読む楽しさ倍増! ICC登壇者たちが『キングダム』のキャラクター、組織、経営の学びを深読み! | 【ICC】INDUSTRY CO-CREATION

読む楽しさ倍増! ICC登壇者たちが『キングダム』のキャラクター、組織、経営の学びを深読み!

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今、いちばんビジネスパーソンに熱い支持を受けるコミック『キングダム』。ICCサミット登壇者たちの中でも愛読する方々が8月2日に結集し、キャラクターからみるリーダーシップ、組織、経営の学びなど、ストーリーを知っている前提のもと、愛と学びの舌戦を繰り広げました。その模様をレポートします。ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢800名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うためのエクストリーム・カンファレンスです。次回 ICCサミット KYOTO 2019は、2019年9月2日〜5日 京都での開催を予定しております。


【開催情報】
2019年8月2日
キングダム経営学 – 経営者はキングダムから何を学び、実践しているのか?

(スピーカー)
琴坂 将広
慶応義塾大学
准教授(SFC・総合政策)

三浦崇宏
The Breakthrough Company GO
代表取締役 PR/Creative Director

南 章行
株式会社ココナラ
代表取締役

(ナビゲーター)
仲山 進也
楽天大学学長/仲山考材代表取締役

(すべて敬称略)


週刊ヤングジャンプで現在も連載中の『キングダム』(集英社刊)

8月2日、この日を心待ちにしてくださっていた方が、実は多かったみたいです。7月に入り、ICCオフィスで怒涛の勉強会やイベントが続くなか、ずっと一部の参加者の方々の口に登っていたのは、この日のイベント「キングダム経営学 – 経営者は『キングダム』から何を学び、実践しているのか?」。

実写版映画のヒットもあり、コミック『キングダム』がビジネスパーソンに熱い支持を受けていることは知っていたのですが、今回の企画の話がきっかけで、私たちICCパートナーズでも代表の小林が54巻分を一挙購入。読み進むほどに、キャラクターが乗り移っていくさまを目撃しておりました。

『キングダム』がらみで取材を受けることの多い、楽天大学がくちょの仲山進也さんが本日のナビゲーター。以前から今日にかける意気込みを語っていた国際経営学の軍師・琴坂 将広さん、引き締まった体躯に鍛錬のあとが見えるココナラの南 章行さん、どこの戦で負傷したのかGOの三浦崇宏さんは松葉杖をついて登場です。

琴坂さんと南さんは、オックスフォード留学時代が重複していたと談笑しながら「今日の本題はそれではない」という本心をカモフラージュしています。

「急ぐのと焦るのは違う。焦らずとも刻は来る。準備だけは怠るなよ」(政)

次の戦に向けて心が逸る信を諌める、政のセリフが思い出されます。やがて、ICC代表の小林含め集まった登壇者たちは来たるべき戦を前に、ラウンジスペースで不敵な笑みを浮かべて沈黙しました。

経営者が熱く語りたくなるマンガ

迎え撃つ参加者も負けてはいません。なんと羌瘣(きょうかい)と河了貂(かりょうてん)が会場に侵入しました。怪しき2人は、かばんの中からこっそりと、さらに鉢巻きらしきものや扇などを取り出しました。

そもそも今回のイベントは、日経ビジネスで連載中の「キングダム経営学」がもととなって開催の運びとなりました。戦場に咲く一輪の花、日野さんからのご挨拶です。

日野さん「お会いする経営者の方々が、なぜ『キングダム』が好きで、こうも熱く語ってくれるのかが知りたくて、取材を始めました。『キングダム経営学』で取材のオファーをすると、普通よりも返事をいただくのが早く、1時間でアポをいただいても、1時間半、2時間と語っていただけることが多いのです。

お話には学びが多く、そのうち、連載だけにとどめておくのがもったいないと思うようになりました。ICC小林さんにそれをお伝えしところ、この場を設けてくださることになりました。今日はどうぞよろしくお願いします!」

戦の前のポーカーフェイス

登壇者たちは本陣に到着しています。琴坂さんは周囲を見渡して「客席に羌瘣が3人もいる」と、目ざとく気が付きました。

さあ「キングダム経営論」戦いの火蓋が切って落とされました。ドドンドドンドン!

ビジネス書キャンペーンを率いる三浦将軍

<以下のレポートは『キングダム』のネタバレ内容を多く含んでいますので、未読の方はご注意ください>

ICC小林「まずは自己紹介いただきながら、『キングダム』とのつながりをお話しいただきましょう」

ココナラ 代表取締役 南 章行さん

南さん「漫画オタクでも何でもないのですが、いくつか好きで読んでいるうちのひとつが『キングダム』です。

僕と仲山さんはコミック派なので、そこの2人(琴坂さん、三浦さん)には、絶対にネタバレしないでほしい! 次のコミック55巻は8月19日発売で、連載している『ヤングジャンプ』も読んでいないのです」

南将軍、いきなり弱気なお願いでスタートしました。仲山がくちょも懇願するような目でうなずいています。

三浦さん「コミック54巻って、どこまで行った? 超峩龍(ちょうがりゅう)がねー」

南さん「本当にやめて! あとで懇親会もありますが、少しでもネタバレしそうになったら僕、帰ります!」

仲山さん「登壇を待っているときにみんなで、今日は何をゴールにしようかという話をしました。そこで三浦さんの発案で『今日来た人は明日以降、会社で『キングダム』のコミック購入を経費で落とせるようにする』こととなりました」

三浦さん「ビジネス書ですからね、学びでしかないです!」

参加者含め、一同真剣な表情で聞いています。ここは笑うところではないようです。

仲山さん「まずは自己紹介を兼ねて、三浦さんが手掛けられたキャンペーンのお話をご紹介いただけますか?」

The Breakthrough Company GO 代表取締役 PR/Creative Director 三浦崇宏さん

三浦さん「GOという広告、クリエイティブ、PR、新規事業開発をする会社でクリエイティブディレクターをやっている三浦です。僕が『キングダム』はビジネス書だというキャンペーンを手掛けたのに、自分がいるコミュニティで話さないのはおかしいなと思い、今回出させて!と小林さんに直訴しました。

『キングダム』は過去に何度もキャンペーンをしていたのですが、最近の担当者に知り合いを見つけたので、すぐ連絡してみたのです。僕にはそれまで展開していたキャンペーンより、いい手があると思っていました。

最終的には他社も含めコンペになったのですが、一応それまで担当していた会社に仁義をきって、そこから依頼を受けて攻めに行くという形にしました。たとえるならば、このキャンペーンは趙三大天の廉頗(れんぱ)が魏で帰ってきたときみたいに、鮮やかに奪取したという感じです」

(一同笑)

三浦さんが担当したキャンペーンの特設サイト。各巻表紙をクリックすると見られる概要も見逃せません

三浦さん「そして『キングダム』をビジネス書風に表紙を作り直しました」

(特設サイトが表示され、会場に感嘆の声が上がる)

