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9月5日~8日の4日間にわたって開催されたICCサミット KYOTO 2022。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。今回は、寝具の大量廃棄の課題に取り組むyuni の「susteb(サステブ)」内橋 堅志さんが優勝を飾ったスタートアップ・カタパルトの模様をお伝えします。7分間のプレゼンに信念を込めて臨む登壇者たちを追いました。ぜひご覧ください。
ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回300名以上が登壇し、総勢1,000名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2023は、2023年2月13日〜2月16日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。
キックオフパーティから一夜明けて
ICC KYOTO 2022のスタートアップ・カタパルトは、8つあるカタパルトの中でもこれが唯一の公募形式。今回も多数の応募をいただき、10組が登壇する。
前日のカタパルト・キックオフパーティから明けて一夜たった朝7時半の集合で、サグリの坪井さんとMimmyの関根さんが、早めに会場入り。早速リハーサルを開始した。
▶カタパルト登壇者が前夜に集結! 切磋琢磨する仲間と出会うキックオフ パーティ
昨晩はみんな笑顔だったが、今朝はさすがに緊張しているように見える。本番直前の登壇者は、声をかけやすい人もいれば、かけにくい人もいる。どなたも協力的にお話しいただける方々ばかりだが、坪井さんは自分の世界に集中しようとしているように見えて、声をかけなかった。
一方、関根さんはリハーサルも終わり、緊張の面持ち。挨拶をすると、声のトーンがいつもより低い。
関根さん「今日は朝5時半に起きました。先週プレゼンの練習をしすぎて喉が腫れてきちゃったんです」
会場には続々と登壇者が集まってきている。東京のICCオフィスでのプレイベント「必勝ワークショップ」に参加して、グループ内で首位だったハイヤールーの葛岡さんは、学歴よりが重視されがちな日本のエンジニアの採用時に、そのスキルを人事担当でもわかるレベルで可視化するサービスを作っている。
▶3人のメンターが真剣フィードバック!「カタパルト必勝ワークショップ&公開リハーサル」で、事業を伝えるプレゼンをさらに磨く
葛岡さん「練習しました。とにかくやりきる」
冷静な表情。昨晩のカタパルト・キックオフパーティで21時ごろ、一人静かに部屋に上がっていく後ろ姿を見た。
葛岡さん「他のメンバーも来ているので部屋に戻って、みんなでリハーサルをして、最後にスライドを少し修正してから寝ました。我々のサービスで技術力の可視化をすることで、既存のエンジニア採用方法よりも選択肢は広がるということが、ちょっとでもメッセージとして伝わればいいなと思っています。
実力評価はテストでできて、対話方式やコミュニケーションが評価できるものもあります。組み合わせることで、さまざまな側面からの評価ができます。
絶対値のスコアや、社内のエンジニアや他の企業さんを受けているこの人と同じぐらいのスキルというようなレベルでデータが出てきます。技術力そのものの評価はわからなくても、候補者Aさんの技術の評価がわかる。だから人事の方だけでも判断ができ、実際に採用している会社さんもあります。
導入いただいているキャディさんがいい例ですが、海外エンジニアの採用となると、試験を通さないと何も得られる情報がないんですよね。母集団の数も普通に10倍にもなるので、そこで非常にニーズがあります。
我々はグローバルスケールでやりたいと思っているので、投資家の方と経営者の方にもメッセージを届けられたら」
「トラックは見えた、あとは走るだけ」
「結構今楽しいです。緊張するかな?って思ったんですけど、なんか楽しいですねえ」
満面の笑顔でそう話してくれたのは、ABELの大島さん。前日の京セラスタディツアーやカタパルト・キックオフパーティでも積極的にコミュニケーションをする姿が印象的だった。まもなく本番という今、馬の出走前のような心境なのか?と尋ねると……。
大島さん「馬が走るときは、逃げるときですよ(笑)。僕は楽しいんです。逃げる気持ちじゃない。世界を獲ってやる、一番を獲ってやるっていう気持ちです」
馬に興味がない審査員もいるかもしれないと、意地悪な質問を投げてみた。
大島さん「どんな分野だろうとファーストペンギンはいると思っていて、僕らはやっぱりそうなるべきだと思っています。興味がなかったらまずは、僕らのやろうとする事業や僕らのファンになってもらうことが一番だと思っています。話を聞いて、ワクワクしてもらえるかどうかだと思うんですよね。
この人はもしかしたら世界獲れるかもしれないと思ってもらい、確かに競馬は面白いなと思わせたら勝ち。今日の目標としては、今週の土日に全審査員が馬券を買うってことですね!
