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【カタパルト登壇決定】Uターンで山梨のぶどう産業を盛り上げる「アグベル」を訪問しました

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ICC KYOTO 2021のCRAFTEDカタパルトには、山梨でシャインマスカットを作るぶどう農園アグベルの丸山 桂佑さんが登壇します。3代続くぶどう農家の丸山さんが、一次産業に感じている課題とそのチャレンジとは? 農業を若者が憧れる産業にしたいとい意欲と、ぶどう作りについてもたっぷり学びました。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット KYOTO 2021は、2021年9月6日〜9月9日 京都市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。


8月某日、ICC一行は山梨県山梨市のぶどう農園を訪ねました。以前にCRAFTEDカタパルトに登壇したクラフトアイスクリームをつくるHiO ICE CREAM の西尾さんが、季節のフレーバーでコラボしているぶどう農家「アグベル」代表取締役の丸山 桂佑さんをご紹介くださったからです。

素材の美味しさ、生産者の想いを“カップ”に込めて。クラフトアイスクリーム工房「HiO ICE CREAM」(ICC FUKUOKA 2020)【文字起こし版】

HiO ICE CREAMのサイトより

作っているブドウは、巨峰、ピオーネや、近年大人気のシャインマスカット。生産地をぜひ見に行きたい!と、inahoの菱木 豊さん、ICCの運営スタッフ有志を募って山梨へ向かいました。

東京都内から車で約2時間、迎えてくださった丸山さんと合流して、早速見学スタートです!

ぶどう畑に向かう途中で見たのは、植えて1年目のぶどうの木。棚に枝を伸ばし始めたところで、3年ほどたつと実がつくようになり、収穫できるようになります。木が育つとうっそうとして見えなくなりますが、ぶどう棚の支柱は鉄骨とワイヤー。棚の高さは、ある程度自分たちで決められるそうです。

丸山さんの巨峰の畑に着きました。巨峰は今がまさに旬! たわわに実ったぶどうに頭をぶつけないように、頭を低くして入っていきます。

丸山さんは60年続く続くぶどう農家の3代目で、新卒で入社したリクルートで営業として活躍したあと、2017年にUターンして家業を継ぎ、2020年にアグベルを創業しています。早速ぶどうについて、アグベルについて、いろいろ教えていただきましょう。

樹齢45年の木の甘いぶどう! 完熟を見分けるには?

丸山さん「元から持っていた畑に加えて、耕作放棄地や森のようなものを僕らが借りたり、買わせていただいて、こういうブドウ棚をどんどん建てて、農地を増やして広げていっています。

このあたりの農家は一般的に約0.5ヘクタール(1ヘクタールは100m×100m)の規模が多くて、就農した2017年は僕らもそのくらいでしたが、現在は生食用のぶどう畑が5ヘクタールあります」

この地域では最も規模の大きい農家となった丸山さん。お父様の急病で、予定よりも早く家業を継ぐことになり、お祖父様にぶどう作りを学びながら、規模を拡大させていっています。

丸山さん「この棚は、今、あそこにある一番太い木、うちで管理している一番樹齢のある木のものです。その枝をずっと横に広げていっています」

見学している場所からだいぶ離れたところにある樹齢45年の木

丸山さん「ぜひ食べてみてください」

丸山さんがパンパンに実の張った巨峰の房を惜しげもなく切ってくださいました。早くも試食タイムです。

ぶどうは房の上のほうが甘みが強いそうで、上と下の実を食べ比べてみると甘さの違いは歴然。枝から近い、軸に近い上のほうが養分が届きやすいため、甘くなります。見た目どおり皮を内側から押し出すように張りがありますが、歯ごたえに反して濃厚な甘さがあります。

甘い上の方の粒をいただきます!

