【NEW】ICC サミット FUKUOKA 2025 開催情報詳しくはこちら

くじけず、諦めず、何度でも挑戦する。カタパルト・グランプリ優勝、サグリ坪井さんが最も泣いた1日

カタパルトの結果速報、ICCサミットの最新情報は公式X(旧Twitter)をぜひご覧ください!
新着記事を公式LINEで配信しています。友だち申請はこちらから!
過去のカタパルトライブ中継のアーカイブも見られます! ICCのYouTubeチャンネルはこちらから!

9月4日~7日の4日間にわたって開催されたICC KYOTO 2023。その開催レポートを連続シリーズでお届けします。このレポートでは、ICCサミットの中で最もハイレベルなピッチコンテスト、サグリの坪井 俊輔さんが優勝を飾ったカタパルト・グランプリの模様をお伝えします。ぜひご覧ください。

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。毎回400名以上が登壇し、総勢1,000名以上が参加する。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に議論し、学び合うエクストリーム・カンファレンスです。 次回ICCサミット FUKUOKA 2024は、2024年2月19日〜 2月22日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページのアップデートをお待ちください。


今回、カタパルト・グランプリで優勝したサグリの坪井 俊輔さんの、ICCサミット、カタパルトにかける想いは誰よりも強かった。1年前のスタートアップで2位、ソーシャルグッドでは入賞を逃したものの、同時に出展したデザイン&イノベーションアワードでは準グランプリ。今回は満を持してカタパルト・グランプリに臨んだ。

このカタパルトでの主役が坪井さんだったことは間違いない。この記事のアイキャッチにもなっている、当日のX(旧Twitter)でバズっていたICC代表小林 雅との写真、スピーチでの涙については最後にお伝えすることとして、今回もICCのカタパルト最高峰にふさわしい事業プレゼンをしてくださったプレゼンターたちについてご紹介したい。

緊張の表情の登壇者たち

カタパルト・グランプリ リハーサル風景

朝、運営スタッフの宿舎にしているホテルから、ICCサミット会場へ向かう途中で、今日のカタパルトのトップバッター、wevnal磯山 博文さんを見かけた。wevnalはチャット接客サービス「BOTCHAN」という成果報酬型ソリューションを急成長させつつ、マイクロソフトと生成AIで連携し、AI接客プロダクトをリリースしたばかりだ。

ICCサミットは初参加。2日前のチャレンジャーズナイトでは、一緒に登壇する仲間たちと交流を深めたという。

プレゼンする磯山さん

「あの場に、登壇する10人中8人がいたんです。ずっと緊張していたのですが、みんなで頑張りましょうという話をして、気合いが入りました。でも緊張しますね……。昨日はガーディアン・アワードの審査員をさせてもらって、それから戻ってからピッチの練習をしました」

Rennovaterの松本 知之さんは、1年前のソーシャルグッド・カタパルトで5位に入賞。全国で増加している空き家問題と、賃貸住宅を借りることが難しい人たちの課題をかけ合わせて解決する事業を行っている。

Rennovaterの松本さん

全国に先駆けて2026年から空き家税を導入する自治体、京都をベースにしていて、日々問い合わせが止まないことを、チャレンジャーズ・ナイトで聞いた。ソーシャルグッド代表のつもりで臨むと意気込んでいたが、「でも今は、どんな事業もそういった側面がありますよね」とも言っていた。

「こんなところに仲間がいたんだ」という嬉しさ

ランディットの藤林 謙太さんは、ホテルや新幹線のように、リアルタイムで駐車場の空き状況がわかり、契約決済まで自動化する主にtoB向けデータベースを作っている。言われてみればあって然るべきサービスだが、現在のところそれは探している地域の不動産屋で契約するのが一般的だ。

