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7. 効果効能を期待するべからず! 博報堂ケトル嶋さんが「あさっての情報」を重視する理由

「新・大人の教養シリーズ「読書」〜ビジネスパーソンこそ本を読め!」9回シリーズ(その7)は、博報堂ケトル嶋さんが、自分にとっての1冊を紹介します。短絡的に意味・目的を求めすぎる傾向に疑問を投げかけると、一挙に議論が白熱します。「無駄な情報を入れる」ことから生まれるものとは? ぜひご覧ください!

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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢800名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回 ICCサミット KYOTO 2020は2020年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

ICCサミット FUKUOKA 2020のプレミアム・スポンサーとして、Lexus International Co.様に本セッションをサポート頂きました。


【登壇者情報】
2020年2月18〜20日開催
ICCサミット FUKUOKA 2020
Session 11D
新・大人の教養シリーズ「読書」〜ビジネスパーソンこそ本を読め!
Supported by Lexus International Co.

(ホスト)
嶋 浩一郎
株式会社博報堂 執行役員 /
株式会社博報堂ケトル エグゼクティブクリエイティブディレクター

(ゲスト)
天沼 聰
株式会社エアークローゼット
代表取締役社長 兼 CEO

井上 大輔
ヤフー株式会社
マーケティングソリューションズ統括本部 マーケティング本部長(肩書は登壇時当時のものです)

蛯原 健
リブライトパートナーズ 株式会社
代表パートナー

山内 宏隆
株式会社HAiK
代表取締役社長

渡邉 康太郎
Takram コンテクストデザイナー /
慶應義塾大学SFC特別招聘教授


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最初の記事
1. 6人の「本読み」が集結! 自分にとっての1冊&読書遍歴を熱く語る!

1つ前の記事
6. Takram渡邉さんが考える本とは「完成していて未完成、かつ演奏を待つ楽譜」である

本編

 ででは最後に僕から紹介させていただきます。


嶋 浩一郎
株式会社博報堂 執行役員 /
株式会社博報堂ケトル エグゼクティブクリエイティブディレクター

1968年東京都生まれ。1993年博報堂入社。コーポレート・コミュニケーション局で企業のPR活動に携わる。2001年朝日新聞社に出向。スターバックスコーヒーなどで販売された若者向け新聞「SEVEN」編集ディレクター。2002年から2004年に博報堂刊『広告』編集長。2004年「本屋大賞」立ち上げに参画。現在NPO本屋大賞実行委員会理事。2006年既存の手法にとらわれないコミュニケーションを実施する「博報堂ケトル」設立。カルチャー誌『ケトル』などメディアコンテンツ制作にも積極的に関わる。2012年東京下北沢に内沼晋太郎と本屋B&Bを開業。2019年から株式会社博報堂執行役員も兼任。編著書に『CHILDLENS』(リトルモア)、『嶋浩一郎のアイデアのつくり方』(ディスカヴァー21)、『欲望することば 社会記号とマーケティング』(集英社)など。

今日は「読書がいかに良いのか」という話をする回だと思っているのですが、まずは悲報として、「読書は基本役に立たない」ことをお伝えしておきたいと思います。

渡邉 悲しいお知らせですね(笑)。

効果効能を期待して読書するべからず

嶋 平成時代の日本人がよくないのは、コンテンツに対してものすごくコストパフォーマンスを気にするようになってしまったことが、本当に嫌なんです。

「これは何の役に立つのか」などをすごく気にしますよね、皆さんね。

博報堂の新入社員研修をしていた時のことです。

1日8時間ほどかけて一気にマーケティングのことなどを教え込んで、すごく大変だったので、「今日これが終わったら僕が好きなレストランに行こう」と言って、ホワイトボードに30分後に、この店に来てねと、店の名前を書いたんです。

そこで新入社員の男の子が一人手を挙げて、「すみません、嶋さんが書いた店は食べログで3.0しかないんですけど」などと、わけの分からないことを言うんですよ。

(一同笑)

「今日は一体、何を聞いていたの? 僕の話を一日聞いたよね。僕が好きな店に行くと言っているのに、不特定多数の百何人か知らないけど、その集合知の点数の方が君は大事なのか」と思いました。

山内 食べログの点数の話なんてするなと。

 そう。つまり何が言いたいかというと、映画を見るにしても今はレビューサイトでチェックして何点かを見ますよね。

自分は博報堂ケトルというクリエイティブエージェンシーを作っていて、本の仕事は結構やっています。「本屋大賞」を作ってそれを運営していたり、東京の下北沢に「本屋B&B」というのをやっていたり、本屋の経営者でもあります。

自分も広告屋をやっていて少し片棒を担いでしまっている部分はあるのですが、「泣ける本が欲しい」とか、「アイディアが出る本が欲しい」とか、本を読む前に効果効能を決めつけている人がすごく多いのが本当によくないなと思います。