応援してやりたいから馬券買ってやろう、大島さん面白いから馬券買ってみよう、もし勝ったらそのお金をあいつに投資してやるかと思ってもらえれば一番いいかと。会場を凱旋門賞一色にしたいと思ってるんで楽しみにしています。トラックは見えた、あとは走るだけ!」
初日を迎えたメイン会場、受付はごった返しているが、会場の中はまだまだ静か。審査員もこれから到着する。そんななか、最終日のソーシャルグッド・カタパルトに登壇する市川 加奈さんと光原 ゆきさんは審査員席の最後列、観客最前列の中央に陣取り、一足早く雰囲気を感じようとしている。
カタパルトが増加して、プレゼン中の配布物の対応、登壇者や審査員の確保など、運営スタッフも緊張が続く。抜けもれなく、よりよく対応するために、今回からカタパルト誘導チームは、CXD(カタパルト・エクスペリエンス・デザイン)としてパワーアップした。
会場の隅に設けられたこのテーブルからは、定刻での開催を目指して、CXDと誘導、A会場を中心にチーム横断で、刻々と変わる状況アップデートを共有している。審査員の誰を探す、誰を案内中、定刻まであと5分などなど、終了した今でもそのSlackチャンネルを見直してみると、その時の臨場感が伝わってくるほどだ。
「みなさんの選択には社会的な責任がある」
今回8つあるカタパルトの皮切りとなる、最も注目度の高いスタートアップ・カタパルトだが、当初は12組が登壇予定だったが、リハーサルが始まると2組が登壇基準に達していないと脱落した。
それはここから羽ばたく企業が、トップ経営者たちの前で、考え抜かれた事業についてプレゼンする準備ができているという質の担保をするためで、すべての機会を活かして羽ばたこうとする、この場に賭ける起業家たちを紹介したいからでもある。
Session1Aのスタートアップ・カタパルトが始まり、最初のスピーチでナビゲーターのICC小林雅は、今までにない話をした。
「優勝者を決める、みなさんの選択には社会的な責任がある。厳正なる審査、妥協や忌憚のないコメントをぜひお願いします!」
プレゼンターはもとより全力でこの場に挑むが、審査員たちにも、新規性やビジョンに共感できる企業を見つけて社会に紹介するだけでなく、社会を変える企業はこれだと保証して発射台に乗せる”責任ある選択”を求めた。
半年前にこのカタパルトで優勝したのは、TYPICAの後藤 将さん。最近も目覚ましい活躍で話題が途切れない。
▶小規模生産者とロースターのダイレクトトレードで、生産者の収益向上と、コーヒーに旬の美味しさを実現する「TYPICA」(ICC FUKUOKA 2022)
▶ティピカHD、コーヒー豆取引拡大 15億円調達(2022年8月31日 日本経済新聞)
▶「TYPICA(ティピカ)」が「TYPICA GUIDE」を発表。本当に美味しいコーヒーと出会える全国のロースター118軒をノミネート。2022年10月13日(木)には唯一の三つ星ロースターが決定!(PRTIMES)
この日、後藤さんは国外にいるためピンチヒッターとしてICC FUKUOKA 2021の優勝者、フィッシュ・バイオテックの右田さんが代わりに登壇して、チャレンジャー10名にメッセージを送った。
スタートアップ、ソーシャル、グランプリとカタパルトを渡り歩き、常に入賞している右田さん。事業は着実に成長しているが「また登壇したい」と意欲を見せている。
「チャレンジャーたちの姿から刺激をもらい、初心を思い出す」という声を、カタパルトを見た人からいつも聞く。今回登壇した10名のチャレンジャーには、彼らのプレゼンが会場に集まった経営者たちを大きく刺激し、それがまた彼らの事業や経営、新たな産業につながっていくことをぜひ知っておいてほしい。
賞品提供いただく11の企業も同じ気持ちで、この場の意義に賛同してくださっている。ただし勝負の世界は厳しく、優勝者がこの11商品を総取りとなる。
10名のプレゼンは、当日のライブ中継の映像をぜひ見ていただきたい。
需要が高まる日本産のクラウドセキュリティサービス「Cloudbase」をプレゼンしたLevetty岩佐 晃也さんは5位入賞
焼却処分される粗大ゴミNo.1の寝具。その100%再生に挑む、優勝したyuni内橋 堅志さん
「馬が好きな人はいますか?」と会場に尋ねたABEL大島 秀顕さん。多くの挙手があり大喜び
