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8. 本は「正解」ではない。異分子への健全な反論がイノベーションを生む

「新・大人の教養シリーズ「読書」〜ビジネスパーソンこそ本を読め!」9回シリーズ(その8)は、本を題材にディスカッションをするときのポイントや、リアル書店でできることについて議論が展開します。「知っている本を探す・買う」ではないリアル書店の魅力とは。ぜひご覧ください!

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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢800名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回 ICCサミット KYOTO 2020は2020年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

ICCサミット FUKUOKA 2020のプレミアム・スポンサーとして、Lexus International Co.様に本セッションをサポート頂きました。


【登壇者情報】
2020年2月18〜20日開催
ICCサミット FUKUOKA 2020
Session 11D
新・大人の教養シリーズ「読書」〜ビジネスパーソンこそ本を読め!
Supported by Lexus International Co.

(ホスト)
嶋 浩一郎
株式会社博報堂 執行役員 /
株式会社博報堂ケトル エグゼクティブクリエイティブディレクター

(ゲスト)
天沼 聰
株式会社エアークローゼット
代表取締役社長 兼 CEO

井上 大輔
ヤフー株式会社
マーケティングソリューションズ統括本部 マーケティング本部長(肩書は登壇時当時のものです)

蛯原 健
リブライトパートナーズ 株式会社
代表パートナー

山内 宏隆
株式会社HAiK
代表取締役社長

渡邉 康太郎
Takram コンテクストデザイナー /
慶應義塾大学SFC特別招聘教授


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1. 6人の「本読み」が集結! 自分にとっての1冊&読書遍歴を熱く語る!

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7. 効果効能を期待するべからず! 博報堂ケトル嶋さんが「あさっての情報」を重視する理由

本編

異分子への反論から知性が生まれる

ヤフー株式会社 マーケティングソリューションズ統括本部 マーケティング本部長 井上 大輔さん

井上 異分子を組織に入れるときに、先ほどの渡邉さんの「戦争が生まれる」という話にも繋がるのですが、欧米の考え方というのは弁証法がありますよね。

弁証法というのは、Aがあって、それに対立するアンチテーゼのBがありますよ、そのAとBが対立した結果、アウフヘーベン、止揚されてCが出てくるというような形で、この世の知性は発展してきましたというものです。

対立から生まれるからこそ、批判が正なんですよね。

私はずっと外資にいたのですが、外資は反論しないと怒られるし、反論する人ほど評価されるし、むしろ反論が歓迎されるんです。

何故かというと、その弁証法の考え方が背景にあり、反論の中で新しい考えが生まれるから、反論がよいのである、なので異分子を受け入れることが大事で、AがあってBがあるからこそ、そこからCが生まれるんです。

日本の会社の「異分子を受け入れる」時に起こってしまう問題だと考えているのが、日本はその異分子を反論しないで受け入れてしまうところだと思うんです。

クリスマスも祝えば、年末年始で初詣に行って、ハロウィンもやって、皆違って皆良いんだよ、というように。

あれは良いようでいて、ダイバーシティの罠だなと思っているんです。

というのは、健全な議論がないと、そのまま受け入れてしまうことによる発展の停滞がある気がするのです。

だから異分子を受け入れることの前提として非常に大事なのは、ある意味、異分子同士でぶつかり合うことが大事なのかなという気がしていますね。

渡邉 そのまま受け入れてしまうとよくないと。

井上 そうです。

 ぶつかり合うことの結果が何らかのクリエイティビティだから、待機電源のようにいくつかの異分子を置きながら、いつ役に立つか分からないけれど持ち続けるのも大事かなと思います。

井上 ソニーの久夛良木さん(久夛良木健さん、PlayStationの生みの親、現在はサイバーアイ・エンタテインメント代表取締役社長 CEO、スマートニュース、楽天ほか社外取締役など)とかそうですよね。

10年、20年ほど「あいつは何をやっているんだ」というようなものを作り続けて、ある日プレステが生まれる、というような。

本は「正解」ではない

株式会社エアークローゼット 代表取締役社長 兼 CEO 天沼 聰さん

天沼 面白いなと思ったのは、まさに「反論」で自分の理解も深まるし、新しいものも生まれるじゃないですか。

その中で先ほど私が話をした、読書の会の天沼塾で一番最初からうまくいったかというと、だいぶうまくいかなかったんです。

何故かというのをこの間考えて気づいたのですが、本に対する我々の理解というのは。本には書き手がいて、その書き手の時代があって、書き手のそのときの心情があって、それで生まれているものなので、すごくシンプルに言うと、当たり前なのですがそのときの情報の集約でしかないわけですよね。

