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4. 人は、同じ地平、未来を見たときに幸せになれる

ICC KYOTO 2024のセッション「大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン12)」、全5回の④は、博報堂の嶋 浩一郎さんが広告とPRの違いを解説し、PRの極意から得られた幸せに生きるためのヒントを伝授します。分断の時代に必要なのは「シンパシーより、エンパシー」という嶋さんの発言から、話題は村上 臣さんによるコンパッション経営へと広がります。ぜひご覧ください!

ICCサミットは「ともに学び、ともに産業を創る。」ための場です。そして参加者同士が朝から晩まで真剣に学び合い、交流します。次回ICCサミット FUKUOKA 2025は、2025年2月17日〜 2月20日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。

本セッションのオフィシャルサポーターは エッグフォワード です。


【登壇者情報】
2024年9月2〜5日開催
ICC KYOTO 2024
Session 2F
大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン12)
Supported by エッグフォワード

石川 善樹
公益財団法人Well-being for Planet Earth
代表理事

井上 浄
株式会社リバネス
代表取締役社長 CCO

嶋 浩一郎
博報堂 執行役員/博報堂ケトル  クリエイティブディレクター

中村 直史
株式会社五島列島なかむらただし社
代表 / クリエーティブディレクター

(モデレーター)

村上 臣

「大人の教養シリーズ 人間を理解するとは何か?(シーズン12)」の配信済み記事一覧


村上 嶋さんは今回初登場です、ご登壇いただき、ありがとうございます。

スライドが多めですが、10分程度でお話を頂きたいなと思います。

PRの視点からわかった生き方のヒント、嶋 浩一郎さん

 生きるとは何か?という、なかなか難しいテーマです。

まず自己紹介させてください、嶋浩一郎と申します。

1993年に博報堂という総合広告代理店に入社したのですが、パブリック・リレーションズ、つまりPRのセクションに入りました。

当時PRという部署は、広告業界では辺境ビジネスだったのです。広告、マーケティングが花形だったというか。

でも、僕は長年PRの仕事をしてきて、PRはコミュニケーションのテクニックというよりは、生き方や考え方の指針であり、社会を豊かにする技術ではないかと感じました。

そこで、PRを中心にコミュニケーションを設計する、博報堂ケトルという会社を作りました。

皆さんがよく知っているであろう仕事だと、2004年に書店員のお手伝いをして本屋大賞を立ち上げて、今その実行委員会を運営しています。

そんなわけで、今日はコミュニケーション技術としてではなく、生き方のヒントとなるパブリック・リレーションズについて話せたらいいなと思っています。

世の中の多くの人にPRとは何かと聞くと、自分の商品やブランドをニュースなどに取り上げてもらえるように行うパブリシティ活動でしょと言われます。

でもそれは、PRの技術の一つでしかないのです。

PRは、合意形成をするための方法論なのです。

色々なカルチャーを持つ人が集まっている、移民の国であるアメリカでPRは成長したわけですが、PRは、世の中にある価値観はバラバラであるという前提に立った上で、それでも「これは一緒にできるよね」と手を結ぶための方法なのです。

これは、僕がPRを好きな理由の一つです。

嶋さんが考える広告とPRの違い

 今は分断の時代だと言われていて、超生きづらい人たちがたくさんいますよね。

例えば、ジェンダーレストイレを作ること、Soup Stock Tokyo(スープストックトーキョー)さんで離乳食を提供することに、反対する人がでてきちゃったり。

スープストック「離乳食炎上」を乗り越えた理念 新社長の工藤萌さんに聞く「食のバリアフリー」とは(東京すくすく)

今の世界は、生きているとそのような分断に巻き込まれることが、すごく多くなっていると思います。

それを「いやいや、ここだったら握手できますよね」と考えられる知恵を持っていると良いのではないか、というのが今日の話です。

僕は、広告・マーケティングとPRの間を行ったり来たりしながら仕事をしてきましたが、最近こうなのではないかと分かったことは、違いを見つけると褒められるのが広告、同じを見つけると褒められるのがPRということです。

経営者の皆さんにとっては広告もPRも大事だと思いますが、違いを見つけるのがマーケティングで同じを見つけるのがPRだと考えると、すごく分かりやすいのではないかと思いました。

この業界では、コミュニケーションの仕事をする人もPRの仕事をする人も、違いを見つけるのがかっこいいと、つい思ってしまうのです。

なぜなら、広告は、市場における優位性を顕在化させる仕事なんです。

例えば、この車は燃費がいい、荷室が広い、子育てに向いているとか、 このシャンプーは洗浄力が高い、キューティクルを守るとか、つい違いを言ってビジネスをしてしまうのです。