都市部ではとくに、できては消えるような捕まえにくい駐車場になぜ着目したのか。

「事業経験が、 総合商社と官民ファンド、そして外資系リテールなのですが、そこで駐車場の借り手や自動車メーカーに関わり、再生可能エネルギーの需給のバランスの調整や、AIカメラでの店舗在庫管理にも携わりました。だから私にとってはこの領域はど真ん中なんです。

「我々がではなくて、我々の事業が社会インフラになることが目標です」と藤林さん

駐車場のデータベースは、ブランド別にはあっても網羅的なデータというのはないんですよね。データだけ更新してもだめで、駐車場の上に建物が建ったりもしやすいので、その取引の中にずっと介在しなければいけないのが、ホテルや新幹線と違う難しさです」

聞けば藤林さんは最初はスタートアップ・カタパルトに応募したが、売上規模が大きいことからグランプリに変更になったという。7月にカタパルト登壇者を集めて行われた必勝ワークショップ&リハーサルでは、メンターたちから面白がられ、突っ込まれていたのは気を悪くしなかったか?と聞くと、

「1ミリもなかったです! 私は人と話すことやコミュニケーションが得意ではないんですが、メンターの皆さんや一緒に出るメンバーがいじってくれて嬉しかったです。皆さん自信がそれぞれおありなんだろうなと思うし、本当に気持ちのいいメンバーで、このご縁、他にないものだなと思います。

ICCは素晴らしい雰囲気で、それぞれやっていることや業界、ステージもバラバラなんですが、真剣に取り組む姿勢があって、こんなところに仲間がいたんだと思えるような嬉しさがありました。将来今日のことを振り返った時に、ランディットはICCに出ていたと言っていただけるような、ICCを代表するスタートアップになりたいです」

ランディット藤林さんと談笑するHubble早川さん

Hubble早川 晋平さんは半年前のSaaS RISING STAR CATAPULTで3位に入賞した。依然として紙と押印文化が根強い契約書管理業務のさまざまな課題をクラウドで解決する。

「前回よりは緊張してないんですけどね。前回が120%の緊張だったとしたら今回は100%くらいです。

皆さんのビジネスやピッチは素晴らしいし、ライバル視するというより尊敬していて、彼らと競うというより、自分たちの事業はいかに素晴らしいのかを伝えるプレゼンにしたいと思っています。

何年かに渡って事業進捗を出しながら登壇するのもひとつの選択肢かなと思ったんですが、今回また小林さんにまたお声がけいただいて、まだ進捗が出せないなあと思いながらも、こういうチャンスはいつも巡ってくるわけじゃないので、挑戦することにしました」

過去の登壇者たちが実績とともに帰ってくる

3年ぶりにカタパルトに帰ってきたNearMe 髙原 幸一郎さん

「早く皆さんにNearMeのアップデートをお伝えしたいですね」

3年前にスタートアップ・カタパルトに登壇したNearMe 髙原さんは、自宅から空港までシェア乗りで割安に行ける、空港利用者向けサービスの成長を伝え、街中の交通空白地域の解消のために不動産会社や自治体と組むオンデマンド交通サービスを紹介した。

「ライドシェアが話題になっていますが、あれはドライバーの不足が論点とされています。僕らはもっと速攻性のある効果的なやり方をご紹介できればと思いますし、実際に方法はあると思うんです。

まちづくりに移動は欠かせないし、その機能は持続可能な仕組みじゃないといけない。地味なんですが、インフラですよね。これをアップデートしないと本当によくない。車はたくさんあって運転できる人もたくさんいて、車中に空いてるスペースがある。活用すればCO2削減にも貢献できます。

3年ぶりのICCは、緊張しているけど…… 嫌いじゃないですね。前より仕組み化されて、登壇前のチェックとか細かくてすごいですね(笑)。同期の方とチャレンジャーズナイトでご挨拶できたり、出会いのきっかけが素晴らしいです」