南さん「蒙武が表紙の13巻のタイトル(『管理職になったら必ず読んでください〜部下をファンにする最強仕事術〜』)って……(笑)」

三浦さん「蒙武に責任感が生まれたところですね! 全部読み返して、内容に合ったコピーを書き下ろしたんですよ」

モニターに表示されたカバー、ビジネス書をもじった各巻の絶妙なタイトルとコピーに、一同食い入るように見入っています。これで笑い、腑に落ちるのは、熟読している参加者たちならでは。この後、オフレコで三浦さんより、ひたすら面白い制作秘話が披露されていきました。

ケーススタディとして活用できる『キングダム』

慶応義塾大学 准教授(SFC・総合政策)琴坂 将広さん

琴坂さん「僕はマンガが大好きで、これまでに多分6〜7,000冊ぐらいは買ってます。もう少し若いときは漫画喫茶に泊まり込むこともしょっちゅうでした。いま、手元にあるタブレットをみたら、この中にも1,600冊ぐらい入ってました。さらにいうと、僕がなぜオックスフォードに留学したかというと、間違いなく『MASTER KEATON』の影響かなと。

今連載しているものもかなり読んでいて、そのなかに『キングダム』もあります。経営的な要素も入っているし、いろいろな読み方ができるので好きです。ストーリーがありつつ、考えさせられるヒントがある。見逃されるような要素から、何を見出せるかというところが面白いと思っています」

南さん「ココナラは10時出社なのですが、新刊コミックの発売日は、朝9時に本屋に行き、読んでから出社します。

会社のコンディションがあまり良くないときに、全社会議でスピーチしなければいけないことがありました。その朝に読んでいたのが、信と王賁(おうほん)がそれぞれ朱海平原でスピーチするところでした。

ライバルとしてしのぎを削る信と王賁が、それぞれ自分の隊に語りかけるシーン(53巻P188)

読んで、めちゃくちゃ覚醒しました。『俺は会社が何万人にもなったとき、お前たちとやってきたと言いたいんだ!』と全社会議で力説しました」

三浦さん「(笑)まんまじゃないですか」

(一同笑)

南さん「そのままなぞったんですよ。誰も気づいていなかったけど(笑)。『キングダム』にはしんどいときにパワーを貰うということが多いですね。

平常心で読むときも学びがあるのですが、ピンチのときに、あのシーン!と、憑依して出てくる場合が多いです」

琴坂さん「僕は逆です。経営戦略を学生たちに教えているのですが、対象年齢が20〜22歳なので、理論を教えたあとに、たとえ話として話すことが多いですね」

楽天大学学長/仲山考材代表取締役 仲山 進也さん

仲山さん「事例としてマンガを使うと、伝わりやすいというメリットがありますね。

MBAのケーススタディで、楽天が出てきたものを読ませてもらったことがあります。社長や経営陣にインタビューしたものとしては正しいのですが、現場のメンバーが地味にがんばっているところ、『キングダム』でいうなら、渕さんたちががんばっているエピソードが抜けているなと思いました」

(一同笑)

仲山さん「それで、ああなるほど、ケーススタディのケースは真実とは違うなと思ったのです。

ひるがえってマンガは、描いていないことは起こっていないから、エピソードや事例を共有する素材としては非常にメリットがあるなと思ったのです」

三浦さん「ビジネス書のフレームワーク、ケーススタディには描いていない、現場の血を流している一兵卒の息吹を感じるわけですね」

仲山さん「そうですね。一人ひとりまで見えていないときは、こんなことが起こっているんじゃないかと勝手に想像して埋めながら話しがちになるので、話が噛み合わなかったりします。描いてあることだけをベースに話せるのは、マンガの強みだと思います。

ところでこちらから見ると、すごく目立つ人たちがいるのですが……」

真剣に聞き入る羌瘣と河了貂

仲山さん「……これはいじったほうがいいのでしょうか」

(一同笑)

羌瘣と河了貂  (恐縮して口々に)「すみません!」

琴坂さん「それは、李牧の軍扇ですか?(客席から軍扇を受け取ってにっこり)」

好きな武将、なりたい武将は?

ICCパートナーズ代表 小林 雅

ICC小林「好きな武将の話でもしましょうか」

南さん「好きな武将と、自分がなりたい武将だと、違ってきちゃうんですよね」

ICC小林「僕は普通に強い武将が好きですね。蒙武(もうぶ)とか」

呂不韋の四柱で腕っぷしの強い硬派な武将、蒙武(29巻P122)

三浦さん「小林さんは蒙武っぽいですよね」(一同笑)

南さん「馬鹿が!!貴様はただ相手に恵まれていただけだ!」(13巻P44)

(蒙武のセリフ再現に一同沸く)

ICC小林「蒙武は自分としか思えないですね」

三浦さん「そう思う人は、おそらく日本の人口で150人ぐらいしかいないですよ! さすが小林さんは腕力が違いますね」

ICC小林「補足すると、僕は、王翦(おうせん)みたいになりたいんですけど、蒙武でしかない」

三浦さん「一旦あの仮面みたいなの被ります?(笑)」

現 王一族の元首であり、秦国一の危険人物、王翦(19巻P147)

仲山さん「サラリーマンのときは、社長に六将の制度を作り直せとか言ったんですか?(笑)」

話の内容が全くわからない方、すみません。コミックをお読みいただければすべてわかるかと思います。

南さんが解説、蒙驁が経営者として完璧な理由とは

南さん「僕が自分をたとえると、最近社内でも一部で呼ばれているのですが、蒙驁(もうごう)なんですよ」

穏やかな語りかけで士気を上げる蒙驁将軍(20巻P96)

仲山さん「蒙驁について説明しなくていいですか? あ、皆さん、不要みたいですね(笑)」

南さん「蒙驁はすごくいいなと思っています。僕の(経営の)やり方にも似ているんですよ。うちは取締役が僕も含めて3人いるのですが、他の2人はそれぞれエッジが効いているタイプです。

蒙驁のすごいところは、あの王翦と桓騎(かんき)を下に従えているところです。

実力がありながらアクの強さゆえ組織になじまない、左から王翦、桓騎(19巻P143)

逆にいえば、あの強烈な2人が、自分よりも蒙驁を上だと認めているのです。廉頗(れんぱ)ともいい戦いをするし、子どもは蒙武、孫は蒙恬(もうてん)でしょ。もう完璧じゃないですか」

(一同笑)

南さん「そして戦国の世で最後まで生きている。社長の仕事って、死んではだめなんですよ。蒙驁は、小さい田舎で生まれて、努力してでかくなって、負けそうな戦いは逃げる。それでも勝つ戦を拾いながら、最後大将軍にになって寿命を全うするわけですよ。あれが経営者の姿だと思います」

ICC小林「最後の蒙武の父へのセリフにも愛を感じますよね。あ、南さんは僕のお父さんってことか!」

南さん「(笑)僕のスタイルにも似ているし、最後まで大将軍になって生き残る。変装して一兵卒とも喋れる。そう、会社の中でもパパ的な感じです。優しくフォッフォッフォッとやればいいかなと。

