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6. Takram渡邉さんが考える本とは「完成していて未完成、かつ演奏を待つ楽譜」である

「新・大人の教養シリーズ「読書」〜ビジネスパーソンこそ本を読め!」9回シリーズ(その6)は、Takram渡邉さんが自分にとっての1冊を紹介します。読書は20%のリソースで読み、残りの80%では何をすべきか? それが豊かになればこそ、渡邉さんのような思考力を鍛えられるのかもしれません。ぜひご覧ください!

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ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢800名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。次回 ICCサミット KYOTO 2020は2020年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

ICCサミット FUKUOKA 2020のプレミアム・スポンサーとして、Lexus International Co.様に本セッションをサポート頂きました。


【登壇者情報】
2020年2月18〜20日開催
ICCサミット FUKUOKA 2020
Session 11D
新・大人の教養シリーズ「読書」〜ビジネスパーソンこそ本を読め!
Supported by Lexus International Co.

(ホスト)
嶋 浩一郎
株式会社博報堂 執行役員 /
株式会社博報堂ケトル エグゼクティブクリエイティブディレクター

(ゲスト)
天沼 聰
株式会社エアークローゼット
代表取締役社長 兼 CEO

井上 大輔
ヤフー株式会社
マーケティングソリューションズ統括本部 マーケティング本部長(肩書は登壇時当時のものです)

蛯原 健
リブライトパートナーズ 株式会社
代表パートナー

山内 宏隆
株式会社HAiK
代表取締役社長

渡邉 康太郎
Takram コンテクストデザイナー /
慶應義塾大学SFC特別招聘教授


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1. 6人の「本読み」が集結! 自分にとっての1冊&読書遍歴を熱く語る!

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5. HAiK山内さんが元上司から言われた「3,000冊読書」の真意とは

本編

渡邉 こんにちは。


渡邉 康太郎
Takram コンテクストデザイナー /
慶應義塾大学SFC 特別招聘教授

東京・ロンドン・NYを拠点にするデザイン・イノベーション・ファームTakramにて、企業や組織のビジョン策定からサービス企画開発まで幅広いプロジェクトを牽引。使い手を作り手に、消費者を表現者に変えることを目指す「コンテクストデザイン」に取り組む。主な仕事にISSEY MIYAKEの花と手紙のギフト「FLORIOGRAPHY」、一冊だけの本屋「森岡書店」、日本経済新聞社やJ-WAVEのブランディングなど。慶應SFC卒業。独iF Design Award、日本空間デザイン賞などの審査員を歴任。近著『コンテクストデザイン』は一般流通させず、トーク登壇をした会場など、縁のある書店等のみで販売。三徳庵茶道正教授(茶名は仙康宗達)。J-WAVEの番組「TAKRAM RADIO」のナビゲーター。

僕の1冊は、『茶の本』ですね。これはもともと1906年、日露戦争直後、『The Book of Tea』というタイトルで、英語で書かれたものです。

日本語だと村岡博訳が最初に出ていて、すごくいいのでそちらで読んでいただいても良いのですが、もう著作権も切れているので青空文庫にも載っています。ぱっとiPhoneで読むことも出来ます。

茶の本(青空文庫)

「不完全の崇拝」を語る『茶の本』

(左)株式会社HAiK 代表取締役社長 山内 宏隆さん

渡邉 『茶の本』、いいんですよ。短いし、すぐ読めます。

まず嶋さんに「とりあえず一人1冊お勧めするところから始めましょう」というお題をいただいていたので、こちらの本を選びました。

僕が一番好きなのは、第四章にある茶室についての解説です。

そこで彼が語るのは「茶道は『不完全の崇拝』である」ということです。

茶室の中は空っぽに近くて、掛け軸や最低限の茶道具があるほかはあらゆる道具が省かれている、つまり情報を漉いていく動きがあります。紙を漉くように情報を漉くと、最低限のもののみに「空いて」くるのです。

数寄屋造りでいう数寄屋は、数を寄せるという「数寄」屋と書きます。茶道具を蒐集することもあるので「数を寄せ」ますが、情報を減らすから紙を漉くの「漉く」でもあるし、それによって茶室の中のものが減ってくるので空っぽの「空き屋」でもある。

数寄というのは色々な風に読める。空っぽであって、不完全なものだ、ということです。

空っぽで不完全だからこそそ注視点が出来るし、中に何かを宿す可能性が生まれる。どんなものでも宿る可能性がある。これは……たまらなくいいですよね!