DeNAやメルカリでエンジニアを務めたハイヤールー葛岡 宏祐さんは4位に入賞。中卒のため応募資格すらなかった経験から、技術力を評価するエンジニア採用試験をPR
はじめ少しだけ緊張が見えたmiive栗田 廉さん。プリペイドカードを利用した、社員が自由に設計できる福利厚生を紹介
後付けできる建設現場の遠隔自律装置で事故リスクを軽減し、1人で複数台の操作を可能にするARAVの白久 レイエス樹さん
子どもたちが世界や社会の動画を楽しみながら学べるプラットフォームを作るMimmy関根 謙太さん
今まで目視だった農地の情報を衛星データとAIで効率化し、土壌分析データ提供で農家を支援するサグリ坪井 俊輔さんは2位入賞
超密閉容器の技術で、フードロスや使い捨て容器を削減し、カーボン・クレジットで環境改善にも取り組むインターホールディングス成井 五久実さんは3位入賞
建設現場でスマホでの3Dデータ取得・解析を容易にして、素早く活用につなげる技術をプレゼンしたローカスブルー宮谷 聡さんは5位入賞
登壇前、宮谷さんは「必勝ワークショップで学んだ通り100回練習して動画を見てもらい、プレゼンを従業員や家族に向けて、もうできることはないほど練習した。日本から世界を変えられる技術であることを伝えたい」と語っていた。ところが本番では最初の動画が途中で止まってしまうトラブルがあった。
話を聞いていたので、練習を重ねて迎えたこの場で……と、一瞬胸が傷んだが、宮谷さんは問題が解決されたあと堂々と、トラブルを忘れさせるような力強いプレゼンを披露した。そう見えただけで、心中は穏やかではなかったかもしれない。しかしそんなときに力を出せるところに経営者としての器を感じさせ、結果的に5位に入賞した。
「挑戦することにも価値がある」
投票用紙の回収と集計が進められる間は、審査員たちからの感想や意見を聞く場となる。各々がどんな観点でプレゼンを見、票を投じたかは、その経営者の価値観や現在を分析する目と、未来への展望が強く反映されている。
ユーグレナ永田 暁彦さん「カタパルトが始まる前のまささん(ICC小林 雅)の『カタパルトの社会的影響が大きくなっていて、あなたたちの1票は社会的責任がある』という言葉が、重いことだと思っていて、この事業面白そうだけではなく、どう社会に広がっていくのかを意識して投票するきっかけになりました。
どの事業もソーシャルグッドはベースとして機能し始めている。プラスアルファで何をエッセンスに考えるかが重要になってきていて、僕は1つ目はグローバル、今の日本の状況を考えると世界でも外貨を稼げるかどうかをポイントに選びました。
2つ目のポイントは、社会的責任。僕はリアルテックファンドをやっていて、苦しみを感じたことがあり、技術的エビデンス、その技術は本当なのかというのを、ちゃんと保証してあげることは改めて必要だと思いました。
サービス系はこれが実現できたら素敵だというのはわかりやすいけれども、この技術の実在性がどこにどこまであるのかを、私たちの1票がどれだけ保証ができるかがポイントになる。今後カタパルトがよりよくなるために、そういうところも一緒にできたら価値が上がりそうだなと思いました」
ウェルスナビ柴山 和久さん「登壇される方もとても緊張すると思いますが、審査するほうも緊張しました。今日プレゼンした事業の答え合わせは数年後になると思います。今すぐに結果が出るビジネスではなくても、数年後に事業が大きく伸びて、社会が変わっていくかもしれない。
今日はメモをたくさんとりましたが、数年後にどういう答えになったか読み返してきちんと審査できたか見たいと思っています。
1位になると世界が変わるといいますが、私が登壇したときは入賞すらしませんでした(笑)。挑戦することにも価値がある。今日結果が出ても出なくても、引き続き、頑張っていただけたらと思います」
ラクスル松本 恭攝さん「馬のサービスもそうですが、愛をもって課題に取り組むもの、ベンチマークがないからこそオリジナルなものは、世界に出やすいのではないかと思いました。
自分の持っているニッチな専門領域、誰もやっていないことをやるのは世界に出ていける、日本だけではなくて、世界を変える可能性があると思いました」
シニフィアン朝倉 祐介さん「登壇者も大変だけど、審査しなければいけないので丸をつけたりしますが、10社中4社選ぶのは本当に大変で、みんな素晴らしい企業でした。
