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6.領土拡大で生じる課題を、ローマ帝国はいかに克服したか

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歴史好きにはたまらないセッション「歴史から学ぶ『帝国の作り方』(シーズン3)」は、お待ちかね「帝国中の帝国」ローマ帝国がテーマです! 全8回シリーズの(その6)は、ローマ帝国の「議事録文化」からスタート。続いて帝国拡大のキーポイントとなった、異文化・異民族の属州をいかに帝国に組み込んだのか、議論はますます加熱していきます。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2022は、2022年2月14日〜2月17日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションは、ICCサミット KYOTO 2021 ゴールド・スポンサーの住友生命保険にサポート頂きました。


【登壇者情報】
2021年9月6〜9日開催
ICCサミット KYOTO 2021
Session 5E
歴史から学ぶ「帝国の作り方」(シーズン3)
Sponsored by 住友生命保険

(スピーカー)

宇佐美 進典
株式会社CARTA HOLDINGS
代表取締役会長

北川 拓也
楽天グループ株式会社
常務執行役員 CDO(チーフデータオフィサー) グローバルデータ統括部 ディレクター

深井 龍之介
株式会社COTEN
代表取締役

山内 宏隆
株式会社HAiK
代表取締役社長

(モデレーター)

琴坂 将広
慶應義塾大学
准教授(SFC・総合政策)

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最初の記事
1. スタートアップから超大企業へ!今回のテーマは「帝国の中の帝国」ローマ帝国

1つ前の記事
5. 敗戦将軍は処罰せず、システムを改善。ローマ人独特の文化

本編

組織学習で敗戦からも学ぶ

琴坂 質問が来ています。

「ポエニ戦争でカルタゴの都が落ちた時、ローマの勝将スキピオは、『いま私の胸に去来するのは勝者の喜びではなく、いつかは我がローマもこれと同じ時を迎えるという哀愁なのだ』とカッコいいことを言ったそうですが、勝利に浮かれずに敗者から学ぶメンタリティもあったのでしょうか?」

深井 お詳しいですね。

琴坂 勝利に浮かれずに敗者から学ぶメンタリティもあったのでしょうか?

これは基本的にはあったのでしょうね。

山内 僕は個人的にはローマが帝国になったとき、このポエニ戦争が、特に第二次が、第三次でカルタゴの都を落とすのですが、第二次が非常に重要なターニングポイントだと思っています。

実際スキピオ・アフリカヌス(紀元前236年~紀元前183年頃)が事実上第二次でカルタゴを滅ぼすのです。

第三次はそれの余韻みたいなものでした。

そして、スキピオが先ほどの言葉を言いました。

スキピオはハンニバル将軍に対して、ほぼ同じやり方でリベンジをしました。

ローマ軍はカンネーというところでボロ負けをして、本当に滅びかけるのですが、スキピオが出てきます。

僕はローマの将軍の中だと、スキピオ推しなんです。

(一同笑)

株式会社HAiK 代表取締役社長 山内 宏隆さん

ぜひ戻られたらスキピオを調べていただけると僕はうれしいのですが(笑)、ローマ軍はほぼ同じやり方でボロ勝ちをします。

スキピオ(世界史の窓)

ローマは、本質的に学習能力がすさまじかったのではないかと思います。

深井 そうですね。そして常に組織学習なんです。

組織学習とは何か:組織の成長を支える学習のメカニズム(note)

山内 そうそう。

だから琴坂先生の前であれですが、経営学のロジックで言う、いわゆる「学習優位」みたいなアプローチですよね。あれが凄まじかったのではないかと。

いま日本企業が目指すべき学習優位の戦略論――一橋大学の名和教授(ITmedia エグゼクティブ)

それの体現者がこのときのスキピオに象徴されているんじゃないかというのが僕の意見です。

深井 僕もそう思います。

実際こういうメンタリティがあったし、スキピオだけではないと思うんです。

ローマ人が比較的一般的に持っていた感覚の一つだったんじゃないかなと思います。

琴坂 帝国になって、俺たちが掟だ!というのではなくて、ひたすらそこで新しい知見や方策を吸収することによって、進化をしていたということですよね。

北川 やはり、なぜそんな文化になったのか、気になりますよね。

写真左からCOTEN深井さん、HAiK山内さん、慶應義塾大学 琴坂さん

深井 それはタイムマシンがあっても、もしかしたら分からないかもしれませんが、僕はそこが歴史の面白いところだなと思っています。

これがドラマだったら、こういうすごい人が出てきたからとか、こういう頭のいい人たちがこのときにこうやって考えたからだとか、言いたくなるじゃないですか。

そうではなくて、僕の予想ですが、「たまたま」なんですよ、たぶん。

琴坂 たまたま?

