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「宇宙のデータで魚を育てる」元JAXA藤原氏が人工衛星技術で水産養殖に挑む理由【KT16-5B #6】

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「IoT/ハードウェア・スタートアップのケース・スタディ「WHILL」「ソラコム」「UMITRON」」【KT16-5B】セッションの書き起し記事をいよいよ公開!9回シリーズ(その6)は、UMITRON藤原さんに、ウミトロンの事業紹介と起業に至った決断のストーリーをお話しいただきました。是非御覧ください。

ICCカンファレンスは新産業のトップリーダー160名以上が登壇する日本最大級の招待制カンファレンスです。次回 ICCカンファレンス KYOTO 2017は2017年9月5〜7日 京都市での開催を予定しております。参加者の募集を開始しました。

登壇者情報
2016年9月8日開催
ICCカンファレンス KYOTO 2016 「ICC TECH」
Session 5B
IoT/ハードウェア・スタートアップのケース・スタディ
「WHILL」「ソラコム」「UMITRON」
 
(スピーカー)
杉江 理
WHILL Inc CEO
 
玉川 憲
株式会社ソラコム 代表取締役社長
 
藤原 謙
UMITRON PTE. LTD. Co-founder / Director
 
(モデレーター)
水島 淳
西村あさひ法律事務所 パートナー

その1はこちらをご覧ください:【新】30代からの起業物語 – 大人スタートアップの挑戦【KT16-5B #1】
その2はこちらをご覧ください:ソラコム玉川氏が起業を決断した「眠れぬ夜のリリースノート」【KT16-5B #2】
その3はこちらをご覧ください:ソラコムは「IoTの民主化」を実現する【KT16-5B #3】
その4はこちらをご覧ください:「健常者も車いすに乗るような時代が来る」WHILL杉江氏が見据える未来【KT16-5B #4】
その5はこちらをご覧ください:「ふざけるな。今すぐやめろ」と言われて起業を決断(WHILL杉江)【KT16-5B #5】


水島 それでは、藤原さんお願いします。

藤原 UMITRON(ウミトロン)の藤原と申します。

飛び入り参加で恐縮ですが、よろしくお願いします。

元JAXAエンジニアだったウミトロン藤原さんの自己紹介

藤原 会社紹介をさせていただきたいと思いますが、UMITRONは水産養殖向けの宇宙データサービスを提供する会社です。

経緯からお話ししますと、私はもともとエンジニアとしてJAXAで衛星開発をしていました。

開発自体は楽しく、のめりこんでいましたが、次第に、開発した多くの技術が実際に世の中にどれくらい出ているのだろうかということが、気になるようになりました。

周囲の多くの研究者を見ていても、20年、30年かけて研究したプロダクトが、やはり世の中に出ていないケースが多かったのです。

(ICCカンファレンス KYOTO スタートアップ・コンテスト「CATAPULT」登壇時の写真)

開発した宇宙関連技術を誰か使ってくれないだろうかと思い、説明をして回ったのですが、やはり技術自体を理解してもらう段階で既にハードルが高く、なかなか使ってもらえなかったという経験があります。

誰も使ってくれないのであれば、自分でその技術を使う事業を作ろうと思い、始めたのがUMITRONという会社です。

その対象として選んだのが、水産養殖の現場です。

なぜ水産養殖を選んだかというと、宇宙から地球を眺めると75%が海です。

衛星から地球を眺めてみると、海表面の温度や植物プランクトン分布などのデータが取れますので、こういったデータの使い道があるのではないかと思い始めました。

これらのデータが実際どのように役に立つのかを理解するには現場に行ってみなければと思い、愛媛県愛南町へ伺いました。

養殖というのはなかなか接する機会がないかと思いますが、このように湾内に養殖の生簀が並んでいて、ここで養殖家の皆さんが事業をしています。

100均おもちゃの電子部品を使い、プロトタイピング

藤原 この生簀の上で魚を見ながら、どういったデータが取れるかだとか、先ほどのような海洋環境のデータが、実際に養殖でどのように使えるかということを話しながら、プロトタイピングなどを行いました。

このような感じで、揺れて大変でしたが、生簀の上でコーディングを行いました。

この時はセンサーを作っていたのですが、プロトタイピング中はスピードを重視したので、部品が足りなくなると、発注していては田舎なので間に合いませんから、近所の100円均一のお店に行き子どものおもちゃをたくさん買ってきました。

