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2020年12月某日、ICC一行は、関西へとオフシーズン恒例の2泊3日CRAFTED TOURへ出かけました。今回訪問したのは、CRAFTEDカタパルトを中心に次回登壇いただく企業を中心に6社です。DAY1の2社目は、カーペットの暮らしの素敵さを伝える「堀田カーペット」です。ぜひご覧ください!
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回200名以上が登壇し、総勢900名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2021は、2021年2月15日〜2月18日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
大阪泉州は、大阪市の南側に位置する、関西国際空港も含む6市4町、和歌山県に面するエリア。大都市に近いこともあり、古くから繊維の一大産地として知られる地域です。大阪市内から車で南下すること1時間弱、大阪府和泉市にある堀田カーペットの本社工場に到着しました。
最近の住宅は、掃除のしやすさやアレルギー対策からカーペット敷きではなくフローリングが多くなってきており、インテリアや模様替えのために、ラグを使っているという人が多いのではないでしょうか。お子さんやペットのいる家では、クッションフロアや洗えるラグを使っている場合も多いですよね。
カーペットと聞くと、ちょっとレトロなイメージがあります。オフィスに到着すると、古くて新しいような、スタイリッシュなロゴが入ったカーペットが入り口で迎えてくれました。
通された部屋には、さまざまな織りや柄のじゅうたんの生地や、年季の入ったカーペットを作るための道具と思しきものが置かれています。改めて見ると、カーペットには様々な織り方や厚さのものがあります。
サンプルなのか、小さくカットされたカーペットは、ひと目でウールとわかる高級感ある素材です。早速、3代目 代表取締役社長の堀田 将矢さんにお話をうかがっていきましょう。
カーペットの歴史と知識を学ぶ
現在、車のマットやサッカー場の人工芝などを含む日本のカーペットの80%は、大阪で生産しているのだそうです。
堀田さん「江戸時代に中国から渡ってきたじゅうたんは、幕府のお殿様が座る畳の上に敷いたりするものとして使われました。鍋島緞通で知られる佐賀、兵庫の赤穂、ここ堺、山形が4大産地ですが、鍋島と赤穂は上納するため庶民には渡らなかったそうです。
堺が消滅せず残ったのは、流通が出来上がったからです。京都の西陣に、織物の技術者が近くにいたのも大きな理由だといわれています。」
現在、堀田カーペットが作るものは、その4割が5つ星ホテルやブティックなどの特注品として敷き込まれています。残る6割は自社ブランドやOEM。そういえば高級なホテルには、ふかふかのじゅうたんが敷き詰められているイメージがあります。
堀田さん「ウィルトンという種類のカーペットを作っています。1962年の創業当初から使っている織機は、日本にもう20台くらいしかないのですが、そのうち8台が弊社で稼働しています。全盛期の1970年代には産地に400台ほど稼働していたらしいです。
現在ウィルトン織りカーペットの織機をメーカーは、ヨーロッパに数社となりました。ウィルトン織りは、いろいろな種類の糸が使えて、テクスチャーの表現に富んでいるところ、耐久性が魅力です」
ウィルトン織りって何? そもそもカーペットの作り方は、そんなに種類があるもの? ここから、堀田さんによる、カーペットの基礎知識をダイジェストでお送りします。
カーペットの基礎知識①作り方は「織る」「刺す」の2種類
堀田さん「カーペットは、どういう作り方をしているか、どんな素材なのか、どんな密度なのか、この3つがわかると、カーペットがわかります。
まずは作り方。布の作り方は4つあって、そのうちの2つ『不織布』と伸縮性のある『編む』は、カーペットに向きません。残る2つは、『織る』『刺す(刺繍)』です。『刺す』というのは、対象物に対して刺繍をしていくような方法です。実は日本のカーペットの99%は刺繍で、織られていません」
堀田カーペットは数少ない1%を担い、経糸と横糸をしっかり織っていくカーペットを作っています。
織物のカーペットはどう見分けるかというと、端から糸を引き抜くと、逆の端まで糸が抜けます。堀田さんの実演に、私たちは思わず歓声を上げてしまいました。
刺繍の工法で作られたカーペットは、1枚の布に糸を刺して柄の部分を作り、その糸が抜けないように裏から張り物をしたり、樹脂を塗ったりして作られているのだそう。下の写真のように、表は織られているように見えますが、裏に貼られた布が剥がれてしまうことがあります。
表から見てきれいでも、裏がこんなふうになってしまうことも……。
堀田さん「織ると刺すでは、機能性とデザインに差があります。木材と合板の違いに近いかもしれません。張り合わせたものは、織物とは構造が違い、貼り合わせるときに使う樹脂が劣化すると、剥がれてしまい、相対的に耐久性が低いです。織物は切らないかぎり破壊されません。その一方で、生産性も100倍違います」
カーペットの基礎知識②機能性も美観も最高の素材はウール
堀田さん「うちのカーペットはウールにこだわっています。それは天然だからいいというわけではなくて、長く美しく使おうとすると、ウール以上のものはないからです。圧倒的にメンテナンス性に優れているのです」
と言って、堀田さんはいきなり、目の前のカーペットに水をかけました!