深井 たまたまローマが生まれた環境や気候などが、こういう考え方をさせるようになったんですよ。

そして、この考え方が組織学習に非常に向いていて、それで強くなったんです、たぶん(笑)。

琴坂 たぶんローマはそうなのだと思います。、一方で、その「たまたま」を知っている我々は、その「たまたま」を人為的に作って再現することができるかもしれないと感じました。

深井 そうなんですよ(笑)。

琴坂 歴史から学ぶというのはそういうことかと思います。

歴史の大半がランダムな要因で決定されてきたのは事実ですが、今のわれわれはその「たまたま」を学ぶことで、現代に活かすことができる。特定のメンタリティをもった人材をより高く評価したり、組織学習がしやすいように組織制度を設計したりできる。これこそが、歴史を学ぶことの経営者にとっての一つの価値だと思っています。

議事録を残すことの価値

琴坂 もう一つ、質問が来ています。

「短期間での任期で交代になるとき、どのように情報共有や知見の引き継ぎをしていたのでしょうか?」

深井 議事録が全部残っています。

琴坂 なるほど! 実は議事録文化(笑)。

深井 記録とかもちゃんと全部残っているので、コンスルの名前とかも全部残っています。

ウィキペディアにも歴代コンスルが全部載っています。

共和政ローマ執政官一覧

琴坂 なるほど(笑)。ちゃんと議事録を残しましょうというプラクティカルな話になるのでしょうね。

山内 議事録が残っているというのも、結局システム論に落として、反省するわけですよね。

そのために残したのだと思います。

すごく筆まめな人がいっぱいいたとかではなくて、とにかく学習や反省をするために、とりあえずいろいろ残しておこうよという社会だったのだと思います。

琴坂 これは本当にそうでして、国家運営も企業経営もそうですが、記録が残っている会社は、私は研究者なので、そこからの学びをお伝えすることができるんですよね。

企業の中に入る時も、そういった記録を見させていただいて、それを今の経営幹部の方に持っていくと、すごく学びのつながりになっていきます。

残していくことにはそういう価値があるんですよね。

深井 先日奈良に行った時に、東大寺の和尚さんにお会いしました。

昔、火事で焼失したときや、疫病があったときに、僧侶がだいぶ亡くなったり、いなくなったりで、お寺が維持できないみたいなときに、そのときどう判断したか全部議事録が残っているそうです。

琴坂 何を判断しただけではなくて、どう判断したかですね。

深井 そうです。

誰が何を言って、だからこうすることにしたという記録が残っているらしいです。

そのときおっしゃっていたのは、今回のコロナで1,200年ぐらい続いた儀式ができなくなりそうだったらしいのです。

1人でも、もし濃厚接触者みたいな人が出ると、中止にしなければいけないと。

1,200年続いた伝統をここで途絶えさせるわけにはいかないけれど、どうしようというときに、800年前だったと思うのですが、800年前の議事録を読んだと言われて、すごいと思いました。

そのときは、こういう派の人とこういう派の人がいて、議論をしてなんとか執り行ったと書いてあったそうです。

そのときも今と同じく1回中止すればいい派もいたり、続いているのだから続けたほうがいい派もいたことが書いてあったらしくて、同じことを議論しているんだねと。

琴坂 重要ですね。

これだけのコロナ禍のトラブルでも、議事録を残していないですからね。

山内 根本的に言うと共和制なので、一部のエリートによる貴族政じゃないですか。

貴族の権力や権威の源泉は、やはりナレッジの集約なんですよね。

日本でも藤原家はたくさん日記を書いています。

儀式はこうするとか、ああするとか、そういう一部の特殊な知識を独占しているので、他が入ってこられません。

参入障壁なんですよ。たぶんそういう意味合いもあって、残しているのだと思います。

琴坂 なるほどね。

では、3つ目にいきましょうか?