スピークバディの立石 剛史さんは、登壇前にお話を伺うことができなかったが、その念入りな準備は印象的なものがあった。スタートアップ・カタパルトに登壇して3位に入賞したのは3年前。そこから大きく成長中で、とくに福利厚生として法人利用が伸びているという。

カタパルト必勝ワークショップはもちろんのこと、東京のオフィスでのリハーサルは登壇直前まで3回行った。スライドの1枚1枚をICC小林と丁寧に確認し、プレゼンでも宣言していた「3年後には日本一のオンライン言語学習企業になる」ために、余念のない準備を進めていた。

優勝もしたいが、プレゼン中に紹介するICC参加企業限定の無料トライアルキャンペーンを100社集めたいとそのとき語っており、サービスへの自信が伺えた。語学習得サービスは過去にも登壇していて入賞歴はないが、立石さんは3位に入賞。目指す大きな目標が射程内にあると伝わった結果ではないだろうか。

飲食店起点の課題解決へのチャレンジ

5位に入賞したCRISP宮野 浩史さん

審査員にもファンがいるカスタムサラダ専門店、CRISPは、登壇時で全国22店舗を展開しており、すでにご存知の方もいるかもしれない。宮野 浩史さんは「飲食店をするなら、残り物を食べないといけない、それなら毎日食べてもいいサラダで」と、創業の理由を冗談めかして言った。

「アメリカに約10年住んでいて好きで食べていた、食事になるようなサラダを日本でも食べたいなと思って。新鮮で健康的な食事、栄養バランスのいいものが、日本ではまだ多くの人に行き渡っているとは言えない」

野菜嫌いの多い子どもにもファンがいて、CRISPのサラダを食べたいと駄々をこねた子どもを母親が連れてきたりするそうだ。プレゼン時は、定番商品のシーザーサラダを審査員席に配布したが「素材が小さくカットされていて、いろんな素材が混ざっていて、1口で料理になる」と、その特徴を説明した。

2014年に1号店を開店した当時から、今では珍しくないがテクノロジーに大きく投資してデータを活用、接客を磨いた結果、年間約150万食のサラダを提供している。そのうえ外食産業の人たちの人手不足や低賃金といった課題の解決に取り組むというから、DXに成功したサラダ店だけじゃないのである。

余裕のプレゼンを見せた葛岡さんは2位入賞

半年前のICC FUKUOKA 2023のSaaS RISING STAR CATAPULTで優勝を飾ったときのハイヤールー葛岡 宏祐さんのプレゼンは、研ぎ澄まされたものだった。1年前のスタートアップ・カタパルトは現状への怒りを感じるエモさがあったが、優勝時は全方位ぬかりなく、すべて伝えたいことを言い切った印象だった。

そのプレゼンをまとめた経緯は、こちらのnoteで紹介されている。

ICCのピッチで優勝するまでの道のり(note)

「ノスタルジックな感じです。 初めてICCに参加した1年前のスタートアップ・カタパルトでは、五十音順で同じこちら側に座っていて、4番目に登壇して4位で。前回の福岡でリベンジして優勝したときは、ステージに向かって逆側でした」

3度目ともなるとかなり落ち着いた様子である。優勝へのジンクスを語っているのか?と思ったが、そうではないらしい。

「前回は、前日から明日優勝することしか見えていないぐらいの勢いで、自信があったんですよね。今回も優勝したい。もちろん優勝したいんですが、グランプリとなると敵が強いですよね。

前回は勝ちにこだわったんですけど、それ以上に、今回は楽しければいいかな。グランプリのあとは、他も含めてしばらくピッチに出ることはないかなと思っています。いい締めくくりという意味で優勝できればいいんですけど、それ以上にリラックスして楽しめたらいいなという気分です」

写真左からスピークバディ立石さん、ハイヤールー葛岡さん、Leaner大平さん

スタートアップ・カタパルト優勝から久しぶりの登壇となるLeaner Technologies大平 裕介さんは、3年ぶりのICC。製造業などの大企業の調達・購買部署の業務を最適化する事業が順調という話を聞いている。

