純化できてしまう仕組み

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「知性の核心とは何か?」8回シリーズ(その5)の話題は、芸術と知性の関係からスタート。日本の美の源流を辿ると、そこには“弥生型”と呼ばれるシンプルな型に行き着くのだそうです。楽天の北川さんは、理論物理学の学説を例に、人間が複雑な世界をシンプルに記述する仕組みを解説します。ぜひご覧ください!

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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢800名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うためのエクストリーム・カンファレンスです。次回 ICCサミット KYOTO 2019は2019年9月2日〜5日 京都での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションは、ICCサミット FUKUOKA 2018 プラチナ・スポンサーの レノボジャパン様にサポート頂きました。


【登壇者情報】
2018年2月20〜22日開催
ICCサミット FUKUOKA 2018
Session 4E
知性の核心とは何か?
Supported by レノボジャパン

(スピーカー)

安宅 和人
慶應義塾大学 環境情報学部 教授 /
ヤフー株式会社 CSO(チーフストラテジーオフィサー)

石川 善樹
株式会社Campus for H
共同創業者

北川 拓也
楽天株式会社
常務執行役員 テクノロジーディビジョン CDO (Chief Data Officer)

丸 幸弘
株式会社リバネス
代表取締役 グループCEO

(モデレーター)

尾原 和啓

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1. 89.1%が“最高だった”と評価した伝説のセッション「知性の核心とは何か?」

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4.「知性は土にあり」「答えは出さない」 農学博士・リバネス丸幸弘さんが語る“幸せになるための教育論”

本編

北川 ここまで知性の話をしましたが、冒頭で安宅さんが芸術の話もされました。

最近僕はモダンアートに興味がありまして、村上隆さんの本を多く読むようにしています。

その中で村上隆さんは、絵の良さを嗅ぎ分ける3つの要素という話をされています。

現代美術家・村上隆氏が語る「3つの要素」

楽天株式会社 常務執行役員 テクノロジーディビジョン CDO 北川 拓也さん

北川 1つ目が「構図」です。

村上隆さんによると、絵というものは二次元に描かれているけれども、実は人は目を動かす順番があるから「時間」の次元を加えて三次元で物事を見る。そのため構図はしっかりした方が良いという話をされています。

これはまさにサイエンスです。

2つめ目が「文脈」です。

例えば村上隆さんはスーパーフラットといって、葛飾北斎の頃のジャポニズムを踏襲しながら、現代のアニメというものを再びコンテクストを読み替え、「当時のジャポニズムが今の僕の作っているスーパーフラットだ」と言って彼の絵の価値を上げました。

そして3つ目が「圧」だという話をされています。

2つ目の話はすごいロジカルに説明してくれるのに、3つ目については何百時間絵の前に座って絵を描き続けた圧が出るんだ、という話で終わるのです。

最後いきなり短冊にぽーんと入ります。

 知性がありますね。

北川 そうなんです。先程の話を聞いていて、この話を思い出しました。

石川 それを聞いて僕も思い出すことがあります。

アートや美の話なのですが。やっぱり北川さんとは興味が似ますね。

北川 そっくりですね。まあ週一で会ってますからね。

石川 大学の時からずっと一緒ですから。

尾原 いちゃいちゃするのはやめて話してください(笑)。

日本の美の源流:複雑な「縄文型」とシンプルな「弥生型」

石川 自然に神を見出した「日本の美」の原形とは何だろうかと考えました。

これはボスコン(ボストンコンサルティンググループ)の日本代表だった御立尚資さんに教えてもらったのですが、日本の美の源流には2つあるそうです。

その2つとは「縄文的原型」と「弥生的原型」であるということでした。

縄文というとても複雑なものと、弥生というシンプルなものを行ったり来たりしていると。

例えば江戸時代で言うと、縄文的なものの代表が葛飾北斎です。

北斎の絵は、例えば波を見るとものすごい“ギザギザ”していて縄文的です。

それに対して弥生的な代表が歌川広重です。すごくシンプルです。

そして、そのような縄文と弥生が交互に現れていますが、日本を大局的に見ると、そのベースはシンプルな弥生なのだそうです。

スティーブ・ジョブズが憧れた大正・昭和期の浮世絵師である川瀬巴水も、弥生型である歌川広重を研究していたとされています。

安宅 日本にもともといたのは縄文人ですよね?

石川 もともとはそうですが、美の原型で見ると、弥生が誕生して以来ずっと弥生が来ているのです。

時々北斎や縄文的美を体現した岡本太郎みたいな人も出てきます。あの「芸術は爆発だ」って言ったのは、要は「縄文だ」と言っているのです。

このような複雑なものとシンプルなものを行ったり来たりしながら物事を捉えているというのを見ると「日本の美の原型とは面白いな」と思いました。

安宅 とても豊かです。

なぜ、物理学の式はあれほどシンプルなのか?

北川 理論物理的には、シンプルな世の中の説明がなされています。

実は「なぜ物理学の式はあれほどシンプルなのか?」という答えは見つかっているのです。

何度かノーベル賞の授賞対象となった学問なのですが「くりこみ群」と言われるRenormalization Group, RGと言われる理論がありましてその理論によると……

石川 ちょっと、ちょっと。

北川 …?

