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京都丹後の手仕事集団がグランプリ!優しさと情熱に満ちた、第3回CRAFTED カタパルト【ICC FUKUOKA 2020レポート#10】

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2月17日~20日の4日間にわたって開催されたICCサミット FUKUOKA 2020。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。今回は、2月19日に開催した、第3回目となるCRAFTEDカタパルトの模様をお伝えします。日本全国から集まった、モノづくりに携わる”CRAFTED”な企業8社からは、つくるだけに留まらない新たな潮流が見えてきました。ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2020は、2020年8月31日〜9月3日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

ICCサミット FUKUOKA 2020 開催レポートの配信済み記事一覧


第1回目はMinimal山下さん、前回は一平ホールディングス村岡さんが優勝し、今回3回目となったCRAFTEDカタパルト。このカタパルトの特徴は、登壇者はもとより、スポンサーも、審査員も、おそらく会場に集まる多くの方々も、何らかの意味でモノづくりや体験づくりに関わっていることである。

CRAFTEDカタパルトの登壇者たちは、尋常ではない労力や想像力、努力を重ねて、使い手の私たちにまで想いを馳せ、暮らしに豊かさや喜びをもたらしてくれる。とことんまで突き詰めてきたから、語れることはたくさんあるけれど、普段は現場でひたすら己の”CRAFTED”に向かう人たちだ。

カタパルトが始まる前に、スポンサーであるLEXUSの沖野さんは、卓越した技術に裏打ちされた、精緻な造り込みをするCRAFTSMANSHIPと、日本の歴史が育んだ、相手のことを慮る美意識であるTHOUGHTFULNESSの2つをもって、お客様が求めるものにお客様以上に思いを巡らせることがCRAFTEDであることを語った。

当初、このカタパルトは物理的に存在するプロダクトを作っていた人たちが中心だったが、CRAFTEDの精神に触れて共感する人たちが増え、”サービスを創る””産業を創る”自分もCRAFTEDの一人であるという認識で、参加する人が増えている。意義も想いもたっぷりあり、素晴らしいプロダクト、サービスとの出会いは保証付きだ。

沖野さん「優しさと情熱に満ちたクラフテッドコミュニティへ、みなさんも加わってくれるとうれしいです」

沖野さんはキーノートスピーチをそう締めくくった。

8人のCRAFTEDなプレゼンターが登壇

ここから始まった、8人のCRAFTEDなプレゼンターたちを、登壇順にプレゼン動画の見どころとともに一人ずつ紹介したい。

1年で流通額8.3倍! 品質の高い生産者が評価されるマーケットプレイス「食べチョク」

ビビッドガーデンの秋元 里奈さんは、昨年この場所で「スタートアップ・カタパルト」に登壇した。そのとき入賞はならなかったが、野菜だけから肉、魚、酒類の取り扱いも開始してサービスを作り込んで1年前から流通額が8.3倍に伸びたといい、食品のクラフテッドコミュニティを順調に育んでいる。

中間マージンが多く収益率が低い農家と、新鮮かつ安価な野菜を求める人たちをマーケット・プレイスに集めて直売する。そこは作った人のこだわりや、食べた人の声が直接届く理想郷でもある。さらに「品質の高い生産者ほど売れる=こだわるほど儲かる」を目指すチャレンジについては、ぜひ動画でご確認いただきたい。

ビビッドガーデン秋元さんのプレゼン映像

過剰在庫のある、いいモノづくりの産業に循環を。家具の月額制レンタル「airRoom」

Elaly 大薮 雅徳さんは、いいモノづくりでありながら過剰在庫のある産業に循環をもたらすプラットフォームづくりを目指している。プレゼンで紹介された「airRoom」は、月額制家具レンタルで、配送組み立て設置が無料、プロのインテリアコーディネーターからアドバイスがもらえるというサービスだ。

いいモノづくりが手の届くものになれば、十分ニーズはあるということがわかる、月次収益の驚くべき成長率は、ぜひプレゼンでご確認を。レンタルの形でありながら、メーカーは在庫を流通できるだけでなく、今まで入ってこなかったユーザーの声を集めて、次のモノづくりへ活かせるという仕組みだ。