堀田さん「羊は雨の中でもずぶ濡れになりませんよね? ウールはこのように水をはじくのです。24時間染み込みません。液体をこぼしても布で押さえればいいだけで、汚れが染み込みにくいのです」
次に、堀田さんは同じカーペットの表面に、ガリガリと爪を立てました。するとみるみるうちに毛が抜けてきています。
堀田さん「この抜けた毛は『遊び毛』といって、たくさん出るとクレームが来ますが、それは半年から1年で落ち着きます。新しいうちは、六畳一間に1回掃除機をかけると、ゴミのタンクが遊び毛でいっぱいになるほど出ます。
でも、無垢材をカンナで削ると新しい表面がでてくるように、汚れを掃除機で削りながら使うのがカーペットなのです。ホテルでカーペットが汚れているのを、あまり見たことなくないですか?
削って使っていけば、ホテルなどの土足でも20年くらい使っていただいているところもあります。最初は7mmの厚さだったのが、2mmくらいまでになることもありますが、それでも使えます。住宅では、削れてなくなったと聞いたことがありません。そのくらいの糸の量を使っているからです」
遊び毛が出るなら埃っぽいのでは?と思うかもしれませんが、舞い上がったハウスダストを吸い込むことが、アレルギー反応の引き金のひとつ。ウールはホコリを吸着するのでフローリングの10分の1しか舞い上がらないのだそう。掃除機をかけていれば対処できるというわけです。
カーペットの基礎知識③「密」が良い
堀田さん「できるだけしっかり織ってあるのが大事です。一般的にいいカーペットというと、毛足の長さと思われがちなのですが、密度があるのがいいカーペットです」
下の写真は、工場見学で見せていただいた「これをもう1回作るのは大変」という、最高密度のカーペットです。「二度と作れないかも」というほど密度とがあり、某所に敷き込んだという特別なカーペットです。
これほどではない密度ですが、オフィスの通路に敷かれていた下のカーペットも感動のふかふかさ。いつまでも踏みしめていたいような心地よさがありました。
見ただけではわからないかもしれませんが、踏むと違いがわかります
工場見学へ
カーペットの基礎知識を学んだあとは、いよいよ工場見学です。カーペット作りのバリューチェーンは非常に長く、以下の通りですが、この工場では主に「4」の工程が行われています。
1. 天然繊維から糸を作る紡績会社
2. 糸を撚り合わせる撚糸会社
3.糸を染める染色会社
4.糸を織ってカーペットする製織会社 <※堀田カーペットはここ>
5.最後の処理を行う会社(その後再びカーペット会社に戻って出荷作業へ)
まず見学したのは、染色が終わった糸を、毛糸玉のように巻き上げる作業です。ここで作られるのは3,640cm幅のウールのカーペット生地で、織り始めるのに最低1,200個の毛糸玉を必要とします。
次に見学したのは、織機の毛糸側の部分。最大6000本の糸を使えるそうです。
ずらりと並んで見えますが、すべての糸は、奥にある織機本体につながっています。よく見ると、コマが少しずつ動いて糸が送られているのがわかります。
ウィルトン織りのカーペットは、さまざまな種類の糸が使えると前に述べましたが、それゆえの苦労もあります。さまざまな個性の糸を等しく扱えるように、この写真のように、職人さんが経験と感性で糸の1つ1つに重りをつけて、テンションをかけて調節しているのだそう。
織機本体側にやってきました。さきほど見た糸が機械の中に入っていきます。
カーペットの土台となるジュート麻とポリエステルの糸も一緒に織り込んでいきます
創業当時から使われている織機の前面。三星グループの工場見学で見たように、木製の大きいシャトルが往復する音が聞こえます。1往復で3mm分織れるそうです。
▶岐阜羽島に133年! 三星グループが織り上げる、世界が認めた高級生地の製造現場を見学【ICCビジネス・スタディツアー vol.6 三星グループ編】
近寄ってみると、こんな大きな機械にも関わらず繊細な柄が織られています。60年前からある機械ですが、柄はPCで織りのデータを入力しています。