変装した蒙驁将軍は信に悩みを打ち明ける(19巻P76)

他の2人が天才だから、僕はあまり手を出さずに、函谷関での戦いの蒙驁のように重しとしての役割を担えばよいかと思っています」

仲山さん「確かに、人の裏をかくようなタイプだったら、あの2人は絶対下にいられないですね。蒙驁は難しいこと考えていないから安心して下にいられるし、裏切らない」

南さん「桓騎と王翦が従う価値というのを、みんなもっとわかったほうがいいと思う!」

一同「確かに!」

三浦さん「蒙驁に着目している人はあまりいないと思っていたのですが、おっしゃるとおり経営者としてあるべき姿ですね。桓騎みたいな経営者は信用できないし、王翦みたいな部下がいたら、上を食いにくるし、ろくでもないですよね」

南さん「それをちゃんと使いこなすから、マネジメントの天才ですよ」

仲山さん「僕はよくチームビルディングをジグソーパズルのイメージで話すのですが、パズルのピースとしては、凸凹力(でこぼこりょく)が大事です。強み(凸)を生かすという表現はよく使われますが、凹を生かすという視点です。自分の凹は、誰かの凸を生かすために空けてあると考える」

三浦さん「足りないことにも意味があるということですね」

仲山さん「まさに。蒙驁の凹は、桓騎と王翦が埋めたくなるような凹なんです」

南さん「それは経営でも僕はとても意識しているところです」

少人数でジャイアントキリングを実践する桓騎

三浦さん「僕はですね、博報堂時代からずっと、俺はこういうキャラだと言っていたのがあったのですが、当時部下からは、三浦さんは臨武君(りんぶくん)ですね、と言われていたという(怒)」

三浦さんの同僚が類似を指摘する楚の将軍・臨武君(26巻P105)

(一同爆笑)

三浦さん「僕が自分を投影できるキャラクターは、原先生から直接イラストもいただいた、桓騎です。(と、色紙に描かれた直筆のイラストを見せる。一同どよめく)

原作者・原泰久さんの直筆イラスト

なぜかというと、GOは20人ぐらいのクリエイターとプロデューサーの会社なんですけど、大手代理店のビジネスモデルと全く違う、事業そのものを作るみたいな新しいクリエイティブのあり方を実践しているって感じなんですよね。息を吸って吐くようにジャイアントキリングしないとやばいという。

でも、基本的にやばい、追い詰められている状況というところで、桓騎が想定外の戦略を常に実施するところに共感するのです。

黒いフェザーと柄オン柄の鎧、見た目もアーティスティックな桓騎(19巻P144)

別に人を殺したり、残虐を尽くすわけではないですよ、コンプライアンス重視型の企業ですから!

そういうことはしないけれど、他の代理店から見ると、ありえないだろうという戦略や企画も時には提案して、成果を出しています。

桓騎の出自は野党で、蒙驁に引き立てられて出世します。

広告業界ではクリエイティブ・ディレクターが将軍で、そこへの道は、コピーライターやデザイナーが優遇されます。でも僕、は最初の配属がマーケティング、その次はPRでした。そこで苦労したり、そこでしかできない思考法を武器に、最年少でクリエイティブ・ディレクターになることができました。

だから非常にシンパシーを感じていて、『俺は広告界の桓騎だ!』とチームを鼓舞していたら、『まあ臨武君としてがんばっていただいて』と言われるわけです…」

琴坂軍師はなぜカク備に注目するのか

琴坂さん「私は経営者ではなくて、研究者なので俯瞰して見てしまいます。私がいつも注目して見てしまうのは、カク備のようなキャラクターです」

主人公・信と同じ下僕の出身であることを明かし激励するカク備。5ページで出番が終了する(18巻P202)

一同「めちゃくちゃ渋い!」

琴坂さん「当時の戦略は、ベースは消耗戦です。将軍は損耗率を絶えず計算しているわけです。読んでいると、千人将がさらっと死んでいきます。

経営者目線で見ると武将に目が行くと思うのですが、それを支えている名もなき人が実は歴史を作っているという観点から、カク備や彼の夢や遺志を継いでいるカク備兵が果たす役割を、僕もこんな感じかなと思って見ていたりします」

三浦さん「いくら検索しても画像が出てきませんね。楚水の上司だった人ですよ」

南さん「出てきてもすぐ死んじゃうもんね。信が乱銅を斬ったあと現れて、僕も下僕出身だ、がんばれよと言葉をかけてくれる二枚目の千人将ですよね。これから活躍するんだろうなと思わせておいて……いきなり」

三浦さん「わりと重要なキャラっぽく出てきてさくっとやられる」

仲山さん「漂(ひょう)みたいですよね」

琴坂さん「冷静に見ると、『キングダム』はケースであって、サバイバル・バイアス(※)があるというのは忘れちゃいけない。信が百人将になったとき、羌瘣が『お前はそんなことしていると死んでしまう』と言うシーンがあります。戦場にはもっと手練れがいて、信は運良く勝ち残っただけというわけです。

▶編集注:一部の成功者のサンプルのみを用いて分析した結果生じる偏り、間違った判断のこと。生存バイアス。

その中で勝ち残ったストーリーである。だからこそ役割を得るのであって、そこから自分が何をするかは考えないといけないと思いますね」

三浦さん「さすが学者的な視点!歴史の影に光を当てますね」

琴坂さん「そう、影がある。そういう意味では私は政も好きです。彼の発言は、ロジックがないんです。とりあえず武力制覇だ!みたいな(笑)」

三浦さん「光だ!とかね(笑)。ぶっちゃけいきなり言われたら意味わかんないですからね。戦争をなくすとか言いながら他国に戦争を仕掛けまくるし(笑)」

呂不韋も一瞬ひくほどエモい政(40巻P15)

仲山さん「顔がかっこいいからあれですけど、ジャイアンですよね」

琴坂さん 「イケメンだから許されているとしか思えない(笑)」

三浦さん 「このあと歴史上では、統一したあとひどいことになります。秦の始皇帝でウィキっていただければ(笑)」

「組織にいながら、自由に働く」羌瘣

仲山さん「僕が好きなキャラクターは、ここにも3人ほどいらっしゃいますが、羌瘣が……」

男性顔負けの戦闘能力をもつ羌瘣は、フリーランスで暗殺を請け負うことも(11巻P89)

三浦さん「ロリコンってことですか?」

(一同笑)

仲山さん「(笑)なぜかというと、去年僕が出版した本が『組織にいながら、自由に働く。』というタイトルなのですが、羌瘣は組織にいながら、たまに抜けたり、個人の仕事をするじゃないですか」

三浦さん「姉の仇をとるのに有給休暇使っていますよね」

(一同笑)