先ほど井上さんが言っていた「本なんて読んでも、もしかしたら意味がないかもしれない。10年後に役に立つかもしれないし、時空を超えていつか役に立つだろう」くらいで接しないと、コストパフォーマンスだけ求めているとろくなことにならないんじゃないかな、ということを今日は声を大にして言いたいのです。

意味を探すことに、意味はあるのか

(左)Takram コンテクストデザイナー / 慶應義塾大学SFC特別招聘教授 渡邉 康太郎さん

渡邉 どうしても人は目的を求めてしまう。でも、目的を突き詰めすぎると、逆に本質を見失うことがあります。

例えば、富士山に登る人は沢山いますよね。

頂上まで一発で登れるエレベーターが作られたときに、人はそれに乗るのか? 結局は頂上に立つことが目的なんだけど、頂上に簡単に行けたら登山の意味はあるのか、というような話になってきます。目的を研ぎ澄ましすぎると、おかしなことになったりする。

 今は川上浩司先生(京都大学デザイン学ユニット教授、不便益システム研究所)ですよね。不便益を研究されていることのほうが意味があるのではないか、という。

こんな時代にこそ、「不便益」のススメ(京都大学 川上浩司教授 × 研究開発局 野坂泰生)(HAKUHODO)

渡邉 そうですね。それについて、パスカル(フランスの哲学者 1623年6月19日〜1662年8月19日)が面白い話を書いています。ウサギ狩りにこれから出かけようとする人に、既に狩られたウサギをぱっと差し出したら、受け取るのかどうか。おそらく受け取らない。

ウサギ狩りに行くときはウサギを穫るというのが目的だと思っているのに、本当は違うのかもしれない。

僕たちがある目的を定義してそれを満たそうとしているとき、そもそもその目的設定に意味があるのか。曖昧さを残しておくことにも意味はあります。

井上 意味はコンテクストに依存しますものね。

渡邉 そうなんですよ。

井上 あるコンテクストで意味があるものも、別のコンテクストでは全く意味がないという例もあります。

この変わりやすい時代に、コンテクストが突然変わってしまうこともあるし、全くコンテクストが違う人と話をすることもあるし、その際に意味にこだわりすぎることのリスクはそこにあるかもしれないですね。

蛯原 意味というか、目的というか。

渡邉 そうですね。

「過学習」すると変化に弱くなる

(中央)株式会社HAiK 代表取締役社長 山内 宏隆さん

山内 ちょっと関連する話で、私は先ほど、ひたすら本を読んでアルゴリズムを鍛えて下さいという話をしたのですが、これには続きがあるんです。

一定以上超えた後に、ある程度忘れないといけないんです。

難波 博孝さん(広島大学 大学院人間社会科学研究科 教授)の言葉だとUnlearn(アンラーン)ですね。

国語科教育における実践研究の考え方と実際 – 難波 博孝(J-STAGE)

AIもほとんど一緒で、アルゴリズムをずっと鍛えていくと「過学習」という事態が起きます。「過学習」しすぎたアルゴリズムというのは多様性に弱く、違う環境に適用しようとすると精度がガツーンと落ちるのです。

これは日本の組織にも言えることで、内部的なロジックで固まった会社というのは、環境が変化すると一気に崩壊したりするのです。だから今ダイバーシティとか、オープンイノベーションといったような、そんな文脈のことが語られるのでしょう。

どこかまで行ったら、一度「Unlearn」して、AIの精度を上げるテクニックで「ドロップアウト」というのですが、ドロップアウトして新しい異質なものを取り入れないと、一定以上のレベルにそのアルゴリズムがいかないのです。

すると「どういう情報を入れれば良いですか」と聞かれますが、そこにはおそらく答えはなくて、手当たり次第に意味がないと思われることでも、情報をインプットしてみろ、というのにかなり近いのではないかと思います。

 読書は、今は一見意味がない情報に会える方法としては一番有効な手段で、僕はそれを「あさっての方向からの情報」をとにかくいっぱい身体の中に入れ込むこと、つまり異分子を取り入れるということだと思っています。

皆が持っている情報だけで積み上げるのは、正解かもしれないけど面白くないですよね。

良いクリエイティブや良いアイディアは意外に、何なのその情報というくらい全く関係ない情報と組み合わされたときの方が、化学爆発すると思うんです。

山内 それはすごくよく分かります。

AIのアルゴリズムを鍛えるときも、全く関係ない情報「ノイズ」を一定数入れます。そうすると、堅牢なアルゴリズムになって、汎用性が上がるんですね。

つまり違う状況でも使えるようになります。

広告代理店のクリエイティブの方は、この「異質な情報」だけを求められているというか、普通の発想だと「あ、それは社内でやるので」と言われてしまうので、「とにかく意味がないかもしれないけれども、化学反応が起きそうなものだけをどんどん投げてくる」というようなことを期待されているのではないかと思います。