丸山さん「観光農園さんは、下に車が入ったりするので、もっと棚が高くなっています。もともとはこの棚ももう少し高いのですが、ぶどうが吊り下がってくると沈んできます。この畑で、ぶどうだけで約1.5トンぐらいの重さがあるんですよ」

頭がぶどうにぶつかってしまうため、しゃがんでお話をうかがいました

市場に流通する巨峰などはだいたい1房500g前後といいますが、それがこの巨峰の棚に単純計算で3,000房がついているということ。いくら棚や支柱があっても垂れ下がってくるのも納得です。丸山さんの話は続きます。

丸山さん「つる性なので、伸ばしたい方向に誘引して調整しながら、棚の上に這わせていきます。これは従来の長梢(ちょうしょう)剪定といわれる方法です。

現在は作業効率が上がるため、短梢(たんしょう)剪定という、まっすぐ、もしくは上から見るとH型になるような、実のなる枝を短く育てる方法のほうが増えています」

【ブドウの新梢管理】短梢剪定と長梢剪定のメリットとデメリット(藤稔発祥の青木果樹園)

ワイヤと同じくらいの太さで巻きつく、ぶどうの強いつる

一行が45年も実のなる木を見上げていると、丸山さんが「お好きな房を1つ、お持ち帰りください」と、夢のような提案をくださいました。でも、どれが美味しいぶどうなのでしょうか?

丸山さん「色も目安ですが、枝でも見分けられます。ぶどうがなっている枝は、元々緑色なのですが、『登熟』といって、木が熟してくると茶色くなってきます。それがぶどうの実の糖度がのっている合図です」

甘い房の見分け方は? 興味津々のinaho菱木さん

たとえばこの下の写真のぶどうならば、右はまだ浅い紫色もあり(丸山さんは「黒くない」と表現)、出荷にはまだ早いのだそうですが、左のぶどうはしっかり黒く、なおかつ軸のついている枝が茶褐色になっているため甘いのだそう。収穫する完熟の基準は実の大きさだけではないのです。

ぶどうは、桃やみかんのように収穫後に追熟しないため、木の上で完熟させる必要があります

一行がその学びをもとに自分の房を収穫すると、次はピオーネの試食です。なんと、ぶどう好きの夢、枝からの直試食です!

他の粒が取れないように、そっと

ピオーネは、甘さが濃厚な巨峰と比べると、甘さのなかにさわやかな味わいも併せ持っている感じでしょうか。いずれも種がなくて、見た目も味も最高クラスというのが、素人でもわかります。

丸山さん「とにかく大きく立派に作るという生産が増えていて、味が二の次になっているところもある。だからこうやって食べていただくと、とても喜んでいただけるんですよね。

実際に市場に流通するのは、もう少し糖度が足りなかったりするものが多いです」

丸山さんのぶどうは糖度18%。これは果物のなかでもトップクラスで、糖度20〜22%バナナのバナナに次いでアメリカンチェリーと並ぶほど。マンゴーやブルーベリーよりも甘いのです。

糖度表 果物(ATAGO)

ちなみにHiO ICE CREAMでコラボしている巨峰のアイスクリーム用のぶどうは、香りを活かすために生食用に出荷するときよりも早採りで、色づき始めたころに出荷しています。糖度と香りはトレードオフの関係で、甘く熟すと本来の香りが消えてしまうのだそうです。

甘いぶどうをつくる工夫

丸山さん「収穫期は9月から10月で、生産・栽培のピークは4〜6月で、繁忙期は非常に人手がかかります。一番大変な作業は、ぶどうの間引き。それをしないと、1房に山ぶどうのように小さい粒がたくさんなってしまうのです」

最終的に30粒程度に揃えるという間引き作業の様子が見られる動画はこちら。
https://www.instagram.com/p/CA4fiG1gwFN/?utm_source=ig_web_copy_link

美しい房の形を考えながら、1房1房にぎっしりと付いた花の間引きを行っているかと思うと、気が遠くなってしまいそうな手作業です。そのため従業員は5名でも、繁忙期は期間雇用のアルバイトさん約60名に来ていただいているそうです。

丸山さん「うちの自慢は、一粒一粒がしっかりしていることです。特に僕らは輸出をしているので『脱粒』といって、粒が取れてしまわないように、輸出に耐えられるような生産方法で作っています。

