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「石川・能登コネクテッド」2泊3日とコラボレーションディナー密着レポート

9月22日〜24日の3日間、石川・能登にて開催された「石川・能登コネクテッド」。ICCサミットに参加する石川にある企業訪問・見学ツアーと、能登半島地震の震災現場を見学し、ディスカッションを重ねたこのプログラムと、10月に開催した能登の食材を使ったコラボレーションディナーの模様をレポートします。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2026は、2026年3月2日〜3月5日 福岡市での開催を予定しております。詳しくは、公式ページをご覧ください。


ICC KYOTO 2024から始まった人気セッション「ローカル・コネクテッド」の出張版は、大阪、五島、男鹿と開催され、最新では参加者たちから自主的に、能登半島地震の復興支援をかねた石川、能登での開催が呼びかけられ、9月から10月にかけての開催となった。ICC KYOTO 2025の開催約2週間後、私たちは再び小松空港に集合していた。

今年2月のICC FUKUOKA 2025のクラフテッド・カタパルトで優勝した鶴野酒造店の鶴野さんは、2024年1月の震災で酒蔵はおろか、自宅も全壊となった。詳しくはこの翌日に行われたプレゼンに詳しいが、いまだに蔵は建っていない。

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メディアで報じられる通り、地震による地域の家屋の倒壊や焼失した輪島朝市など、被害が甚大であることを知らない人はいない。そこでICCとしてできる一番のことは、現地を視察し、震災復興に関わる方々や地元の方々も含めて、未来に向けた議論を重ねることであり、加えて石川県にある企業を訪問、見学することとなった。

このレポートでは、2泊3日の工程をダイジェストでお送りする。DAY1は加賀市にある石川樹脂工業と、金沢駅近くにあるseccaの会社見学、DAY2は「能登コネクテッド」の議論と被災地視察、DAY3は2つのグループに分かれた見学となったが、筆者が参加したかほく市にあるKAJI FACTORY PARKと、新たな観光地となっている石川県立図書館の見学をご紹介する。

そして10月には東京で、能登の食材やお酒を使ったコラボレーションディナーがレストラン「abysse」で2日間にわたって行われた。その模様も合わせてお伝えしよう。

DAY1 加賀市・「ARAS」石川樹脂工業からスタート

9月22日、月曜日。石川・能登コネクテッドに参加エントリーをしたICCサミットの参加者やスタッフたちは、2組に分かれて小松空港に集結、カタパルトやアワードでICCではお馴染みの「ARAS」を造る石川樹脂工業を訪問した。

石川樹脂工業のオフィスや工場の一帯が並ぶ通り。近辺には古墳群(法皇山横穴古墳(加賀温泉郷))があるそう

樹脂で作られたさまざまな器が飾られた会議室に案内された一行は、石川 勤さんおすすめの地元料亭明月楼のお弁当(美味!)をいただきながら、石川さんによる会社の歴史や地域のお話をうかがった後、工場見学となった。

ARASのほかさまざまな樹脂の製品が並ぶ

石川さんの曾祖父は山中漆器の木地を削る腕のいい職人で、輪島まで取引にいっていたというから、今回のコネクテッドのテーマにも少なからず縁がある。石川さんによる地域や企業の紹介からプレゼンは始まった。

「山中、山中温泉という地域は、温泉やカニが有名な地域で、屋久島と同様の樹齢2300年の栢野の大杉という木があったりします。

▶︎栢野の大杉(かやのおおすぎ)(加賀温泉郷)

樹脂の強度や耐候性を活かして、石川樹脂工業は電線を支えるパーツや、新幹線の枕木のような社会のインフラ的な製品も作っていますが、ARASの事業拡大を見据えて工場の新設を計画しています」

石川さんは2024年のICCのクラフテッド・カタパルトに登壇することになって、前職P&G在籍時に同期だったTHE GROWTHの山代 真啓さんと再会。当時は違う部署で一緒に仕事をする機会はなかったもののARASのCMを作成することになった。そのCMはSNSや地元のテレビCMとして現在も流れている。

石川さんは労働生産性を高めることに注力しており、それは年々急カーブで向上している。売上も伴って伸びており、ARASがそこまで成功した理由を、一緒に創ったseccaの上町達也さんは「考える人と作る人、売る人が全部一体化しているから」と考えており、石川さんはその考えのもと、ICCサミットにガーディアン・カタパルト2位に入賞した野関 悟さんほか、社員の方々を連れてきている。

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それとともに、石川さんがP&G時代の上司に聞いた成功のゴールデンルール「すごくいい商品を力を入れてマーケティングする、この両輪が合うと成功する」を念頭に、いい商品ができたら、広告もしっかり投下するモデルをイメージして再現性を考えているという。

