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3. 合議と自由裁量、スピードが共存できたローマ帝国の仕組み

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歴史好きにはたまらないセッション「歴史から学ぶ『帝国の作り方』(シーズン3)」は、お待ちかね「帝国中の帝国」ローマ帝国がテーマです。全8回シリーズの(その3)は、ローマ帝国の統治体制の強みについて、COTEN深井さんが解説。権力を絶妙に分散し、独裁者をおかずに早い意思決定ができ、かつ平民からの監視体制も万全という、夢のようなその仕組みとは? ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2022は、2022年2月14日〜2月17日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションは、ICCサミット KYOTO 2021 ゴールド・スポンサーの住友生命保険にサポート頂きました。


【登壇者情報】
2021年9月6〜9日開催
ICCサミット KYOTO 2021
Session 5E
歴史から学ぶ「帝国の作り方」(シーズン3)
Sponsored by 住友生命保険

(スピーカー)

宇佐美 進典
株式会社CARTA HOLDINGS
代表取締役会長

北川 拓也
楽天グループ株式会社
常務執行役員 CDO(チーフデータオフィサー) グローバルデータ統括部 ディレクター

深井 龍之介
株式会社COTEN
代表取締役

山内 宏隆
株式会社HAiK
代表取締役社長

(モデレーター)

琴坂 将広
慶應義塾大学
准教授(SFC・総合政策)

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最初の記事
1. スタートアップから超大企業へ!今回のテーマは「帝国の中の帝国」ローマ帝国

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2.はじまりは田舎の小都市。なぜローマ帝国は巨大帝国となりえたのか?

本編

平民の地位を保護する「護民官」を設置

深井 権力が分散しているという話と、もう1つ、赤枠で囲んだ「護民官」という人がいます。

護民官は、今で言う監査役(※)です。

▶編集注:平民階層から選出された代表たちで、貴族階級に対立する平民層から選出されたため、現代では労働組合や従業員代表の意味合いに近い。

北川 まさかの監査役!

宇佐美 面白いですね!

深井 はい。この時代から監査役がいるのです。

護民官は、プレブスと呼ばれる貴族ではないローマ市民(平民)の主権を確保するために、立法に対して拒否権を持っていました。

琴坂 まさに監査役ですね。

宇佐美 監査役兼社外取締役……。

深井 そういうことです。拒否権は、世界史上最大権力だと言われています。

琴坂 へえ。

深井 拒否できる権利が権力の象徴であると言われていますが、その拒否権を持つ護民官を平民に選出させています。

これも権力を分散していることを象徴しています。

琴坂 この意思決定がなぜできたんでしょうね? 本当に謎ですよね。

宇佐美 相当王政が…、嫌だったんでしょうね(笑)。

「もう、こんな王様は嫌だ!」「こんな社長は嫌だ!」と(笑)。

(一同笑)

分権しても意思決定のスピードが落ちない

楽天グループ株式会社 常務執行役員 CDO(チーフデータオフィサー)
グローバルデータ統括部 ディレクター 北川 拓也さん

北川 右側に「法務官」がありますが、このときにおける法はコンセプトとして、どのように認識されていたんですか?

深井 ローマ法があって、慣習法とも呼ばれますが、文章化して守るということを普通にしています。

北川 これは平民が守るべきルールという理解でいいですか?

深井 貴族も守らないといけません。

北川 貴族も守るべきルール、それは何人たりとも破れないという理解だったんですか?

深井 基本的には破れません。

皇帝が出てきたときも、皇帝も法の下にいるというよりは、元老院の下にいます、みたいなスタンスなんです、ローマは。

琴坂 分権していくと、想像するのが、普通意思決定が遅くなって、根回しを行うことですが、そうじゃないのですね。

深井 そういうことではないんですよ(笑)。

琴坂 これがローマ帝国のポイントなんですね。

独裁者を置かずに、速い意思決定ができる仕組み

深井 そこが言いたいんですよ。

普通、会社でもそうですが、分権するとスピードが落ちますよね。

ローマのシステムは非常に優れていて、スピードが落ちないように、平時と緊急時で体制をスイッチできるように作られているんです。

琴坂 すごい!

深井 それが一番下に書かれています。

一番上からいきますと、まず、独裁者は絶対に作らないようにしていますが、意思決定が速いのです。

意思決定自体は少数の政務官が選出されているので、この人たち(政務官)が、実は結構勝手に決めることができました。

でも政務官の任期はものすごく短いので、この人たちに権力が集中することがないんです。

琴坂 だから、この人たちがもし変なことをしても、1年後に違う人が出てきて、「お前、こんなことやっただろう!」と言われてしまうから、そこのガバナンスがあるわけですよね。