糸が切れたり、機械が止まったときのために、職人さんがつきっきりで見ています。この機械では1日で10m〜15m程度織れるそうです。
カーペットの厚さの秘密は、この長い針のようなワイヤー。下の写真で10mm、6mmなどあるのがわかりますか? これが糸がからんでいく基盤となり、厚さが決まっていくのだそうです。
織った糸がそのままのものはループカーペット、きちんと毛が切りそろえられた仕上げのものはカッターナイフで切っています。商品によってそれぞれの加工をしていきます。
この織機の上、工場の2階には、複雑な柄を表現するジャガードの織機がありました。
こちらの織機はWindows化されていますが、これ以外の機械は、まだDOS/Vで動いているそうです。その理由は機械メーカーがいないのと、そもそも日本に台数が少ないので、システム開発が後回しになってしまっているためだとか。
織り上がったカーペットの上で作業をしている人がいます。これはスペインやイギリス産のウールを使ったCOURT というシリーズのカーペットですが、素人目にはわからないような、糸が切れているところを丁寧につないで補修しているのでした。
2階の一角には開発してきたカーペットがずらりと並んでおり、壮観です。
最後に見学したのは、出荷前のカーペットが置かれている倉庫です。外部の会社で加工が終わった反物が入ってきてカットしたり、納品の準備をしています。
うかがったときも、オーダーに合わせてカーペットをカットしていました。余った部分で小さな商品を作ったり、進呈することもあるそうですが、残反が出てしまうのが目下の悩みだそうです。
堀田さんはCRAFTEDカタパルトに登壇します
カーペットに親しんでもらうために、WOOLTILEという50cm角のDIYカーペットも展開
見学を通じて感じたのは、堀田さんのカーペットへの愛。ホームページを読むと、いかにカーペットが優れていて、カーペットのある暮らしが素晴らしいのかや、素材への愛が伝わってくるのですが、なんと堀田さんご自身でほとんど書いているのだとか。読むと欲しくなってしまいます。
減っていく需要に、バリューチェーンを担う企業まで消えていくなか、そんなカーペットのある豊かな暮らし、とくに敷き込みのカーペットをいかに広げるかが使命と堀田さんは言います。
「2008年に戻ってきて、家業に入ったときに一番思ったのが、こんなにいいものがなぜ売れないのか、ということでした。
この30〜40年で、住宅のカーペットの敷き込みは100分の1になってしまい、現在は0.2%しかありません。でも、そこまで落ちるほど、悪いものじゃないのです!
このままではカーペットを敷くという選択肢が消えてしまう。その選択肢を残すというのが僕らのビジョンなんです」
美しさと耐久性と心地よさ。おうち時間が増えている今、寝室ではなくあえてリビングにカーペットをと堀田さんは言います。ご自宅はもちろんカーペットを敷き込んでいて、下の記事で紹介されています。写真を見るだけでも、いかにも居心地の良さそうな、暖かな雰囲気が伝わってきます。
▶「堀田カーペット」のご自宅を訪問。お風呂とトイレ以外、すべてカーペットの暮らしとは?(中川政七商店のよみもの)
「カーペットを日本の文化にする!」をビジョンとする堀田さん。もしもカーペットについて質問があったら、会場で見かけたらぜひ質問してみてくださいね。きっとカーペット愛たっぷりに答えてくださると思います。
堀田さんは、2月17日のCRAFTEDカタパルトで、ものづくりと、カーペットのある暮らしの素晴らしさをプレゼンしてくださいます。当日はライブ中継も予定していますので、ぜひご覧ください。以上、現場から浅郷がお送りしました。
(終)
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成
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