プレゼンのあとは工場見学となり、一行は自動化されていない成形工場と自動化されている工場、印刷や梱包検品しているエリアや、金型、新工場建設予定地までを見学した。

工場案内してくださった野関さん(写真右)

まず最初は、まだ人間の作業工程が残っているARASの製造現場から。

型から出たばかりのななめ小鉢。底部に成形上のスティックがまだついたまま

器は、粒状になったペレット素材が螺旋状のスクリューの中を通って熱せられて溶けて、金型に流れ込んで成形される。見ていると、型から抜けたばかりの器がコンベアにのって出てくる。底部のスティックを外して磨く工程はロボットが代替できる作業だが、ARASが多品種小ロットで生産しているため、現在手作業で行っている。

左側の茶色い紙袋に入っているのは杉皮の粉を練り込んだ樹脂ペレット

ARASのサステナブルコレクション「杉皮シリーズ」は、石川さんいわく、杉皮廃棄の課題を知ったseccaの上町さんと柳井 友一さんが、製造時の課題は多いものの有料で杉皮を処分する課題解決もできるため意義があるとして、協力して1年をかけて製品化したという。

数々の金型が並んでいる

2つ目に見学したのは自動化された工場。ひと気のない工場内では、このスプーンの上部と下部をロボットが黙々と接続作業を行っていた。ここではマシン12台を1人でオペレーションするそうだ。

上部と下部は別パーツで、ロボットで接続されている

その後、金型を製造する工場や、新工場の建設地と計画を見せていただき見学は終了。プレゼンで聞き、普段使っている食器が作られる現場を見られるまたとない経験となった。

加賀市・加賀温泉駅を見学

石川樹脂工業から加賀温泉駅に移動した一行は、ここから参加の堀田カーペット堀田 将矢さんと合流し、seccaの上町さんと柳井さんに迎えられて、seccaが手がけた駅構内の内装を見学した。

デザインは加賀温泉駅に到着したところから設計されており、改札口から見学スタート

加賀市長から、この地の伝統工芸と山中漆器を使った内装デザインを依頼されたseccaは、一人でも地元の人が多く関わったプロジェクトにしたく、たくさんの人の力を合わせないと不可能な大きな作品を提案。それが10点、改札を出てから外に出るまでのルートに沿って飾られている。

▶︎詳しい各作品の解説はこちらへ
加賀温泉駅内 設置作品解説 CONCEPT 加賀文化の発着駅

改札を出たときに正面に見える3つの作品のうちの1つ「青手竹虎図平鉢 大盤写」

石川県といえば九谷焼。その発祥の地は加賀市と言われ、この作品は江戸前期に制作された皿を直径2メートルに拡大している。焼窯に入らないので、64枚の陶版を組み合わせて再現、下絵を描く人、色をのせる人など、工程を分割して、制作作業を行ったそうだ。

作品の間が通路となっている

進んでいくと、山中漆器が無数に飾られているように見える万華鏡のような展示に目を奪われる。よく見ると、向かって左から右へ、木製の器から、漆塗りが伝わり、豪華な仕上げ、光沢が加わり、会津から伝わった蒔絵の技術が伝わり、樹脂成形でウレタン塗料で漆器風のものまで、山中塗400年の進化の歴史がわかるように並べられている。

作品の中には、手作業の1つ40万円の器も入っている

加賀のモチーフを描いた漆器の様々な技法を駆使した大円盤もほれぼれするほど美しく、全体を見れば迫力が、接近して見れば驚くような細かな伝統の技巧を見ることができる。

観光案内所のカウンターとその背面にも、土地の文化が伝わるものを配している。カウンターを彩る2色の陶板は、地元で採れる花坂陶石を使い、焼成するときの酸素の量で色味を変えている。カウンター上部にある壁面装飾は、人をつなげるという意味のある七宝柄。こちらにも細工が凝らされている。

さまざまな伝統技術を見たあとは、一見、10の作品群のうちのひとつとは気づかないほど現代風で異色のものが紹介された。見るたびに表情を変える不思議な作品は、バイクのチェーンでできているという。これにはまちを未来につなぐ意味が込められていると上町さんは言う。

上町さん「山中塗の生地を作るろくろ挽きの技術を、馬車の車輪を作る技術に転用した組織があり、それが自転車のリムやスポーク、そしてこのチェーンを作る会社に発展した大同工業という会社です。今回ご協力をいただいて、オリジナルのチェーンを作っていただきました。

加賀市からは当初、伝統工芸に着目してほしいと言われたのですが、工芸の流れのなかから石川樹脂工業が生まれているように、この町のものづくりは進化している。その進化の過程を見せることで、さらに発展していくような、群としての作品にしませんかという提案をして、ご理解いただけました」