仲山さん「でも許してもらえますよね。あの感じがわかるなと思います」

三浦さん「その羌瘣に組織の中でポジションがあって、すごく評価されているというのが、このあと物語にひずみをね…あ、これ言っちゃダメなやつか(と、琴坂さんを見る)」

一瞬、緊張感が会場に走りました。南さんと仲山さんのマイクを握る手に力が入っています。

南さん「もう帰ろうかな…」

仲山さん「なんかちょっとテンション、めっちゃ下がった(とうなだれる)」

(一同爆笑)

仲山さん「僕も会社に行かなくていい働き方をしていて、『自由でいいな。自分もなりたい』と言われます。でも、それが可能になるには、手に職がないと難しいというのを、羌瘣が体現してくれています」

琴坂さん「圧倒的な実力があるから許されていますよね」

仲山さん「ああいうレベルを目指してやっていかなければと思います」

三浦さん「彼女が最初、信との友情だけでやってきたところが、組織への忠誠心が生まれてきて、すごく組織のためにがんばるようになる。そういう心の変化がいいなと思います。

組織論のここ5年ぐらいまでの課題は、元気な高齢者を、組織の中でどうエンパワーメントするかという、アクティブシニアの問題だったと思うのです。そしてこの2年ぐらいは女性でしたよね。組織の中で女性をうまく扱えないけど、それをどうエンパワーメントするか?というのがテーマでした。

そして向こう3年ぐらいは、組織の中でどう天才をうまく扱うかが、これが組織論における最重要な課題になってくると思うのです。天才はだいたい辞めてしまうじゃないですか。

54巻現在で、飛信隊は、信が5,000人将で、羌瘣は3,000人将。別の隊だけど、同じ組織で働いているじゃないですか。ここにすごいヒントがあると思うのです。

天才にどうやってロイヤリティを持ってもらうかと、ロイヤリティをもった天才にどう活躍できる場を作るか。今後羌瘣の描かれ方が、組織論における重要なヒントになってくると思います。

組織の中にいかに天才を囲い込んだまま、自由に使って生かしていくか。仲山さんがおっしゃったことはすごく重要で、これから『キングダム』の組織論の中でも深みを持っていくのではないかと思われます」

部下に適切な課題を与える難しさ

南さん「王騎とか騰(とう)のコーチングのうまさもすごいですよね。まずやらせてみる。

騰も、この戦いは自分の戦いじゃない、王賁とか若き傑物が出てくる戦いだと思っているとか、なかなか言えないですよね」

三浦さん「言えないですよね!まさに今、それは抱えている課題で、自分以外の若い人に任せたいと思いながらも、つい出ていってしまう」

南さん「任せるとか、課題を与えて引き上げるのを見ると、驚いてしまいます」

琴坂さん「こういう戦争ものは、コーチングとして教えやすいです。将軍や隊長がガンガン死んでいくじゃないですか。そうなると、マネージメントをどんどん変えていかないといけない。ポジションを埋めないといけないから、任せざるを得ないんです」

三浦さん「スタートアップの成長曲線に近いですよね。一人辞めた、また辞めた、お前を登用する!って(笑)」

(一同笑)

琴坂さん「今の経営って、そもそも人は死なないし、責任を取るといっても首にはしないし、環境も変わりません。スタートアップならばもっと切った張ったの世界に、そぐうのではないかと思います」

三浦さん「この平和な日本で、勝手に切った張ったやっているスタートアップの方々には、共感しやすいのではないかと思いますね(笑)。ずっと戦っているし」

仲山さん「王騎の人材育成で、たとえば教えを請いにきた信を谷底に蹴り落とすシーン。いまよりワンステージアップしないとクリアできないお題を与えるとか、馮忌(ふうき)の首を獲ってこい(12巻P40)というところとか。決して簡単なハードルじゃないんだけど1段抜かしはしないお題を与えるところが名コーチですよね」

武将としての修行を請う信を突き放し、王騎は無国籍地帯の平定を言い渡す(10巻P187)

三浦さん「その設定がめっちゃ難しいですよね!たとえば5の力を持っていて、6、7の課題をクリアしたら10になるなというときがありますが、その7の課題を見つけるのが難しい。

『あのときあの経験をさせてくれてありがとう』という、神の采配みたいなのがマンガではよくありますが、振り返ってみると僕も博報堂で結構そういうときがありました。

でも自分が、部下によき試練を与えるというのが難しいなと思います」

“立って戦え”には、言葉の経営が表れている

ICC小林「僕は鼓舞するセリフが好きなので、”立って戦え”は来ましたね。電車で読んでいて泣きましたね」

将軍亡き後も、繰り返し言っていた言葉で戦意を取り戻す麻鉱軍(49巻P147)

(その前後のシーンをセリフごと思い出して口々に言う登壇者たち)

三浦さん「ICCの運営ボランティアスタッフの皆さんにも『立って戦え!』と!(笑)」

ICC小林「落ち込んでいたら全滅になる局面ですからね」

仲山さん「普段からずっと『立って戦え』を言い続けてきたというのが、大事ですよね」

三浦さん「名シーンですよね〜」

南さん「7月に会社のメンバーを中心にフジロックに行ってきたんですよ。その夜に、キングダム談義になって、どのセリフが好きかという話になりました。

そのときにも『立って戦え』は支持が多かったです。うまくいっているときは、王騎の『全軍前進』とか」

人気の高い王騎の「全軍前進」シーン(11巻P136)

ICC小林「たとえば、ICCサミット本番のときに、僕がインフルエンザで倒れたりしたら、『立って戦え』という感じでやってほしい。そのとき南さんあたりがね……」

南さん「『いつもまささんが言っていたことは何だ?』『毎日ひとつひとつこつこつと!』」

(一同爆笑)

三浦さん「ははははは!」(南さんとハイタッチ)

南さんからすんなり出てきた自分の口癖にICC小林も大ウケ

南さん「まささん『ひとつひとつしっかり』と、毎日言っていますよね(笑)。そしてみんな泣きながらこつこつやる。最高じゃないですか」

三浦さん「これって言葉の経営なんですよね。CEOがいなくなった、組織が乱れたときに、その言葉が思い出されるのは素晴らしい。代理店が作った堅苦しいスローガンではなくて、練兵のときにいつも言っていた言葉であるというのがいい。

それはまささんの『ひとつひとつしっかりやっていこう』であり、上からではなくて、横並びで自分たちが使っていた言葉だからこそ生きる。

経営はえてして数字で管理されがちですが、それよりも言葉の経営が重要な時があります。『立って戦え!』を全員が使っていたのがよかったのです。

これが『一人十殺』では頑張れません。そこに経営における言葉の強さが現れていて、僕もすごくいいと思うシーンですね」

琴坂さん「リーダーシップとは言葉の経営、というのは、今に始まったことではありません。ピラミッドを作った4000年前からそうなのです。

単にインセンティブ、お金を与える、昇進じゃなくて、ビジョンを示してそこについていくという隊は強かったし、数千年も変わっていないのですよね。何がミッションで成し遂げることの重要性を伝えるということが大切なのです」

仲山さん「意味を与えています。ビジョンや価値観、先ほどの天才はどうやったら辞めずに済むかという話で、そういう自由な働き方は、理念や価値観が明確な会社でないと、これやってもいいのかな?という判断がつきにくいのです。逆に明確であればやりやすい」