そして、すぐに4象限の図にして、「ここが空いています!」と言っているマーケターがたくさんいるのです。

村上 よくありますね。

 「ここが空いているから、ここに行きましょう!」と言われると、何でだよと思うわけです。

そういうのを見ていると、なんだかなあと思います。

空いているから行くとはどういうことだと、行くべきだから行くのが人生ではないかって。

で、最近PRについての本を書いていて考えをまとめてみたのですが、広告は違いを見つけると褒められ、PRは「この点は同じですよね、合意できますよね」という仕事をすると褒められるスタンスではないかと思うのです。

ですから、市場における優位性を語るのが広告で、社会における役割を語るのがPRです。

すごく分かりやすく言えば、会計ソフトやグループウエアを作る会社は、「便利で、はやくて、使いやすい」と訴求した場合、それはSaaSサービス業界における優位性を謳っているわけです。

でも、「このSaaSを使ってくれたら働き方改革が進む」と訴求した場合、社会的視点から製品を語ることになります。

市場の視点から訴求しても味方がつかないですが、社会的視点から訴求すれば、行政も労働組合も従業員の家族も応援してくれます。

つまり、同じ点を見つけると味方が増えるということだと思います。

人は、同じ地平、未来を見たときに幸せになれる

 仕事も人生も、同じを見つけるという方向性で考えると、楽しく過ごせるのではないかと最近思っています。

PRとは、LGBTコミュニティを受け入れようとか、環境に良い生活をしようとか、今までになかった概念を世の中に定着させるための合意形成の仕事なのです。

カーシェアをしよう、男性も子育てしよう、これからは現金ではなくてキャッシュレスにしよう、など、新しい「あたりまえ」を定着させるのがPRの仕事で、「同じ未来をみられますよね」「ここはご一緒できますよね」と同じを見つけることを第一にしています。

ですからPRで一番大事なことは、一人でやるのではなく、新しいアイデアを生み出したら、どうですかと必ず第三者に伝えに行くことです。

自分で広告をせず人を巻き込むので、結構面倒ですよね。

自分で伝えた方が楽なのに、わざわざ第三者に伝えてもらいに行くのです。

でも相手がアイデアを気に入ってくれて、そのアイデアの実現に協力してくれれば、自分一人で行うよりもずっとレバレッジが効かせられて、パワフルになるのです。

世の中には専門家や自分よりもすごい人はたくさんいるわけですから、同じ志を持つ人と手を取り合えれば、自分のしたいことがすごくなめらかに世の中に浸透していきます。

PRはそういう技術であり、そういう人生の方が楽しいなと思うようになりました。

人は、同じ地平、未来を見たときに幸せになれる、ハッピーに生きていけると思います。

哲学者が言うアウフへーベン(※)も同じ意味だと思いますが、それが人を幸せにするということだと思っています。

▶編集注:アウフヘーベン(Wikipedia)

PRでは、基本的に世の中のものは全て違っているという前提、その中でも一緒に行った方が良いことがたくさんあるので、それらをうまく探すという点が、すごく良いポイントです。

分断の時代を生きるのに重要なエンパシー

こういう未来が良いと伝えに行っても、そんなことはないと言われることもあると思います。

例えば、ライドシェアが良いと言っても、訓練していないドライバーの車には乗りたくないと言われるかもしれないですよね。

でも、アイデアをこう直せば世の中に受け入れられるかもしれない。

PRでは伝えたいことを一方的に伝えるのではなく、相手との対話を通じてアイデアを自己矯正していきます。

ですから本当にCo-Creationであり、価値観の違う人とそれができた時の方が、幸せ度が高いと僕は感じます。

そのためにはシンパシーよりもエンパシーが必要です。

これらはどちらも共感と訳されることが多いですが、シンパシーは「あれがいい、好き」という感情的な感覚ですが、エンパシーは、相手になり代わる、憑依するくらい共感する能力やスキルを指します。

相手にアイデアを実現してもらうようお願いする時は、「これいいでしょ」という言い放しのシンパシーよりも、相手の立場や気持ちをある意味ドライに考えて、シンパシーを発動しなければいけません。