金沢市・seccaのオフィスへ

駅の見学で、工芸の歴史と、目にするものがただ美しいだけでなく、いかに意味を担っているかを学んだ一行は、その立役者であるseccaのオフィスへ。オフィスは金沢駅にほど近い、もとはデザイン系の専門学校が入っていたというビルの数フロアを使っている。

seccaのオフィスが入っているビル

seccaはギターのメーカーにいた人、美大の彫刻科出身、陶芸専攻出身、ARASの造形に惚れ込んで入ったデザイナー、造形のモデリングの達人、金沢美術工芸大学の大学院生などなど、上町さんいわく「手で何かを作り出せる」多彩な人材が集まっている。

各フロアをご紹介いただいたseccaのみなさん

上町さんは冒頭に、13期目に入ったseccaの展望を語った。「問いを立てる」のがデザインの根幹であり、食器を作ることのきっかけに、3.11の東日本大震災があることを明かした。

上町さんも過去にカタパルトに登壇しているが、ここではさらに詳細に、デザイナーとしての社会への責任や、金沢で起業した意味、デザインも工芸も「文脈の先を描く」ことを意識しており、その地域の文化や技術と新しい視点を掛け合わせて、今欲しいと思ってもらえる体験とし、未来に手渡そうとしていると語った。

「このAI 時代が進んでいる中で、なぜ物を作るのか。それはやはりテクノロジーではできないような、偶然に同じ時代を生きている人との会話からしか得られない気づきや、そこからしか生まれ得ないデザイン、物みたいなものを生み出すことに、余計にロマンを感じる時代だなと思ったんです。テクノロジーがあればあるほどそう思います。

100年を迎えた明治神宮の杜を祝したイベントで招待作家として制作したフェイクウッドの狛犬。献木によってできた森における木の本質を問う

「自分たちがどれほど後世に残るものを作れているのか。奈良時代の仏像を見ると、全然敵わないと思ってしまいます。国家事業だったので比較はできませんが、今もなお人を呼び寄せて土地に利益をもたらし、人々が感動しつづけている状況を作れているのは、ものづくりの本質的な底力だと思うんです。

何百年もかけて街の景色を作り、そこに仕事や産業を生むことができている。今、それに匹敵するものは出ていない。工芸は、国家事業から寺院、大名や茶人に養われ、海外との交流で重宝された時代があり、高度成長期には産業化が後押しして一般消費者に広がりました。

現代は誰が一体クライアントなのか、依頼主と購入者だったりして、どんな特徴を持たせていくかというのを今、まさに議論して定義しようとしています。

近代の工芸は明治の万博と高度経済成長期しかなくて、それをピークに右肩下がり。昭和の幻想からいまだにやり方を変えていなくて落ち込み切ったので、逆に今は自由なことがやりやすくなっています」

量産とは真逆の丁寧なものづくり、丁寧な価値交換を形にする、それに取り組むのがseccaである。1つひとつのものの価値をどれだけ高められるかに挑んでいるという制作現場を、数フロアにわたって見せていただいた。

陶芸が専門の山森さんは、3Dプリンタとデータを活用して造形のサイクルをスピードアップ。五島のカラリトで使用するジンのグラスとコースターを試作中

どの方々に話をうかがっても、ものづくりに対する思考と制作プロセスが途方もなく、この場には「面倒臭い」という言葉が存在しないかのようだ。プレゼンの最後に上町さんが言った「2000年代で日本で最も工芸を前進させた組織と言われたい」という言葉を実現しようと挑むseccaの核心が見えるような見学となった。

この日の夜は、一部参加者がフリータイムに訪れた、金沢市に本社のあるヤマト醤油味噌の山本 耕平さんも食事会に合流して、約40名が集まる賑やかな席となった。酒蔵を営む参加者たちのお酒が振舞われたことは言うまでもない。

DAY2  能登コネクテッド 被災地見学

翌朝は金沢を出発して、「能登コネクテッド」のプログラムを開催する「NOTOMORI」への移動からスタート。のと里山空港の真横にあるロケーションもあって、この日のみ各地から駆けつける参加者もいた。

この日の移動は、石川樹脂工業の野関さんに運転をお願いし、稲とアガベの岡住 修兵さん、OWBの和田 智行さんと同乗させていただき、さまざまな話となった。

OWBの和田さんは、震災以降から能登に足を運び、車窓から道路を見て復興が進んでいると言うが、車窓から見えるひび割れて歪んだアスファルトや、ひと気のない町を見ると、今なお尋常でない雰囲気が残る。自身の体験から、震災の後に復興の目的ではない人がやって来る話や、元通りにしようと急ぐことは難しいことなど、ぽつりぽつりと話すことがリアルだ。