カルチャーフィットしない桓騎や王翦はなぜ秦にいるのか

三浦さん「最近、GOに来る仕事で、組織改善のコンサルティングを依頼されることが多いのですが、解決法はシンプルです。待遇と環境と理念の3つの要素があるとすると、ハイパフォーマーは待遇が一番最後。ローパフォーマーはその逆で、年収を上げるとがんばります。ハイパフォーマーは外で何千万、何億と稼げてしまうから、待遇は関係ないのです。

つまり、桓騎や六将たちがなぜ秦にいるかという話で、待遇や理念だけではだめなのです。理念はよりよい理念を考えればいいのだけど、じつはここで大事なのは環境です。秦の中華統一という理念と、それを実現できそうな仲間たち、同じようなライバルがいることがすごく重要です。

王翦が一人で別の国を作るといっても、他に将軍が集まらないからできません。秦だったら自分はトップではないかもしれないけれど、中華を統一できるという夢に向かって走れるし、一緒に実現できる他の将軍たちがいる。そんな最新の組織論がそのままマンガになっているところが素晴らしいなと思います。

自分で組織を作るよりも、組織の中で仲間たちと切磋琢磨することが、結果自分の夢への近道になるということが描かれています」

南さん「理念が大事というのが、最初に仲山さんからありましたが、見ていると感じるんですよ。ベンチャーの世界だと、よくミッション=何を実現したいか、バリュー=そのためにどう振る舞うかなどと言います。

『キングダム』の中では、ミッションは中華統一だとして、バリューがとても優れていると思うのです。

たとえば信が乱銅を斬ったときに言うセリフ。あれこそがバリューです。『王様だろうが将軍だろうが関係ない、勝った奴が略奪するのは許さない』、そこで、会社の空気が決まってくると思います。

味方の狼藉を見過ごせない信は、同士討ちは重罪と知っても乱銅を斬る(18巻P158)

バリュー経営が生きているなとこのシーンですごく思います。めちゃくちゃ共感しますね」

琴坂さん「面白いのは、桓騎とか王翦など、ビジョンにあまり共感していなさそうな人たちも、環境によってキープしている。カルチャーフィットしていない人であっても、その人達がいることで組織が前進する」

南さん「リーダーのスタイルは、ミッションで引っ張る人、バリューで引っ張る人、待遇で引っ張る人だっているでしょうし、多様です。それを見ながら組織論を考えられるのが、『キングダム』の面白いところですよね」

仲山さん「信はバリュー経営で、かつ裏表がないタイプだから、これを言ったらキレるとか、わかりやすいですよね。OKとNGがわかりやすいから、羌瘣なんかも自由に動きやすい」

琴坂さん「『キングダム』で経営を語るときに気をつけないといけないことは、これは成功者が成功したストーリーであること。独立遊軍は信たちだけかと思ったら、そのうちほかにも2つあったことがわかります。でも、そのほかにも合計10つぐらいきっとあって、そのうち7つはきっと死んでいるんです。

この成功したように見えるストーリーの影には、ものすごく死んでいる人たちがいる。書かれたことをもとに想像して取り入れるのはいいと思うのですが、そのままコピーしてはいけないと思いますね」

史実とストーリーの間を考察する

三浦さん「ケースとして見たときに、史実として知っていることとして、李牧がキーになりますよね。壮大なネタバレ1つしていいですか? 秦が中華を統一するんですよ!」

(場内微妙な笑い)

誰もが認めるミスター・パーフェクト、李牧はこの先のキーマンに?

三浦さん「ということはですよ、作中でもっとも影響力があって、完璧な人間に見える李牧が、統一した側にはいないわけです。これが琴坂さんがおっしゃった、うまくいかなかったケースを想像しなきゃいけないということです。

今すでに、彼ら(趙)の組織のひずみは明白なわけです。そこがこれからどうやってドラマになるのか」

琴坂さん「政が呂不韋と加冠の儀の前に、人の世の本質について議論しているじゃないですか。結局そこから2000年たって何をしているかというと、経済の統一が世界を左右しています。結局、呂不韋が正しかったのかもしれません(笑)」

呂不韋の現代的な衝突回避法は、理想に燃える政には届かなかった(39巻P164)

南さん「僕もあれ見て思いました、呂不韋悪くねえなって」

琴坂さん「物語ではそうなっていませんが、もし、そうでなかった選択肢で物語を見ていくのもすごく楽しいと思います。歴史の ” if ”というのは多様に存在しています」

三浦さん「2周目3周目の読み方ですね、琴坂さん相当読んでますね!」

ベンチャーの社長として、大切にしたい感情

南さん「学者はそういう視点なのですね。僕はベンチャー社長的なポジショントークをしようと思います。僕はシンプルに、感情移入して読んでいます。

1,2を争う名シーンの蕞(さい)での政のスピーチ。あれは最高です。言葉で盛り立てるのは、社長の仕事としては最大だと思うからです。ああやって、蕞の民衆をも盛り立てる。

蕞の民衆を、言葉の力とカリスマ性で兵士に変える政(31巻P61)

戦いが終わったあと信に、政がぼそっと言うことがあります」

琴坂さん「(同意の目で)ああ〜わかる!」

南さん「俺は実は蕞に来た時、自分が民衆を奮い立てられることはわかっていた。わかっていた上で半分の民衆を殺してしまったと。それに対して、政は罪悪感をもっています。

自責の念にかられる政を励ます信(33巻P75)

あの感情がすごくわかります。ベンチャーの社長は、その感情を大切にしてほしい。

ベンチャー社長って、夢しか語れないのです。超大企業の人に年収半分とかで入ってもらうときに、やっていることはこれなんですよ。夢を語って、『やるぞ〜!』と。

その気にさせて来てもらうんだけど、内心、胸が痛むのです。その人の奥さんは大丈夫かな、家庭のことは大丈夫かなと。すごく胸が痛むのです。

でも信が、みんなわかっていて、ついてきていると思うと言います。その言葉に、政の気持ちがわかると同時に、信に励まされました。僕の経営者としてやってきたずっとチクチクしているところを代言してくれていると思いました」

琴坂さん「河了貂も同じようなことを言っていますよね。『戦場で指示するとき あらかじめどのくらい死ぬか分かってて 送り出してんだぞ』(23巻P187)という。これは損耗率の世界なので、非常にドライで、ガンガン人を殺して、どんどん人が死んで、しかし生き残った人間が夢を叶えていく。

だからこそ現代にこれを学問、経営として考えるのであれば、こういう気持ち、敗れ去っていく者たちの姿を忘れないでほしいです」

仲山さん「ビジネスではまさに消耗戦という表現を使いますけど、『キングダム』を読んでいると消耗戦とはこれかとリアルにわかりますよね。これは1位の人の戦術だなと思います」