そこであえて1社選ぶなら馬、やっぱり馬ですよね(笑)。
僕も馬に乗るんですが、僕はICCの会場で馬というのを聞くとは思わなかった。僕もファームをやっているので、ぜひデバイスを試してみたいと思いました」
▶馬と過ごした日々が甦る名勝負――朝倉祐介さん(netkeiba.com)
セプテーニ・ホールディングス佐藤 光紀さん「今日の印象としては、起業家の適性、なぜこの事業なのかという理由がぐっと刺さるところが多かったです。Levetty岩佐さん、yuniの内橋さん、ハイヤールーの葛岡さんの信念、事業性、市場性の大きさが刺さりました
本当に世の中にインパクトを与えて変えていこうと思ったら、信念がないと続かない。10年20年続けられる分野を見つけるのは大変なことです。それが見つかっていることはとても幸せなことだし、仲間が見つけやすいと思います」
優勝発表
「驚いています……ピッチのあとに、寝具メーカーの父親から『感動した』というメッセージが届いていました。父親は僕より長くこの課題に取り組んでいて知識もある。そういう人がそう言ってくれたということは、僕はいいプレゼンができたのかもしれないと思います。それが一番嬉しかったかもしれないです」
既報のとおり5位から2位までが発表され、優勝が発表されると、内橋さんは面食らった表情で、いつになく短く答えた。
2年来の知り合いで、内橋さんをスタートアップ・カタパルトに紹介したFABRIC TOKYOの森さんが壇上で賞を渡した。「ものすごく成長していてビックリ!」と言う森さんと顔を見合わせて破顔した瞬間がこの記事一番上の、アイキャッチの写真である。
登壇を終えて
いつも思うことには、一番早く会場入りするようなプレゼンターの熱意は必ず観客に伝わる。入賞を逃したものの、Mimmyの関根さんは、この日誰よりも早く会場に来て、プレゼンを準備していた。そしてプレゼンを終えた今、関根さんは人が少なくなった会場で、プレゼンを聞いていた人と熱心に話し込んでいた。
「起業のきっかけは、前職の化学メーカー在籍時に海外で、交渉がまとまらず苦しんだから。それは価値観や、カルチャーの違いにも原因があると考えました。それから娘が生まれて、その世代の子どもたちに共生社会を作ってもらうには、言語じゃないコンセンサスを小さい頃から身に着けないといけないと思いました。
国際紛争を含め、いろいろな問題が世界で起こっている。そこに目を向けられる子供たちがいないと、日本だけでなく世界中が危ない。いろんなことを体験していろんなことを自分ごととして捉えられるようになったら、とても素敵な人生になると思うんです」
登壇前に関根さんから聞いた言葉である。Mimmyは世界のインスタグラマーと共同で動画を作り、企業と社会科・工場見学的動画を作成して、楽しいエンターテインメントコンテンツとして、コロナ禍では難しかった子どもの体験価値を上げ、異なる文化や新しいものへの先入観を取り払うことをデザインしている。
コンフォートゾーンから離れた挑戦
もう1人、関根さんと同じく早くに会場に来たのが、2位に入賞したサグリの坪井さん。登壇の緊張から解放されて、審査員のユーグレナ永田さんと話している。永田さんが代表取締役を務めているリアルテックファンドから出資を受けている関係だ。
「すごく良かった! 出資していなくても、サグリに2億点入れてた!」と永田さんは坪井さんをねぎらって肩を抱き、悔しそうな顔をしていた坪井さんはようやく笑顔になった。
翌日、坪井さんにカタパルト登壇の感想を聞いた。
坪井さん「『必勝ワークショップ』から、プレゼンがすごく変わったんです。優勝したいと本気で思って練習していたから、入賞だけど悔しいですよね。多分それが、発表時の絶望の顔になったんです(笑)。
でもそのあとで、いろいろな人がおめでとうと言ってくださって、本当に頑張ってよかったなと思えました。悔しいけれども、本当に自分自身が人生をかけたプレゼンだったから、最後は納得できました。技術を使っていただいていますし、より頑張っていきたいと思いました。
事業を始めたのは、2018年の6月から。その年の2月までICCの運営スタッフをしていました。
実はカタパルトに3回ほど応募しています。ご推薦もいただいていたんですが、そのときはまだまだと言われていて、登壇まで時間がかかりました。でも自分自身の成長の中で、今が本当にベストタイミングだなと改めて思います」