岡住さんは新しい酒の話、ICCサミット最終日のワークショップで刺激を受けた話、新たなCo-Creationなど、そのうち明らかになるワクワクするような話もありつつ、やはり語るのは男鹿のこと。ふたりとも復興やまちづくりで大変だったことをよく聞かれるが、ともに「覚えていない」と口を揃えたのが印象的だった。

会場のNOTOMORIに到着すると、先に着いている人たちやここで合流する方々、現地の方々もすでに集まっており、交流が始まっていた。

このイベントのコアプログラムはこの「能登コネクテッド」のディスカッション。はじめにICC小林雅がICCスタンダードの紹介をしたあと、プログラムはスタートした。

鶴野酒造店の鶴野さんのプレゼン

▶︎鶴野酒造店 鶴野 晋太郎さんプレゼン書き起こし記事はこちら

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鶴野さんのプレゼンが終わると、明治安田生命保険の坂口 貴弥さん、Mutubiの加藤 愛梨さん、合同会社CとH伊藤 紗恵さんと鶴野さんのガイドで、被災地の視察となった。

加藤さんは、ICC KYOTO 2025のローカル・コネクテッドで能登代表として参加した防災の専門家。震災の直後から能登に入り、被災地域内外のコーディネーターとして活動している。出発前に、ちょうど1年前に起こった能登半島豪雨で被災者たちが泥かきをしていたことを語り、涙ぐむ場面もあった。

能登の被災地、輪島朝市があった周辺に到着すると、そこここにある地割れや崩れた建物、仮設の建物などが目に入る。2025年9月の時点で、建物の解体は7、8割がた完了しているとのことだが、日常の風景の中に突然現れた裂け目のように存在する震災の痕跡は、目のあたりにするとショッキングである。

かつて人であふれ、賑わった輪島朝市通りを歩く。現存している建物もシャッターが閉まったままでひっそりとしている。訪れた私たち以外は誰も歩いていない。

朝市通り沿いにある大正元年創業の酒蔵日吉酒造店は、店舗の入口こそ普通だが、奥の醸造所へ向かっていくほど、被害の酷さが明らかになる。特に同じお酒を造っている人にとっては、どんなにむごい光景と写っただっただろうか。

蔵を案内してくださった日吉酒造店の店主 日吉謙一さんは、鶴野さん同様、能登の酒を止めるな!プロジェクトでhaccobaとコラボ酒を造り、蔵の復活を目指している。日吉さんに蔵を案内していただいた。

▶︎「この地で必ず酒造りを再開させる」輪島朝市通り“日吉酒造店”杜氏の決意(能登乃國百年之計note)

写真中央が日吉さん

あらゆるものが傾き、上にあったものは落ち、床にはところどころに段差ができている。日吉さんは「何を撮ってもいいし、どんどん発信してほしい」と言う。

蔵再開のために取っておいた機械も収納する倉庫がなく、潮風で傷んでしまった。民家も同様の状況だという

下の写真は、酒造りに使っていた井戸水を組み上げるためのもので、一度テレビ番組との企画で直したものの、地中の構造が変わったのか泥が混ざったりして安定して出なくなってしまった。

ホームページを見ると「当蔵の地下には汲めども尽きない宝の水が湧き出ており、日本海に最も近い井戸水で仕込んだ輪島の酒一つの自慢です」とある。震災は蔵のDNAともいえる仕込み水も奪ってしまった。

下の写真の背景に広がる空き地は、かつて輪島朝市があった場所である。市場で節句や何かあるたびに、このまちの酒蔵である日吉酒造のお酒がふるまわれていたに違いない。

裏手はすぐ海、かつての輪島朝市跡地。大きな津波が予想されたため、避難で火災の初期消火が遅れた

NOTOMORIへの帰り道の車窓からも、傾いた電柱や地面から飛び出すようなマンホール、輪島でも見たようなインスタントハウスが見える。下の写真は、建設現場かと思ってよく見たら、歪んだ床が見え、建物の片側の壁がごっそりないことに気づく。

往路より言葉少ないままNOTOMORIに戻ると、刺身や魚の唐揚げといった、能登の味を楽しめるバイキングランチとなった。被災地視察で緊張した心が少しだけ緩み、再び和やかな交流が始まった。

午後のプログラムは、3組6名のプレゼンと、会場からのQ&Aが行われた。いずれも自分たちの地域での取り組みや経験を伝えて、能登の参考になればという主旨で語られ、聞き応えのあるものばかりだったため、書き起こし記事を公開している。