「はい、頑張っています!  我々は、企業の調達部・購買部という部署のインフラを作ってるような会社です。ICCは製造業の方が多くないので我々がやっていることの意味や意義、マーケットの負が少しでも伝わったら嬉しいですし、優秀な人もどんどん入ってきてほしいと思っているので、正攻法で情報を伝えたいなと思います。

前職がA.T.カーニーという外資系の会社で、調達の改革などだったので長くこの領域に関わっていますが、それでもまだまだ青いなというぐらい、調達ってわからないことばかりです。日々ご一緒させていただく中で、課題はすごく深いことは間違いなく分かっていて、それをいかに解いていくのか。

お客様は急に業務が変えられないので、いろんな方々を巻き込んで変えていくにはという観点で、今のビジネスにたどり着いています。やはりご年配の方が知見はあるので、お話を聞きながら、テクノロジーという観点でどう価値貢献するかと模索していく日々ですね」

時価総額1,000億の会社が生まれるポテンシャル

それぞれの事業への想い、プレゼンで伝えたいことの背景を知り、プレゼンを聞くと一層事業は立体的になって見える。7分間にまとめられたプレゼンは非常にスムーズで、順調な成長を続けてきた事業に見えるかもしれないが、当然ながら違う。必死の努力を続けてきたから、成長しているのだ。

それは重々承知の上で、プレゼン開始前に、ICC代表の小林 雅は、選びぬいた登壇10組に向けて、発破をかけた。

「磨きがかかったプレゼンテーションは、皆さんの心を必ず動かします。そして、それをぜひ応援してほしいと思います。この10社の中で5年後、10年後に必ず時価総額1,000億の会社が生まれます。なので、僕の言ったことをぜひ信じてほしいと思います。

宣言します。5年後、10年後が時価総額で1,000億円ぐらい。売上だと300億とか400億円出てくる会社が必ず現れますので、あの時にこの場にいたと、自慢していただければと思いますので、ご期待いただければと思います!」

中継映像22分頃から、10組のプレゼンがスタートする。ぜひご覧いただきたい。

ラストの授賞式まで見ていただいたら、優勝したサグリ坪井さんのこの1日を追ったレポートにお付き合いいただきたい。

運営スタッフ出身でグランプリ優勝、サグリ坪井さん

カタパルト・グランプリの朝、早朝に会場に到着した坪井さんは、これで3回目となる運営スタッフとのスカラシップ撮影に臨んでいた。

今回スカラシップを授与したのは安田 真阿子さん

坪井さんは、2018年まで運営スタッフとしてICCサミットに参加していた。登壇する経営者たちを目の当たりにし、自分には何ができるのだろう?と、ひたすら自問自答している様子が印象的で、その姿をよく覚えている現役スタッフも多い。

スタッフ時代の坪井さん

 他人に答えられないようなことを言葉にして問い続け、何者でもない自分に焦り、時が解決するのか、果たして解決しきれるのだろうかというような観念的な問いで、はたから見ると「こじらせている」感じ、しかし何かを成し遂げたいという猛烈な意欲があった。

その後スタッフを卒業し、起業したと聞いた。カタパルトに応募し、選考で落ちたとも聞いた。事業が形となってきて、スタートアップ・カタパルトに登壇したのが1年前。2位に入賞したが、坪井さんにとって優勝以外は「勝ち」ではない。悔しがっているのを、リアルテックファンドの永田暁彦さんが慰めていたのが印象的だった。

2回目となったICC FUKUOKA 2023では、デザイン&イノベーションアワードで準優勝となり、「実際に見てもらえてこそわかってもらえる事業」と喜んだ。2度目のカタパルト挑戦となったソーシャルグッド・カタパルトでは「こちらが本当の事業領域」と意気込んだが、結果は入賞ならず。そのときの想いを、今回終了後のアンケートで坪井さんはこう綴っている。