満を持しての登壇で入賞。AIも駆使した技術ながら、スタートアップ・カタパルトへの登壇となった。
坪井さん「リアルテックやソーシャルグッドのほうが、コンフォートゾーンかもしれませんが、スタートアップに挑戦できたのは大きなことだと思っています。アグリテックは儲かりづらいと言われているなか、今日登壇して、幅広い分野の人たちに、農業は本当に重要産業で、課題の多い状況なのだと伝えられた。
皆さん食べ物を当たり前に食べますが、意識がなかなかそこに向かない。子どもが最近生まれたのですが、我々が作ってきた社会で残してきた課題の中で、生きていかなければいけない。そこで満足に食べられる食糧がないとか、地球に住めなくなると僕はすごく悔しいし、絶対そうなってほしくないから、今、事業に賭けています」
坪井さんの道程は運営スタッフのロールモデルの1つとなる。自分に続いてほしいと言わんばかりに、坪井さんはスタッフのスカラシップ提供を今回から行ってくださっている。
yuni内橋さん、優勝するまでの道のり
優勝を飾ったyuniの内橋 堅志さんは、以前は機械学習エンジニアだったが、家業の寝具屋に戻って新事業を立ち上げた。カタパルトのプレゼンリハーサルに最初に来たときは当日のプレゼンが想像できないほどで、淡々とかつ早口で10分以上話し続けてハイライトがわからず、話したいポイントは数多く、果たして7分間に収まるのだろうかという感じだった。
多すぎる内容のどこを削るか?というICC小林との議論で、内橋さんは臆せず普通に議論した。自分が知ってもらいたい課題とは何か。小林の提案に耳を傾け、ときに説明し、ときに根拠をもって反論しながら、内橋さんは1時間たっぷり話し続けた。とにかく伝えたいことがたくさんある、という印象だった。
7月26日にICCオフィスで開催した「共感プレゼンワークショップ 公開リハーサル」では、その当時のプレゼンレベルで分けられた3つのグループのうち、一番低い3番めのグループで登壇。このときに、インパクトあるフレーズ「お布団の死」が登場した。
だいぶ要点が絞られてきて、会場に集まった他のカタパルトの登壇者たちが聞き入っているのがわかった。しかし相互投票では優勝しなかった。
登壇当日の朝。内橋さんは普段どおりで、この日迎えている状況を黙々と、自分のCPUで処理している様子だった。話を聞きに行くと立て板に水のごとく、いろいろと答えてくれる。まず、家業の寝具屋を継がず、別会社を作った理由について。
内橋さん「会社を継いでできることと、僕が新しく始めた方がいいことっていうのがあると思うんですよ。家業は寝具の製造業だった。再生事業ををやろうとなったときに、オペレーションが全く違います。もちろん後継ぎになるという選択肢もありましたが、別会社にしました。
多くの自治体で一番多い粗大ゴミが寝具という状況にある中で、家電はリサイクルされるのに、粗大ゴミの中でも寝具は異質で、全部焼却廃棄されます。今まで誰も声を上げてこなかったものなので、今回そこから知っていただければと思っています。
寝具は皆さんいずれ捨てるもの。そのときに再生するかしないか。ここが僕は重要だと思っています。そして皆さんがその再生素材を使うかどうか。今までは大量生産大量廃棄だったけど、僕らがやりたいのは再生素材による大量生産と大量再生。廃棄しないという状況を作りたいです。
僕がこの事業を始めるずっと前に、全く汚くないレベルに洗浄・再生できる技術はあったんです。再生した素材でもバージンの素材を新規採取した素材と品質が全く変わらないものも作れる。でも直接肌に触れるものは新しいものという考え方がずっとあって、寝具の再生が進まなかったところが大いにありました。
僕が学校を卒業して就職をしたころ、実家でスタートした事業ですが、その時と今とでは状況が全然違います。
皆さん多分この課題を知らないと思うんですよ。だからこの課題をまず確実に覚えて帰ってほしい。今日、最後に焼却処分場をなくそうというメッセージを出すんです。僕たちはリプレイスしていく、焼却処分場がない未来を作る。皆さんに心から共感してもらえたらいいなというのが大目標です」
そしてカタパルトが終わってみると、優勝である。聞けば、周囲の人を始め、必勝ワークショップの講師の三輪 開人さんやさまざまな人の助けを借りて練習し、今回のプレゼンを用意したそうだ。