被災地復興に限らず、地域づくり、地域活性の文脈でも非常に学びの多い内容のため、ぜひリンク先の記事もご覧いただきたい。

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すべてのプレゼンとQ&Aが終わると、登壇者や運営スタッフの代表者たちが挨拶し、NOTOMORI

の正面でみんなで記念撮影をして、能登コネクテッドは終了した。プレゼンや議論のなかでは笑いも涙もあったが、「奥日本連合」(詳しくは高橋さんの記事にて)の結成と、自分ができることは何かを考える場となった。

「負けたくない」という気持ちを原動力にする

この夜は温泉旅館「のと楽」へ移動して、懇親会が行われた。この車中の話が面白かったので、少しだけ紹介したい。

岡住「自分はマインドセットがだいぶ確立されてると思っていて、他人がどうだから頑張るとか、そういうことに左右されていると傷付く場面も出てくると思っていた。自分で完結する原動力でここまで来てると思ってたし、それが正しいことだと思っていた。

最近までは、他人がどうだろうが、僕は頑張るだけだと思ってた。自分はそういうところは脱却できてると思ってた。

想いをともにするいろんな起業家の人たちが活躍しているのを見ると、もちろん嬉しいし、頑張れっていう気持ちが先行しますけど、なんかどこかにやっぱり、自分も負けたくないなって思いがある。でも、そういう感情をちょっと前までは押し殺していた。

最近は、僕たち起業家って人に負けたくないという思いがあってしかるべきだし、その声を聞くべきだって思うようになった。ここほんと3カ月ぐらいは思ってる」

ーー何かきっかけとなるようなことがあったんですか?

岡住「ヘラルボニーがカンヌライオンズを獲ってめっちゃ嬉しかったし、すげえなって思ったけど、なんか悔しかったんですよね。僕は別にその賞に応募してもいないし、社歴も向こうのほうが2年くらい先輩ですけど、自分もそこに行けてるかっていうと、多分負けてるなと思って。

山形にあるSHONAIという会社と交流があって、十数年やってるから大先輩ですし、実績もすごいのは理解してるんですけど、今、経営陣にどんどんすごい人を入れていて、ONE PIECEみたいな感じの軍団になってきたんですよ。この間、広報人材でNEWPEACE高木 新平さんが入ったんですね。

新平さんは、僕たち一緒に仕事をしていて、うちのホテルのコンセプト設計とか全部やってくれたんです。他にもいろんな仕事を一緒にやっていて、本当に仲間なんですけど、一緒にやってるだけで幸せだと思っていた。でも彼を広報担当として登用する発想が自分には全くなかったんですよ。

視座が違いすぎるなと、その発想が無かったことがすごく悔しくて。これはもうICCに行けばいつも感じることなんですけど、その悔しい気持ちにちゃんと素直になって、それを真似するのが基本構造だと思ったほうが、もっと力が出るなと今は思ってる。

一喜一憂したり、他人がやってるからそこで競ってる自分みたいなのって、なんかあまり精神的に安定しない状態だと僕は思ってたので、そこをなるべく消してたんですよ。

でもなんかよく考えたら、ちっちゃい頃、死ぬほど負けず嫌いだったなと思い出して(笑)」

何の話からこうなったのか、岡住さんは、問わず語りに最近の心境の変化を語った。心は熱いけれども穏やかなイメージがあったが、誰にも負けたくないという気持ちを、意識的に出していきたいと言う。

岡住「なんかちょっと高尚なことを言いがちだし、考えがちですけど、そのシンプルななんか負けたくないみたいな感情、それ原動力にしてもいいよなと」

意外なことに、OWBの和田さんも頷いている。和田さんこそさらに争わず、達観しているイメージがあったが、東日本大震災から約15年たった今、レッテルを剥がして勝負することを求めている。

和田「達観しているような部分もあるんですが、共感しますね。ちょっと岡住さんとは違うかもしれないけど、僕らのところは、すごく面白いことがたくさん起きていて、生まれているのに、被災地というフィルターがどうにも強烈に効きすぎて、他の土俵に上がれないジレンマがあるんです。

僕は別に復興のためにやってるわけじゃなくて、単に自分の住んでる地域を面白くしたいからやっているだけなのに、復興で頑張ってる人という目でばかり見られてしまう」

岡住「えらいですねみたいな」

和田「そうそう。そうすると、僕らのやってることは、福島の復興に関心のない人とか、被災地に関心のない人に届かないんです。そして被災地ではなく、地方創生みたいな文脈で岡住さんたちみたいにやってる人はたくさんいるけど、別物と思われてそういう人たちとうまく繋がらないんですよね。