「2位まで名前が呼ばれず、『優勝した!』と思った瞬間がありましたが、入賞もしていなかったというトラウマが残っていました」

それほどまで自信のある事業を携えながら打ち砕かれ、今回のカタパルト・グランプリ、いや、DAY0に登壇者たちが集結したチャレンジャーズ・ナイトから坪井さんの表情は暗かった。「ここで結果を残せなければ、(ICC小林)雅さんに合わせる顔がない」と、何度も言った。

運営スタッフとして貢献ができなかったと言う坪井さんは、起業家としてカタパルトへ登壇できることになり、大きな恩を感じている。プレゼンのリハーサルに来て、準備が不十分だったことは一度もない。

スタッフ出身のためか小林のフィードバックは少々厳し目に見えたが、それに坪井さんがめげることはなかった。社会に資する経営者になり期待に報いたい、その想いが目に見えるようだった。

スタッフの経験から、若い運営スタッフへのスカラシップ(ICCサミットに参加する際の旅費など経済的サポート)にも最初から賛同いただき、毎回1人、直筆の手紙もいただいている。1人でも多くのスタッフを社会を変える仲間に、という想いからである。カタパルトで優勝を目指す理由のひとつには、よきロールモデルになるというものもあるだろう。

スカラシップの撮影が終わると、坪井さんは手慣れた様子でリハーサルをして、登壇者が待機する席へ戻っていった。改めて意気込みを聞くまでもない。今回から五十音順の登壇ルールが変わり、坪井さんの登壇は2番目だった。

「この場に立つのがずっと夢だった」

3回目のため、サグリの事業説明を聞くのが初めてではない審査員もいた。筆者も毎回プレゼンを聞いており書き起こし記事も作っているので事業は理解しているのだが、今回のプレゼンは驚くほどわかりやすかった。審査員もそう言っており、聞いていたメディアの速報チームでも話題になったほどだ。

データの力で、アジア・アフリカの農業課題解決に挑む「サグリ」(ICC KYOTO 2023)

「重要なポイントは声を張るか、ゆっくり伝える」というyuni内橋さんのアドバイスを活かした

プレゼンは本当に素晴らしかった。しかし他にも実績があり、強力な事業がプレゼンされていくなかで、3度目の、農業で、ICCサミットの中でも最高峰のグランプリで優勝できるのか? おそらく坪井さんにも前回のトラウマとともに、その考えがよぎったに違いない。下の発表直前の写真の表情を見ると、胸が痛むほどだ。

坪井さんは本当に優勝を予想していなかったのだと思う。発表された瞬間、坪井さんは言葉に詰まり、身体や脚は震え続けた。コメントを求められ、ようやく絞り出したのがこれだ。

「僕はICCの運営スタッフ出身で、この場に立つのがずっと夢で、去年の夏に雅さんにチャンスをもらったのに、そのときは2位でめちゃくちゃ悔しかった。今回は売上も大きな企業の方々がいる中で、農業はしっかり儲かる、社会課題を解決する、脱炭素という3点を伝えたいと思っていて、それが伝わったのではと思います。

僕はICCの場がすごく好きで、今回発表されたICCスタンダードの『一生懸命やりきる』『挑む人の応援者たれ』『全員対等、全員真剣』が、本当に大好きです。すごく嬉しいです」

「坪井さんのスピーチの間、小林さんはボロボロ泣いていたよ」とカメラマンの弁

慌ただしい表彰式と数々の優勝賞品授与のあと、カメラマンが涙が止まらない坪井さんを呼び撮影したのが下の写真である。小林だけでなく、長く坪井さんを知るスタッフたちも皆、涙が止められない様子だった。

「雅さんと握手や抱擁できた瞬間は、これまで抑えていたものがブワッと溢れた瞬間でした」

カタパルト終了後はお決まりの光景だが、優勝した坪井さんに挨拶したい人たちが長い列を作っていた。その後、坪井さんは審査員を務めるガーディアン・アワードの審査会場へ行き、メイン会場に戻ってきたところで話を聞いた。