なのですが、私がメンバーとある本の読み合わせをしたときに気づいたのは、メンバーはどうしても「本には正解がある」と、「何かの知識の集約であって、それは正解である」という捉え方をしているので、そもそも反論という考えもないんですよね。

(一同 なるほど!と頷く)

私にとってはけっこうそれは新しい概念で、「あ、そういう理解になるんだな」と。

 その方達に「コンテクストデザイン」読ませないといけないですね(笑)。

天沼 本当にそれはすごく大事で、そのときに私が思ったのは、日本の教育のあり方などもかなり教科書に寄っていますよね。

私は高校、大学と海外で教育を受けたときには、反論ではないですが、ディベートの授業などで「正解がないかもしれないけど皆で意見を出し合う」というスタイルが正とされていたんです。

人類皆なのかもしれないですが、特に日本の教育は「何かしらの正解を探しに行く」というように作られているので、読み合わせをすると「本に書いてある正解」がある前提で、「私は何を学んだ」というような感想が最初は出てきていたのです。

でもそのときに、そうではないよね、本は書き手がいて、書き手のそのときに思ったことであって、別に正解でもないし間違っているかもしれない、というのを話していきました。

そうしたら、前々回くらいに渋沢 栄一さんの『論語と算盤』を読み合わせして、かなりハードルは高かったのですが(笑)、そのときにこんなメンバーからの話があって僕は非常に感動しました。

「読み終わった後に渋沢さんの生い立ちを調べて、時代背景で何があったのかというのをすごく考えました」という感想があって、僕はとても嬉しく思いました。

それは僕も同じで、僕自身も色々な違和感があったので、渋沢さんが何故、資本社会を日本に持ってくるときの方法が株式だったのか、銀行の仕組みだったのかという背景を調べたのです。

渋沢さんの当時のスタンスは、実はもともと反政府だったんですが、徳川慶喜の弟さんと一緒にフランスに渡ったんですよね。

フランスでナポレオン1世が、当時の資本主義社会を作り始めたのはその頃で、これはたまたまなのですが、フランスの資本主義の状態が極めてよかったんです。

それをそのまま日本に持ってきて、資本主義を作っていったというのを読んだときに、今度はフランスの歴史に興味が出て、ではフランスの当時の資本主義というのはどういう風に生まれたのか、というあたりを読んでいきました。

かなり余談になってしまいましたが、立ち返ると、そのときに『論語と算盤』が正解ではなくて、そのときにあった状態なのであるということを考えないと、反論がしづらくなります。

というのは、自分の意見で「自分は本を書けないしな」とか、結構皆さん思ってしまっていて、自分の意見がすごく弱いものかのように感じているんだと思うのですが、でも人間全員意見が全く同じ強さだと思うんです。

それがなかなかズレてしまうな、というのをこの間すごく感じたんです。

世界の構成要素、バランスがわかるリアル書店

山内 一点それに関連して言うと、先ほど10冊×300分野と言いましたが、その10冊にどういうものを選んだらいいかを聞いたときに、きちんと基本書のようなものは読んだ方がいいのですが、全然違うことを言っている異端なものも読め、と言われました。

井上 なるほど。

山内 きちんとマルクスも読め、と言われて、あとは新説ですよね。

天沼 それは見つけ方がすごく難しいですよね。

山内 そうなんですよね。なので、本屋へ行けと言われました。

Amazonなどネット書店で調べていると、そういった基本と新説の位置関係が分からないんです。売れ筋は出てくるのですが。

リアル書店へ行くと、そうした異端なものは一番隅に置かれてたりするので、物理的に分かるんですよね。

そういうのも手に取ってみましょう、ということです。

 本屋をやっていると、それは本当にすごく分かります。

Amazonをはじめとしたネット書店では木を一本しか見られないけれど、リアル書店では森を見ることが出来ます。

森の中で「ああ、この本はこのくらいのポジションね」や、「原発に対してのスタンスのような本は、色々な意見のグラデーションがあるのね」というわけで、その中で相対的に情報が得られるということにおいては、リアル書店はネット書店よりも優れていると思います。

