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「破壊的イノベーションを実現するブロックバスター戦略とは何か?」【F17-3C】セッションの書き起し記事をいよいよ公開!7回シリーズ(その4)は、ラクスル松本さんに、ラクスルが顧客基盤を創る際に実践したブロックバスター戦略についてお話し頂きました。「トラフィックビルダー」と「プロフィットビルダー」という概念で解説された戦略に注目です。是非御覧ください。
ICCサミットは新産業のトップリーダー600名以上が集結する日本最大級のイノベーション・カンファレンスです。次回 ICCサミット FUKUOKA 2018は2018年2月20日〜22日 福岡市での開催を予定しております。参加登録は公式ページをご覧ください。
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【登壇者情報】
2017年2月21日・22日・23日開催
ICCカンファレンス FUKUOKA 2017
Session 3C
破壊的イノベーションを実現するブロックバスター戦略とは何か?
(スピーカー)
大宮 英紀
株式会社リクルートライフスタイル
執行役員
佐々木 大輔
freee株式会社
代表取締役
松本 恭攝
ラクスル株式会社
代表取締役
(モデレーター)
青柳 直樹
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最初の記事
【新】破壊的イノベーションを実現するブロックバスター戦略とは何か?【F17-3C #1】
1つ前の記事
freeeが徹底した「顧客フォーカス」-クラウド会計黎明期のユーザー獲得戦略【F17-3C #3】
本編
青柳 ではそろそろ松本さんにお話を伺っていきたいと思います。
全く違う業界ですね。
またラクスルさんのようなプレーヤーさんはあまり近しいところにいないように見えるのですが、実際どうなのかというところ。
そして、意識されている競争戦略があれば是非お伺いしていきたいです。
松本 恭攝氏(以下、松本) 意識しているところはあり、ベンチマークにしているのはモノタロウさん、アスクルさん、ミスミさんの3社です。
現状ではなく、立ち上がりをどうしたのかを徹底的に見ました。商品というレイヤーで、「選択と集中」をどうしているかというと、名刺とチラシです。
青柳 面白そうですね。もう少し教えて頂いても良いでしょうか。
松本 我々は、最初はオペレーション型の組織から、現在はテクノロジー型の組織にシフトしていますが、まずラクスルを作る時に、印刷業界におけるアスクルやミスミの様な会社を作ろうというところからスタートしています。
需要が高い商品に徹底的に投資
松本 流通の”面”を取って業界構造を変えた典型がアスクルさんで、モノタロウさんも上手くいっています。
アクスルさんを見た時に、”面”を取った戦略は何だったかというと、コピー用紙です。コピー用紙とは全ての法人が使って、必ず需要があるものです。
ただし、付加価値のあるコピー用紙は中々作るのが難しいです。圧倒的にコモディティで、しかも安く売っています。
ミスミさんではネジ一本、赤字の商品が全体の4割という様な状況でした。
社内の言葉では”面”を取ることを「トラフィックビルダー」と「プロフィットビルダー」と呼んでいるのですが、「トラフィックビルダー」、つまりあらゆる法人が必ず必要となるものに対して徹底的に投資をしていきます。
LOHACOだとそれが水にあたると思います。
スタートアップでBtoBのEコマースが立ち上がった時にどれくらい投資をかけていたのか、何を売っていたのかを調べました。
例えば、アスクルさんですと、立ち上げの5年間で75億円という金額を実は広告費だけで使っていました。
青柳 そんなに使っていたのですか。
松本 そんなに使っていました。
そして、モノタロウさんは立ち上げのタイミングで40億円も資金調達して上場までに全部使い切っています。
AmazonさんもAmazon Japanの立ち上げで100億円以上使われていると思います。
Eコマースはやはりとてもお金がかかると思いました。
大企業の新規事業であれば、キャッシュが出てくるのですが、何もないところからスタートした時にはやはりお金が必要です。
それは何のためのお金かというと商品と広告の2つです。その他にも色々あるのですが、比率としてはそんなに大きくありません。
各社が大きくなる時の状況を見ましたが、特に垂直立ち上げをされている会社は必ず需要があるものを安く売り、徹底的にその商品の認知を上げていきます。
アスクルにおけるコピー用紙、モノタロウさんのところはクレ5-56などでしょうか、必ず「トラフィックビルダー」があると思います。
そのように、需要の高い商品のサプライサイドを徹底的に磨き込んで、それでも赤字でもいいから圧倒的に売っていく。プロモーションもそこにひたすら投資し続けます。
顧客基盤を作って勝つ
松本 ここにいらっしゃる皆さんは全員名刺を持たれていると思います。ペーパーレスの時代になっても名刺がなくなることは多分ないと思います。
我々ラクスルは最初名刺からスタートして、途中でチラシにピポッドしたのですが、チラシもほとんどの法人が作っているものです。
非常に需要の大きいものに対して、低コストで提供する裏側の仕組みを作って、そこに対して我々であれば名刺100枚500円、チラシ1枚1.1円というキーワードをつけて、徹底的に投資をします。
リスティング広告もテレビCM等もやります。
そうやってまずは顧客基盤を作っていきます。顧客基盤を作り上げてまず勝ちます。
ここで一つ重要なのは、この部分も黒字であるということです。
赤字の中で最後までやりきっても最後に浮上できませんが、ユニットエコノミクスとしてこの2商品だけでも黒字が保てる裏側の仕組みを作った上で、徹底的に投資して顧客基盤を作っていく、お客さんにたくさんご利用頂くサービスを作っていく。
今だと殆どのお客様に商業印刷、つまりチラシやカタログを刷って戴いていますが、そのお客様の抱えている課題は紙にインクをのせて欲しい訳ではなくて、「集客をしたい」「認知を広めたい」という販促に関する問題を解決しようとしているわけです。
その中で印刷という手段を選んだ時に、ラクスルの利便性が一番良いというサービスという認知の素を選んで頂いてお金を使って頂いています。
そのため次にしにいくのはお客様の抱えている問題の解決です。
チラシ以外の方法の提案や、チラシにどう付加価値をつける等、ソリューション型サービスに、まさに今転換しているところです。
青柳 ラクスルさんの勝負をかけたポイントについて濃密なお話を聞かせて頂きました。
チラシや名刺、コピー用紙、会社によっては水等の、押していく商品は創業されてからどのくらいで確信を持たれましたか?