そして優勝を飾った今、内橋さんはカタパルトのドキュメンタリー用インタビューに答えている。
内橋さん「今日全社の登壇を聞いて、トラクションが出ているところもあるし、そんな課題があったんだみたいな会社もいっぱいある中で選んでいただいて、まず正直僕でいいのかっていう気持ちがちょっとあったんですけれども……。
一方で今日小林さんから『社会的責任』みたいな言葉があったと思うんですが、ある意味選ばれた側にもそういう責任があると思っています。これから頑張って皆さんの期待にこたえられるように事業を伸ばしていきたいと思います。
リアルな話になるんですけど、To C(一般消費者)向けのビジネスやブランドは、僕はもっと先だと思ってたんですよ。そう思っていたんですが、ある意味ここがタイミングなのかもしれないと思いました」
最後に一緒に働く仲間や家族、応援してくれた人へのメッセージをと求められた内橋さん、前のめりにこう話している。
内橋さん「僕1人では全くこの事業はできていないんです。そもそもこの課題に先に目を付けたのは父親だし、この課題があると父親がずっと僕に言っていて、そこで僕が働く機会があって今の事業が始まっている。僕が1人で考えたものではないんです。
いろいろな事業を進めていく上でも、僕ってほとんど舵取りしかしていないんです。だからもう、感謝しかないですよね。本当に皆さんがいるから、社員だけじゃなくて、一緒にやってくれている商社とか出資してくれる方もいて、その力がもう100%と言っていいんじゃないかと思いますね」
さまざまな人が内橋さんに挨拶に訪れ、最後の人が終わったタイミングを見て、内橋さんに声をかけた。自分の登壇を見てほしいと父親に伝えていたのか?
内橋さん「そもそも僕が、ライブ中継があるのを知らなかったです。どうにかして見つけたんでしょうね。だからびっくりしました」
事業の話をいつもしており、プレゼンをオンラインで見てくれたという父親から、どんなメッセージを送られてきたのか、図々しくも見せてほしいとお願いした。
AIエンジニアだった内橋さんと、製造業のど真ん中で課題を痛感していた父親。まったく違う角度から1つの課題を見つめて、解決に取り組む。再生素材への理解が進んでいけば、やがて父親の工場が作る寝具の素材は、すべて息子が再生したものになるのだろう。
「お布団」という言葉遣いに、内橋さんたちの寝具への愛を感じたのは私だけだろうか? 「お布団」に永遠の命を与えると同時に、自治体を悩ませる粗大ゴミの課題を解決しようとする親子。その背景には長い歳月の思考と奮闘があり、それがこの日、ようやく少しだけ日の目を見る機会を得た。
描く未来が実現する日まで
ICCサミットの最終日の9月8日。会場で撤収の準備を進めているときに、ABELの大島さんとばったり遭遇した。大島さんは8つのカタパルトの中でも、一番インパクトというか記憶に残るプレゼンターの一人だったが、残念ながら無冠に終わっていた。3日間の最後のセッションが終わった時間帯で、帰途につくような時間帯。何か言いたげな表情である。
大島さん「今年の凱旋門賞に出る馬の調教師さんと今、繋がって」
いつもテンション高めの大島さん。興奮を抑えようとしているが今までで一番冷静な声だ。
大島さん「EQUTUM(エクタム)」を着けたいんですけどという話になっていて」
聞いたこちらのほうが大興奮。大島さんはニヤリと笑った。
大島さん「凱旋門賞、行っちゃう?みたいな(笑)。こうやって繋がれたのはICCパワーですね! ここの凱旋門賞は獲れたので、本物の凱旋門賞へ行こうかと」
この発射台(カタパルト)から、どこへ飛んでいくのか、誰と行くのか、どんな未来を創ろうとするのか。それはパリかもしれないし、父親とかもしれないし、自分が死んだ後の世界かもしれない。
ニッチな自分の専門領域や信念が世界を貫き、花を咲かせる日々を信じて事業を磨く。自分が見つけた課題で世界をよくしてみせる、そんな意欲あふれるチャレンジャーが集結した、今回のスタートアップ・カタパルトであった。
(続)
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編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成