井上 先ほど「完全に理解する」というような話がありましたが、ビジネスの世界は「完全を志向する」というのもありますよね。不完全性に対する、結果として不完全なのですが、完全を目指そうとする、といったようなことです。

その中で、「理解しようとしない」ことを取り入れることはできないのでしょうか。

不完全だったり、あえて理解できないものをそのまま許容する、例えばそんなミーティングのようなものがビジネスの場に取り入れられないのでしょうか。

渡邉 例えばなのですが、宗教は争いにつながることもありますよね。

一神教だからというのもあるかもしれないですが、それは一つの教義を人に押しつけようとするから異教徒を排他したり、戦争になってしまったりする。

つまり「唯一の正解」があるものは争いを生むこともある。

「不完全」というのは、正解がないということで、正解がない方が平和なのかもしれないと思うのです。

皆同じ本、『The Book of Tea』を読んでいるかと思いきや、全然違うところが好きだったりする。同じ一文を多様に解釈する。自分だけの正解を心の中に抱いていて、同床異夢に浸れます。

そういう状況は、不完全崇拝のある一つの姿なのかもしれません。

つまり「誤読」せよとは、多様な解釈を許すということです。

余白を残すとコミュニケーションが円滑になる

 受け手の想像力に期待するように作るというのは非常に大事で、CMを作るとき、特にラジオCMではそうなのですが、いかに聞いている人の想像力に頼るか、ということが大事になります。

「ここに宇宙人がいました」とラジオで言ったら、全員聞いている人の頭の中にそれぞれの宇宙人が思い浮かぶわけで、でも思い浮かべている宇宙人はそれぞれ全部違うものでいいんですよ。

でも聞いている人は全員それぞれの宇宙人を思い浮かべるという。

でも、今の若いコピーライターにラジオCMを書かせると、全部説明してしまうんですよ。

完全を求めてしまって「この商品はこういう商品で」と言って、余白を残さないでコピーを書いてしまうんですよね。

余白を残したコミュニケーションが出来る人の方が、相手も自分で発見したというような気持ちになるのですごくコミュニケーションが円滑に行きます。

蛯原 経営もまさにそうですよね。

自社が投資をしている先にうちの社員が全部説明してしまってはダメで、「自分で答えを探している感」を出すのはすごく大事なので、それは経営にも通ずるものだと思います。

天沼 我々も経営でまさにビジネスのところ、組織作りを考えたときに、『ビジョナリーカンパニー』を読んでいるときに思ったのですが、そこで掲げているビジョンやミッションは、ほぼ余白だらけなんですよね。

すごく余白があるので、おそらく組織が集団になるときにそれぞれが考えているビジョンに対する考え方は違うんですよね。

私も社内でよくミーティングで「かっこよくあろうね」と言うのですが、自分にとってのプロフェッショナリズム、それぞれ持っている中でのかっこよさの追求をしていく過程で、その「かっこよさ」の交換がされていくことが、結構大事だなと思いますね。

余白があることは、多様性があることは当たり前の世界で我々は生きているので、多様性をどう理解していくのか、咀嚼していくのか、というところはビジネスでも非常に大事なのかなと思います。

渡邉 本当ですね。1つの会社について語るときに、社員が全員自分なりの語り方を持っているから、「自分の会社」になるわけじゃないですか。

全員が同じことしか言えなくなったら、もはや面白くないですよね。自分が交換可能な部品になったら面白くない。

 未完であることに意味がある、ということなんですね。

20%のリソースで読み、残り80%でそれについて考える

渡邉 このスライドの下半分は、読書についてです。

「本とは『完成された形式』」と書きました。何世紀もかけて作られてきた本というパッケージは完成されています。

出版すると、本は人の命よりも長い時間残っていくもの。僕も、形式そのものへのリスペクトがあります。本を丁寧に作っている方々も沢山いますよね。

先日『コンテクストデザイン』という本を刊行したのですが、100件以上の引用が出てきます。刊行前にスタッフと協力して、全て国立国会図書館で、原典にあたって一字一句間違いがないかを確認しました。