自治体やメディアはやっぱり、復興を使いたがるので、全然関係ないことも全部復興を絡めてしまうんです。草むしりとかしても復興のためみたいな(笑)。

フックとして使う分にはいいんですけど、そこが正当に評価してもらいにくいというところで、悔しさを感じるみたいなところはあるので、もっと頑張ろうとはなります」

15年たった今でも、福島の話となると、経産省ではなく復興庁が出てくることが多いそうである。国からの接点として、移住などしか見ていないのではと和田さんは嘆く。

和田「移住者が増えただけではなく、ここで起きていることの価値を、もうちょっと正当に評価してほしいっていうのはあるんですよ」

ーー難しい問題ですよね。行政がやりたくてもできないところを埋めるのが民間であったりもするし。

和田「おっしゃる通りです、そうですね」

岡住「でも、担い手のモデルケースになりうるとか、そんなレベルの話じゃないんだよね」

和田「そうなんですよ。それを目指しているわけでもないですし」

岡住「現在の状況で、フロンティアみたいなところで、何が起こりうるか。それは人類の一歩も二歩も前に進めるチャレンジぐらいの、レベル感じゃないですか。

震災がなくても、今後人口が減った地域のインフラが成立しなくなるみたいなことが、生きている間に起こってくるかもしれない」

ふたりとも取り組むのは、地域の未来づくり。プレゼンでも伝えたように、そのためにやっていること、これからやりたいことは山ほどある。

そのときに必要なのは、成功例をためらわずに取り入れること、「特別枠」の色眼鏡ではなくフラットに見たときにどういう状況なのか、冷静で正しい評価が必要だと二人は言っているようにも聞こえた。これもまた、先駆者として取り組む二人から能登に活用できる大切な視点である。

夜の懇親会では、福島だけでなく能登のサポートにも奔走する高橋さんが想いいっぱいにスピーチをした。元の暮らしに戻りたいだけなのに、さまざまな人が語る通り、復興は一朝一夕にはいかず、さまざまな壁がある。それを語り合うCo-Creation Nightも懇親会の後に開催された。

DAY3 石川ものづくり・さけづくり・まちづくり視察ツアー

この日は、参加者は2グループに分かれて、石川の多様な産業と文化を体感するツアー。1組は清酒『手取川』で知られる創業150年以上の歴史を持つ老舗酒蔵「吉田酒造店」の見学へ、もう1組はこれからご紹介する白山市にある繊維業を営むカジグループが運営する体験型施設「カジファクトリーパーク」の見学ツアーへ出発した。

かほく市・KAJI FACTORY PARK 

カジファクトリーパークは金沢の北にあるかほく市に2025年4月に誕生した、カジグループの工場見学ができる複合施設。広々とした敷地には、実際に稼働している工場をはじめ、2つの自社ブランドの旗艦店、北陸のいいものを集めたセレクトショップやレストラン、ワークショップができるスペースなどがある。

エントランスの階段にある白いオブジェは、オープン時の社員数の331がモチーフ。細い繊維をより合わせて1本の糸になるという姿を表している

自社ブランドの1つ、超軽量のトラベルオーガナイザーなどが人気を集めるTO&FROのブランドマネージャー砂山 徹也さんに、会社の歴史や施設について解説いただいたので、ご案内いただいた内容を写真とともにご紹介しよう。

ご案内いただいた砂山さん

「1934年、梶製作所という繊維関連の機械の会社が祖業です。実はカジグループの法人は存在しなくて、ナイロン、ニット、縫製など、繊維関連のさまざまな工程ごとの会社があり、その総称として、カジグループと呼んでいます。

梶製作所はバイオーダーの会社で、それぞれの企業に合わせて異なる機械や必要とされるパーツを作っています。繊維関連の機械を作れるなら、自分たちでも作ればいいということで、生地も作るようになりました」

ファクトリーパークの名の通り広々とした庭がある。毎月イベントがあり、グランピングなども
庭からは立山連峰が臨める

梶製作所の技術は極めて高く、世界で1番薄くて軽い織物を作ることが可能になった。一番細い糸は髪の毛1/3ほどの6.5デニール(糸9km分が6.5gの重さ)だという。そのぐらい細い糸を切らずに生地にできるのは、自分たちしかできない技術と砂山さんは胸を張る。

クリールと呼ばれる糸掛けスタンド
ちょっと離れると見えないほど極細の糸がかけられている
軽いのに暖かい、強いのに滑らかなのが特徴の自社ブランド生地、KAJIf(カジフ)

見学ルートからは、ガラス張りで粛々と動く織機を見おろすことができる。今年の4月にオープンしたばかりだが9月24日の時点で4万人が来場しており、初年度は7、8万人を目指したいとのこと。