おもちゃを分解すると中に使える電子部品が見つかったりしますので、それを組み立ててセンサーを完成させたりしました。

大学同期のエンジニア仲間が集まり、皆でプロトタイピングを一緒にやったのですが、30歳を過ぎたいい大人が、100円玉を握りしめて何度も何度もおもちゃを買いに来るので、店の人に怪しまれていたと思いますが(笑)、このようなことを繰り返しながらプロトタイプを作りました。

養殖事業者の皆さんと一緒にやっているうちに、悩みが3つあることが分かりました。

売り上げに関しての悩みは、魚という最終的なプロダクトの価格変動が非常に大きく売り上げが安定しないということ、そしてコストに関しては餌代が非常に高いこと、事業リスクとして怖いのは赤潮です。

赤潮が発生すると魚が死んでしまいますから。

この魚の餌代の高騰と、赤潮の発生によるリスクをデータサービスで解決しようというのが、UMITRONの狙いです。

具体的に餌代がどれくらい高いのかをご紹介します。

養殖の餌代コストを減らすUMITRONのビジネスモデル

藤原 これが先ほどの養殖生簀ですが、10メートル立法のサイズで、中に鯛が12,000匹泳いでいます。

中央部分にタイマー式の餌やり械があり、時間が来ると餌が出るようになっています。

1杯餌をやると4万円かかり、多い月で養殖業者はひと月に20回くらい餌やりをしますので、生簀ごとに80万円のお金を投げ込んでいる計算になります。

中規模の事業者で生簀を30台くらい所有していますので、月に2,400万円のお金を海に投げ込んでいるという非常に痺れるビジネスですが、これは何とか減らせるのではないかと考えました。

そこで、人工衛星を使い宇宙から海面温度とプランクトン分布のデータを取得し、海側では生簀内にセンサーを設置して海洋環境と魚群行動をモニタリングすることで、餌の量とタイミングを最適化し、生産コストの6~7割を占めている餌代を減らしましょうというのが我々のアプローチです。

画面上ご覧になっていただいているのがプロトタイプですが、生簀の中にセンサーを設置し、ソーラー発電を利用してスタンドアローンで動くようにし、魚のモニタリングデータを飛ばしています。

この部分でソラコム社のサービスを使わせていただいています。

玉川 ありがとうございます(笑)。

藤原 養殖現場で、魚の餌やりにSORACOMを使っています(笑)。

生簀の中で魚の魚群行動と、捕食検出を行います。

アルゴリズムを作り自動検出できるようにしているのですが、これは特許出願済みです。

先ほどのタイマー式の給餌機なのですが、これだけでは若干使いにくかったので、後付けできるクラウド式の給餌コントローラーを作り、ウェブアプリから餌やりができるようにしました。

「これがあれば松山で買い物しながら餌やりができる」と喜んでいる方もいらっしゃいました。

家族経営のところが多く、土日も休みなく働かれているので、ちょっと街中に出て買い物することもできないというのが奥さんたちの悩みで、奥さんの評判も非常に良かったです。

「買い物しながら魚の様子が見られるわ」と喜んでいただきました。

このようなコントローラーを作りました。

衛星データも使うつもりで進めているのですが、ハードウェア・スタートアップなので、できるだけ早くプロダクトをローンチしたいと思い、まずはこの2つの生簀のセンサーでスタートしました。

魚群行動と魚が餌を食べているかどうかだけを自動検出して、リアルタイムで給餌をコントロールする、これだけのソリューションで餌代を1割削減しようというのが、UMITRONの最初のプロダクトです。

まだプロトタイプですが、これで具体的にどの程度の削減が狙えるかというと、先ほども申し上げたように、ひと月で生簀1台あたり80万円のコストがかかっているので、1割減らすだけでも8万円が浮くことになります。

そのうちの4分の1くらいをサービス料としていただきますと、全国に生簀は2万台くらいありますので、これだけで年間48億円に届くのではないかと、これくらいの売り上げを最初は狙っています。

餌の最適化で赤潮リスクを減らす

藤原 赤潮は植物プランクトンの大量発生ですので、赤潮が発生すると魚が酸欠死してしまいます。

巨額な餌代をつぎ込んで、いずれお金に変わるはずであった魚が全て死んでしまいますので、養殖業者にとって赤潮は倒産リスクにつながる脅威でしかありません。

赤潮被害額は、愛媛県の例では12億円ですが、海外に目をやれば、例えばチリでは2016年に赤潮被害でサーモンが大量死し、その被害額が800億円に上っています。

これも一応、既にソリューションがあります。

なぜ魚が死ぬかというと、プランクトンが発生して海の酸素が減り、酸欠になるからです。

対処方法は、魚の酸素消費量を抑えることであり、そのためには餌やりをすぐに止めることです。

餌を食べ始めると魚の運動量が増え、酸欠で死んでしまいますので。

赤潮が発生すると、今までは先ほどご覧いただいたような舟を出して、餌やり機のタイマーを止めに行っていました。

生きるか死ぬかは相当タイムクリティカルで、僅かな時間の違いで差が出るということを養殖事業者の皆さんは分かっていますので、先ほどのプランクトン分布とクラウドの給餌コントローラーを使って餌やりを緊急停止することで事業リスクを軽減しましょう、というサービスも用意しています。