この本も100年残るかもしれない、間違いがないということを少しでも保証したいからです。

引用以外で、出版した後に誤字脱字がいくつか見つかったのですが(笑)、「完成された形式」というのは、そういう丁寧なものづくりにも現れるということです。

本とはフォーマットとしては歴史の蓄積もあり「完成」されている。でも作品としてはあくまで「未完成」である、と考えています。本を読む人それぞれによって投影されるビジョンが異なってくるという、当たり前の出来事を楽しむためにあるものです。

だから僕は本に書き込みをしますし、線も引きます。本がアイデア帳になる。それによって初めて完成します。

荒木 博行さんが『ビジネス書図鑑』という本を書いています。この間続刊(2020年1月刊『見るだけでわかる! ビジネス書図鑑 これからの教養編』)も出ましたよね。

これはすごくいいんですよ。『ビジネス書図鑑』といいながら、ビジネス書ではないものばかりを選んでいます。

オルテガの『大衆の反逆』とか、2019年11月に出版された本なのに、早くも『21 lessons』がもう入っている、とか。

荒木さんは「皆、本を読むことに100%に近いエネルギーを使っているけれども、それは間違っている。本を読むエネルギーは20%でよく、その後本と向き合うために80%のエレルギーをかけなければいけない」といった意味のことを言っています。

20%のリソースで読み、80%のリソースでそれについて考えたり、自分の中で意味を結んだりする時間に使う。そうしないと読む意味がない、と。これだ、と思いました。

本という未完成の作品を自分で著書と対話し、書込み、自分のものにするために使っていこうということが、2つ目の「本とは『未完成の作品』」です。

本とは「演奏を待つ楽譜」である

渡邉 ネルソン・グッドマンという学者がいます。この『芸術の言語』を書いた人です。(本を掲げる)

この本のピカピカ具合から、僕があまり読んでいないことが分かるかもしれないのですが(笑)、持ってきました。

アメリカの哲学者、ネルソン・グッドマンは、芸術には「自筆的作品」と「他筆的作品」があると言っています。自分で筆を執る類いの作品と、他人の筆を執るタイプの作品。

つまりゴッホの絵はゴッホが自分で描いているから自筆的作品ですが、バッハの音楽はグールドなどが演奏して作品となるから、他の人の筆を執る=他筆的であると、そう言うのです。

よく考えると、実は本も他筆的なのかもしれません。

 自由な解釈を求める、ということですよね。

渡邉 そうですね。読む人によって全く意味が変わってしまう可能性があって、それ自体が楽しい。だから、本とは「演奏を待つ楽譜」である、と書いてみました。本は自分なりに演奏して楽しむもので、読後もその余韻に浸っていければいい。

 渡邉さんは、全部詩にしちゃいますね。でも本当に、本はセッションですね。

渡邉 著者との時間を超えたインタープレイです。

 既に生きていない方とセッションが出来るというのは、すごいですよね。音楽もそうですが、バッハとか、作品を通じて対話が出来るのは素晴らしいですね。

渡邉 マキアヴェリは一度隠遁していたときに「本を書く」ということで、「官服を着て、かつて生きた色々な将軍達と対話した」と言っています。

かつての歴史上の人はどう考えていたのかを思い描くため、想像のなかで彼らと「出会う」。その際にちゃんと官服で正装したというエピソードがあります。

山内 へえ、なるほど。ちょっと似たような話で、ある経営者の方が「良い本を読むときはスーツを着て正座をして読む」とおっしゃっていました。

(一同笑)

それはほとんど同じですよね、今の話と。

渡邉 同じですね、同じです(笑)。

山内 それを聞いたときはそんなことあるのか、座りにくくて読みにくいだろうと思ったのですが、意外といるみたいですね。

渡邉 松岡正剛さんも「読む本によって服を変える」と言っていましたね。

 へえ、そうなんですね。

まあでもそれは人それぞれで、コスプレしながら読むと頭に入りやすい、という人がいるのであればそれはそれで一つのやり方なのではないかな、というように思います。

では最後に僕から紹介させていただきます。

(続)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/フローゼ 祥子/道下 千帆/戸田 秀成

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