見学ルートから見たクリール群
誰もが知るブランドの生地を多数手がけてている
展示の奥にオフィス。来場者に見られることで、社員の意識も変わったそう

機械などの見学は、ガラス越しに眺めるものが多いが、1カ所だけ「LIVE VIEWING」と銘打った場所では直接見ることができる。そこまでがしんと静かだっただけに、ドアを入った瞬間、騒然とした物音や匂い、動く織機に圧倒される。なおSDGsも鑑みて、織機のシャトルを飛ばすのは電力ではなくて水力を用いており、その水も循環して利用、太陽光パネルも付いている。

LIVE VIEWINGの場所から織機を見下ろす。最新の工場に、若者の求人が集まるようになった

クリーンで明るい工場には、オープン時間の11時になると、どこからともなく人が入ってくる。地元の食材を使ったレストランはこの日は定休日だったが、ふらりと工場の見学ルートに上がっていく。気軽に見に来ることができる合繊工場、おそらく来場者にはそんな意識もなく新しい施設にやって来たという感じなのだろう。

スケルトンのような眺めも風通しもいい工場内。アパレルブランドK-3Bの旗艦店は2階にある

「一般のお客さんにも、面白い公園ができたから来たと言われます。それでいいんです。ワークショップなどもやっていて、繊維のものづくりを体験してもらっています。

着工は約3年前ですが、2017年ぐらいから生産のキャパシティを上げるために工場の増設のプランはあった。そしてコロナ明けから、ものづくりを中心にした産業観光をしなければと」

その理由は生産地の危機感である。

「北陸は世界でトップクラスの合成繊維の産地です。石川・福井・富山の北陸3県で日本の合繊の約9割を生産していますが、ほぼ下請けの会社で発信するツールもなく、してもいなくて、することも許されない閉鎖的な産業でした。11年前にTO&FROを作るまでは、80年間下請け100%、加工賃だけいただく商売だったんです。

そして大きいアパレルがコストダウンのために海外に切り替えるのが続いた結果が、今の産業の衰退です。自分たちが国内で作って発信していかないと、本当に繊維産業は潰れてしまいます。

製造業が閉鎖的で内向きだった負のスパイラルが数10年ありました。それを変えていきたい。とにかく知ってもらって拡大する循環を、産地がそういう流れにどんどんなっていくように、日本のものづくりのサプライチェーンが切れてしまわないように、この産地でものづくりをすることを発信する。そのための産業観光をやろうと決めました」

超軽量のトラベルオーガナイザーが人気のTO&FROほか、北陸のセレクトショップ

カジグループの熱い思いを聞き、ファクトリーショップでの買い物にも身が入る一行。ここにしかない限定商品などもあり、ファンの方はもちろん、金沢から少し足を伸ばすだけなので、新たな観光地としてぜひこのカジファクトリーパークを訪れてみてほしい。TO&FROは、中川政七商店をはじめ、全国に取扱店も多数ある。

金沢市・石川県立図書館 

石川・能登コネクテッドのツアーの終着点は、美しい図書館として全国に名を馳せている石川県立図書館。2022年に開館し、図書館としてだけではなく、週末などは市民の憩いの場となっている。

この2階には、会議室スペースなどもあり、その1室で今回の石川・能登コネクテッドのクロージング・イベントとなった。

冒頭に鶴野さんがICCスタンダードを読み上げた

ここまでのイベントでのスピーカーをはじめ、参加者たちにもマイクが渡り、最後は自分が能登に何ができるかということを宣言して、クロージングとなった。

東京でのコラボレーションディナー

10月9日と10日、代官山のabysse(アビス)では、能登コネクテッド- 美食体験プログラム「abysse(アビス)」コラボレーションディナーが開催された。今回のコネクテッドに参加した人たちやICCサミットの参加者が集い、能登に想いを馳せながら、能登の野菜や魚介類をメインとした素晴らしいディナーを味わった。

鶴野さんはもちろんのこと、今回の石川・能登コネクテッドの開催を呼びかけた稲とアガベ岡住さん、石川樹脂工業の石川さん、seccaの上町さんと柳井さん、CHEERSの白井智子さんも2日間顔を揃え、多くの方々にお集まりいただいた。

ICC小林さんとCHEERS白井さんの司会で、今回のディナーの主旨が説明され、忙しい手を止めてシェフの目黒 浩太郎さんもご挨拶くださった。

シェフの目黒 浩太郎さん

料理に使われたのはひらみゆき農園の野菜で、いずれも旬のものばかり。見た目も味も素晴らしい一皿ごとに歓声が上がり、話の花が咲いた。

abysseは最新のミシュラン店

ディナーの席では、能登の酒を止めるな!プロジェクトで誕生した、鶴野酒造店と稲とアガベのコラボ酒「稲とアガベと谷泉」も登場した。このお酒もひらみゆき農園のブルーベリーをもろみで発酵させたクラフトサケである。