Elaly 大薮さんのプレゼン映像

【優勝】織り機も商品もすべて手づくり!唯一無二の“丹後の美しい手仕事”を世界に発信する「KUSKA」

京都丹後ちりめんの技術でネクタイを作るクスカ楠 泰彦さんは、おそらく最もリスキーな賭けに出たモノづくり職人だ。東京で就職したものの、地元の織物業が最盛期の3%まで生産量が落ちたことに危機感を覚え、29歳で家業を継いでいる。

独自性の追求と流通を目指して、楠さんはあえて誰も選ばないような驚くような破壊と再構築から、家業を復活させ世界に挑んでいる。最後のメッセージは、あらゆるモノづくりに携わる人達に深く刺さったに違いない。ドラマのようなストーリーはぜひ映像で。

クスカ楠さんのプレゼン映像

福岡という街を日本酒で表現!糸島産山田錦で醸す「田中六五」

白糸酒造の田中 克典さんは、福岡のみならず、全国でファンを着々と増やしている、日本酒「田中六五」(全国で特約店18店ながら10年間で生産量100倍!)を醸す酒蔵の六代目。プレゼン中は審査員席に一杯の田中六五が配られた。

福岡っ子が愛する地元の日本酒、白糸酒造「田中六五」の酒蔵を見学してきました【活動レポート】(下見のレポート)

田中さんはこういった場で話すのが本当に苦手らしいと思われる、話が進むほどに緊張感が高まってくるプレゼンだ。翌日酒造見学ツアーに参加した方々は、別人のように熱く語る姿を見て驚いたに違いない。プレゼンで使用したストイックなデザインのスライドからは、酒造りに通じるこだわりが感じられる。

白糸酒造田中さんのプレゼン映像

【3位】狙うは8兆円の全米コーヒー市場。日々の抹茶を通じてサステイナブルな世の中を「Cuzen Matcha」

World Matchaの塚田 英次郎さんは、スタートアップ・カタパルトに続いて2度目の登壇。日本の茶農家の課題を海外で解決する茶葉のサブスクリプションをもって、抹茶のさまざまな飲み方ができる価値の提案、健康訴求は言わずもがな、アメリカだけでも8兆円あるコーヒーの市場への挑戦を伝えた。

抹茶メーカー「Cuzen Matcha」のイノベーションは、抹茶を美味しく点てる難しいプロセスを手軽に実現できることにある。その模様はぜひ動画でご覧いただきたいが、ミルで挽きながら抹茶を撹拌する見た目のおもしろさ、スタイリッシュなマシンに注目が集まった。

World Matcha 塚田さんのプレゼン映像

最高に美味しいクラフトアイスクリームに、豊かな体験と未来への希望を託す「HiO ICE CREAM」(HiOLI)

HiOLI西尾 修平さんは、自由が丘でクラフトアイスクリームの工房を営んでいる。濃厚でありながら後味の軽さが特徴の、美瑛シングルオリジンのミルク味がシグニチャーテイスト。プレゼンでは工房兼ショップで提供する豊かな体験価値、未来へつなぐモノづくり、冷たいアイスクリームに込めた温かな想いを伝えている。

西尾さんは、マスでも職人の個人商店でもなく、需要と供給が揃う範囲で拡大再生産を目指すクラフトが、モノづくりの流れとして第3の波になるということを確信している。映像中で語られる3点のクラフトアプローチは、プロダクトは違えど、モノづくりに関わる誰もが目指すところだろう。

HiOLI西尾さんのプレゼン映像

【2位】小さな地方のベーカリーたちと“クラフトブレッド市場”を創り出す「パンフォーユー」

1年前のスタートアップ・カタパルトに登壇したパンフォーユーの矢野 健太さんも、舞台を換えて再登場。立地や店舗面積に売上が左右される地方のベーカリーのパンをオフィスに配送するサービスに加えて、個人需要を見込んだ展開やOEM(他社ブランドのための製造)に着手、「クラフトブレッド市場の創造」というモノづくりに挑んでいる。

成長拡大の背景は、大規模メーカーにしかなかった冷凍パンの技術を、小規模ベーカリーにも解放したことある。その結果、こだわりのベーカリーのパンを販売したいというニーズが、海外含めさまざまな業界から顕在化したという。プレゼン後半では、市場をともに盛り上げたいとする、現場との温かい絆が感じられる。