「選択と集中」のタイミング
松本 タイミングとしては4年目くらいです。3年目にピポッドして印刷ECを始めていて、Eそこから1年くらい経ってからですね。
toCの世界だとブロックバスター、商品による明確な差別化ができる領域が多いかと思います。toBでも勿論ありますが、コモディティを売っているとなかなか差別化は難しいものです。
「コピー用紙の差別化」とか「水の差別化」とか、もちろんありますが、ブロックバスターとして多くに人に利用してもらう領域になろうとすると結構難しいです。
では、各社どうやっているのかを色々聞いてみると、トラクフィックビルダーという考え方があって、お客様にご利用頂くための、例えばスーパーだと安売りの卵といったような、そのような商品をきき分けていくことが重要だと分かりました。
先ほど、ベンチマークにした会社さんと話す中で出てきました。
青柳 なるほど、深いですね。
エンタメ業界であれば、最初は特定のファッションに興味がある人や特定のトレンドに興味がある人を対象にしていきますが、ある時に大衆にも受けるような”ボタン”を押しにいきます。
しかし、今のお話を聞いていると、それがBtoBにもあり、企業によってはそれが水だったり、名刺だったりします。
ただし、接点としてマスの人たちに届けられている。それを黒字でやるというのが凄いところだと思いますが、赤字でももっと長いビジネスで考えて、お客様とのチャネルを独占するためにどんと投資する。
それが、ラクスルに限らず、アスクルでもモノタロウでも、一般的な経営論として言えるということを松本さんの中では昇華しつつあるというところでしょうか。
松本 そうですね。もちろん商品単位で見れば赤字のものもあると思いますが、SKU(Stock Keeping Unit、最小管理単位)では赤字でも、全体としては黒字になるような形で「トラフィックビルダー」を築くことはできるのではないかと思います。
また重要なのは、売ることだけが目的ではなくて、それを売ったことで顧客基盤を作って、それは我々の勝負する一つのポイントです。
差別化は何なのか、我々の付加価値は何なのかという点です。
これを「プロフィットビルダー」と呼んでいます。ここをしっかり持った上で「トラフィックビルダー」を作っていくことが重要です。
青柳 もう一つお聞きしたいのですが、そのような経営のフレームワークでそういうものが見えるとどんと押していけると思うのですが、そのような手法を当てはめていけそうな次の領域とはなんでしょうか。
BtoBだったり、ECの世界であったりするのかもしれませんが。
ラクスルは特にまだ未上場の状態の中で、ハコベルという印刷とはまた違う事業を始められて、そこをとても伸ばされていると理解しています。
その中で、松本さんからご覧になって、特に「toBのブロックバスター」がありましたら、このICCの理念に基づいて皆さんにもシェアして頂きたいのですが、何かありますか?
松本 ハコベルは全然タイプが違っていて、横展開できるかと思っていたらゼロから作り上げなければならない状況でした。これはこれで面白いのですが。
無理やり抽象度をあげて考えるならば、非常に需要が大きいけれど、オペレーションの型化ができて、圧倒的なオペーレーションエクセレンスやコストメリットを出せる仕組みを作ります。
その上で、そこをローコストで販売していって、その顧客の持つ別の課題または延長線上にある課題を解決するという意味では、物流でも確かにできています。
ハコベルでいうと、物流のトラックには大型、中型、小型、軽がありますが、一般的に軽トラック事業は全く儲かりません。
大型トラックであれば、東京−大阪間で10万円の料金になりますが、例えばハコベルで軽トラックを使うと短距離だと料金が2800円くらいになっています。
この軽トラックの一番安い部分を、普通の事業者が提供すると全くコストが合わない。しかし、そこをローコストのオペレーションで組んで、ドライバーさんもきちんと儲かるという仕組みを作っているので、1万円以下の仕事が現在の売り上げ件数の内の8-9割を占めています。
その意味では同じような形になっているかもしれません。
青柳 面白いですね。
(続)
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編集チーム:小林 雅/榎戸 貴史/戸田 秀成/横井 一隆/立花 美幸
【編集部コメント】
トラフィックビルダーに徹底的に投資し顧客基盤を作りあげたアスクルさんなど各社の戦略に見事と思わざるを得ませんでした。店頭の激安で売られるじゃがりこに惹かれて、ついそのままドラッグストアに入ってしまう私はトラフィックビルダーの網に常にかかっています。ところで、タイトルにも入っている「ラクスル」と「アスクル」ですが語感がいいですよね。(立花&榎戸)
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