葉が光合成をしているので、ぶどうがなっている枝に対しての総光合成量みたいなのを見ながら、枝の先端をとめたり、『摘心』というのですが、枝は永遠に伸びていくので、いいタイミングでとめて、実に返ってくるようにしています。

冬は葉がすべて落ちるので、枝だけになります。そうなると次のシーズンに向けて、ぶどうをならせる枝を決めて剪定します。

古い枝は切って、新しい枝を伸ばしていくように整える剪定を冬に行う

ぶどうがなるのは新しい枝だけなので、古い枝を落としていかないといけないのです。剪定はしていくのですが、木が古ければ古いだけ畑の上に余分なスペースが生まれてしまいます」

ぶどうの味の良し悪しは、畑の面積に対してどのくらいの量をならせるかと、土壌管理がポイント。味に最も影響を及ぼすのは、収穫タイミングと、実が大きくなりすぎることだそうです。それをコントロールするために、袋に入れて管理しているのだそうです。

シャインマスカットの畑へ

シャインマスカットは、日本で品種改良して誕生し、2006年に正式に品種登録されたぶどう。巨峰の歴史が40年あるのに対し、若いぶどうです。丸山さんたちの畑の8割でこのシャインマスカットを作っており、その中でも高い条件をクリアした5%は、なんと1房5,000円でするのだそうです。

シャインマスカットの畑に到着。近づくといい香りがします

訪問時はまだ袋がかかっている房が多く、糖度がまだのっていないため出荷までにはあと2週間ほどかかるとのこと。先程アイスクリーム用のぶどうで聞いた「香り」の話の通り、まだ未熟な状態のためか、畑に入ると爽やかなとてもいい香りがします。

「まだ甘さが足りないです、これで糖度12度ぐらい」と恐縮されつつも、こちらも試食させていただきました。

写真を見てください、丸山さんの手に収まっている粒の大きさといったら!  青さも感じつつも、こちらも1粒で食べごたえがあり、華やかなマスカットの香りがあってとても美味しかったです。甘さも十分という声が口々に上がっていました。これがさらにおいしくなったものを、ICCサミットの会場でご提供いただく予定です。

「ICCサミットで提供するものとは、全然比べ物にならないです」と言う丸山さん

シャインマスカットは、種がなく皮ごと食べられてとても美味しいということで、近年ぶどう界の出世株となっています。

丸山さん「いいものができれば、シャインマスカットは単価も高いですし、他のブドウと違って皮ごと食べられて、劣化に強い。だから物流に載せやすいんです。海外への輸出もコンテナで出せます。コンテナ内に置いても約10日ぐらいは、劣化しにくいのです」

輸出で丸山さんが組んでいるのは、ICCサミット KYOTO 2019のカタパルト・グランプリで優勝した日本農業の内藤 祥平さん。なんと同級生だそうで、ともにアジアへの輸出に取り組んでいます。最高級のシャインマスカット1房は、台湾でなんと日本の3倍の1万5,000円で売れるのだそうです。

“美味しさ”と“知財”で世界を驚かす農業を!「日本農業」の挑戦(ICC KYOTO 2019 カタパルト・グランプリ)

袋をかけるのはまだ実が小豆大のころから

シャインマスカットといえば、最近メディアを騒がせているのが苗木の流出のニュース。中国と韓国で生産が始まっていて、あと2年ほどすると莫大な量が市場に出てくるのではないかといいます。

丸山さん「ぶどうのすごいところが、接ぎ木でたとえば巨峰の枝を接げば、元は別の木でもその先に巨峰ができるのです。芽がついている枝があれば、いくらでも増やせる。切られたり、落ちているものを持っていって接ぐだけで増やせるのです」

育てやすさゆえに流出が容易なのと、農業に対して国策として取り組んでいる本気度が違うといいます。そこで丸山さんが対抗策として考えているのが質の向上。流通量が増えることによる価格の低下と、低ランクのぶどうが出回ることによるブランド力の低下を防ぐために、現在さまざまなデータを収集しています。