深井 そうなんです。

宇佐美 執政官(最高権力者)になるためには、法務官とか財務官を何回かやらないとなれないんですよね。

深井 はい。下からどんどん上がっていくことを、経ている人でないとなれません。

いきなり執政官にはなれないんですよ。

琴坂 だから、ちゃんとやり方が分かっていて完全に準備ができた状態で、いきなり入ってもDay 1から動けるんですよね。

本音と建前を使い合意形成を取る

株式会社CARTA HOLDINGS 代表取締役会長 宇佐美 進典さん

宇佐美 僕は、この仕組みは、実態といわゆる見せ方の部分もあるなと思っています。

実態はそうは言っても貴族が主体的に、いわゆる元老院にいる人たちが実はやっていますが、でも護民官や民会みたいな、一応みんなの意見も聞いているよという体(てい)はちゃんと作っている、本音と建て前をうまく使っている政体ですよね。

深井 そうですね。

それで、平民とのコンセンサスを得ることにコストがかからないようなシステムが作ってあるんです。

僕は世界史を勉強していて、会社や社会が一番壊れるときというのは、コンセンサスコストを払えないときだなと思っています。

合意形成が取れないんですよね。

やはり合意形成を取るのは非常に大変なんです。

今の日本も非常に似ていて、合意形成を取るのが難しいわけですよね。

琴坂 システムとして、おそらくこのときのローマ市民は、結構納得感があったんでしょうね。

自分たちの意見がちゃんと集約された結果なんだろうと感じられるような建付けでした。

ただ実務上はそれと違うという、絶妙なバランスの制度設計がされていたのですね。

深井 そうですね。

政務官はだいたい半分以上は貴族で、たぶん3割ぐらいが平民でした。

最高権力者「コンスル」は貴族と平民の2名体制

写真左から、CARTA HOLDINGS宇佐美さん、楽天北川さん、COTEN深井さん

深井 コンスルが最高権力者です。「コンスル」という、コンサルタントの語源となる執政官は、2人のうちの1人は平民から出ます。

北川 コンスルの1人は平民から出るんですね。

深井 そうです。

財務官は名前の通り財務を担当し、造営官は建設、法務官は法律、執政官は軍事と最終意思決定担当でした。

琴坂 一定の専門知識がないと活動できないこともあって、貴族に一定のパワーが残った状態だったのかなと想像しています。

平民も入れるけれども、やはりそこまで入り込めないですよね。

一定のアンバランスを許容しつつ、そこでパワーをマネージしたのではないかなということですよね。まさに知識が統治の源泉だったんですね。

深井 そうですね。

先ほど言ったように、一つずつ上に上がっていくので、執政官になる人は下の全部の役職を経験しているので、行政全体が分かっている状態になります。

琴坂 質問が来ています。

「任期1年となっていますが、再任もありなんですか?」

深井 再任もありです。

琴坂 ずっと再任され続けることはできるんですか?

深井 時代によって少し違います。

連続任期がだめなときもあったり、いいときもあったりします。

宇佐美 確か執政官は連続はだめですよね。

深井 だめですね。途中からよくなったりします(笑)。

琴坂 そこは行ったり来たりですね。

深井 1,400年あるからですね(笑)。

琴坂 そうか、1,400年あれば行ったり来たりしますね(笑)。

深井 今話しているのは、ちょうどカエサル(紀元前100年~紀元前44年)が出てくる直前の話です。

基本的には、元老院は実はさっき言った(Part.2参照)貴族の合議制なんですよね。

だから誰よりも一番強いのは、実は元老院なんです。

元老院が一番強いけれども…、これはもう少し説明しないといけないですね(笑)。

合議と自由裁量がなぜ両立できたのか

写真左からCOTEN深井さん、HAiK山内 宏隆さん

深井 元老院は貴族院なので、1回なったら終身なんです。

ということは、権力が維持される作用が発生しているものですよね。

権力がずっと維持されて、そこに蓄積する機能があるものをちゃんと持っているのです。

そして、ほとんどの王朝は、これしかありません。

ローマのすごいところは、政務官があるところです。

政務官が元老院よりも権力を持っているのです。

北川 平民から選出されて。

深井 平民からも選出されますが、政務官の任期は1年しかないので、さっき宇佐美さんが言っていたように(Part2参照)、最悪元老院の言うことを聞くんです(笑)。

忖度しないといけません。

だから、すさまじく絶妙なバランスがここで保たれるわけです。

けれども、元老院は最悪やっぱり政務官の言うことを聞かないといけないのです(笑)。

琴坂 実際の権力が政務官にもありますからね。

深井 要は空気を読まない人が出てきたら、元老院のほうが言うことを聞かないといけません。

でも空気を読んでいるうちは、政務官は大丈夫なんです。

これはつまりどういうことかと言うと、平時はみんなが議論したり忖度している環境を作って合議制的に生きていけます。

有事の際は政務官に超優秀な人が出てきて、自由に裁量することが1年間だけできたのです。

琴坂 それが、図の真ん中にあるディクタトル(独裁官)ですよね?

しかも、指名は元老院ですよね。

深井 このシステムがすごいんですよ。世界史上こんなシステムを作っている人はいません。

それでいろいろな戦争に勝っていくことになります。

北川 この共和制は何年もったんですか?

深井 共和制は500年間近くじゃなかったかな?

北川 カエサルの次の代で帝国に変わります。

(続)

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続きは 4.最高権力を持つ独裁官の任期は半年。フェーズによってシステムを変えていく柔軟さ をご覧ください。

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編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成/大塚 幸

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