宇宙のデータで魚を育てる

藤原 これでどのくらいの市場環境を狙っているかという点についてご説明します。

これらは愛媛県の養殖業者と協力していますが、養殖の課題というのは、愛媛県だけの問題ではありません。

餌の原料というのは、イワシとニシンです。イワシとニシンの漁獲高は、世界で見てもずっと減少が続いています。

他方、人口が増えて中間所得層が増加すると、プロテインの摂取が増えていきますので、それに伴い養殖魚の生産量が急増しています。

そのため、魚の餌代は過去10年で約3倍に上昇しています。

世界的では13兆円規模の市場で、その半分が餌代ですから、ここを1割でもコスト削減できると非常に大きな経済的なインパクトがあります。

赤潮も愛媛だけでなく、中国、韓国、スコットランド、フィリピン、チリなどで発生しています。

きちんとした統計は揃っていないのですが、研究者などと話していると、やはり地球温暖化や、人口増により海の富栄養化が起こり、赤潮の大規模発生が増加傾向にあると言います。

ですので、餌の1割削減と、赤潮の事業リスク軽減で、愛媛から世界へ2,000億円の市場を取りに行こうとしています。

2016年4月に創業し、シンガポール法人として会社を設立しました。

その後3ヶ月間プロトタイプと実証を行い、その結果が結構良かったので、国内法人を設立し、2016年10月からローンチ予定というスケジュールで動いています。

目指す姿についてですが、今のところ宇宙からのデータは公開データをベースに、欧州3基、米国3基、日本1基の衛星データから取得していて、海では生簀のセンサーで魚群行動や海洋環境のデータを取っています。

データとしてどちらの重要度が高いかといえば、直接データの方が重要です。

これが現在の姿ですが、3年後にどうなっているかと考えると、世界中に多数の衛星打ち上げ計画があり、3年後には衛星が250基を超えると予測されています。

こうなるとほぼリアルタイムで海洋環境のデータが入ってくるはずです。

それまでの間に世界の生簀で魚の行動データを集めておき、宇宙のデータと海のデータをつなぐことで、宇宙のデータで魚を育てる、こういうことを狙っています。

【参考資料】
ウミトロンの挑戦(1)元JAXA研究開発員 藤原氏が挑む水産業のICT活用
ウミトロンの挑戦(2)水産業の救世主となるか? – 養殖業におけるICT活用の可能性

水島 藤原さん、ありがとうございます。

皆さん、ありがとうございました。

本セッションで一番伝えたいポイントが、スピーカーの皆さんの立上げに至るストーリーだったのですが、例えばソラコム社は非常にイノベーティブな会社で、今ではこのようなアイデアがずっと存在したかのように有名な会社になっていますが、立ち上げ当初は、世界的に見ても、それまで存在しなかった全く新しい形のビジネスだったといえると思います。

玉川さんからはピーター・ティールが言う「ほとんどの人が賛成しない真実」という命題も提起され、杉江さんからはWHILL社の「すぐやめろ」と言われ一念発起したという話もありました。

やはりこれまでにないカテゴリーを創り出していくという時には、もともとのパッションに加え、歯を食いしばってやり抜くという生みの苦しみが最初にあるのではないかと思います。

本日お話しいただいた3名のスピーカーの経験が、学生の皆さん、事業を考えていらっしゃる皆さんの中で、たとえ最初は難しくとも、頑張ってやっていけば道は開けるのではないかという気持ちにつながっていけばいいなと思っています。

(続)

編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/鈴木 ファストアーベント 理恵

続きは 「ユーザーヒアリングは社員全員で行け」WHILL杉江氏らが語る”俺のプロトタイピング” をご覧ください。【公式LINE@はじめました】友達申請はこちらから!

【編集部コメント】

続編(その7)では、登壇者の方々に、起業初期の製品開発において大切だったことについてお話しいただきました。是非ご期待ください。他にも多く記事がございますので、TOPページからぜひご覧ください。

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