真にイノベーティブな蔡沢、桓騎

琴坂さん「軍師的な人間としては、私は蔡沢が最高なんです。言葉ひとつで国を落とすみたいな。誰も死んでいない。外交力で統一していく。本当に最高です。彼こそイノベーティブです」

乱世でも各国とチャンネルを持ち、話の速い蔡沢は琴坂さんのイチオシ(25巻P71)

三浦さん「人を殺していくゲームをみんなでやっていくときに、殺さずして戦をとっていく。でもあのタイミングで蔡沢が物語から出ていくというところに、歴史の難しさがありますよね」

マーケティングの専門家として、コンサルをしていて思うのですが、戦をしているうちはだめなんです。戦略っていうけど、戦を略すと書いて、戦略ですから。いかに競争しないビジネスモデルを作るかというところが商売で、それでも戦わないといけないといけないときに、初めて戦術が必要になる。

そういう意味では、たまに出てくる桓騎とか、戦争のシーンが省かれていて、城を獲っているときがあるじゃないですか。あれがすごく重要だと思います」

仲山さん「僕もポジショントークをしますね。僕のまわりには楽天市場でネットショップをやっている方々がたくさんいらっしゃいますが、Amazonのことをいつやばいと思えたかが、ビジネスセンスじゃないかという話をしています。

輪虎(りんこ)のように見た目強そうじゃないと思えるサイズのときに、いつ、こいつは強い、やばいと気づけるか。Amazonは、どんな事業をしていても、いずれ競合になってくる存在だと思うんですよ。

その存在がいつ自分のビジネスにやばいと思えたかは、ビジネスセンスのリトマス試験紙的なものと思っています」

現代に通じる戦場のマーケティング

琴坂さん「名前を売っていくというところにも、学びがあると思います。ちゃんと四天王とか、三大天とかいいますよね。あれって別に中二病でつけているわけではなくて、自分のチームに名前をつけて、プロモーションすることによって相手に恐怖心を植え付ける。

槍で戦う前に、マーケティングで勝とうとしている戦略のあらわれで、正しいなと思います」

隊長の特性をとらえたネーミング「飛信隊」の名付け親は王騎(13巻P6)

三浦さん「敵の首を獲ったときに『飛信隊信が敵将◯◯の首を討ち取った』と周りに言え!というじゃないですか。あれってまさにPRで。価値は創造するだけじゃなくて、証明しつづけないといけない。

あるファクトをどう伝えることで、士気を下げたり上げたりするのも含めて学びですよね」

琴坂さん「キングダムで学ばないといけないのって、切った張ったではなくて、汗明のドドンドドンドン!なんですよ。自分も奮い立つし、みんなも奮い立つ。場を作り出し、戦う前に、勝負を決めようとすることです。刃を交える前にいかに相手に対して優位に立つか、そのための工夫ですね」

派手なコール&レスポンスで場が最高潮になったとき、楚の巨人・汗明が登場する(29巻P90)

三浦さん「ICCサミットは違いますが、ビジネスカンファレンスの最初にもやったりしますよね。やっぱり南さんも、会社の総会でやらないといけないんじゃないですか?ドドンドドンドン!」

琴坂さん「ミナミ!」

三浦さん「誰が強いのか!?」

南さん「ミナミ!」

三浦さん「ココナラ!」

(一同笑)

『よいか?』でわかる王翦の部下への信頼

三浦さん「僕の好きなシーンを話していいですか?1つは王翦が鄴(ぎょう)を視察しに行って城を見て、すぐに落とせない、どうしようかとなったときに、ここで?というところで企画書を書き始めるのです。

そこに敵が出てきて、うわぁ見つかった!逃げろというところで、亜光に『よいか?』と聞くと、亜光は『心ゆくまで』と答える(笑)。いやもう、まじか!?と思って、最高のシーンです(笑)」

腹心の亜光は王翦を理解して、いかなる環境でも希望を叶える(47巻P160)

(絵を見て一同爆笑)

三浦さん「『心ゆくまで』と言ってくれる部下が自分にいるかという話なんですよ! よく、マネージャーは現場の人間に『適当にやっといて』と言うじゃないですか。その『適当に』というのは、そんなに頑張らなくていいよじゃなくて、1億個ぐらいの指示が入っているわけですよ。

ちゃんとフォローの連絡入れてね、かっこいい資料にしてね、とはいっても時間はかけすぎないでね、経費もちゃんと落としてねとか、いろんなことがあって、頼むよ、お任せと言っているわけです。ものすごいハードルの高い指示なのです。

この1コマにはそれが凝縮されています。

周りは血みどろなのに、粛々と考えているのですよ!どういう自己中なマネージャーなんだ……」

(一同爆笑)

琴坂さん「王翦がちゃんと『よいか?』と尋ねているのもポイントです。周りを無視していない。相手を信頼していて、君はこれがマネージできるのかと聞いている。ちゃんと余裕のある状況なわけです」

仲山さん「ただの指示じゃないというわけですね」

三浦さん「そうか! 俺、聞かないでやっちゃうときあるんだよな!なんで心ゆくまでやらせてくれないんだよと思ってた! 『心ゆくまで』に今まで目が行っていたけど、『よいか?』が大事なんだね、琴坂さん!」

琴坂さん「これ重要です!聞いてもだめなときは、だめと言われます」

三浦さん「今日来てよかったな!これで、僕が『よいか?』といっても、部下が『今じゃない』という場合もあるんだね!」

南さん「この関係めちゃくちゃ美しいですよね。ここまでのNo.2の存在」

三浦さん「近いメンバーだけでなく、欲をいえば、近い人たちだけでなく、現場でもここまできてほしいんですよね」

リーダーをリーダーたらしめるものとは何か

三浦さん「もう1つ好きなシーンは、蕞の攻防戦。みんな政の演説とかに目が行きがちなんですが、飛信隊が戦っていて民兵がほとんど死んでしまっていたとき、信が『やったなお前ら、ついに本領発揮できるぞ』というのです。

万事休すの状況から死力を尽くそうとする信(32巻P94)

俺たちはいつも追い詰められてきた、だから今こそがいつもどおりの活躍ができるぞというシーンです。仕事ってうまくいっていないときがデフォルトだなと思っていて、ピンチこそデフォルトというのが仕事っぽい。

僕たちはクライアントさんから相談を受けるときに、よそでうまくいかなかったことのリカバリーを考えることが多いのです」

南さん「奮い立たせるために言っているところもあるだろうけれども、信はある程度これを信じて言っている。部下を殺すリーダーでもあります。

僕も前職で言われたことがあります。リーダーは本当に苦しいと思ったとき、絶対に苦しい顔をするなと言われました。しんどい時は、、みんなお前を見ているんだぞと。本当に苦しくなったらオフィスを出て散歩して、楽勝じゃん面白くなってきたね、と思えるようになったら戻ってきていいと。

僕は顔に出ちゃうほうなので、やばいと思うとオフィスを出るようにしています。内心はズタボロでもいい顔するのがリーダーの仕事と思っています」

琴坂さん「もう1つあのシーンで重要なのは、リーダーをリーダーたらしめるものは何かということだと思います。ファーストフォロワーズの存在です。リーダーが上に上がるとき、中核になる数人が一緒に階段を上がっていきますよね」