パンフォーユー矢野さんのプレゼン映像

消費者は生産者に。モノづくりに循環を生み出す瀬戸内発デニムブランド「EVERY DENIM」

EVERY DENIM山脇 耀平さんは、実の弟とともに、地元のモノづくりが誇りをもった産業になりづらい課題に、大好きなデニムづくりから解決を試みている。

近年のSDGsの流れで話題になっている年間33億着の衣料品廃棄。その現状への提案として、2020年は1万着のデニム製品の回収をして生地を糸に戻し、デニムを再生産するという。しかしそれが彼らのゴールではない。

目指すのは、消費者が生産者となることで、モノづくりの豊かな輪の一員であることへの目覚め。生産者は綿を育てる人や縫う人だけではないという、これからのモノづくりの意識改革を呼びかけた。

EVERY DENIM山脇さんのプレゼン映像

クラフテッドコミュニティからの感想

今回のCRAFTEDカタパルトでは、登壇者のプレゼンとともに、さまざまなサンプルが審査員席に配られた。ビビッド・ガーデンからは「食べチョク」で取り扱っている野菜、白糸酒造からは一杯の田中六五、World Matchaからは抹茶、HiO ICE CREAM、パンフォーユーのパン。

忍者のようにスタッフがサンプルを配っては下げる。最後のほうは、登壇者から「コース料理みたい」と、笑い声が上がっていた。投票を終え、LEXUSのブランドムービーを観たCRAFTEDコミュニティの審査員たちからは、プレゼンの感想と、温かい激励が登壇者たちに贈られた。

まずは、前回優勝者の一平ホールディングスの村岡浩司さんから。

【速報】“KYUSHU”の魅力を農業資源×伝統技術で世界へ「一平ホールディングス」が第2回 CRAFTED カタパルト優勝!(ICC KYOTO 2019)

「一見、地味なのですが、さまざまなモノづくりから情念が感じられて、どのプレゼンも感動しました。聞いている途中でぐっとこみ上げるときが何度もあって素晴らしかったです」

Minimalの山下さんは、第1回目の優勝者。次々に出てきた試食について聞かれている。

【速報】生産者と共に創る「Bean to Barチョコレート」で“本当の豊かさ”を追求するMinimalが初開催「CRAFTED カタパルト」優勝!!(ICCサミット FUKUOKA 2019)

「お腹いっぱいです(笑)。クラフテッドというのを自分なりに定義して、それぞれ研ぎ澄ましたメッセージが感じられて素晴らしいなと思いました。甲乙つけがたったです」

食の話題が出たところで、オイシックス・ラ・大地の西井さんにマイクが向けられた。

「すごく時代に合った、”今ならでは”で、できることをお話いただいておもしろかったです。オイシックスでもコラボしたいなと強く願いました」

ICC初参加のクスカの楠さんは京都出身ということで、京都在住の電通の各務さん。

「今日皆さんのサービスを拝見して、使いたいな、こういう商品が揃うような生活がしたいなと思いました。そんな文化を紹介するメディアを今度作るので、ぜひ取材させてください」

作り込まれた世界観、生活の提案といえば、クラシコムの青木さんだ。

「ブランディングだけではないマーケティング上のイノベーションと、技術的なイノベーションを同時に起こそうとしているのが印象的でした。その2つを合わせていくときに、まったく違う意味の豊かさが生まれるという感動がありました。我々もそういうことができたらなと思いました」

旭酒造の櫻井さんは、獺祭を造り上げる感覚に通じるものを、登壇者たちから感じたようだ。

「みなさんのお話を聞いてすごく面白いと思いました。クラフトの意識を変えようという執念をみなさんから聞いて感激しています」

審査員コメントの最後は、三星グループの岩田さん。

「今回登壇されたうち知っている人が半分、知らない人が半分だったのですが、全員に驚きがありました。知っていてもこんなふうに進化している、知らない人はこんな面白いことをやっている人がいるのかという驚きです。すべてがアメージング・エクスペリエンスで、とても楽しませていただきました」

スポンサーのLEXUSのキャッチフレーズをうまくもじったコメントに、会場は笑いに包まれた。

「職人の現状を変えたい」(クスカ楠さん)