 そうですね。

山内 それは、ベンチャーも同じだと思うのです。

異分子の情報が課題解決の突破口となる

ヤフー株式会社 マーケティングソリューションズ統括本部 マーケティング本部長 井上 大輔さん

井上 異分子という意味でいうと、それこそGAFAの全ての創業者が異結合といえますよね。

例えば、Googleでいうとラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンですが、サーゲイ・ブリンはロシア人。Appleのスティーブ・ジョブズのお父さんはシリア人、Amazonのジェフ・ベゾスのお父さんもパナマ人なんですよ。

テスラのイーロン・マスクも南アフリカ共和国出身で、移住してきていたりとか、異なる文化の結合点に、ものすごく大きなイノベーションが生まれるというのは、世の常なのではないかと思います。

 この「異分子を取り入れる」というのは、本当によく分かりますね。

博報堂の社是に近いもので「粒ぞろい、より、粒違い」というものがありまして、僕はそれが本当に大好きなんですが、それは粒違いの人達がいた方が、クリエイティブなアイディアが生まれやすいということです。

組織運営から考えると、「あっちに行け」と言うと全員そちらにガッと行く組織の方が一見効率は良いのですが、全く違うことを考えているメンバーを同じチームにしておいた方が、違いによってアイディアは生まれますから、全然関係ない「あさっての方向の情報」がすごく大事だと思います。

広告の表現などは突拍子もないような関係ないものを組み合わせるのですが、ビジネスでいうと「出版不況が大変です」ということを課題解決する際に、出版のことばかり調べていてもあまり解決策が見つかりません。

意外に、ファーストフードのキャンペーンのアイディアが出版の方に使えるとか、そういうことがすごく大事なのではないかと思います。

僕はバイオミミクリ(※)が大好きで、バイオミミクリは「あさって情報」ですよね。

▶編集注:自然界、生物の仕組みから、社会課題の解決につながる技術開発を行う概念。

新幹線のパンタグラフの騒音がうるさいという課題がある時に、パンタグラフのことだけ考えていたら解決は出来ません。フクロウは獲物に気づかれないためにすごく静かに飛ぶ、何故早いのに静かに飛べるのかというのを研究して、そのフクロウの羽のギザギザを新幹線のパンタグラフにそのままつけたら、音がしなくなったそうです。

あさっての方向から来た情報が課題を解決することって多いんですよ。読書はそういう「あさっての情報」の宝庫。一見無駄だけど、それって重要なんです。

燃費悪いんですね、読書というのは。

「無駄」「遠回り」で生まれたイノベーション

渡邉 一見「無駄」とか「遠回り」の方が面白い、みたいな話で言うと、僕がすごく好きな話があります。

ワイングラスなんですが、ステムの長い、いわゆる頭に思い浮かべるワイングラスというのは、この数十年で出来たらしいんです。

それまではみんな、バイキングが使っているイメージのゴブレットのような、ああいった背の低いものを使っていたんです。

あるときにイタリア人のデザイナーが、「こういう意匠のものを」とリーデル社に作らせた。リーデルは、試しにフランス各地のワインの生産者にサンプルを送ってみた。

驚いたことに、ある地域の生産者からはすごくワインが美味しくなった、と連絡が来て、あるところからはまずくなったと。

これはどういうことかと研究をして、結局は、産地やブドウの種類毎に適したワイングラスの形があるということに気づいたそうです。

山内 その時点で初めて気づいたんですか?

渡邉 そうです。例えばブルゴーニュワインだと、ラウンドした後に縁がきゅっと曲がっているじゃないですか。

グラスの形は色々な効果を作ります。香りのたまり方や広がり方はもちろん、グラスを傾けるときの角度によってワインの流量が変わる。中でも面白いのは、ワインが流れ込むときの舌の位置との関係です。酸味に特徴があるワインの場合、舌の酸味を感じる部分に直接ワインを落としてしまうと、まずく感じるんです。

口の中で遠回りさせると、細かな味のニュアンスが分かり、ワインの複雑さを感じることになって、深みが出る、と。

だから、リーデル社が発見して作ったワイングラスのスタンダードからの学びは、「一見無駄とか遠回りと思われるところにこそ味わいがある」とも言えるんじゃないでしょうか。

▶ワイングラスの形状と味の関係についても記述。
ブルゴーニュワインとボルドーワイン——その「特徴」と「違い」とは?(RIEDEL)

井上 へえ、面白いですね。

(続)

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続きは 8. 本は「正解」ではない。異分子への健全な反論がイノベーションを生む をご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/フローゼ 祥子/道下 千帆/戸田 秀成

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