ついに表紙になったファーストフォロワーズ、飛信隊コアメンバー

仲山さん「信はジグソーパズルでいうと、凸も凹もはっきりしているから、まわりが凹を埋めにきてくれるような関係性ができている。

本人に凹の自覚がないのも面白いですよね」

三浦さん「今売れているマンガは、『ワンピース』のルフィとかもそうですが、凹を自覚的にうまく表現できていて、仲間を巻き込めている」

南さん「昔のマンガは、主人公はもっと完璧なのが多かったですよね。(キャプテン)翼くんとか。何でもできる」

仲山さん「飛信隊のいいところ、観察ポイントとしては、心理的安全性とはなにかがわかりやすく描かれています。信は、部下の兵隊からお酒飲んでいる時に、真剣にダメ出しされていますよね。リーダーに何を言っても許されるし、何を言ったらだめなのかが明白なので、安心していじれます」

連戦負け続きがの原因がわかり、リーダーの信に総ツッコミする飛信隊(23巻P96)

自分なら、どの武将、どの隊で働きたいか

ICC小林「この武将には仕えたくないというのはありますか?」

琴坂さん「そりゃ桓騎ですね」

三浦さん「でも桓騎は、仲間の死は最低限に抑えてますよ?やっていることはめちゃめちゃ過激で過剰ですが、戦自体を減らしているし、敵も死んでいない。金品略奪はモラルとしてはNGだけど、いってしまえば組織においての副業OKってことだと思う」

(一同笑)

飛信隊って、給料は安いけど、夢に向かって、むっちゃがんばってフルタイムでコミットしろよっていう会社なんです。副業厳禁だし。

一方桓騎隊は、最低限のやり方で期待値あげてきっちり上場するんだけど、お前ら午後は副業OKという会社です。めっちゃ理想の組織です」

南さん「確かに……!」

三浦さん「で、いざとなったら想定外の戦略で、え、ここの業界攻めるの?そっちから金取るの?みたいなやり方でイノベーティブなんですよ」

変装して敵の懐中に入る作戦が得意の桓騎隊(28巻P122)

南さん「確かに……!全然血が流れていないですよね」

三浦さん「そ。だから桓騎隊は理想の組織。部下も文句は言うけど信頼しているし。心配ねえ、全部うまくいくって言ってくれるし」

(一同納得の雰囲気)

琴坂さん「それでいくと、飛信隊は結構死んでいますよね」

三浦さん「飛信隊は組織として終わっていますよ!」

南さん「でも成功するスタートアップっぽいですよね。みんな死んでいくんだけど、でもみんなの思いを胸に俺たちはやる!みたいな」

(一同笑)

仲山さん「ジャイアントキリングは起こしますよね」

南さん「起こすし、勝つし、最後までいっちゃうけど、その過程でかなり死んでいる。かなりスタートアップっぽい」

三浦さん「僕は飛信隊の信は好きだし、楽しそうだけど、入りますか?って言われたら何社か見比べた上でって答えちゃうなあ。年収、マジすか?ってなりそう(笑)」

ICC小林「やっぱり三浦さんは桓騎隊ですか」

三浦さん「そうね…組織としてはよくできているかと」

南さん「僕らのスタートアップっぽいのと、三浦さんの独立系っぽいのの違いだと思います。エクイティ(※)とキャッシュの世界の差というか。

▶編集注:企業が新株を発行して、事業のために資金を調達する返済義務のない資金調達のこと。

スタートアップはひょっとしたら死ぬかもしれないけど見えない夢を追う、ストックオプションあげても99%の確率で紙切れになるけど夢を追ってがんばるみたいな世界です。飛信隊はエクイティを調達したスタートアップみたいなものですよね。

キャッシュだと、きっちりとレバレッジかけて成果を出して、大金をもらって、給料もそれなりによくて、効率よくでかいキャッシュを稼ぐようなことだと思うんです」

成功しているチームはNo.2が優秀。李牧は…

仲山さん「上司に恵まれていないといえば、李牧じゃないですか」

南さん「李牧が、政に会ったときに『本当はあなたのような人に仕えたかった』と言うじゃないですか。だめな上司に仕えたNo.2の悲哀ですよね」

知略と武勇を兼ね備えているが報われない李牧(45巻P162)

三浦さん「李牧はNo.1っぽく出てくるけど、No.2であることにあのキャラの面白みがありますよね」

琴坂さん「しかもね、李牧は、あぁ…ネタバレになっちゃうか? なっちゃうかもしれない。いや、なりますね」

(一同爆笑)

三浦さん「あー!わかった!あれ、あれはいいシーンなんですよ!」

南さん・仲山さん「言っちゃダメダメ!」

南さん「李牧は、だめな企業で実際を仕切っているNo.2みたいなんですよね」

三浦さん「そういえば先日、わりと大きいスタートアップのNo.2の人たちと食事したときに、めっちゃ李牧の話をしてた!(笑)でも組織の器はNo.2が決めるといいますし、重要なポジションですよね。No.1はどこもそこそこ優秀なんですよ。

No.1とNo.2は、かなり差が開いてしまうことがある。No.1は、こうやってICCサミットとかに来ることができるけど、No.2は得てして組織の内側に目が向いてしまいがち。No.1と同じ視座を持つために、No.2は同じくらいの質と密度の経験を積むことが、組織の成長をものすごく早くします」

仲山さん「さっきの『立って戦え!』の麻鉱軍はNo.2がいないので、麻鉱がいないと組織が崩壊してしまう」

三浦さん「桓騎、王翦、蒙恬にしろ、愚直でいい爺やとか、優秀なNo.2がついていたりする。組織のNo.2って、外に目が向いているほどいいんだと思います。No.1と同じ視座を持とうとするのだけど、それが無理でも組織をきっちり固めて、No.1が外に羽ばたけるようにしてあげる。

No.1の言っていることをきっちり組織に伝えられる。やっぱり成功している部隊って、No.2がいいんですよ」

質問タイム

グッドパッチ 土屋さん「実写では李牧役は誰が演るでしょうか?」

三浦さん「福山雅治あたりじゃないかなぁ?」

琴坂さん「映画は、大沢たかおの王騎の再現性はすごかったですよね」

仲山さん「顔だったら、アンミカのほうが似ていますよね」

(一同爆笑)

体もすごいが顔もすごい王騎(5巻P40)

南さん「実写版の成蟜(せいきょう)もすごくよかったですよね。壁はちょっとかっこよすぎだけどよかったし、ちらっとだけど騰もよかった」

映画「キングダム」公式サイト キャラクター

住友生命 藤本さん「李牧が負けて田舎の視察役に飛ばされる場面で、李牧は実はこういうのが好きなんだと笑顔で前向きです。南さんのおっしゃった苦しいときの笑顔というのもありますが、失意のときのリーダーシップってどんなものでしょうか。