石川 あの、ゆっくりしゃべってください。

(会場笑)

尾原 興奮しているからしゃべらせてあげてください(笑)。

 どうせ誰も理解しないんだから、話させればいいですよ。

石川 分からなくてもいいからキーワードは伝えましょう、「くりこみ群」ですね。

北川 本当はすごく複雑な式なのですが、実は科学の最も大事なコンセプトとして、「繰り返し実験が可能である」ということを提示しています。

つまり再現性です。その再現性が求められるような事象というのは、実はすごく一般的であるということです。

「その複雑な式から生まれるものの最も重要な現象は、そのうちの一番シンプルな部分で説明がつくということで成り立っている」というだけなんです。

つまり、世の中は本当はすごく複雑ですが、本当に大事な、再現可能なものだけにどんどんフォーカスすると実はシンプルになるという理解がされています。

「エネルギー値をどんどん繰り込んでいくことによってそれはシンプルなるんだよ」という数式での説明が付いているのですが、要は世の中は複雑でありかつシンプルであると理解をされているということです。

先ほど話しがあがったように今まで西洋の考え方ではシンプルなものしか見てこなかったですが、その先にある複雑なところにも、一般性で言えばやや劣るかもしれないものの、何か有用なものがあるという考え方だと思います。

異常なものの分析より「生み出し方」を考えるべき

尾原 そこのところはすごく面白いなと思います。

この前、楠木健さん(一橋大学大学院経営管理研究科 教授)と経営の話をした時に「経営学には矛盾がある」ということをおっしゃっていました。

どういうことかと言うと、特にイノベーションの研究というのは「異常なものを再現させる」ということを学問しているため、平均的な現象を見たり統計を見ることには全く意味がないということなのです。

では、その異常なものを分析すればいいかというと、そうではありません。

石川 先ほどの孔子の言葉と一緒(「子、怪力乱神を語らず」)ですね。

異常なものを見ていいのかという。

尾原 そうです。だから異常なものを分析してもしょうがなくて、その異常なものをどうやって生み出すかだけを考えればいいのではないか、ということが彼の著書『ストーリーとしての競争戦略』の話になっています。

石川 それはオリンピック選手の言うことを信じるようなものですよね。

オリンピック選手が「夢が大事だ」と言ったら「夢は大事なんだな」と思うし、「日々の努力が大事だ」と言ったら「そうか、日々の努力が大事なんだ」と思うみたいな。

尾原 そうです。異常値を示す“複雑なものの組み合わせ”の結果をシンプルにしたところで、その複雑性を構成する要素を落としているので、再現性は生まれないはずですよね。

知性の核心は「掃除」にあり!?

石川 北川さんの話と今の尾原さんの話を聞いて、また思い出したことがあります。

言い忘れたことでもあるのですが、それは「日本における神とはなんぞや」という話です。

神道における神です。

日本の神様は面白くて、八百万なのですが二面性があるとされています。

狂気を持った部分と、とても穏やかな部分です。

そこで荒ぶった神たちを鎮め穏やかにする儀式が「掃除」でした。

最近奥さんから家を掃除しろって言われるので、掃除とは何かを考えたのです。

安宅 それは別の「かみさん」ですね。

(会場笑)

石川 はい(笑)、ですから「掃除とは何か」を考えようと思い、36歳にして初めて掃除と向き合いました。

掃除というのは、どうやら聖なる場所を清めるという「お祓い」の意味があるらしいのです。

とはいえ掃除はそこかしこでしますよね。ではなぜそれが聖なる場所かというと、そこは人と神様が同居する場所、出会う場所だからです。

 学校教育の中でも自分たちで自分のクラスを掃除するのは日本だけですからね。

自分で雑巾をかける文化は本当に日本だけです。

石川 はい。そしてその神様というのは、複雑な部分もあればすごくシンプルな部分もあって、掃除というのはその間を行ったり来たりするということだと思います。

そう考えていくと、かなり飛躍になるかもしれませんが、「知性は掃除にあり」と言えないでしょうか!

 言えないでしょうね。

(一同爆笑)

全く言えませんね。今簡単に終わらせようとしたでしょう。知性から逃げた。さっき答えを出しちゃダメって言ったでしょう(笑)。

尾原 それはとっても西洋的な解釈です。

ものを捨てていきましょうと提唱しているこんまりさん(近藤麻理恵氏)がいますよね。

あの方がアメリカで受けているのは、まさにそれです。

▶参照:こんまりインタビュー「ただただ驚き」 Netflixと30カ国で大ブレイクの理由(BUSINESS INSIDER JAPAN)

こんまりさんの著書『人生がときめく片づけの魔法』は世界でシリーズ累計650万部売れていますが(2019年2月時点でシリーズ累計1,000万部を達成)、あの本がなぜ売れたかと言うと、ものを仕分けて捨てるという行為の過程で、自分がピュアになっていき、自分の“Spark Joy”を見つけるという体験ができるからです。

「自分の喜びが何かを見つけるために、物を捨てて行きます」と禅的に解釈されているのです。

 面白いですね。これから日本がすごく売れそうじゃないですか。

尾原 だから、掃除が知性なんですよね。

 ちょっと待って落ち着いて。答えを出しちゃダメですよ。

石川 僕は尾原さんに同意しますよ、徐々に盛り返していきましょう(笑)。

生命に学ぶ「相反するもの」を併せ持つことの意味

 生命科学でも、遺伝情報が記録されたDNAから生体のあらゆる機能を担うタンパク質が合成される一連の流れには、「セントラルドグマ」と呼ばれる基本形があります。

しかし、生命には個性があって複雑ですよね。

その個性の中には、セントラルドグマで説明できる部分と、様々なインプット、アウトプット、学ぶことを通して得られた複雑な部分があります。

さらに、個性をもった人と人とがネットしワーク化し、複合体になっていきますよね。

その複合体である組織には、会社というシンプルなもあれば、より複雑な組織もあります。

生命のもつ個性がそうした多様な組織を築くということを考えると、相反する考え方や仕組みを一箇所に持つということが、知性を支える本質なのかなと話を聞いていて思いました。

(続)

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編集チーム:小林 雅/本田 隼輝/尾形 佳靖/戸田 秀成

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