分断の時代に生きていくには、エンパシーが重要ではないかと思います。

僕は本屋B&Bというものを運営していますが、書店は、世の中に最初に変人が現れたとき、世の中との合意点を最初に探す場所だと考えています。

音楽の世界で言えば、モーツァルトもビートルズもYMOも、最初は変人だったわけです。

それは本の世界も同じだと思うので、PRの仕事をしながらこの本屋B&Bを運営していることも、自分では納得しています。

ここで取り上げるのもどうかなと思ったのですが、僕はウディ・アレンが好きです。

ウディ・アレン(allcinema)

基本的に、彼の世界観では、人間は世界と合意形成できないというものだと思います。

これは彼が子供の頃に出演した映画の1シーンで、小学生が精神科医を訪ねて「どうしたんだい?」と聞かれると、「宇宙は膨張して爆発するから、生きるのは無駄だ」と言うものです。

世界と合意形成できないという前提に立っていますので、ウディ・アレンは、トルストイの「人生は無意味の連続」とかハイゼンベルグの「この世は何もかも不確定」とかいうセリフを、映画の中でやたら言います。

でも、たいていは恋愛の文脈ですが、「一緒にいてくれないか」と、情けない様子で訴えます。

それを見るとかわいいなと思ってしまうのですが、石川さんがおっしゃっていた「誰といるか」ということかなと思います。

その小さな幸せを、同じを見つけることで探しているので、僕はウディ・アレンが好きなのかなと思います。

僕はこのセッションに初めて登壇するので、こういう話で良いのか分からないまま持ってきてしまったのですが…最近思っていることをご紹介しました。

村上 いえいえ、素晴らしいお話をありがとうございます。

マーケティングとPRの違いですね。

違いを見つけるのではなく、同じところを探すというのは、すごく刺さりました。

一緒にアクションを起こすことを目指せたら

村上 ここまでで、分かったことがあります。

善樹さんが、幸せの3つの志向性をしてくださいました。

いわゆるビジョン型のスタートアップはシリコンバレーから来ているので、今、日本に入ってきて流行っているビジョン経営やパーパス経営は、欧米の価値観なのかなと思っていました。

でも、逆だったのですね。

むしろ、放っておくとみんな自分の仕事に没頭してバラバラになってしまうので、みんなが共感できるビジョンを立てなくてはいけない、つまり従業員の共通点を作らないと会社がバラバラになって回らないということなのですね。

それを発見した結果、会社をうまく回すために、ビジョン、ミッション、バリューという経営スタイルとなったのだろうと思いました。

日本はもともと意味型だったので、村の掟などが自然と共有されていたのです。

会社においても、例えば松下幸之助が「企業は社会の公器」であると説いた時、みんな理解し、少なくとも意味付けはできていたわけです。

そこにコントラストがありますね。

シンパシーとエンパシーについては、ビジョン型経営をしているLinkedInで私が働いていた際、当時のCEOだったジェフ・ウェイナーが、コンパッション経営(※)だと表現していました。

▶編集注:従業員・経営者それぞれが自分や他者への理解を深め、思いやりを持って寄り添う企業風土を実現する経営。

シンパシー、エンパシー、コンパッションの3段階があり、これらは日本語にすると、同情、共感、思いやりです。

シンパシーは、見ているだけです。

例えば、(中村)直史さんが辛い目に遭っていると、「辛そうだね」と見ているだけで何もしない状態。

エンパシーは、「いやあ、大変だったね。似た経験をしたことがあるから、分かるよ」と声をかけて、肩を叩いて慰める。

このエンパシーの行為はコンパッション、つまり思いやりに見えますよね?

でもこれは、思いやりではないのです。

思いやりには、声をかけて慰めた後、「じゃあ、一緒にあそこまで行こうよ」と行動が伴うのです。

僕が、エンパシーとコンパッションの何が違うのかと聞くと、彼は今のように答えてくれたのです。

つまり、コンパッションは必ず行動が伴うということです。

共感した結果、その人が本当に困っていることを見つけ出し、それを解決するために仲間として一緒にアクションを起こすことが思いやりなのだと。

僕にはこれが、すごく刺さりました。

シンパシーとエンパシーの話をすると、これを毎回思い出すのです。

 良い話ですね。

経営者はたいてい、エンパシーレイヤーでの情報発信で終わってしまっているので、コンパッションのレイヤーまで行けると幸せなブランドになる気がしますね。

村上 この流れを受けて、最後に直史さんにお話を頂きましょう。

(続)

編集チーム:小林 雅/星野 由香里/浅郷 浩子/小林 弘美/戸田 秀成

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