琴坂さん「『キングダム』では主要なリーダーが全員叩き上げなので、どのキャラクターもそういう場面は経験しているから、ああいう描写になるのではと思いますね」

三浦さん「リーダーにとっては、失敗は成功の力だという物語が必要なんじゃないですかね。主要キャラは逆転の布石のように、失敗でニコっと笑っていますよね」

土屋さん「壁じゃないですか?失敗といえば」

ICC小林「壁の失敗からの逆転は、感動ですよね」

いろいろな人とうまくやっていける壁は、痛い目も見るが助けられてもいる(53巻P160)

三浦さん「何が感動的って、最後にフィゴ王がちょっと譲るんですよね。リーダーシップを再現させてあげようとする。失意を取り戻そうという本人の馬力と、周りが取り戻させてあげたいという応援もありましたよね。

スタートアップで1回失敗したとしても、失敗って学びの機会でもあるじゃないですか。たとえば土屋さんがすべてを失って野に堕ちても、出資する人がいると思います。

失敗しても立ち上がれるだけの環境や信頼を持っていることが大事で、壁ももう一度、こいつを男にしてやろうという積み重ねがありました」

琴坂さん「信も乱銅を斬ったときなども降格になっていますが、筋が通っているから戻ってきている。出世という意味では失敗なのですが、逆に信頼が高まっている」

三浦さん「失敗すると失ったものに目が行きがちですが、逆に得たものを考えるのも大事だと思います」

もし王騎が生きていたら、秦は終わっていた!?

ベイン&カンパニー 井上さん「琴坂先生が、さきほど物語の大きな分かれ道の話をされていたことに興味があります。もしも、王騎将軍が死んでいなかったらどうなったと思いますか?」

(一同 好質問にどよめく)

仲間に言葉を残し、自身の矛を信に委ねた大将軍・王騎(16巻P181)

琴坂さん「王騎が死なないと、蒙驁が出ないから、桓騎・王翦が出世しない可能性があり、趙に対して王騎がああいう攻め方を許容するかどうかと思うので、逆に中華統一は遅くなるのではと、今ちょっと思いました」

南さん「蒙武が覚醒しきれなく終わる気がする。王騎の死によって蒙武は変わったから」

琴坂さん「そうすると、ドドンドドンの汗明にやられちゃいますね」

(一同笑)

三浦さん「今の話を総合すると、秦は函谷関で負けると思う。絶対的なNo.1リーダーがいなくなったことで、秦はネットワーク型の組織になって、それが勝利につながったと思います。

楊端和、桓騎、王翦、各将が、全員が全員自分の判断で動いたじゃないですか。王騎の死によって、まさにアメーバ型の組織に変わったのです。それが勝利を生んだ。

王騎がいたら、途中まではガーッといって、函谷関で負けて秦が終わっていた気がしますね」

南さん「それっぽい!今のまとめ、めちゃくちゃいいですね」

琴坂さん「見えちゃった! これが見えるとあと100回も200回も読み直せますね(笑)」

今日の学び

南さん「見直す楽しみが増えました。カク備に光を当てるのもそこかと思ったし、違うシナリオを考えるとか思ってもみなかったので、読み直す楽しみが増えてうれしいです」

三浦さん「僕からお願いしたいことは、コミックスを買っていただきたいということです(真剣)。

今日の学びは、部下に無茶振りするときは1回『よいか?』と聞くことですね。なんで『心ゆくまで』といってもらえないんだとキレていましたが、よいか?という確認が必要だった! 勉強になりました」

琴坂さん「僕の学びは、『キングダムは経費で落とせそう』ということです(笑)

あと、最後に繰り返すと、『キングダム』はあくまで議論の契機であり、これをコピー&ペーストするものではありません。ストーリーを通じて、違う選択肢やストーリーを考えたり、見えなかったものを考えるときに、無限の可能性を秘めている本ではないかと思います。何回も読んで楽しんでください。そこから自分なりの理解を組み上げることができる作品だと思います」

仲山さん「今日の印象的だったことは、まさに三浦さんが『よいか?』の存在に気づいたシーンです。みんなで集まっておしゃべりすることによって、自分一人では気づかなかった視点、視座に気づく。見え方が重層的に、立体的になりました」

琴坂さん「いや〜楽しかったですね! 職業柄こんなにマンガについて話すことはないので、本当にありがとうございました(笑)」

仲山さん「シリーズ化できそうですよね。スピーカーも変えて」

ICC小林「『よいか?』(笑)」

琴坂さん「他のマンガでもできそうじゃないですか?(わくわく)」

仲山さん「僕、すでに登壇したいマンガがあります!」

大盛り上がりのうちにディスカッションは終了しました。

このディスカッションのなかで三浦さんがおっしゃっていたことで、個人的に印象的だったのは、三浦さんが作者の原泰久さんに『キングダム』の今回のキャペーンについて話をしに行ったときのエピソードでした。

三浦さん「何が面白いって、原作者の原さんは、ビジネス書なども読まれないし、そういう意識がまったくないのです。

もともとサラリーマンだった方ですが、ビジネスマンにすごく読まれているし、今回ビジネス書として売りましょうという話をしたときに『えーっ!それ大丈夫ですか?』とおっしゃったのです。『僕も実はビジネスマンに読んでほしかった』ではないのです。

ただ面白いものを作ろうとした結果、ビジネスマンたちが深読みしているというのが面白い。僕らが勝手に解釈しているのです。強いコンテンツとか、歴史に残る書物ってそうで、無限の解釈が生まれているものは強いんだなと思います」

軍師琴坂さんからは、経営書として『キングダム』を読むにあたり、こんなコメントもありました。

琴坂さん「信たちは前線にいるとき、最初、ひたすらちゃんと斬るというところでバリューを出しています。やがて管掌する領域が大きくなっていくと、組織でも同じですが、どれだけユニークなキャラを適切に配置するかで、成功する確率を重ねていきます。

なぜなら、これは確率論のゲームだからです。そこで右翼と左翼など、打ち手をどういくつも用意しておくかが大事です。その流れがとらえやすいスペースで、じゅうぶんな描写で描かれている。そこが『キングダム』の経営書としての価値を高めていると思いますね」

強いコンテンツは、あらゆることが学びの題材となります。経営論と言って始めたディスカッションですが、まさに読む人の解釈しだいで、さまざまな受け取り方ができるからこそ、『キングダム』は子どもから大人まで魅了するコンテンツとなっているのでしょう。

大人気マンガを題材に語るという、ICCにしては当初やや軟派な企画かと思われましたが、スピーカーや会場のみなさんの熱さと『キングダム』愛によって、相変わらず熱量の高い討論となりました。

パーティフードも中華で統一しました

ディスカッションのあとの懇親会では、中華料理と紹興酒を手に、あのセリフがいい、好きなキャラクターについて語りたい、「キングダム占い」で自分は誰になった、どこまで読んだなどなど終わらない議論が続いていました。以上熱い現場から、占いの結果は王騎、好きな武将は騰の浅郷がお送りしました。

(終)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成

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