丸山さん「山梨がなぜブドウ生産量が日本で一番で、適してるかというと、盆地で日中と夜温の寒暖差が大きいから。それが果樹に色を付けて糖度をのせる一番の条件といわれています。

巨峰は黒いものが糖度も高くて、商品価値として高い。でも温暖化の影響で、年々作りにくくなっています。ここのように真っ黒い巨峰ってなかなかなくて、どうしても赤いまま、なかなか黒くならない。

今までの農業は属人化していて、経験と勘に頼っている。若い人がどんどん農業に参入してスケールさせていくには、やりにくい環境になっているので、僕らが高品質のぶどうを作れる条件をデータで導き出してマニュアル化しようとしています。

かつ味の研究です。味はデータサイエンス。研究していって、要は並んでいるものの見た目以外に、事前に分かるデータを僕らは作りたいと思っています」

黒くならないと価値が上がらず、栽培にも手間と経験が必要な巨峰に比べて、生産コストが安く、かつ単価は高いシャインマスカット。高品質のレシピが完成したら、日本産はアジア市場でも競争力が高くなるに違いありません。

ちなみに、「緑のまま高く売れる」というのは、従来のぶどう農家にとってはまったく別次元だそうで、丸山さんのお祖父様の世代は「マスカットという別のフルーツを作っている」という言い方をするそうです。

甘いぶどうを店頭で見分けるコツ

巨峰は皮が黒ければ甘さの目安になりますが、甘いシャインマスカットはどう見分ければいいのでしょうか? 収穫する側は糖度検査や登熟という目安がありますが、消費者にもわかる目安が1つあります。

丸山さん「ぶどうの表面には、白い粉がのっています。糖度がのってくると粒が白い粉でコーティングされてくるのですが、これをブルームといいます。それで判断しますね。ほら、皮を手でこすると光って差がわかるでしょう?」

こすった部分とそうでない白っぽい部分の差、わかりますか?

さきほどおみやげにいただいた黒いぶどうならば、もっと見た目でわかりやすそうです。「ブルームがしっかりのっているのは、本当にいいぶどうですよ」とのこと、お店でぶどうを選ぶときには、ぜひ参考にしてみてくださいね。

その後、試食でいただいたシャインマスカットの房をしっかり完食した一行でした。

糖度が足りないと言っても十分おいしい! 最後までいただきます!

見学のあとは、室内に移動してCRAFTEDカタパルトとソーシャルグッド・カタパルトの2つで登壇する丸山さんのプレゼンリハーサル。ICC FUKUOKA 2019スタートアップ・カタパルトの優勝者、菱木さんからもフィードバックを受けるという時間がありました。このリハーサルを運営スタッフ一同も見学させていただきました

「inaho」はAI×ロボットアームによる野菜の自動収穫で“農業の未来”を変える!(ICC FUKUOKA 2019)【文字起こし版】

農園とこのリハーサル見学を通じて学んだのは、担い手不足による一次産業の衰退への課題感と、新たな農業の経営モデルを作るためのさまざまな視点からの取り組み。丸山さんはぶどう以外に、ももなども生産していますが、冬にイチゴを作る取り組みもしています。

丸山さん「せっかく果樹の生産に適した地域だったら、絶対に裏作で何か作ったほうがいい。僕らの会社は、ぶどうやももで10月、11月に年間の売り上げが立ち、それをどんどん削っていくのですが、キャッシュフローを良くするためにもイチゴを裏作でやっています。

オフシーズンに若い人が外の土木系の仕事に出稼ぎに行く現状に対して、雇用の長期安定化の意味もあります」

丸山さんには、2つのカタパルトに加えて今回初企画の「ICCマルシェ・アワード」でも、丸山さんから直接ぶどう作りについて語っていただく予定です。ICC KYOTO 2021会場では、おいしいぶどうもご用意いただきます。ぜひご期待ください!

丸山さん、アグベルの皆様、見学ツアーを受け入れていただきまして、どうもありがとうございました。おみやげにいただいたぶどうもとっても美味しかったです。以上、山梨市のアグベル、ぶどう畑から浅郷がお送りしました。

(終)

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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成

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