誰もが自分自身のCRAFTEDを極めようとしているという、お互いを称賛する温かい雰囲気のなか、入賞者が発表された。優勝した楠さんは緊張したと語るが、それでもなお伝えたいメッセージがあった。

「今回は、お呼びいただいて感謝です。普段はサーフィンで2時間ぐらい海に入っていますが、このプレゼンの7分間が、その2時間と同じぐらいに長く感じました。

京都の丹後は10万人の都市で、全盛期はよかったのですが、今は産業が疲弊してしまい、40年、50年と続けている職人が、高校生のアルバイト代ぐらいで働いています。その現状を変えたいです」

続いて、優勝賞品となる、東京都・南青山のBRAND体験スペース「INTERSECT BY LEXUS 一日貸切利用&各種イベント無償サポート権」を、LEXUS沖野さんが贈呈した。

沖野さんは、自身が登壇したSession 4F「『コンテクストデザイン』を考える」や、前夜のCRAFTED MEETUP NIGHT in Garraway Fのイベントで盛り上がった発言をもじって、尊敬を込めた「織物バカ」という言葉を楠さんに贈った。

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「今日は偶然ネクタイをしてきたので、良かったなと思います。クスカさんは、クラフテッドの魂が突き抜けていて、ある意味”織物バカ”ですね。そこまで突き抜けると強い。

そこまで行くと、世界の人に新しい発見を作ると思います。これからもがんばってください」

CRAFTEDカタパルトの授賞式は、皆、笑顔で終わる。内心は悔しいのかもしれないが、登壇者たちはお互いを称え合い、モノづくりへの想いをもったCRAFTED コミュニティに温かく受け入れられていった。

みんなで一緒に新しい価値を創造を

授賞式のあとは、クスカ楠さんが恒例の映像インタビューに答えていた。

「我々のモノづくりを、1人でも多くの方に知っていただくのが重要だと思っているので、今日も多くの方々に伝えられてとても感謝しています。今日はしっかり、わかりやすく伝えることにフォーカスしました。

弊社のブランドを日本だけでなく、世界中に発信できるような活動をしていきたいです」

東京で就職し、趣味のサーフィンのため戻った地元で、地場産業の窮状を知り、家業を継いだ楠さん。熟練の職人でも1日に2〜3本しか織れないというKUSKAのネクタイを締め、根っからファッション業界の人と言われても驚かないスタイリッシュな出で立ちだ。

しかし楠さんは、独自性の追求のため、廃業寸前だった家業の財産である織り機を鉄くずにして捨ててしまい、木を削って自分たちの要求を満たす木製の織り機を作っている。相当きている人なのである。

その楠さんをCRAFTEDカタパルトにと紹介してくださったのが、三星グループの岩田さんだ。

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「友人の誘いで丹後に旅行に行くことがあり、そのときに楠さんを紹介されました。

岩田さんは繊維だから絶対に面白いと思う、やばい人がいると言われて、工場を見学させてもらった瞬間に、これはやばい、もっと多くの人に伝えたいと思いました。そしてICCのみんなと一緒に、新しい価値を作っていければいいなと思って紹介しました。

優勝は、正直想像していませんでした。衣食住いろいろあるなかでも、繊維というのはなかなか価値が認められにくいと思っていたし、しかもみなさんがもう使わない、ネクタイというアイテムだったからです。

でも優勝した。同じ繊維業なので、すごく勇気づけられました。次はどうやって広げていくかが共通の課題ですね」

観客の中には、この日偶然にクスカのネクタイをしている方もいた。ファクトリエの山田さんに教えてもらって買い、非常に気に入っていて大事な商談のときに使っているという。

「ああいう社長だとは全然知らなかった。いいものを追求する人は、つながっているんですね!」

多様な背景の人たちが、自分にとって大切にしたいことを極めていくと、同じところへ行き着くというのは、決して偶然ではないだろう。むしろ自明の皆が目指すゴールなのに、さまざまな環境や事情が、そこへ行き着く道を複雑にする。

それを複雑だ、つらいと言わず、情熱をもってやり抜こうとする人たちだからこそ、クラフテッドコミュニティは優しい。それを豊かさと呼べるのは、真剣にモノづくりに取り組む仲間たちがいて、その努力に気づき、感謝し、評価する人たちがいるからなのである。

(終)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成

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