もう1つ、鶴野さんにとって大切な酒がデザートとして登場した。能登半島地震の当日、崩れた蔵の中から自ら220本だけ救出した一升瓶を元に、別グループが見学に行った吉田酒造店とともに造った貴醸酒「谷泉×手取川 山廃 貴醸酒」である。

「貴醸酒というのは、仕込みでもとのお酒を入れて新たに仕込みます。このお酒は、僕らが今まで造っていた酒、潰れた蔵からなんとか救出した酒の想いが全て残っています。そしてもう1つ大切な要素、今は共同醸造という形で吉田酒造店と造らせてもらっていますが、いろいろな新しい技術を学ばせてもらったコラボレーションの酒でもあります」

そのお酒を、酒粕で作ったアイスクリームにたっぷりかけていただくというのがこのデザート。甘酸っぱく口当たりの柔らかな、鶴野酒造店の過去と未来が詰まった貴醸酒を皆、美味しくいただいた。

ディナーの締めは、開催を提案したseccaのお二人や鶴野さんからの挨拶。上町さんは「コネクテッドやりましょう!と言いながら、(ICC)小林さんにほぼお任せになってしまって…」と恐縮しながら始めた。

「能登のために何かしたいって、目的があるようでない。誰のために何をするか、今回のコネクテッドでみんなで集まって話をして、結局のところ最後に一番盛り上がったのは、鶴野さんを全力で応援しようということでした。

それは当たり前のことだけど気づきが多くて、本質的に能登の未来を考えるなら、自分が信じられる、つながっている人を応援するのが、自分が一番能登に貢献できることだと気づかせてもらいました。

今日のディナーも最初は能登、石川でやろうとしていてその手法にとらわれていたんですが、能登を一番応援できる形であれば、一番パフォーマンスが出せるこの場所で、能登の食材を使って応援できる東京だって問題ないじゃないかって(小林)雅さんが気づいてくださって。

そういう本質を失わないようにすることが、今回のコネクテッドの大きな学びでした」

上町さんと柳井さんは、石川の職人たちが力を合わせて作った「継馬上盃」の販売も行った。日本酒を飲むときの「開・包・拡・直」の4つの特徴を最大化して味わえる酒器であり、まるでアート作品のような美しい漆器である。

これは震災直後に自分たちができることをと上町さんたちが考え、知っている輪島や山中塗の職人と器を作って販売しよう、良い日本酒をワイングラスで飲む現状から、日本製の器に変えていこうというチャレンジを込めて制作した盃である。これもまた、石川の工芸を未来に手渡そうとする試みだ。

鶴野さんは、石川・能登コネクテッドの日々で交わしたディスカッション、この日のテーブルでの会話を振り返った。

「こんなに応援してくださっている皆様がいて、チャレンジできるチャンスがあるのに、立ち止まってしまうのは罪。もっと一生懸命やれよというメッセージをいただいた。皆様からいただいた活力でさらに加速して、再建に向けてどんどんチャレンジしていきます」

最後に目黒シェフと

ディナーが終わると、鶴野さんは、岡住さん、石川さん、上町さん、柳井さんは連れ立って夜の街へ消えていった。多忙な方々で、石川さんなどは翌日は日帰りで石川に戻り、夜また東京に戻ってきている。後で聞くと「反省会をしていました」と言う。みんな、鶴野さんを助けたい気持ちでいっぱいなのである。

上町さんは「ICCは自分をさらけ出しても真剣に議論してくれる安心感があり、熱い議論ができるような関係性ができる。分かち合えることが豊かで、そうできる相手がいること、そのコミュニティに身を置けている幸せ。自分のやりたい仕事の時間を割いてでも学べることがある」とスピーチで語っていた。

DAY2の議論では、震災からの復興という大きな事象に立ち向かうときに、当事者の強い意志に加えて、仲間を集めることやつながり、相互の学び合いや助け合いが力となったことが語られていた。

地域を実際に訪れ、議論を重ね、仲間と深くつながる訪問版「ローカル・コネクテッド」。今回は2泊3日に東京の美食ディナーと、まるで出張版ICCサミットのようなボリュームとなったが、それだけ石川・能登の方々の地域への想いに深く触れる機会にもなった。

次回はICC KYOTO 2025で優勝した福島・南相馬で開催の予定で、和田さん、佐藤さんによると「本当にいろんなことが起こっている場所」だそうである。”新たなフロンティア”南相馬を当事者に案内してもらい、学び、議論し、Co-Creationで未来を創ることに興味がある方は、ぜひ参加をしてほしい。

(終)

編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成

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