「 ICCで最高のプレゼンをしたいと思っているのに、ずっと毎回負け続けて成果が出なかった。yuniの内橋(堅志さん、スタートアップ・カタパルトで優勝)くんとかに意見も聞いて、サグリは何かすごそうなんだけど、何をしている事業なのか自分で説明できないんだよねって言われて。

それをどう伝えるかすごく考えたし、言葉一つひとつずっと、修正を続けていました。あとは皆さんが優勝候補であるなかで、サグリの(社会における)ポジションをどう伝えるかについて考えました」

優勝の瞬間はどうだったのか。

「頭が真っ白になって震えが止まらず、喋れなくなりました。そこまでは怖かったですよ、これで入賞もできなかったら、もう雅さんに顔を合わせられないとすごく思った。長くICCの場に関わらせてもらっていて、他の場にはない想いが自分の中であるんです。今は本当に幸せ、後は社会に貢献するだけです。

スタッフの中から、登壇する人がまた続いてほしいなと思います。ICCは本当に挑戦する人を応援してくれる場であることを、身をもって体験しました。僕はスタッフとしては全く活躍できなかったですし、色々やらかしもしました。

ただ、それでもまたその場に受け入れてくれた。登壇者としてもう1 回チャンスをくれた。今、僕は参加者の1人ですが、この場を作ってくれているスタッフの皆さんには本当に感謝をしていますし、その中から世界の課題を解決する挑戦者が生まれてほしいと本当に思っています」

文面だと普通に喋っている風だが、話の間も、坪井さんは泣き続けていた。先のアンケートの続きで、起業家人生のスタートとICCスタッフ時代のタイミングは重なっていて、色々なことがあったからこそ優勝をしたいと切望していたと綴っており、さまざまな想いが押し寄せてきたのだろう。

スタートアップの仲間たち、これまで坪井さんを見守ってきた先輩経営者たち、そして運営スタッフたちに祝福されながら、坪井さんはこの日、ずっと嬉し泣きをしていた。「とくに小林さんを見るだけで涙が出てしまう」と困るほど、おそらく赤ん坊の時以来ではないかというほど泣いていた。

これがゴールではないが、必ず達成して新たな決意を背負う通過点、それを次の段階へ進めるべく、早くもこの夜、坪井さんはCo-Creation Nightの一室で、新たな決意表明をした。

農業関連のスタートアップが結集する「アグリスタートアップ協会」の発足である。志を同じくする仲間たちと、力を合わせて農業に新しい流れを創る、未来をよいものにする。生まれたばかりで再び「まだ何者でもない自分たち」に戻ったわけだが、今度は実力ある仲間たちと一緒だ。

2年前のグランプリでは、同じく運営スタッフ出身のログラス布川 友也さんが優勝を飾っている。ICCサミットの参加者の方々に「スタッフが優秀だ」とよくお褒めをいただくが、実際優秀で、可能性のある人材の宝庫なのである。

皆が注目する中で、ひたすらにあがき、苦しみ、努力し、成長するプロセスを見せてきてくれた坪井さんのカタパルト・グランプリの優勝は、運営スタッフにとって特別な記憶となった。誰もが挑戦者になりえるが、その応援者となることもまた社会を変える力となり、心の底から嬉しい気持ちになれることを、坪井さんを祝福する人々の笑顔が表していた。

(笑)

カタパルトの結果速報、ICCサミットの最新情報は公式X(旧Twitter)をぜひご覧ください!
新着記事を公式LINEで配信しています。友だち申請はこちらから!
過去のカタパルトライブ中継のアーカイブも見られます! ICCのYouTubeチャンネルはこちらから!

編集チーム:小林 雅/浅郷 浩子/戸田 秀成

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!