ローマ帝国繁栄の理由③外部リソースを取り込んで拡大

深井 3つ目の強みですが、COTEN RADIOでも言ったのですが、ローマ帝国は外部リソースを取り込んで拡大していくときに、普通のポリス(都市国家)と全然違う考え方をするんですね。

#142 ユリウス・カエサル ― 帝政ローマ、レガシーからの脱却!(COTEN RADIO)
#143 何故ローマ帝国は強いのか?〜問題抽出力と優先度付けの重要性〜(COTEN RADIO)

これはいろいろなことに例えられるのですが、いったんまずどういうことか説明すると、最大版図にあるように、ガリアやイスパニアなど、どんどん、どんどんイタリア半島以外のところがローマ帝国になっていきます。

もともとその地域の人たちは、ローマ人じゃないわけですよね。

でもローマ帝国にされるわけじゃないですか。

この人たちをどのように扱うかが、政治の中で課題として新しく出てきます。

他のギリシャのポリスは、基本的にはエクスクルーシブ(排他的)なんです。

つまり、例えば、「アテネ市民は僕たちだけだよね」みたいな考え方をするわけです。

他の人たちがアテネ市民でないからこそ、われわれはアテネ市民としての誇りを持っているし、純粋性を保っているし、連帯感を持っていますという考え方を基本的に彼らはするのです。

ギリシャとちょっと外れていますが、同じくポリスであるローマは、そのような考え方をできないのです。

なぜかと言うと、人が増えてしまったから。

範囲が増えてしまったから。

琴坂 もはやローマがマイノリティみたいな感じですものね(笑)。

属州増加で生じた問題

深井 むしろローマのほうがマイノリティだと。

彼らはなぜ帝政に移行していったかという話がここで出てくるのですが、属州の人たちをどう扱うかという課題が初めて発生したときに、共和制で耐えきれなくなっていくのです。

なぜ共和制が耐えきれないのかという説明は、結構細かい話になっていくのですが、端的に言うと「元老院にメリットがない」のです。

琴坂 元老院にメリットがない?

深井 はい。元老院の貴族たちにとって、ローマ市民を増やすことはなんのメリットもないのです。

琴坂 収入が増えないから?

深井 ちょっと説明が難しいのですが、元老院の貴族たちは、属州を属州にしていたほうが助かるのです。

富を収集できるし、奴隷にもできるし、貴族としては……。

琴坂 権益になるわけですね。

深井 はい。けれども、ローマ全体としては、属州の人たちが反乱を起こすと困るのです。

困るポイントは、表現は悪いですが、反乱を起こされて自分たちがぶっ殺されたら困るよという話しかないのです。

琴坂 しかもそれは、前はあり得なかったわけですものね。

共和制だった時には、そういった反乱とかはあまりなかったのだけれども、初めてここで、既存のシステムに亀裂というか。

深井 そうです。

でも、ローマの元老院の中心にいる貴族たちにとっては、属州反乱は比較的どうでもいいのです。

別にイタリア半島はその時点でちゃんと治まっているわけですから。

例えば、ガリアで反乱が起こりました、その人たちがイタリアまで攻めてきて、またローマ市街がボコボコにされます、となったら困りますよ。

でもそこまで行かない限りは、彼らにローマ市民権を渡すのは、デメリットしかないのです。

琴坂 正直なところ、われわれにとっては遠くの国の紛争みたいな感じなわけですよね。

深井 はい。あとは、ローマ市民としての誇りもあるんですよね、やっぱり。

誇りを分散させるのも、なんとなくいやなわけです。

琴坂 「あいつと同じか」となっちゃうわけですよね。

深井 語弊があるかもしれませんが、今の日本とかの移民問題も結構近いかなと思います。

琴坂 あると思います。

深井 日本人は、移民を受け入れた経験がすごく少ないので、移民の人たちを日本人として扱いますと言っても、コンセンサスを得られないじゃないですか。

それと同じことが共和制のローマ帝国で起こります。

そこを共和制ではなくて、帝政にしていくことによって解決していくことができるというのが、帝政ローマになっていったときの考え方なんです。

(続)

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編集チーム:小林 雅/小林 弘美/浅郷 浩子/戸田 秀成/大塚 幸

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