あと先ほどの「好奇心」の話で言うと、僕がやっている本屋「本屋B&B」は40坪くらいしかないんですが、それはなぜ40坪にしたかというと、例えば私鉄沿線の駅前の街の本屋はだいたい30坪くらいなのです。(※)

▶編集注:本屋B&Bは、2012年7月オープン時30坪、2017年12月に現在の所在地に移転して45坪となっています。

そういう本屋が生活動線の中にあって、買い物の帰りや日常の中で本と出会える場所が良いなと思い30坪の本屋を選んでいるのですが、30坪の本屋を作る本屋側の気持ちとしては、一応世界を構成する要素を全部入れたいと思うのです。

歴史の話から野球の話、ジャズの話から経営者の言葉から、ドロドロ恋愛小説や少年の成長物語……30坪の中だけでも世界が構成できる要素を入れるのです。

渡邉 いいですね、30坪の世界。

 でも30坪の本屋なんていうのは、5、6分あれば全部見て回れるんですよね。5、6分で一度世界に触れられるのです。

そこがリアル書店の物理的な力だと思っていて、ネット書店で5分あげるよと言われても、世界を構成する要素に全部触れることはほぼ不可能じゃないですか。

1つのこと、例えばマダガスカルにすごく詳しくなるというようなことは、5分間与えられたら色々掘っていくことはできるのですが、世界を構成する要素をばっと一気に見る5分間というのはなかなかネット書店では難しい。

だからこそ、リアル書店は「実はこのカテゴリーに興味があるんだ」とか、「そういえば、ワインの本欲しかったんだ」とか、自分の好奇心を発見する場所になるんですよね。

でもそのうち、おそらくテクノロジーが進んだら、ネット書店でもそれが出来るようになると思います。今のところは、そういう世界を構成する知識を短時間で一気に見る体験が出来るのは、リアル書店かなと思います。

空間に身を置いて自分の好奇心を発見する

株式会社HAiK 代表取締役社長 山内 宏隆さん / Takram コンテクストデザイナー / 慶應義塾大学SFC特別招聘教授 渡邉 康太郎さん

 そうそう、7年前にB&B、本屋をやりますということを周りの人に言ったら、文句を言う人がものすごくいたんですよ。

山内 それはなぜですか?

 「今時本屋なんてやっても赤字だ」とか、「本屋なんて儲からない」という本当に頭にくる文句を言われました。

まあでも分かるんですよ。ネット書店があるからということで、敢えての親切心で彼らは言ってくれているのです。

先ほど言ったように、買いたいものが既に決まっているという、既に欲望が顕在化しているものについてネット書店はすごく便利ですが、何が買いたいか分からなくて、自分の好奇心を発見するには、リアル書店はすごく有利だと思っているんです。

良い本屋というのは、買うつもりのなかった本をつい買ってしまうという本屋なので、それは自分の好奇心の発見に近いんですよね。

渡邉 いや、僕はB&Bに行って手ぶらで帰ったことはないですよ。つい何冊も買ってしまいます。うっかり。うっかり買っちゃうんですよね。

 ありがとうございます。そうなんですよね。

渡邉 駅前30坪の宇宙、ってなんかいいですよね。そのフレーズ。

井上 僕が世界で一番好きな本屋は、サンフランシスコのCity Lights Bookstoreなんですね。

一同 ああ、いいですよね。

井上 あそこも3,40坪くらいじゃないですか。

サンフランシスコに1970年代くらいから続く本屋さんがあって、ビート・ジェネレーション(※)の皆さんのたまり場だったんですよね。

時代の異端者たち「ビート・ジェネレーション」とは?(幻冬舎ルネッサンス新社)

そのCity Lights Bookstoreは今でもあって、B&Bくらいの坪数なのですが、ポイントとしては2階に部屋があるのですが、そこには何も置いてないんですよ。

何もない部屋を敢えて置いていて、本を置けば良いのですが、昔そこでビート詩人が溜まって語っていた場所だそうで、それを敢えて空白で置いてあるという。

ビートやカウンターカルチャーの聖地、ノースビーチ近隣地区(オルタナティブなサンフランシスコ観光ガイドと街づくりのヒント)

渡邉 素晴らしい。

井上 そういうところがインターネットの世界にはないんですよね。

「何もない部屋」というものが作れないというか。

(続)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/フローゼ 祥子/道下 千帆/戸田 秀成

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